恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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2年生 秋②

~秋大会当日~

 

グラウンドに、張りつめた空気が流れていた。

 

パワプロはマスクを手に取り、ゆっくり深呼吸する。

視線の先のマウンドを見つめるあおい。

そのさらに先に、秋大会の看板が見えた。

 

あおい「不思議……負ける気、しないね」

 

パワプロ「うん。俺たち、ちゃんと準備してきた」

 

そのとき、横から静かな声がかかる。

 

はるか「はい。今回、本当に完璧な仕上がりだと思います」

手帳を胸に抱えたまま、はるかは穏やかに微笑んだ。

はるか「大丈夫です。今日の恋恋高校は……負けません」

 

あおいは一度だけ振り返り、力強くうなずく。

あおい「じゃあ、行こうか」

 

パワプロ「行こう。——初戦から、全力で!」

 

部員たち「おおー!」

 

その一言で、全員のスイッチが入った。

 

スタンドの声援が、朝の空気を震わせる。

恋恋高校の初戦。相手は中堅校——油断はできない。

 

スタメン

1番:センター 矢部

3番:投手   あおい

4番:捕手   パワプロ

 

パワプロ(あおいちゃんのマリンボール……)

パワプロ(公式戦では初のお披露目だ)

 

《パワプロのキャッチャー◎ 発動》

 

審判「プレイ!」

 

~一回表 相手校の攻撃~

 

あおい「……いくよ」

 

アンダースローから放たれた白球は、打者の手元でふっと消えて——

パシャア。

 

打者「……っ!?」

マリンボールに手を出せない打者。

 

パワプロの捕球は静かで、無駄がない。

ミットの音だけが響き、ボールはそこに最初からあったように収まる。

 

審判「ストライク!」

 

あおい(今の……ボール気味だったのに……)

 

フレーミング、ブロッキング、テンポ、そして配球の組み立て。

キャッチャー◎が、あおいの球をもう一段強い球に見せる。

 

パワプロ(もう一回。同じコースに見せて、落とす)

あおい「……うん」

 

2球目3球目としっかりと配球し、三振。

 

あおいは淡々としているのに、球だけが派手に暴れる。

相手打線の目が、少しずつ曇っていく。

 

 

~一回裏 恋恋の攻撃~

 

先頭打者、矢部。

 

矢部(オイラの使命は出塁でやんす!)

 

カット、カット、ファウルで粘る。

最後は甘い球を引っかけて内野ゴロ——

 

矢部「しまったでやんす!」

 

だが矢部の脚が生きる。

一塁へ全力疾走、そして——

 

ヘッドスライディング。

砂が舞う。

 

審判「セーフ!」

 

矢部「セーフでやんす!」

 

あおい「やるじゃん、矢部くん!」

 

はるか「足で一つ、良い流れができそうですね」

 

矢部は二盗も決める。

三番あおいが右前打でつなぎ、ランナー一・三塁。

 

四番、パワプロ。

 

パワプロ(先制点。まずは手堅く一本)

 

相手は外へ逃げる。

だが、パワプロが右中間にライナー性の強いあたり。

恋恋高校、先制。1-0。

 

矢部「生還でやんすーー!!」

 

二回、三回、四回——。

相手は何とか当てようとするが、芯に当たらない。

 

マリンボールとシンカーは全く異なる球だが見極めが難しい。

そして、その見せ方を作っているのがパワプロだ。

 

パワプロ(次はシンカーを見せる。からの——マリン)

あおい(了解!)

 

空振り。詰まったフライ。ゴロ。

点を与えないだけじゃない。相手の気力まで削れていく。

 

その裏、恋恋高校はじわじわと追加点を重ねる。

五回にはランナー一塁で、パワプロが——

 

カキィン!

高々と打ち上がった打球が、左中間スタンドへ一直線。

 

パワプロ「よし!」

 

ツーランホームラン。

恋恋ベンチが爆発する。

 

矢部「出たああ!四番の破壊力でやんす!!」

あおい「さすが!」

 

スコアは4-0。

 

六回が終わった時点でも、あおいは無失点。

ただし球数は増えていた。打者が見逃しを増やし、粘り始めている。

 

あおい「ボクすごく調子いいんだ!まだいけるよ!」

 

パワプロはマスク越しに、目だけで笑う。

 

パワプロ「気持ちはわかる。でも次の試合もある。交代だよ、あおいちゃん」

 

あおい「……っ」

 

