恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
~秋大会当日~
グラウンドに、張りつめた空気が流れていた。
パワプロはマスクを手に取り、ゆっくり深呼吸する。
視線の先のマウンドを見つめるあおい。
そのさらに先に、秋大会の看板が見えた。
あおい「不思議……負ける気、しないね」
パワプロ「うん。俺たち、ちゃんと準備してきた」
そのとき、横から静かな声がかかる。
はるか「はい。今回、本当に完璧な仕上がりだと思います」
手帳を胸に抱えたまま、はるかは穏やかに微笑んだ。
はるか「大丈夫です。今日の恋恋高校は……負けません」
あおいは一度だけ振り返り、力強くうなずく。
あおい「じゃあ、行こうか」
パワプロ「行こう。——初戦から、全力で!」
部員たち「おおー!」
その一言で、全員のスイッチが入った。
スタンドの声援が、朝の空気を震わせる。
恋恋高校の初戦。相手は中堅校——油断はできない。
スタメン
1番:センター 矢部
3番:投手 あおい
4番:捕手 パワプロ
パワプロ(あおいちゃんのマリンボール……)
パワプロ(公式戦では初のお披露目だ)
《パワプロのキャッチャー◎ 発動》
審判「プレイ!」
~一回表 相手校の攻撃~
あおい「……いくよ」
アンダースローから放たれた白球は、打者の手元でふっと消えて——
パシャア。
打者「……っ!?」
マリンボールに手を出せない打者。
パワプロの捕球は静かで、無駄がない。
ミットの音だけが響き、ボールはそこに最初からあったように収まる。
審判「ストライク!」
あおい(今の……ボール気味だったのに……)
フレーミング、ブロッキング、テンポ、そして配球の組み立て。
キャッチャー◎が、あおいの球をもう一段強い球に見せる。
パワプロ(もう一回。同じコースに見せて、落とす)
あおい「……うん」
2球目3球目としっかりと配球し、三振。
あおいは淡々としているのに、球だけが派手に暴れる。
相手打線の目が、少しずつ曇っていく。
~一回裏 恋恋の攻撃~
先頭打者、矢部。
矢部(オイラの使命は出塁でやんす!)
カット、カット、ファウルで粘る。
最後は甘い球を引っかけて内野ゴロ——
矢部「しまったでやんす!」
だが矢部の脚が生きる。
一塁へ全力疾走、そして——
ヘッドスライディング。
砂が舞う。
審判「セーフ!」
矢部「セーフでやんす!」
あおい「やるじゃん、矢部くん!」
はるか「足で一つ、良い流れができそうですね」
矢部は二盗も決める。
三番あおいが右前打でつなぎ、ランナー一・三塁。
四番、パワプロ。
パワプロ(先制点。まずは手堅く一本)
相手は外へ逃げる。
だが、パワプロが右中間にライナー性の強いあたり。
恋恋高校、先制。1-0。
矢部「生還でやんすーー!!」
二回、三回、四回——。
相手は何とか当てようとするが、芯に当たらない。
マリンボールとシンカーは全く異なる球だが見極めが難しい。
そして、その見せ方を作っているのがパワプロだ。
パワプロ(次はシンカーを見せる。からの——マリン)
あおい(了解!)
空振り。詰まったフライ。ゴロ。
点を与えないだけじゃない。相手の気力まで削れていく。
その裏、恋恋高校はじわじわと追加点を重ねる。
五回にはランナー一塁で、パワプロが——
カキィン!
