恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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2年生 秋①

~秋大会まであと一ヶ月の練習終わりの帰り道~

 

パワプロ「いやぁ……あおいちゃんのマリンボール、絶好調だね!」

 

あおい「でしょ?ボクも怖いくらい調子いいんだよね」

あおい「秋の大会は勝つよ!」

 

はるか「二人が交互に投げれば……あの、あかつき大付属高校にも勝てるかもしれません」

 

矢部「まじで化け物みたいな二人でやんす……」

 

あおい「……今、ボクのこと『化け物』って言った?」ギロリ

 

あおいの視線が矢部を射抜く。

矢部は反射で背筋を伸ばした。

 

矢部「い、いい意味ででやんす!頼もしいって意味でやんす!」

 

そんなやり取りをしながら、四人は校門の方へ歩いていく。

 

そのとき——。

ふわりと甘い香りがかすめた。

すれ違ったのは、ピンク色のショートカットにカチューシャをつけた美少女。

明るい雰囲気で、自然と目を引く。

 

パワプロ「球種が増えて、俺もリードしがいが増したしね。ほんと大会が——」

 

その会話の途中で。

すれ違った女の子が、数歩進んだところで足を止めた。

 

女の子「……あの!」

 

四人が同時に振り返る。

 

女の子は少しだけ息を整え、こちらをまっすぐ見た。

そして、確かめるみたいに、慎重に名前を呼ぶ。

 

女の子「……ひょっとして」

女の子「パワプロくん……?」

 

矢部「こ、この……とんでもない美少女は誰でやんす!?」

 

はるか「……え……?」

 

あおい「……!?」

 

一瞬、空気が止まる。

パワプロはきょとんとして、首をかしげた。

 

パワプロ「え?うん。そうだけど……」

 

——そして一瞬間を置いて、目を見開く。

 

パワプロ「そのカチューシャ……あれ!?」

パワプロ「ひょっとして……舞ちゃん!?」

 

舞「やっぱり!久しぶり!ほんとにパワプロくんだ!」

 

舞はぱっと顔を輝かせ、懐かしさを隠さず笑った。

その笑顔は、昔から何も変わっていないみたいだった。

 

パワプロ「うわぁ、久しぶりだなぁ!舞ちゃんにまた会えるなんて嬉しいよ!」

 

舞「もう……突然いなくなるんだもん」

舞「小学四年生に上がるとき、アメリカに行くって聞いたとき、ほんとびっくりして……泣いちゃったんだよ?」

 

パワプロ「え!?そ、そうだったっけ!?ごめん……!」

 

舞「覚えてないんだ……」

舞はくすっと笑って、それから少しだけ照れたように続ける。

舞「幼稚園の頃、おままごとしたの覚えてる?」

 

パワプロ「……えーっと……?」

 

舞「パワプロくん、ずーっとプロ野球選手役ばっかりでさ」

舞「サラリーマン役、全然やってくれなかったんだから」

 

パワプロ「あっ!あったかも!」

パワプロ「だって野球選手のほうがかっこいいじゃん!」

 

舞「もう……昔からそれだよ」

 

そのやり取りを聞きながら、残りの三人は完全に固まっていた。

 

矢部(幼なじみでやんすか……!?)

矢部(強すぎる設定でやんす……!)

 

はるか(落ち着いて……落ち着いて……情報を整理しないと……)

 

あおい(何この子……!)

あおい(なんか、気に入らないなぁ……!)

 

舞は三人の視線に気づいて、にこっと会釈した。

 

舞「えっと……皆さんは?」

 

パワプロ「あ、紹介するよ」

パワプロ「こっちは矢部くん、七瀬はるかちゃん、早川あおいちゃん、みんな野球部なんだ」

 

舞「矢部さん、七瀬さん、早川さん。はじめまして。栗原舞です」

舞の名乗りは、明るいのに変に距離が近すぎなくて、さらっとしていた。

そして、舞はあおいとはるかを少し見て、パワプロに視線を戻し、

 

舞「ねえ、パワプロくん。さっきみんな野球部の人って言ってたけど……」

そして、いたずらっぽく笑い、続ける。

舞「もしかして……彼女とか、できちゃったわけじゃないのー?」

 

パワプロ「えっ!? いやいや、二人は全然彼女とかじゃないよ!」

 

あおい(その言い方……!)

