恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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2年生 夏⑥

〜合宿2日目・朝ごはん会場〜

 

あおい(……な、なんだろ。ほとんど寝られなかった……)

昨夜のことが、何度も頭の中をぐるぐる回っていた。

 

パワプロ「お、あおいちゃん!おはよう!」

 

あおい「……オ、オハヨウ」

声が、少しだけ上ずった。

 

パワプロ「この合宿所、ご飯もおいしいね!」

パワプロ「はるかちゃんが選んでくれたところで正解だったよ!」

 

はるか「ふふふ。喜んでもらえて良かったです」

にこやかに微笑むはるかの隣で、あおいは立ち尽くしていた。

 

パワプロ「ところであおいちゃん、なんで突っ立ってるの?」

パワプロ「ほら、ここ座りなよ」

パワプロはそう言って、隣の席を軽くポンポンと叩く。

 

あおい「……ウ、ウン……」

 

腰を下ろしはしたものの、視線が落ち着かない。

 

あおい(……なんだろ)

あおい(パワプロくんと、何を話せばいいのか分からない……)

 

パワプロ「……あおいちゃん、大丈夫?もしかして、疲れ取れてない?」

そう言って、少し身を乗り出して顔を覗き込んでくる。

 

あおい「うわっ!?だ、だいじょうぶだよ!」

 

一歩引いて、慌てて首を振る。

 

あおい「ボ、ボク……今日の朝ごはんはなしでいいや!」

あおいはそのまま、逃げるように会場を後にした。

 

パワプロ「えっ!?」

パワプロ「あおいちゃん……大丈夫かな?」

 

はるか「そうですね……。少し、心配です」

はるか(あおい……やっぱり、昨日のこと……)

 

 

〜合宿所のグラウンド〜

 

まだ誰もいない、静かなグラウンド。

朝の空気は少し冷たく、土の匂いが濃い。

あおいは一人、黙々とストレッチをしていた。

 

あおい(……よし)

あおい(こういう、気分が落ち着かないときは……)

あおい(体を動かして、忘れるのが一番)

 

……ぐぅ。

 

あおい「……」

あおい(……と思ったら、おなか減ってきた……)

あおい(朝ごはん、ちゃんと食べればよかったなぁ……)

 

パワプロ「あおいちゃん?」

 

あおい「うわっ!?」

 

振り向くと、そこにはパワプロが立っていた。

 

あおい「び、びっくりした!」

あおい「ど、どうしたの? まだ練習には早いよ!?」

 

パワプロ「それはこっちのセリフだよ」

苦笑しながら近づいてくる。

 

パワプロ「朝ごはんも食べないで練習したら、体壊すよ?」

 

あおい「あはは……実は……おなか減ってきたかも」

 

パワプロ「え、ほんと!?」

 

一瞬、心配そうだった顔が、ぱっと明るくなる。

パワプロ「それなら良かった!」

 

あおい「……え?」

 

パワプロ「実はさ」

パワプロ「朝ごはん会場で、あおいちゃんの分もって思って」

パワプロ「おにぎり作ってきたんだ」

パワプロ「食べるかなーって」

軽くウインク。

 

あおい「……え……」

一瞬、言葉が出なかった。

あおい「……あ、ありがとう……」

 

パワプロ「じゃあ、あっちの日陰で食べようよ」

 

あおい「……うん。そうだね」

 

 

〜グラウンドの日陰〜

あおい(……結局、パワプロくんと二人だ)

 

パワプロ「はい!」

パワプロ「これ、俺特製のおにぎりね!」

パワプロ「野球ボールをイメージしました!」

 

あおい「……うん……ありがとう……」

 

パワプロ「……やっぱり、元気ないね」

パワプロ「普段ならさ。『それ、ただ丸いだけじゃん!』ってツッコミが来るのに」

 

あおい(……ツッコミなら、悩んでるのはパワプロくんのせいだって言いたいよ……)

 

パワプロ「……本当に大丈夫?」

 

あおい「……心配してくれて、ありがとう」

あおい「でもね、ボクは本当に大丈夫だよ」

あおい「これ食べたら、元気出して練習するから!」

 

パワプロ「……そっか」

少しだけ、安心したように笑う。

 

パワプロ「もし何かあったら、ちゃんと言ってね」

パワプロ「あおいちゃんのためなら、俺、何でもするから!」

 