悔しさが一瞬だけ顔を出す。

それでも、次の瞬間には拳を握り直してうなずいた。

 

あおい「わかった……任せるよ、パワプロくん」

 

パワプロ「うん。任せて」

 

七回 パワプロ登板、あおい捕手へ

 

マウンドに立つパワプロ。

そして、マスクをつけてしゃがみ込むのは——あおいだった。

 

観客席がざわめく。

 

「女子がキャッチャー!?」

「さっきまでピッチャーだったのに!?」

 

矢部「出た……パワプロくんとあおいちゃんのバッテリーでやんす……!」

 

パワプロ(前の大会じゃ、取れなかった球……今のあおいちゃんなら)

 

あおい(……取ってみせる。ボクが)

 

初球、155km/h。

バンッ!

 

打者は手を出せず、驚いた表情をみせる。

グラウンドには今日1番の驚きの声が漏れた。

 

あおいのミットが鋭く鳴る。

捕球の衝撃に、腕が痺れるはずなのに——あおいのフォームは崩れない。

 

あおい「ナイスボール!」

 

パワプロ「次、いくよ」

 

あおい「任せて!」

 

二球目。高速スライダー。

ギュンッ——!

 

打者「うわっ……!」

鋭く曲がって外へ逃げる。

そして——

 

パシィッ!!

 

あおいが一歩も動かず、ど真ん中で収めた。

あおい(取れた……!)

 

パワプロ(よし。なら——次はSFFだ)

 

あおい(……来い)

 

三球目、SFF。

一瞬、浮いたように見えて——ストン、と落ちる。

 

打者「……っ!」

 

空振り。

 

そしてワンバウンドしたボールがミットへ——

 

ドスッ。

 

今度は手のひらで押し込むように止めた。

前回大会では取れなかった球。

でも今は違う。合宿で、何度も何度も止めた。

 

あおい(……ばっちり)

 

パワプロ(最高だよ、あおいちゃん!)

 

三者凡退。

流れは完全に恋恋高校だった。

 

 

~八回裏 恋恋の攻撃~

 

ランナー二塁。

相手投手は疲れている。ここで一発が出れば、試合は終わる。

 

四番、パワプロ。

パワプロ(迷うな。来た球を、全部振り抜く)

 

初球、甘い。

カキィン!!

 

打球は右翼スタンドへ一直線。

 

ツーランホームラン。

これでパワプロはこの試合2本目。

 

スコアは 6-0。

 

 

~九回 敵校の攻撃~

 

最後の打者。

あおいがサインを出す。チェンジアップ。

 

パワプロ(了解)

 

投げる。

打者のタイミングがずれる。

 

ボテボテのゴロ。セカンドが捌いて——

 

一塁、アウト。

 

審判「ゲームセット!」

 

恋恋高校、初戦を 6-0 で勝利。

 

 

~勝利後の恋恋ベンチ~

 

あおいはベンチ前で息を整え、帽子のつばを押さえた。

あおい「……無失点リレー。できたね!」

 

パワプロ「最高だったよ、あおいちゃん!六回までゼロ。マリンボールも完璧だった」

 

あおい「……うん!」

 

あおいは一瞬だけ、照れ隠しみたいにそっぽを向く。

でも口元は、隠しきれていなかった。

 

矢部「オイラ一番の役目、果たしたでやんすよね!?」

 

パワプロ「うん。出塁と盗塁、完璧。ヘッスラもね」

 

矢部「モテるでやんすか!?」

 

あおい「うん!矢部くんもこれならモテるよ!」

 

矢部「あおいちゃんにモテると言われたでやんす!?」

矢部「こ、これはこれで怖いでやんす!」

 

あおい「……殴る?」ギロリ

 

矢部「もはやホッとするでやんす……」

矢部「これが安定の怖さでやんす……」

 

はるかはスコアブックを閉じ、静かに言った。

はるか「初戦を無失点で取れたのは大きいです。特に……投手交代の回も守備が崩れませんでした」

はるか「次は相手も強くなります。……今日以上に準備しましょう」

 

パワプロ「うん。次も勝つ!」

 

あおい「もちろん!」

 

秋大会は、まだ始まったばかりだった。

 

 

―― 能力データ ――

矢部明雄

【ミート】4D

【パワー】80D

【走力】12B

【肩力】8D

【守備】8D

【特殊能力】ヘッドスライディング

 