 

はるか(そこまで否定されると、胸が……ちくっと……)

 

パワプロ「というか、彼女なんてできたことないって!」

 

舞「ふーん……そっか!」

舞は心底ほっとしたみたいに笑って、両手を軽く合わせた。

舞「相変わらず野球ばっかなんだね。……それ、ちょっと安心した」

 

あおい(……安心?)

あおい(安心ってなにさ……)

 

舞は少しだけ言いにくそうに目を泳がせ、でもすぐにいつもの明るさに戻って言った。

舞「じゃあさ……たまに練習、見に行ってもいい?」

 

パワプロ「うん!もちろんだよ!」

 

——その瞬間。

 

あおい「……いや、だめだよ!」

 

全員の視線が、あおいに集まる。

 

舞「え?」

 

あおい「君、どこの高校の子?」

 

舞「私は、パワフル高校だけど……」

 

あおい「ふーん」

あおいは感情を出さない声のまま、淡々と続ける。

あおい「パワフル高校って、野球の強豪で有名だよね」

あおい「うちとも前に試合したし……ボクたちが勝ったけどね」

 

舞「……?それが何か?」

舞は心底不思議そうに首傾げる。

 

あおい「だから……スパイかもしれない!!」

 

矢部「す、スパイでやんすか!?」

 

はるか「た、たしかに……秋の大会前ですし……情報戦の可能性も……」

 

舞「ち、違うよ!? スパイなんかじゃない!」

舞は慌てて手を振り、すぐにパワプロを見る。

そこには、幼なじみとしての遠慮のなさがあった。

舞「ね、パワプロくんは信じてくれるよね?」

 

パワプロ「う、うん……舞ちゃんはスパイなんてしないよ」

パワプロ「昔から、すごくいい子だし」

 

あおい(……イラァ)

 

あおいは一歩、パワプロの横へ出る。

肩が少しだけ前に出て、庇うみたいな立ち位置になる。

 

あおい「いいから、もう行くよ。パワプロくん」

 

有無を言わせない勢いで、あおいはパワプロの手をつかみ、引っ張るように歩き出した。

 

パワプロ「あ、ちょっ、あおいちゃん……!?」

 

矢部「あおいちゃん、目が笑ってないでやんす……」

 

はるか「……いきましょう!」

 

舞はその場に立ち尽くしたまま、でもすぐに表情を整える。

明るさで塗りつぶすみたいに、少し声を張った。

 

舞「……また、会いに行くね。パワプロくん!」

 

パワプロ「う、うん……!」

 

夕焼けの中、舞の明るい声だけが、いつまでも背中に残った。

 

——そして、しばらくして。

舞の姿が角の向こうに消えた頃。

 

パワプロ「あ、あおいちゃん!? どこまで行く気!?」

 

あおい「あ……」

あおいは、自分がずっとパワプロの手を握っていたことに気づく。

耳まで赤くなって、ものすごい勢いで手を離した。

あおい「と、とにかく! スパイかもしれないんだから、気をつけてよね!」

 

そう言い捨てて、あおいは走り去る。

残されたパワプロが呆然としていると、今度ははるかが真剣な顔で一歩近づいた。

 

はるか「パワプロさん……あおいの言う通り、本当にスパイの可能性があります」

 

パワプロ「そ、そうかなぁ? 舞ちゃんは本当にいい子なんだよ?」

 

はるか「それが危険なんです」

はるか「いい子は疑われません。疑われない人ほど、情報を持っていけます」

はるか「……私も、栗原さんとはあまり会わないほうがいいと思います!」

 

パワプロ「はるかちゃんがそこまで強くいうなんて珍しいしいね…」

パワプロ「うーん……ちょっと考えてみるね……」

 

そうして、パワプロは悩みながら帰路につくことになった。

 

 

〜その翌日の恋恋高校・昼休み〜

 

四人での昼食時間。

パワプロ、矢部、あおい、はるかは、いつもの席で昼食を食べていた。

 

あおい「ところで……パワプロくん」

 

パワプロ「ん? なに?」

 

あおい「……栗原舞って子とは、会ってないよね?」

 

はるか(……!)