高々と打ち上がった打球が、左中間スタンドへ一直線。
パワプロ「よし!」
ツーランホームラン。
恋恋ベンチが爆発する。
矢部「出たああ!四番の破壊力でやんす!!」
あおい「さすが!」
スコアは4-0。
六回が終わった時点でも、あおいは無失点。
ただし球数は増えていた。打者が見逃しを増やし、粘り始めている。
あおい「ボクすごく調子いいんだ!まだいけるよ!」
パワプロはマスク越しに、目だけで笑う。
パワプロ「気持ちはわかる。でも次の試合もある。交代だよ、あおいちゃん」
あおい「……っ」
悔しさが一瞬だけ顔を出す。
それでも、次の瞬間には拳を握り直してうなずいた。
あおい「わかった……任せるよ、パワプロくん」
パワプロ「うん。任せて」
七回 パワプロ登板、あおい捕手へ
マウンドに立つパワプロ。
そして、マスクをつけてしゃがみ込むのは——あおいだった。
観客席がざわめく。
「女子がキャッチャー!?」
「さっきまでピッチャーだったのに!?」
矢部「出た……パワプロくんとあおいちゃんのバッテリーでやんす……!」
パワプロ(前の大会じゃ、取れなかった球……今のあおいちゃんなら)
あおい(……取ってみせる。ボクが)
初球、155km/h。
バンッ!
打者は手を出せず、驚いた表情をみせる。
グラウンドには今日1番の驚きの声が漏れた。
あおいのミットが鋭く鳴る。
捕球の衝撃に、腕が痺れるはずなのに——あおいのフォームは崩れない。
あおい「ナイスボール!」
パワプロ「次、いくよ」
あおい「任せて!」
二球目。高速スライダー。
ギュンッ——!
打者「うわっ……!」
鋭く曲がって外へ逃げる。
そして——
パシィッ!!
あおいが一歩も動かず、ど真ん中で収めた。
あおい(取れた……!)
パワプロ(よし。なら——次はSFFだ)
あおい(……来い)
三球目、SFF。
一瞬、浮いたように見えて——ストン、と落ちる。
打者「……っ!」
空振り。
そしてワンバウンドしたボールがミットへ——
ドスッ。
今度は手のひらで押し込むように止めた。
前回大会では取れなかった球。
でも今は違う。合宿で、何度も何度も止めた。
あおい(……ばっちり)
パワプロ(最高だよ、あおいちゃん!)
三者凡退。
流れは完全に恋恋高校だった。
~八回裏 恋恋の攻撃~
ランナー二塁。
相手投手は疲れている。ここで一発が出れば、試合は終わる。
四番、パワプロ。
パワプロ(迷うな。来た球を、全部振り抜く)
初球、甘い。
カキィン!!
打球は右翼スタンドへ一直線。
ツーランホームラン。
これでパワプロはこの試合2本目。
スコアは 6-0。
~九回 敵校の攻撃~
最後の打者。
あおいがサインを出す。チェンジアップ。
パワプロ(了解)
投げる。
打者のタイミングがずれる。
ボテボテのゴロ。セカンドが捌いて——
一塁、アウト。
審判「ゲームセット!」
恋恋高校、初戦を 6-0 で勝利。
~勝利後の恋恋ベンチ~
あおいはベンチ前で息を整え、帽子のつばを押さえた。
あおい「……無失点リレー。できたね!」
パワプロ「最高だったよ、あおいちゃん!六回までゼロ。マリンボールも完璧だった」
あおい「……うん!」
あおいは一瞬だけ、照れ隠しみたいにそっぽを向く。
でも口元は、隠しきれていなかった。
矢部「オイラ一番の役目、果たしたでやんすよね!?」
パワプロ「うん。出塁と盗塁、完璧。ヘッスラもね」
矢部「モテるでやんすか!?」
あおい「うん!矢部くんもこれならモテるよ!」
矢部「あおいちゃんにモテると言われたでやんす!?」
矢部「こ、これはこれで怖いでやんす!」
あおい「……殴る?」ギロリ
矢部「もはやホッとするでやんす……」
矢部「これが安定の怖さでやんす……」
はるかはスコアブックを閉じ、静かに言った。
はるか「初戦を無失点で取れたのは大きいです。特に……投手交代の回も守備が崩れませんでした」
はるか「次は相手も強くなります。……今日以上に準備しましょう」
パワプロ「うん。次も勝つ!」
あおい「もちろん!」