パワプロ野手能力

【ミート】13B

【パワー】160A

【走力】14B

【肩力】15A

【守備】15A

【特殊能力】青特多数

 

パワプロ投手能力

【球速】157km/h

【コントロール】190A

【スタミナ】130B

【変化球】高速スライダー6/チェンジアップ4/SFF4

【投手特殊能力】青得多数

 

早川あおい

【球速】136km/h

【コントロール】160B

【スタミナ】85D

【変化球】カーブ2/シンカー3/マリンボール5

 

 

~秋大会・勝ち上がり~

 

初戦を無失点で抜けた恋恋高校は、そのまま勢いに乗った。

 

あおいのマリンボールが相手打線のリズムを崩し、パワプロの配球がさらに打者を惑わす。

打つべき場面でパワプロが打ち、矢部が足でかき回し、投手と捕手交代で締める。

 

気づけば——

恋恋高校は準々決勝まで勝ち上がっていた

 

 

~準々決勝前日の恋恋高校~

 

矢部「ど、どきどきしてきたでやんす……!」

矢部「いよいよでやんすね……次はあかつきでやんす……!」

 

はるか「……皆さんなら、きっと勝てます」

はるか「ここまで来たのは、偶然じゃありません」

 

あおい「うん」

あおいは一度、深く息を吸ってから言った。

あおい「名門あかつきに勝てたら、春の甲子園の可能性が一気に高まる」

 

パワプロ「だね」

パワプロはグラブを握り、前を見る。

パワプロ「やろう」

パワプロ「倒そう。あかつきを」

 

四人の拳が、自然と重なった。

 

トン。

 

その音は、はっきりとした決意の音だった。

 

 

~準々決勝前日のあかつき大付属高校~

 

あかつき大付属高校。

甲子園の圧倒的な常連高で、前回は甲子園準優勝。名門と呼ばれる重みがある。

 

その中心にいるのが——

主将である猪狩守。

 

ブルペンで投げ込みながら、守は静かに笑った。

守(ついに……本気のパワプロとやれる)

 

胸の奥が熱くなる。

ただ勝つだけじゃない。あの相手と、真正面から戦って勝つ。それが自分の価値だ。

 

——しかし。

ベンチの外、部員たちの会話が守の耳に入った。

 

「黄金世代って言われた三年が抜けて、もうきついよなー」

「もう猪狩守以外は注目されるほどの選手いないし、弟の進もまだ一年だし」

「しかも恋恋高校の投手、まじですごいらしいよ」

「パワプロっていう155km以上なげる化け物と、女子なのにとんでもない変化球投げるやつがいるって」

「まじで? うち、負けるんじゃない?」

 

守の指が、ボールを握り直す。

守(くそ……僕が、しっかりしなければ。絶対に勝つんだ)

 

燃える闘志の奥に、責任が重くのしかかった。

 

 

~あかつきミーティングルーム~

 

猪狩兄弟の背後から、低い声が落ちた。

監督「猪狩守。猪狩進。ちょっといいか」

 

守「……はい!」

進「は、はい!」

 

監督は二人をまっすぐ見て言った。

監督「次の恋恋高校との試合。わかっているな?」

 

守「……はい。僕が絶対に抑えて、そして絶対に打ってみせます」

 

進「はい! 僕もリードをがんばります!」

 

監督「違う」

監督「猪狩守……お前はそれでも常勝あかつきの主将か?」

 

空気が冷える。

 

監督「敵高主将のパワプロは、全打席——申告敬遠だ」

 

守「……なっ……!」

守の目が大きく見開かれた。

守「……いえ! 勝負させてください! 僕なら抑えられます!」

 

監督「猪狩守。パワプロ相手はお前でも難しい」

監督は短く切った。

監督「パワプロはここまで、平均して一試合二本塁打。接戦になった場合、被弾は致命傷になる」

 

守「しかし!スポーツマンシップが求められる高校野球で申告敬遠連発なんて……!」

 

監督「甲子園常連校であり春夏連続10回出場中。そして前回甲子園準優勝の我々が、一番やってはいけないことが何かわかるか?」

 

守「……」

 

監督「甲子園にすら出られないことだ。敬遠も地方大会の準々決勝なら、まだ注目は少ない」

監督「万が一でも負けないことが、最優先だ」

 

守「くっ……」

 

監督「返事をしろ、猪狩守」

 

守は唇を噛んだ。

胸の中で、何かが軋む音がした。

 