 

パワプロ「ああ、舞ちゃんね! 実は昨日の夜、家に来てくれたんだよ!」

 

矢部「よ、夜に家に来たでやんすか……!?」

 

パワプロ「そうそう」

パワプロ「俺、住んでる場所はアメリカ行く前と変わってないから」

パワプロ「家を覚えててくれたみたいでさ」

パワプロ「それに、スパイ疑惑はやっぱり誤解だったよ」

パワプロ「そもそも野球部にも入ってないんだって」

パワプロ「マネージャーだったら、前の公式戦で会ってるはずだしね」

 

はるか「……では、練習を見に来ることになったんですか?」

 

パワプロ「いや、それはしないって」

パワプロ「俺に迷惑がかかるかもしれないから、行くにしても公式戦くらいにするってさ」

パワプロ「ほんと、変わらずいい子だったよ」

 

あおい「で……昨日の夜、パワプロくんの家に入ったの?」

 

パワプロ「え? ああ。せっかく来てくれたのに立ち話も悪いし、俺の部屋で昔話してたんだ」

 

矢部「よ、夜に……パワプロくんの部屋に……?」

 

メキッ……

バキィッ!

 

乾いた音がして、あおいの手元で箸が真っ二つに割れた。

 

パワプロ「あ、あおいちゃん!? だ、大丈夫!?」

 

あおい「なにが? たまに割れるでしょ」

割れたプラスチック製の箸を握ったまま、あおいは平然と答える。

……ただし、こめかみはぴくぴくしていた。

 

矢部「……割り箸ならまだしも、それ丈夫なプラスチック製でやんすよ……」

矢部「怪力でやんす……」

 

あおい「矢部くん。……何か言った?」ギロリ

 

矢部「ひえっ……なんでもないでやんす……」

 

はるか「ひょっとして……栗原さんと連絡先を交換して、またお会いするお約束を……?」

 

パワプロ「え? よくわかったね。話せた時間短かったから、今週の日曜に昔の写真持って、また家に来てくれるって」

 

あおい「……ボクも行く」

 

パワプロ「えっ!?」

 

あおい「それ、ボクも行くから」

 

パワプロ「ええ!? あおいちゃんも!? ただ昔の写真見るだけだよ!?」

 

あおい「何か問題でも!?」ギロリ

 

パワプロ「……い、いえ……」

 

あおい「それに、はるかも来るって」

 

はるか「はい。ご一緒します」

 

はるかは、一切の迷いなく目を見開いて即答する。

 

矢部「はるかちゃん……口調はお淑やかなのに、目がマジでやんす……」

矢部「でも舞ちゃんが来るなら、オイラも行くでやんす!」

 

パワプロ「いや、それもう全員じゃん!」

 

あおい「何か問題でも!?(二回目)」ギロリ

 

パワプロ「……ありません。問題ないです。はい……」

 

〜日曜日 パワプロの家〜

 

舞「…………」

 

パワプロ「…………」

 

しばしの沈黙のあと、舞がそっと口を開いた。

 

舞「……パワプロくん。なんで、この人たち……いるの?」

 

パワプロ「いや、その……どうしても来るって聞かなくて……あはは……」

申し訳なさそうに笑うパワプロ。

 

パワプロの部屋は、野球道具やトレーニング器具、トロフィー、野球関連の本に分析用のテレビまで揃っていたが、不思議なほど整然としていた。

 

あおい「ふーん……野球だらけだけど、意外と片付いてるね」

 

矢部「トロフィー多すぎでやんす!? ここ展示室でやんすか!?」

 

パワプロ「だから言ってるでしょ。アメリカでMVP取ってたんだってば……」

 

はるか(男の子の部屋に入るの、初めて……しかもパワプロさんの……)

胸の奥が、きゅっと音を立てる。

 

舞「人が多いのはちょっと気になるけど……」

舞「せっかく持ってきたし、昔の写真、見る?」

 