秋大会は、まだ始まったばかりだった。
―― 能力データ ――
矢部明雄
【ミート】4D
【パワー】80D
【走力】12B
【肩力】8D
【守備】8D
【特殊能力】ヘッドスライディング
パワプロ野手能力
【ミート】13B
【パワー】160A
【走力】14B
【肩力】15A
【守備】15A
【特殊能力】青特多数
パワプロ投手能力
【球速】157km/h
【コントロール】190A
【スタミナ】130B
【変化球】高速スライダー6/チェンジアップ4/SFF4
【投手特殊能力】青得多数
早川あおい
【球速】136km/h
【コントロール】160B
【スタミナ】85D
【変化球】カーブ2/シンカー3/マリンボール5
~秋大会・勝ち上がり~
初戦を無失点で抜けた恋恋高校は、そのまま勢いに乗った。
あおいのマリンボールが相手打線のリズムを崩し、パワプロの配球がさらに打者を惑わす。
打つべき場面でパワプロが打ち、矢部が足でかき回し、投手と捕手交代で締める。
気づけば——
恋恋高校は準々決勝まで勝ち上がっていた
~準々決勝前日の恋恋高校~
矢部「ど、どきどきしてきたでやんす……!」
矢部「いよいよでやんすね……次はあかつきでやんす……!」
はるか「……皆さんなら、きっと勝てます」
はるか「ここまで来たのは、偶然じゃありません」
あおい「うん」
あおいは一度、深く息を吸ってから言った。
あおい「名門あかつきに勝てたら、春の甲子園の可能性が一気に高まる」
パワプロ「だね」
パワプロはグラブを握り、前を見る。
パワプロ「やろう」
パワプロ「倒そう。あかつきを」
四人の拳が、自然と重なった。
トン。
その音は、はっきりとした決意の音だった。
~準々決勝前日のあかつき大付属高校~
あかつき大付属高校。
甲子園の圧倒的な常連高で、前回は甲子園準優勝。名門と呼ばれる重みがある。
その中心にいるのが——
主将である猪狩守。
ブルペンで投げ込みながら、守は静かに笑った。
守(ついに……本気のパワプロとやれる)
胸の奥が熱くなる。
ただ勝つだけじゃない。あの相手と、真正面から戦って勝つ。それが自分の価値だ。
——しかし。
ベンチの外、部員たちの会話が守の耳に入った。
「黄金世代って言われた三年が抜けて、もうきついよなー」
「もう猪狩守以外は注目されるほどの選手いないし、弟の進もまだ一年だし」
「しかも恋恋高校の投手、まじですごいらしいよ」
「パワプロっていう155km以上なげる化け物と、女子なのにとんでもない変化球投げるやつがいるって」
「まじで? うち、負けるんじゃない?」
守の指が、ボールを握り直す。
守(くそ……僕が、しっかりしなければ。絶対に勝つんだ)
燃える闘志の奥に、責任が重くのしかかった。
~あかつきミーティングルーム~
猪狩兄弟の背後から、低い声が落ちた。
監督「猪狩守。猪狩進。ちょっといいか」
守「……はい!」
進「は、はい!」
監督は二人をまっすぐ見て言った。
監督「次の恋恋高校との試合。わかっているな?」
守「……はい。僕が絶対に抑えて、そして絶対に打ってみせます」
進「はい! 僕もリードをがんばります!」
監督「違う」
監督「猪狩守……お前はそれでも常勝あかつきの主将か?」
空気が冷える。
監督「敵高主将のパワプロは、全打席——申告敬遠だ」
守「……なっ……!」
守の目が大きく見開かれた。
守「……いえ! 勝負させてください! 僕なら抑えられます!」
監督「猪狩守。パワプロ相手はお前でも難しい」
監督は短く切った。
監督「パワプロはここまで、平均して一試合二本塁打。接戦になった場合、被弾は致命傷になる」
守「しかし!スポーツマンシップが求められる高校野球で申告敬遠連発なんて……!」
監督「甲子園常連校であり春夏連続10回出場中。そして前回甲子園準優勝の我々が、一番やってはいけないことが何かわかるか?」
守「……」
監督「甲子園にすら出られないことだ。敬遠も地方大会の準々決勝なら、まだ注目は少ない」
監督「万が一でも負けないことが、最優先だ」