あおい「……!」

胸が、少しだけ強く鳴った。

 

パワプロ「じゃあ、俺は今日の練習の準備してくるよ」

パワプロ「あおいちゃんは、ここでゆっくり食べてから来てね!」

そう言って、用具入れの方へ走っていく。

 

あおい(……パワプロくん……)

あおい(やっぱり、優しいな……)

あおい(それに……)

あおい(ボクのこと、ちゃんと見てくれてるんだ……)

 

 

〜合宿2日目・練習終了後〜

 

パワプロ「よしっ!」

パワプロ「今日は少し早めだけど、ここまでにしよう!」

パワプロ「早めに夕食に行こうか!」

 

部員たち「おおお!?」

 

矢部「今日はどういう風の吹き回しでやんすか!?」

 

パワプロ「実はさ……」

パワプロ「今日の夜、みんなで花火をしようと思ってね!」

パワプロ「はるかちゃんと一緒に、買い出しで用意しておいたんだ」

パワプロ「ね、はるかちゃん!」

 

はるか「はい。たくさんありますから……」

はるか「皆さんで楽しみましょう」

 

部員たち「やったぁー!!!」

 

はるか「あと、スイカもあります」

 

部員たち「うぉおおおお!!!」

 

あおい(……花火にスイカ・・・ちょっと楽しみかも・・・)

 

 

〜合宿2日目・夜/合宿所の庭〜

 

夕食後、合宿所の庭に部員たちが集まった。

全員ジャージ姿で、手には花火の袋。

 

加藤先生「いい? 火の扱いは気をつけなさい」

加藤先生「ふざけない、終わった花火はバケツに入れる。分かった?」

 

部員たち「はーい!」

 

パワプロ「よーし!安全第一で思いっきり楽しもう!」

 

パチパチと光が弾けて、庭が一瞬ずつ明るくなる。

笑い声が飛び交い、時間だけがどんどん溶けていった。

 

はるか「スイカ、切りましたよ」

 

部員たち「うぉおおおお!!!」

 

 

〜花火、終わり際〜

 

最後は線香花火。

みんなが一本ずつ受け取って、火をもらい合う。

あおいも線香花火に火をつけた。

小さな火玉が、静かに揺れる。

 

あおい(……)

 

気づけば、考え込んでいた。

昼の練習で見た、パワプロの本気の姿勢。

誰よりも真剣で、誰よりもチームのことを考えていて。

それなのに、ふっとした瞬間は子どもみたいに笑う。

さらに朝。

ボクを気遣っておにぎりを渡してくれた。

 

あおい(……優しかった)

 

火玉が、パチ…パチ…と小さく弾ける。

 

あおい(……なんでだろ)

あおい(胸が、落ち着かない)

 

 

〜パワプロ、あおいの隣へ〜

 

パワプロ「あおいちゃん」

あおい「……っ、パワプロくん」

 

パワプロは気づけば、隣にしゃがみ込んでいた。

パワプロも線香花火に火をつける。

 

パワプロ「……線香花火って、なんかいいよね」

 

あおい「……うん」

 

パワプロ「俺さ、この学校に来て本当に良かったって思うんだ」

 

あおい「……え?」

 

パワプロ「あおいちゃんがいてくれたから」

パワプロ「すごく練習熱心で、投手としても凄くて」

パワプロ「勝つためにキャッチャーの練習までしてくれて」

 

あおい「……っ」

 

パワプロ「それになにより――」

パワプロ「あおいちゃんと一緒に練習してると、俺すごく楽しいんだ!」

パワプロ「だから、これからもよろしくね!」

 

あおい「……うん」

あおい(……)

あおい(……この人、照れないんだ)

あおい(こんなにまっすぐ……)

 

パワプロ「……あおいちゃん、覚えてる?」

 

あおい「……なにを?」

 

パワプロ「ほら!前にプリクラ撮った時にも書いた俺の目標」

 

あおいの頭に、すぐ浮かぶ。

写真に勢いよく書かれていた文字。

――『あおいちゃん、絶対 甲子園優勝しようね!』

 

パワプロ「あおいちゃん、絶対、甲子園優勝しようね!」

 

そして、すとん、と落ちた。

あおい(……ああ、ボク)

あおい(パワプロくんのこと、好きなんだ)

 

線香花火の火玉が、小さく震える。

 

あおい「……ねえ、パワプロくんってさ」

 

パワプロ「ん?」

 