はるか「はい。ぜひ、お願いします」

 

あおい「うん! ボクも見たい!」

 

矢部「舞ちゃんの子供の頃とか、絶対天使でやんす……!」

 

パワプロ「気になる発言もあるけど……まあ、とりあえず見ようか。俺も何枚か用意してるし」

 

舞「じゃあ、まずはこれね。幼稚園のお遊戯会のパワプロくん」

そこに写っていたのは、今の面影を色濃く残した、信じられないほど可愛らしい男の子だった。

 

あおい「か、かわいい!!」

 

はるか「……とても可愛いです」

 

矢部「これが将来あの野球バカになるとは思えないでやんす……」

 

舞「でしょ? パワプロくん、ほんと可愛かったんだから」

 

パワプロ「な、なんだか恥ずかしいな……」

 

その後も写真は次々とめくられていく。

 

しばらくして、一区切りつく頃に——

 

パワプロ「あ、飲み物切れてた。すぐ近くのコンビニ行ってくるよ。矢部くん、手伝ってくれる?」

 

矢部「いいでやんすよ」

 

あおい「え、ボクたちこの部屋にいていいの?」

 

パワプロ「すぐ戻るよ。コンビニすぐ横だし」

 

そう言って、パワプロと矢部は部屋を出ていった。

残されたのは、あおい、はるか、そして舞。

 

舞「……パワプロくんもいないし、ちょっと聞きたいんだけど」

二人の顔を交互に見て、舞は言った。

舞「……二人とも、パワプロくんが好きなの?」

 

突然のことにあおいとはるかは目を大きくして、顔を見合わせる。

 

はるか「……私は、パワプロさんが好きです。尊敬していて……慕っています」

迷いのない答え。

 

あおい「いや、ボクは……そ、そんなことないよ……うん……」

 

舞「ふーん……」

舞は小さく笑う。

舞「でも、二人とも好きにしか見えないけどな」

 

あおい「で、でも! 野球仲間としては好きだからじゃないかな!?」

あおい「一緒に甲子園で優勝したいって、本気で思ってる!」

 

はるか「私もです。このチームで、甲子園優勝を本気で目指しています」

 

舞(……本気だ)

舞(この二人、パワプロくんと同じ目をしてる)

舞(正直……恋恋高校だと甲子園優勝どころか出場すら、私は絶対に無理だと思ってたのに)

 

そして——

パワプロ「ただいまー!」

 

矢部「戻ったでやんすー!」

 

空気が一気に戻る。

あおい「お、おかえり!」

 

はるか「おかえりなさい。ありがとうございました」

 

舞「じゃあ次は、パワプロくんの小学校編ね」

 

パワプロ「えっ、まだ続くの!?」

 

そんなやり取りのまま、写真鑑賞会は続き、やがて夕方になって解散となった。

 

~駅から戻る夕暮れの道~

 

パワプロ と舞は3人を駅まで送ってから、近所であるために一緒に帰っていた。

 

人通りも少なくなり、二人の足音だけが静かに響いていた。

 

パワプロ「舞ちゃん、ごめんね。急に人が増えちゃってさ」

 

舞「ううん……びっくりはしたけど、楽しかったよ」

 

少し間が空く。

舞は前を向いたまま、意を決したように口を開いた。

 

舞「……ねえ、パワプロくん」

舞「今度こそ、二人で遊ばない?」

舞「来週の日曜日とか……どうかな……」

 

パワプロ「来週の日曜……」

一瞬、考え込むように視線を上げてから、いつもの真剣な顔になる。

 

パワプロ「その日、オフではあるんだけど……」

 

舞の胸が、少しだけ跳ねた。

 

パワプロ「秋大会が近いからさ」

パワプロ「あおいちゃんたちと、他校のチェックとか、サインの確認とか、練習メニューをちゃんと詰めたいんだ」

パワプロ「最近、チーム全体がすごくいい感じでさ。今ここで気を抜くの、もったいなくて」

 

舞「……そっか」

 

パワプロ「うん」

そして、悪気のかけらもなく、自然な声で続ける。

パワプロ「正直、今の俺、野球の話ばっかになると思うんだよね」

パワプロ「舞ちゃんに無理して野球の話に付き合わせちゃうのも悪いしさ」

 

