恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
~1回表 恋恋高校の攻撃~
グラウンドに張りつめた空気の中、恋恋高校は先攻。
マウンドには猪狩守。ミットを構えるのは猪狩進。
守は静かに息を吐いた。
先頭、矢部。
矢部(どきどきしてきたでやんす……! でも、ここで出塁するのが一番でやんす!)
——が。
猪狩守の球は、想像以上だった。
ズバンッ!
進のミットが、乾いた音で鳴る。
矢部のバットは差し込まれ、浅いフライ。
矢部「うそでやんす……球が、想像以上に速くて重いでやんす……!」
続く打者も、圧に押される。
そして三番、あおい。
あおい(やるしかない……)
だが、守の表情は崩れない。
ストライク先行、緩急、そして決め球。
三者凡退。
ベンチに戻る矢部は、思わず汗をぬぐった。
矢部「……初回から、えげつない迫力でやんす……!」
あおい「……っ、さすがだね」
ネクストのパワプロは無言でうなずき、素早くグラブを手にしてマウンドへ向かった。
~1回裏 あかつきの攻撃~
マウンドに立つパワプロ。
《パワプロの威圧感 発動》
立っているだけで圧がある。
そして捕手は——あおい。
女の子がマスクをかぶっていることに、スタンドがざわつく。
1番 猪狩進
進は打席に入った瞬間、パワプロの威圧感から、背筋が冷えるのを感じた。
さらに初球、155km/h。
バンッ!!
ミットが鳴った瞬間、進の目が一瞬遅れる。
進「……っ!」
進(速い……いや、速いだけじゃない。ノビとキレがすごい)
二球目、高速スライダー。
鋭く逃げて、バットが空を切る。
三球目、ストレート。
——空振り三振。
進はヘルメットのつばを押さえ、ベンチへ戻りながらつぶやいた。
進「すごい……」
進「打てるイメージが、全然わかない……」
守は唇を引き結んだ。
守(……これが、本気をだした今のパワプロか……)
2番打者
二番打者は、妙に落ち着いていた。
普通なら振ってしまう釣り球に、反応しない。
パワプロ(……え? 今の振らない?)
高速スライダーも、SFFも——手を出さない。
ストレートと、ジャイロ気味に伸びる球だけをファールで粘る。
そして最後にSFFをストライクゾーンぎりぎりへ。
ストン。
二番打者は、見逃し三振。
審判「ストライク! バッターアウト!」
パワプロ(……ふぅ、おもったより粘られたな……)
3番打者
三番も、似ていた。
SFFは見送る。
高速スライダーは見送る。
釣り球にも、反応しない。
~〜〜〜〜あかつきの作戦〜〜〜〜~
あかつき監督
「お前たちはパワプロ対策として速球とチェンジアップの練習を散々してきたはずだ。
そして、やつの高速スライダーとSFFのキレは異常。
ストレートとチェンジアップだけを狙っていけ。いいな。」
~~~~~~~~~~~~~~~~
パワプロ(……球の見極めがすごい)
そして——ストレートを叩かれる。
カキン!
打球は鋭く一二塁間を抜け、一塁へ。
パワプロ(ストレートだけ……狙い撃ち?)
あおい(パワプロくんの球をいきなりミートできるなんて……やっぱりあかつき上位打線はすごい……)
捕手のあおいは、嫌な汗が、背中に走った。
4番 猪狩守
一塁に走者。
そして打席に入る猪狩守。
守はバットを握り直し、目を細めた。
守(僕が打てば、敬遠がなくなる可能性もある……)
ここで打てば、ベンチも落ち着く。
ここで打てば、常勝あかつきとしてのプライドを維持できる。
パワプロは静かに構える。
サインは——ストレート。
ビュンッ!
守は渾身で振る。
しかし、球は想像以上に伸びていた。
空振り。
守(くそっ……!)
二球目、高速スライダー。
守は食らいつくが、わずかに届かない。
追い込まれた。
あおいは迷わずサインを出す。
パワプロがうなずく。
——三球目。SFF。
ストン。
守のバットは空を切った。
審判「ストライク! バッターアウト!」
三振。
守はバットを強く握りしめたまま、歯を食いしばる。
パワプロ(よしっ!)
あおい(でも……警戒していた猪狩兄弟より、二番と三番に粘られたのなんでだろう……)
でも、二人はまだ——
サインがばれているなんて、思いもしなかった。
~2回表 恋恋高校の攻撃~
四番、パワプロ。
ゆっくりとバッターボックスへ向かう。
パワプロ(楽しみだよ猪狩……!今度こそ絶対に打つ……!)