守「くっ……」
監督「返事をしろ、猪狩守」
守は唇を噛んだ。
胸の中で、何かが軋む音がした。
守「……はい」
監督「猪狩進。お前もわかっているな?」
進は一瞬、兄の顔を見た。
それから視線を落として答える。
進「……わ、わかりました」
守(勝つために……ここまで、やるのか)
それでも守は、あかつき主将としての責任感から飲み込むしかなかった。
~さらに別のミーティングルームにて~
監督「——わかったな? お前に任せたぞ」
選手A「わかりました」
その選手Aは、淡々とうなずいた。
~準々決勝当日 恋恋高校ベンチ~
恋恋高校のベンチは落ち着いていた。緊張はある。
でも、それをいつもの準備で押さえ込んでいる。
パワプロはベンチでグラブの紐を結び直していた。
そこへ、ふいに声がかかる。
変装選手A「すみません。部長はこちらに。改めてスタメンと背番号チェックをします」
パワプロ「あ、わかりました!」
疑いもなく立ち上がる。
明るい声のまま、ついていった。
変装選手A「では確認していきますね……」
名簿を確認するふりをして、淡々とやり取りが続く。
そして、終わり際。
変装選手A「以上です。大会も終盤なので繰り返しの確認となり、失礼しました」
パワプロ「いえいえ! 大事ですもんね!」
変装選手A「あれ……? 失礼。首元に虫がいますので、取りますね」
パワプロ「そうでしたか。ありがとうございます!」
指先が、ユニフォームの内側に触れる。
一瞬だけ、ひやりとした感覚。
パワプロ「……?」
変装選手A「取れました。では、失礼します」
そう言って男は去っていった。
パワプロ(決勝だ。集中集中)
~恋恋高校ベンチ~
はるかはスコアブックを開き直し、いつも通りの字で確認を重ねていた。
決勝だからこそ、丁寧に。普段通りに。
矢部は落ち着かない様子で、笑ってごまかす。
矢部「甲子園まであと少しでやんす……胃がキリキリするでやんす……!」
パワプロはあおいの顔を見てから、少しだけ言いにくそうに口を開いた。
パワプロ「……あおいちゃん」
パワプロ「あかつき戦は俺が先発するって、わがまま言ってごめん」
あおいは一瞬きょとんとして、それから肩をすくめた。
あおい「それについては、文句なんてないし……妥当だと思うって言ったでしょ」
あおい「ボクはボクで、捕手で支える。そしてリリーフもできるように備える。勝つためにそれが一番だよ」
パワプロ「……ありがとう」
パワプロは少しだけ笑って、いつもの真剣な目に戻る。
パワプロ「じゃあ最後に、もう一回サインだけ確認しようか」
~あかつき側ベンチ~
監督「猪狩守と猪狩進以外のスタメンは集まったな」
部員たち「はい!」
監督「——恋恋高校のサインは掴んだ。ベンチから合図を送る。覚えろ」
部員「え……それって……」
監督「我々は常勝あかつきだ。文句あるやつは?」
部員「……いえ……!」
監督「それから猪狩兄弟には言うな。あいつらは面倒だからな」
守と進だけが知らないまま、ベンチの空気が固まっていく。
~試合開始、整列~
グラウンドに両校が並ぶ。
大会終盤の独特の静けさ。歓声すら、息を潜める。
あかつきの先頭に立つのは、猪狩守。
恋恋高校の先頭に立つのは、パワプロ。
守の視線が、まっすぐパワプロを射抜く。
守(やっとだ……)
だが同時に、監督の命令が脳裏をよぎる。
守(申告敬遠……)
拳が、ほんのわずかに震えた。
審判「礼!」
両校が一斉に頭を下げる。
ここから先は、もう逃げられない。
名門の執念と、無垢な全力。
そして——誰も知らない不正の影が、静かにグラウンドに落ちていた。
―― 能力データ ――
猪狩進(捕手)
【ミート】5C
【パワー】65E
【走力】12B
【肩力】12B
【守備】12B
【特殊能力】アベレージヒッター
猪狩守(投手)
【球速】150km/h
【コントロール】170B
【スタミナ】120B
【変化球】スライダー4/カーブ4/フォーク3
【投手特殊能力】安定度4/ピンチ4/リリース○/尻上がり