守「……はい」

 

監督「猪狩進。お前もわかっているな?」

進は一瞬、兄の顔を見た。

それから視線を落として答える。

 

進「……わ、わかりました」

 

守(勝つために……ここまで、やるのか)

それでも守は、あかつき主将としての責任感から飲み込むしかなかった。

 

 

~さらに別のミーティングルームにて~

 

監督「——わかったな? お前に任せたぞ」

 

選手A「わかりました」

その選手Aは、淡々とうなずいた。

 

 

~準々決勝当日 恋恋高校ベンチ~

 

恋恋高校のベンチは落ち着いていた。緊張はある。

でも、それをいつもの準備で押さえ込んでいる。

 

パワプロはベンチでグラブの紐を結び直していた。

そこへ、ふいに声がかかる。

 

変装選手A「すみません。部長はこちらに。改めてスタメンと背番号チェックをします」

 

パワプロ「あ、わかりました!」

 

疑いもなく立ち上がる。

明るい声のまま、ついていった。

 

変装選手A「では確認していきますね……」

 

名簿を確認するふりをして、淡々とやり取りが続く。

そして、終わり際。

 

変装選手A「以上です。大会も終盤なので繰り返しの確認となり、失礼しました」

 

パワプロ「いえいえ! 大事ですもんね!」

 

変装選手A「あれ……? 失礼。首元に虫がいますので、取りますね」

 

パワプロ「そうでしたか。ありがとうございます!」

 

指先が、ユニフォームの内側に触れる。

一瞬だけ、ひやりとした感覚。

 

パワプロ「……?」

 

変装選手A「取れました。では、失礼します」

 

そう言って男は去っていった。

 

パワプロ(決勝だ。集中集中)

 

 

~恋恋高校ベンチ~

 

はるかはスコアブックを開き直し、いつも通りの字で確認を重ねていた。

決勝だからこそ、丁寧に。普段通りに。

 

矢部は落ち着かない様子で、笑ってごまかす。

矢部「甲子園まであと少しでやんす……胃がキリキリするでやんす……!」

 

パワプロはあおいの顔を見てから、少しだけ言いにくそうに口を開いた。

パワプロ「……あおいちゃん」

パワプロ「あかつき戦は俺が先発するって、わがまま言ってごめん」

 

あおいは一瞬きょとんとして、それから肩をすくめた。

あおい「それについては、文句なんてないし……妥当だと思うって言ったでしょ」

あおい「ボクはボクで、捕手で支える。そしてリリーフもできるように備える。勝つためにそれが一番だよ」

 

パワプロ「……ありがとう」

パワプロは少しだけ笑って、いつもの真剣な目に戻る。

パワプロ「じゃあ最後に、もう一回サインだけ確認しようか」

 

 

~あかつき側ベンチ~

 

監督「猪狩守と猪狩進以外のスタメンは集まったな」

 

部員たち「はい!」

 

監督「——恋恋高校のサインは掴んだ。ベンチから合図を送る。覚えろ」

 

部員「え……それって……」

 

監督「我々は常勝あかつきだ。文句あるやつは?」

 

部員「……いえ……!」

 

監督「それから猪狩兄弟には言うな。あいつらは面倒だからな」

 

守と進だけが知らないまま、ベンチの空気が固まっていく。

 

 

~試合開始、整列~

 

グラウンドに両校が並ぶ。

大会終盤の独特の静けさ。歓声すら、息を潜める。

 

あかつきの先頭に立つのは、猪狩守。

恋恋高校の先頭に立つのは、パワプロ。

 

守の視線が、まっすぐパワプロを射抜く。

守(やっとだ……)

 

だが同時に、監督の命令が脳裏をよぎる。

守(申告敬遠……)

拳が、ほんのわずかに震えた。

 

審判「礼!」

 

両校が一斉に頭を下げる。

ここから先は、もう逃げられない。

 

名門の執念と、無垢な全力。

そして——誰も知らない不正の影が、静かにグラウンドに落ちていた。

 

 

―― 能力データ ――

 

猪狩進(捕手)

【ミート】5C

【パワー】65E

【走力】12B

【肩力】12B

【守備】12B

【特殊能力】アベレージヒッター

 

猪狩守(投手)

【球速】150km/h

【コントロール】170B

【スタミナ】120B

【変化球】スライダー4/カーブ4/フォーク3

【投手特殊能力】安定度4/ピンチ4/リリース○/尻上がり

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