——その途中で、信じられない言葉が耳に入った。
審判「申告敬遠」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
まだ二回。
ノーアウト、ランナーなし。
ざわっ——
スタンドが遅れて反応する。
「え……?」
「今、敬遠って言った?」
「まだ二回ノーアウトだぞ……?」
どよめきが、はっきりと広がっていく。
パワプロ(……え?)
恋恋のベンチも騒がしくなる。
矢部「えっ……!?に、2回ノーアウトで敬遠でやんすか!?」
あおい「……早すぎるでしょ……」
はるかは一瞬言葉を失い、スコアブックの同じ行を二度見した。
はるか「……ここで、申告敬遠……?」
スタンドのざわめきは止まらない。
「まさかこの先もパワプロに一球も投げないのか……?」
「みたかったのに……」
「高校野球でここまで露骨に……?」
パワプロは、ゆっくり一塁へ歩く。
その途中で、マウンドの猪狩守と目が合った。
守は悔しそうに唇を噛み、視線を逸らさない。
守(……違う。これは僕の野球じゃない)
その表情を見て、パワプロは察した。
これは守の選択じゃない。
パワプロ(……チームの作戦、か)
パワプロは小さく息を吐き、切り替える。
パワプロ(仕方ない)
パワプロ(なら……足でいく!)
一塁ベースに立ち、リードを取る。
守がクイックをする——次の瞬間。
《パワプロの盗塁◎ 発動》
スタート。
進「来る……!」
猪狩進の送球は速い。鋭い。
だが——
スライディング。
審判「セーフ!」
進「……そんな……!」
進は思わず声を漏らした。
進「速い……いや、それだけじゃない……」
進「スタートとスライディングがうますぎる……!」
守「……くっ」
二塁上のパワプロは、砂を払って立ち上がる。
——そして、
一度バッターボックスから外した五番打者が、再度バッターボックスに入ろうとした、その時に。
内野が一斉に前に出た。
あからさまな——バントシフト。
パワプロ(……え?)
パワプロの目が細くなる。
パワプロ(バントだけを警戒?)
~〜〜〜〜あかつきの作戦〜〜〜〜~
あかつき監督
「いいか。パワプロは走塁技術も異常だ。塁に出た時点で、二盗はまず止められない」
「だが後続打者の打力は低い。バントはうまいようだが、それさえさせなければ、ほぼ抑えられる」
~~~~~~~~~~~~
パワプロ(……そこまで、徹底するか)
守は迷いを振り切るように、全力で腕を振る。
五番打者——三振。
そのまま、バントシフトは解除されない。
六番打者——また三振。
七番ツーアウトの場面でようやく守備が戻る。
打たせて、ゴロ。
審判「チェンジ!」
徹底した——パワプロ対策だった。
パワプロはベンチへ戻る。
そしてその異様なほどの的確さが、
パワプロの胸に、小さく引っかかり続けていた。
~2回裏 あかつき大付属高校の攻撃~
SFF。
——振らない。
パワプロ(……また、だ)
高速スライダー。
——やっぱり、振らない。
あおい(……今のは、普通なら釣れたはず)
だが、打者は腰を落としたまま、微動だにしない。
代わりに狙われるのは——
ストレート。
ジャイロ気味に伸びる球。
そして、チェンジアップ。
狙いははっきりしている。
パワプロ(変化の鋭い球は完全に切ってる……?)
それでも力でねじ伏せた。
五番は空振り三振。
六番はファウルで粘った末に三振。
七番は詰まらせて内野フライ。
——三者凡退。
球威、伸び、キレ。
それだけで抑え込んだ回だった。
ベンチへ戻る途中、あおいが小さくつぶやく。
あおい「……結構粘られるし、すごい選球してくるね……」
パワプロ「……うん」
二人とも、言葉の続きを飲み込んだ。
打たれなかったのに、気持ちよく抑えた感じが、欠けている。
説明できない、違和感。
~3回表 恋恋高校の攻撃~
八番、九番、そして一番・矢部。
マウンド上の猪狩守は、表情ひとつ変えない。
ただ、全力で腕を振る。
ズドン。
八番、九番はタイミングを外され、差し込まれ、何もさせてもらえない。
1番矢部もバットが、空を切っていた
矢部「……っ!」
二球目。
さらに伸びる。
三球目。
もう一段、キレる。
——三振。
三者凡退。
ベンチへ戻りながら、矢部は悔しそうに言う。
矢部「……やっぱり、パワプロくんじゃないと……」
矢部「この球を打つのは、厳しすぎるでやんす……」
あおいはグラブを握り直し、前を見る。
あおい「……だからこそ守備でしょ。打たせないようにしないと」
3回裏 あかつき大付属高校の攻撃
八番、九番。
下位打線のはずなのに、打席の空気が妙に落ち着いている。
パワプロ(……また、同じ反応)
ストレート。
ジャイロ気味に伸びる球。
チェンジアップ。
その三つにだけ、目が反応する。
一方で——
高速スライダーやSFFの釣り球には、バットがまったく出ない。
あおい(……普通、今の高さは反射で振っちゃうでしょ……)
だが、振らない。揺れない。迷いもしない。
それでも——この回はパワプロの球威が上回った。
八番、三振。
九番、三振。
そして一番、猪狩進。
進(……せめて、ストレートだけでも……!)