あおい「ボクのこと……どう思ってるの?」

 

パワプロは迷わず即答した。

パワプロ「え?さっきも言ったでしょ」

パワプロ「あおいちゃんは最高の野球仲間だよ!」

 

あおい「……そうだよね!」

あおい(そっか……)

あおい(やっぱり、これは片思いだ)

あおい(初恋だって気づいた瞬間に振られてる)

あおい(……つらい恋だなぁ)

 

あおい「……うん!」

あおい「ボクにとってもパワプロくんは最高の野球仲間だよ!」

 

でも、決める。

顔には出さない。

 

あおい(この気持ちは抑える。忘れる)

あおい(ボクは野球をして、チームで勝つ)

あおい(……恋は、はるかに任せる)

火玉が、最後にぱっと弾けて――消えた。

 

あおいは無理に明るくして、話題を変えた。

あおい「あー!パワプロくん!」

あおい「スイカの汁でめちゃくちゃジャージ汚れてるよ!」

 

パワプロ「え……マジ!?うわぁ……」

パワプロ「うーん……でも大丈夫!」

 

あおい「何が?」

 

パワプロ「明日ヘッドスライディングすれば分からなくなるよ!」

 

あおい「うわぁ……」

あおい「ヘッドスライディングの使い方、完全に間違ってる……」

 

パワプロ「あはは!」

 

あおいも笑う。

ちゃんと笑えている気がした。

 

少し離れたところ。

庭の端で、はるかがバケツの近くに立っていた。

はるかは、そっと二人を見る。

並んでしゃがみ、線香花火をして笑っている姿。

 

はるか(……)

 

胸の奥が、ほんの少しだけきゅっとする。

でも、それを隠すみたいに、はるかは小さく息を吐いた。

 

はるか(私も、頑張らないと)

 

 

~合宿最終日~

 

加藤先生「はいはーい!」

加藤先生「合宿最終日は恒例の完全オフよ!

加藤先生「練習は一切なし!」

 

矢部「いやっほおでやんす! 天国でやんす~!」

 

パワプロ「ということは……やっぱり海だよね!」

 

部員たち「うおおおおおお!!」

 

一気に歓声が弾け、部員たちは我先にと砂浜へ駆け出していった。

しかしその中で、あおいとはるかだけは相変わらずパーカー姿のまま、パラソルの下に残っていた。

 

あおい「みんな、思いっきり楽しんできなよ。ボクはここでのんびりしてるからさ」

 

はるか「私も……皆さんが楽しんでいるのを見るだけで十分です。どうぞ行ってきてください」

 

矢部「仕方ないでやんすね……」

 

部員「よっしゃー! 遊ぶぞー!」

 

パワプロ「よーし、まずは砂浜ダッシュだ!」

 

矢部「それは休養じゃないでやんす……」

 

そうして、あおいとはるかを除いた全員が、海へと消えていった。

波の音と、遠くから聞こえる笑い声だけが、静かにパラソルの下に流れてくる。

 

しばらくして、はるかがぽつりと口を開いた。

 

はるか「あおい……ひとつ、聞いてもいい?」

 

あおい「え? うん、なに?」

 

はるか「合宿初日に、あおいはパワプロさんのことが好きかって聞いたよね」

はるか「……あれから、気持ちは変わっていない?」

はるか「私には……あおいも、パワプロさんを好きなんじゃないかって、どうしても思えて……」

 

あおい「……正直ね、これまではあんまりちゃんと考えたことなかったんだ」

あおい「でも、昨日ずっと考えてみたんだよ」

 

あおいは少し視線を落とし、波打ち際を見つめながら続ける。

あおい「結論から言うと……やっぱり、ボクはパワプロくんを恋愛的に好きなわけじゃない」

あおい「だからさ……はるかの恋、応援したいと思ってる」

あおい「本当に、そう思ってるよ」

あおい(……これでいい)

 

はるか「あおい……それ、本当?」

 

あおい「うん。本当だよ」

あおい「そもそも、恋愛とか……今のボクにはまだよく分からないし」

あおい「それより今は、このチームで勝ちたい。それだけなんだ」

そう言って、あおいはいつも通りの、明るい笑顔を浮かべた。

あおい(ボクの、パワプロくんを好きだった気持ちは……全部、忘れる)

 

はるか「……そっか」

はるか「うん……わかった」

はるか「私、頑張ってみるね」

 