舞の足が、ほんの一瞬だけ止まった。

 

パワプロ「だから……遊ぶなら、もう少し落ち着いてからのほうがいいと思う」

パワプロ「舞ちゃんに、退屈な思いさせたくないし」

 

舞「…………」

 

しばらく沈黙。

 

やがて、舞はふっと微笑んだ。

舞「……そっか」

舞「うん、わかった」

舞「パワプロくん、変わってないね」

 

パワプロ「え? そうかな?」

 

舞「うん。昔からずっと……野球が一番」

その言葉は、責める響きはなかった。

舞「今日はありがとう。ほんとに楽しかった」

舞「……じゃあ、ここで」

 

パワプロ「うん。またね」

 

舞は手を振り、家の方へ歩き出す。

 

数歩進んでから、振り返らずに小さくつぶやいた。

舞「……私が誘うと、やっぱり邪魔になるんだ」

舞「パワプロ くん……本当に野球バカなんだから……」

 

舞(パワプロくん、本当に変わってない……)

舞(小学校の時に私を置いてアメリカに行った時と、全く同じ目をしてる……)

 

舞(昔からこうなんだ……)

舞(……パワプロくんの目は私を見ているようで、私のことなんてほとんど映ってない……)

 

舞は涙を流して立ち止まる。

舞(あの場所は、もう私の入れる場所じゃないのかも……)

舞は止まらない涙を流しながら、再び歩き始めた。

夕暮れの人波に、舞の背中は溶けていった。

 

 

~翌日の恋恋高校・昼休~

 

翌日の昼休み。

いつもの席で、四人は昼食をとっていた。

 

パワプロ「よし。あおいちゃん、はるかちゃん、矢部くん」

パワプロ「今週の日曜日、オフの予定だけどさ。身体は休めつつ——」

パワプロ「他校のチェックとサインの整理、それから秋大会までの練習方針をミーティングで決めようよ」

 

矢部「いきなり本気モードでやんすね……」

 

あおい「いいけど……舞さんと遊ぶんじゃないの?」

 

その名前が出た瞬間、空気がわずかに張りつめる。

はるかの箸が止まり、あおいは何でもないふうを装って弁当に目を向けた。

 

パワプロ「ああ、それなんだけど」

パワプロ「昨日、舞ちゃんに来週の日曜、二人で遊ぼうって誘われたんだ」

 

矢部「直球でやんす……!」

 

パワプロ「でも、断ったよ」

パワプロ「秋大会前だし、今は野球を優先したいって。中途半端にするのも嫌だったからさ」

 

はるか「……そう、ですか」

 

その声は穏やかだった。

同時に、張りつめていた肩が、ほんの少しだけ下がる。

 

あおい「……ふうん」

 

あおいは箸でご飯をつつきながら、素っ気なく返す。

気づかないうちに詰めていた息を、ゆっくり吐き出していた。

 

パワプロ「それにさ」

パワプロ「舞ちゃんにも言ったんだ。落ち着くまでは、会えないかもって」

 

はるかのまつ毛が、わずかに震えた。

パワプロ「そのほうがいいと思ってさ。無理に時間つくるのも違うし」

 

はるか「……はい」

小さく、でも確かな返事。

その表情は変わらないのに、胸の奥が静かにほどけていく。

 

あおい「……そっか」

短い一言。

そこにはもう、昨日までの刺々しさはなかった。

 

あおい「じゃあ、日曜は野球の話だね。うん、いいよ」

 

はるか「はい。準備、進めましょう」

 

二人の声は落ち着いていて、どこか軽い。

 

あおい「矢部くんも参加ね」

 

矢部「舞ちゃん来ないなら、オイラはアニメ鑑賞をするからいけないでやんす」

 

あおい「参加……だよね?」ギロリ

 

矢部「さ、参加するでやんす……!」

 

パワプロ「よし決まり! 日曜は集中していこう!」

 

そう言って笑うパワプロにあおいとはるかは視線を合わせず、口元が笑顔なまま静かに弁当を食べ続けていた。

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