どうにか合わせて、打球を内野へ運ぶ。
だが——重い。
球に押されて詰まり、打球は高く舞う。
内野フライ。
審判「チェンジ!」
~4回表 恋恋高校の攻撃~
二番、三番あおいも、倒れる。
猪狩守の球が重い。前に飛ばしても押し込まれる。
そして、二死走者なし。
四番、パワプロがバッターボックスへ向かう。
——次の瞬間。
審判「申告敬遠!」
スタンドが再びどよめいた。
「また!?」
「走者なしで!?」
「そこまで避けるのかよ!」
恋恋高校ベンチもざわつく。
矢部「えええ!? ここでも敬遠でやんすか!?」
あおい「ひどい……!」
はるか「……徹底しています」
パワプロは一塁へ歩きながら、マウンドを見る。
猪狩守と目が合う。
守は悔しさを隠さず、拳を握りしめていた。
守(……くそ……)
パワプロ(……やっぱり、猪狩の意思じゃない)
切り替える。
今は、できることをするだけだ。
パワプロ(走る)
《パワプロの盗塁◎ 発動》
スタート。
進「——来た!」
強肩からの送球。
だが間に合わない。
審判「セーフ!」
進「……くっ……!」
進の目が揺れる。
進(やっぱり足が速いだけじゃない)
進(盗塁技術が異常にうまい……)
二塁上のパワプロが前を見る。
——しかし。
五番が続かない。
パワプロ(……くそ……!)
結局、この回も得点ならず。
ここまで恋恋高校は——ノーヒット。
矢部がベンチでぼそっと言う。
矢部「……詰んでる感じがあるでやんす……」
重い沈黙が落ちた。
それでも、パワプロは顔を上げる。
パワプロ「……まだ、0-0だ」
パワプロ「守り切って、どこかで一回。そこだけ取ろう」
あおい「……うん」
はるか「はい。みなさん、頑張りましょう!」
だが、その勝ち筋のすぐ横に——
説明できない違和感が、少しずつ影を落とし始めていた。
~4回裏 あかつき高校の攻撃~
2番 変わらず高速スライダーとSFFは捨てており、今回はジャイロボールを狙い撃ち。
それでも球威で詰まらせるものの、金属バットということもありポテンヒットに。
3番 チェンジアップを右中間に運ばれる。ノーアウトランナー1塁3塁。
そして4番猪狩守を迎える。
パワプロ(おかしい……まるで球種がわかってるかのように……)
パワプロ(俺のリリースのくせや何かを見抜いているのか……?)
パワプロはタイムをとった。
パワプロ「あおいちゃん。球種が漏れているような違和感があるんだけど…」
パワプロ「ひょっとして、俺のリリースに癖か何かがあるのかな?」
あおい「いや……パワプロくんのリリースは完璧だよ。何万回と見て来たボクがみても見分けがつかないくらい」
パワプロ「そっか……」
パワプロ「……うん」
パワプロ「あおいちゃんありがとう。ここ、乗り切ろう!」
あおい「うん……!」
打席は猪狩守。
猪狩守にはしっりと高速スライダーやSFFも効果的で三振にとる。
守「くそっ!!!」
珍しく悔しさを露わにする猪狩守。
パワプロ(猪狩には効果的。喜憂かな……)
しかし続く4番。
初球、SFF。
——振らない。
二球目、高速スライダー。
——振らない。
完全に、同じ反応。
あおいのサイン。
——ジャイロボール。
パワプロは息を吐く。
力を込めて投げ込む。
ズドンッ!!
低めいっぱい。
打者は振った。
——カキン!