その言葉に、あおいは小さくうなずいた。

 

二人は並んで腰を下ろし、海ではしゃぐ部員たちの姿を、ただ静かに眺めていた。

楽しげな笑い声が、潮風に乗って、いつまでも耳に残っていた。

 

 

そして、しばらくして——

 

砂浜の向こうから、息を切らした二人が全力疾走で近づいてきた。

 

パワプロ「あおいちゃん! はるかちゃん!」

 

矢部「ちょ、ちょっと待つでやんす~!」

 

パワプロ「あのさ! 矢部くんがとんでもない変化球の極意を発見したんだよ!」

 

はるか「変化球の……極意、ですか?」

 

あおい「え~? 絶対うそでしょ……」

 

矢部「いや、オイラも何の話をされているのか全く分からないでやんす!」

 

あおい「で、その変化球の極意って、結局なんなの?」

 

パワプロ「あおいちゃん!まずは落ち着いて聞いてほしい!深呼吸しよう!一回、深呼吸!」

 

あおい「いや、落ち着いてるけど……」

 

矢部「まずパワプロくんが落ち着くべきでやんす!」

 

パワプロ「俺とあおいちゃんで、ずっとシンカー強化の方法を研究してきたよね?」

パワプロ「でも、どうしても足りなかった最後のピースが……この海にあったんだ!」

 

矢部「いや、オイラは貝殻を海に投げて、水切りして遊んでただけでやんすよ?」

 

パワプロ「それだよ!!」

 

矢部「え?」

 

パワプロ「水切りってさ、自然とアンダースローになるよね?」

パワプロ「しかも、手首のスナップを効かせて強烈な回転をかける!すると水面で跳ねて方向がかわる」

 

あおい「……それって、ひょっとして……」

 

パワプロ「そう! シンカーを完成させるための、最後のヒントなんじゃないかな!?」

 

あおい「で、でも……肝心の『水』がないよ!?」

 

パワプロ「そこが唯一の問題なんだよ……」

パワプロ「……でも、なんとかなりそうな気がしてて……」

パワプロ「はるかちゃん、どう思う?」

 

はるか「……!!」

はるか「ひょっとして……空気中の酸素と水素を、ボールの特殊回転で結合させて、水を発生させる……とかですか?」

 

パワプロ「それだ!!!」

 

あおい「……たしかに」

あおい「それができれば……シンカーを、ストレート並みの速度で……打者の手前で、鋭く落とせるかもしれない……」

 

パワプロ「ね!」

 

矢部「何が『たしかに』で、何が『ね!』なのかわからないでやんす……」

矢部「やべぇやつらでやんす……」

 

パワプロ「あおいちゃん! はるかちゃん! 矢部くん!」

パワプロ「今すぐ合宿所のグラウンドに戻ろう!」

 

矢部「いや、今日は完全オフでやんすよ!?オイラは海で遊ぶでやんす!」

 

あおい「いいから来る!」ギロリ

 

矢部「マジでやべぇ奴らでやんす!」

 

パワプロ「加藤先生! 俺たち、グラウンド戻ります!」

 

加藤先生「えっ!?ちょっと……!って、もう行ってるし!」

 

 

~合宿所のグラウンド~

 

パワプロ「よし、みんな着替えたね!」

パワプロ「あおいちゃんはピッチャー! はるかちゃんは特殊回転の確認! 俺はキャッチャー!」

 

矢部「オイラは何をすればいいでやんす?」

 

パワプロ「うーん……矢部くんは、応援してて!」

 

矢部「雑でやんす!?」

 

あおい「……よし、いくよ」

あおい「いつものアンダースローを……水切りのイメージで」

あおい「手首のスナップを最大限効かせて……」

あおい「水素と酸素を結合させる特殊回転を……!」

あおいは、鋭く腕を振り抜いた。

 

シュッ!

パシャ……

クイッ!

 

パワプロ「おおっ!?」

パワプロ「すごい……! 本当に水切りみたいに、水が生まれて曲がってる!」

 

はるか「……ですが、まだ水分量が足りません」

はるか「おそらく、特殊回転が完全ではないかと……」

 

あおい「……よし」

あおい「次は、もっと強くイメージする……!」

あおい「ガンガンいくよ!」

 

パワプロ「よし、こい!」

 

——そして。

パシャアッ!!

 

パワプロ「……!」

パワプロ「こ、これだ……!」

パワプロ「すごいスピード……すごいキレだよ、あおいちゃん!」

 

あおい「はぁ……はぁ……」

あおい「……ついに、できた……!」

 

はるか「……完璧です」

はるか「理論上、想定していた理想の特殊回転でした……」

 

矢部「……終わったでやんすか?」

 

パワプロ「いや、まだだよ矢部くん」

パワプロ「次は打者目線の確認だね」

 

はるか「変化の見え方、初見の体感……」

はるか「データにするなら必要です」

 

矢部「えっ、ちょっと待つでやんす!?」

矢部「オイラで試す気でやんすか!?」

矢部「暴投デッドとかないでやんすか!?」

 

パワプロ「当てないよ! ミットに投げるよ!」

パワプロ「ただ……矢部くんが打席に立ってくれると、あおいちゃんもイメージしやすいからさ」

 

あおいはボールを軽く握り直し、矢部を見た。さっきまでの息の上がりも、もう落ち着いている。目だけが、静かに燃えていた。

 

あおい「……何をぼーっとしてるの?」

あおい「早く打席に入ってよ矢部くん」

あおい「当てないからさ」

 

矢部「言い方が怖いでやんす!」

 

矢部は渋々、バットを持って打席に入った。

足元の土をならしながら、顔は引きつっている。

 

矢部「言っとくでやんすけど……」

矢部「オイラ、今日は完全オフのはずでやんすからね……!」

 

パワプロ「オフだよ! 自主的にやってるだけ!」

 

矢部「オイラは強制でやんす!」

 

はるか「矢部さん、お願いします。これはチームのためです」

 

矢部「はるかちゃんに真顔で言われると断れないでやんす~!」

 

パワプロはミットを構え、声をかけた。

パワプロ「あおいちゃん、全力でいい。矢部くんには……当てないから!」

 

矢部「繰り返し言われると逆に不安でやんす!」

 

あおい「じゃあ……いくよ」

 

矢部はごくりと唾を飲み、バットを構えた。

その瞬間、あおいのフォームが一段階、研ぎ澄まされる。

 

——シュッ!

 

ボールが消えたように見えた。

 

矢部「……えっでやんす?」

 

次の瞬間。

 

パシャッ!!

 

空中で水しぶきが弾けたように見え、白球は矢部の目の前で一気に沈み込む。

 

ブンッ!

矢部のバットは、あり得ないほど空を切った。

矢部「うわああでやんす!?」

 

パワプロ「ナイスボール!」

 

はるか「……今のは完璧です!落ち始める地点が、打者の反応の限界でした」

 

矢部はバットを支えにしながら、膝をガクガクさせて振り返った。

矢部「マジで、すごいスピードとキレでやんす……!」

矢部「こんなの……絶対打てないでやんす……!」

 

パワプロ「だよね……!」

パワプロは興奮したまま、あおいとはるかと顔を見合わせる。

パワプロ「このオリジナル変化球、名前がいるよ!」

 

はるか「海で見つけたヒントで生まれた球……水しぶきのような特殊回転……」

あおい「……マリンって感じだね」

 

パワプロ「よし、決まり!」

パワプロ「この新球種の名前は……」

パワプロ・あおい・はるか「マリンボール!」

 

はるか「良い名前です!印象に残ります」

 

矢部「まじで、オイラの寿命が縮んだでやんす!」

 

あおいは小さく笑い、もう一球ボールを握った。

あおい「矢部くん、もう一回」

 

矢部「まだやるでやんすか!?」

 

あおい「絶対打てないって言ったよね? だったら本当に打てないか確認しないと」

 

矢部「理不尽でやんすーー!!」

 

合宿は、地獄みたいにキツかった練習の先に、最後の最後で生まれた切り札。

新球種——マリンボール。

 

チームの誰もがそれを見て、確信していた。

この合宿で、自分たちは確かに強くなった、と。

 

そして――――

 

加藤先生「……で? 完全オフの日にグラウンドで何してたの?」

 

パワプロたち「…………」

 

合宿は、最高の成果と、ちょっとした説教をお土産にして——幕を閉じた。

 

矢部(どうしてオイラまででやんすーーーー!!)

 

 

―― 能力データ ――

 

早川あおい

【球速】135km/h

【コントロール】155B

【スタミナ】85D

【変化球】カーブ2/シンカー3/マリンボール4

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