詰まったあたりなのに、金属バットがボールを内野と外野の間に落ち、ポテンヒットとなる。
センターの矢部が捕球するも……
すでに3塁ランナーはホームイン。
あかつき監督(2巡目にしてようやく少しは当たるようになったか……)
あかつき監督(恋恋は守備も大したことはない)
あかつき監督(球威があっても金属バットなら、当たればポテンヒットにもなりやすい——)
再びタイムを取るパワプロ。
あおい「ご、ごめん。ボクのリードが読まれやすいのかな…?」
パワプロ「いや……あそこまで完璧に読むのは違和感があるよ。迷いがない……」
パワプロ「急だけど、サインを変えよう」
あおい「え、いま!?」
パワプロ「うん。ひょっとしたら何かしらの方法で盗まれているかもしれない」
あおい「う、うん。わかったよ」
〜あかつきベンチ〜
あかつき監督「何を言っているか掴めているか?」
選手A「はい。しっかりと聞こえています」
あかつき監督「よし。聞こえたことはしっかりと記録に残せ」
〜プレイ再開〜
パワプロはロジンバッグを握り直した。
一塁三塁。ワンアウト。
打席には、あかつき6番打者。
あおいはサインを出す。
——SFF。
パワプロはうなずき、振りかぶる。
ビュンッ!
落ちる。完璧な軌道。
——だが。
打者は、ピクリとも動かない。
パワプロ(……まただ)
完全なボールならまだしも、ストライクゾーンをかすめる絶妙な高さ。
普通なら反応してしまう球。
それでも——振らない。
パワプロ(まるで……球種を知っているみたいに)
あおいは次のサインを出す。
高速スライダー。
パワプロの腕が振り抜かれる。
キュンッ!
鋭く曲がる。
それでも——打者は動かない。
パワプロ(……確信してる)
迷いがない。
「振る」「振らない」の判断が速すぎる。
そして。
サインは——もう一度、高速スライダー。
パワプロ(決める)
リリースの瞬間。
《パワプロのキレ○/奪三振 発動》
ボールは糸を引くように、低めいっぱいへ滑り込む。
ズバンッ!
審判「ストライク! バッターアウト!」
見逃し三振。
打者は動かなかった。
パワプロ(……よし)
しかし、その胸の奥の違和感は、消えない。
続く7番打者。
不運は続く
——カキン!
またもやストレートを詰まらせるが、内野と外野の間に落ちてポテンヒット。
さらに恋恋守備の連係が乱れて、その間にランナーがホームへ。
0-2あかつきに追加点。
1塁3塁ツーアウト。
あかつき監督(2巡目にしてようやく少しは当たるようになったか。恋恋は守備も大したことはない)
あかつき監督(球威があっても金属バットなら、当たればポテンヒットにもなりやすい)
続く8番
ストレートを狙われるも、パワプロの球威に押されてセカンド前のゴロ。
捕球、一塁へ。
審判「アウト!」
チェンジ。
~恋恋高校ベンチ~
矢部はセンターから戻ってくると、グラブをベンチに置き、悔しそうに俯いた。
矢部「……今の猪狩守相手に2点ビハインドは……もう厳しいでやんす……」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
あおいも、マスクを外したまま座っている。
あおい「リードが悪かったのかな……」
詰まらせたはずの打球。
それでも、点は入った。
小さな声。
はるかは、すぐに首を振った。
はるか「今のは、誰のせいでもありません」
それでも、重苦しい空気は消えない。
相手は——猪狩守。
簡単に点を取れる相手ではない。
この2点が、どれだけ重いか。
全員が理解していた。
その時。
パワプロが、ゆっくりと立ち上がった。
パワプロ「……まだだよ」
あおい「パワプロくん……」
パワプロは、まっすぐ前を見ていた。
その目に、迷いはない。
パワプロ「たった2点だ」
パワプロ「野球は、最後のアウトを取るまで終わらない」
その声には、力があった。
パワプロ「俺とあおいちゃんのバッテリーで、これ以上点をやらない」
パワプロ「だから……絶対に、追いつこう」
静かな言葉。
だが——その一言で、空気が変わった。
《パワプロの闘志/ムード○ 発動》
見えない何かが、ベンチに広がる。
矢部の眼鏡に、再び光が戻る。
矢部「……そうでやんすね」
矢部は拳を握った。
矢部「まだ2点でやんす!」
あおいも、立ち上がる。
あおい「……うん」
あおい「ボクたちは、ここまで何度も逆境を乗り越えてきた」
はるかも、静かに頷いた。
はるか「はい。まだ、終わっていません」
パワプロは一度だけ、強く手を打ち鳴らした。
パワプロ「行こう」
パワプロ「ここからだ」
2点ビハインド。
それでも、恋恋高校の闘志はまだ燃えていた。