恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
~5回表 恋恋高校の攻撃~
恋恋の気合の入った攻撃に入る。
先頭6番 意地の粘りで四球。
しかしーー
恋恋の打線は若い。勢いはあっても、場数も練習の絶対量も足りない。
心の熱量だけなら負けていなかった。むしろ勝っていたかもしれない。
だが猪狩守は、反復で固めた基礎と積み上げた練習量で、迷いなく打者をねじ伏せる。
同じグラウンドに立っているはずなのに、見ている景色が違った。
7番 内野フライ。
8番 セカンドゴロ。
9番 ファーストゴロ。
四球でチャンスを作り、後続も意地でバットに当てるものの、あかつきの守備によりチャンスは、活かせない。
〜恋恋ベンチ〜
恋恋の攻撃が終わる少し前。
ベンチのパワプロは静かに言った。
パワプロ「……あおいちゃん」
あおい「うん」
パワプロ「やっぱり、高速スライダーとSFFをあれだけ振らないのは異常だよ」
パワプロ「ストレートやチェンジアップを狙い打ちできているのもおかしい」
あおいは、ゆっくりとうなずいた。
あおい「……うん」
沈黙。
パワプロは決断した。
パワプロ「ピッチャー交代してみよう」
あおい「……え?」
パワプロ「俺がキャッチャーをするよ」
あおい「……ボクで抑えられるかな」
パワプロは、まっすぐ見た。
パワプロ「あおいちゃんなら大丈夫」
そして、少しだけ笑って続けた。
パワプロ「それに……自信あるんじゃない?」
あおいの胸が、ドクンと鳴る。
あおい「……うん」
あおいはグラブを握りしめた。
あおい「正直、試してみたい」
あおい「マリンボールが……あかつきに通用するか」
パワプロはマスクを手に取って笑った。
パワプロ「やろう」
~5回裏 あかつきの攻撃~
マウンドに立つ——早川あおい。
スタンドがざわつく。
「さっきまでキャッチャーだった女子が投げるのか……?」
パワプロはミットを構えた。
パワプロ(大丈夫。あおいちゃんの球は、一級品だ)
9番打者。
初球—マリンボール。
パシャア!
——沈む。
打者は、動かない。
パワプロ(……無反応?)
二球目、シンカー。
——振らない。
三球目、ストレート。
空振り。
四球目、マリンボール。
見逃し三振。
審判「ストライク! バッターアウト!」
あおい「……よし!」
しかし——
1番・猪狩進。
進は静かに打席へ入る。
兄とは違う、柔らかい空気。しかし芯の強さがある。
初球。あおいのマリンボール。
空振り。
進(掠りもしなかった…)
進(恋恋はパワプロさんだけじゃない……この人もすごい球を投げる……)
2球目あおいのシンカー
僅かに高めに入るが、スッと沈む。
だか、進の目は、最後まで追っていた。
進(さっきと似た軌道だけど……やや甘く入ってる……!)
《猪狩進のアベレージヒッター 発動》
カキン!
打球は綺麗にセンター前へ。
審判「セーフ!」
進「……よしっ」
あおい「……っ!」
続く二番打者。
初球マリンボール。
——振らない。
二球目、シンカー。
——振らない。
三球目、カーブ。
——空振り。
四球目、ストレート。
カキン!
クリーンヒット。
パワプロ(……シンカーとマリンボールは捨ててる?)
パワプロ(……それにしても見極めがうますぎる)
三番打者。
カーブを打つがセカンドにゴロとなる。
恋恋高校が何度も練習してきた4-6-3の併殺にとる。
審判「ダブルプレー!スリーアウト! 」
恋恋ベンチ「おおおおお!!」
盛り上がるベンチ。
あおいは、拳を握った。
しかし。
パワプロの目は——鋭かった。
パワプロ(やっぱりだ)
パワプロ(ストレートとカーブを完全に選んでる)
~6回表 恋恋高校の攻撃~
先頭、矢部。
矢部「のっている今のタイミングに、どうにか打つでやんす!」
粘る。
ファウル。
ファウル。
ファウル。
そして——四球。
矢部「よしっでやんす!」
ガッツポーズ。
恋恋ベンチが沸く。
しかし。
二番 三振。
そして三番、あおい。
あおい「……!」
振り抜く。
カキン!
だが——弱い。
ショートゴロ。
そしてセカンドからファーストへ綺麗に送られる。
審判「アウト! ダブルプレー!」
チェンジ。
恋恋ベンチの空気が止まる。
矢部「……やり返されたでやんす……」
あおいは俯いた。
ネクストのパワプロは、静かにベンチに戻っていった。
~6回裏 あかつき大付属高校の攻撃~
先頭、4番 猪狩守
守はパワプロへ視線を向けた。
捕手がパワプロ。
パワプロ(……ここだ)
パワプロは構えを低くした。
《パワプロのキャッチャー◎ 発動》
あおいは頷くように——腕を振った。
初球はマリンボール。
パシャア!
守のバットが出る。
カキン!
——しかし。
打球は、ボテボテ。
三遊間寄りのゴロ。
ショートがさばく。
一塁へ。
審判「アウト!」
守は悔しそうに歯を食いしばった。
守「くそっ……!」
あおい「よしっ!」
あおい(通じてる!猪狩守にもマリンボールは通じてるんだ!)
矢部「今のは最高でやんす!!」
はるかも、スコアブックを握ったまま目を細める。
はるか(あおい……やったね)
ここで——パワプロが、マスクを外して立ち上がった。
審判「タイム!」
パワプロはマウンドへ歩く。
あおいの隣に立ち、低い声で言った。
パワプロ「猪狩兄弟は……たぶん違う」
あおい「……え?なにが?」
パワプロ「さっきからの反応が違う。迷いがある」
パワプロ「猪狩兄弟以外の打者には、あおいちゃんの球種がばれている可能性が高い」
パワプロ「実際、シンカーとマリンは全く振っていない。俺の時と状況が似すぎてる」
あおい「そんな……」
あおいの眉がきゅっと寄る。
パワプロ「……だから、ここから俺は一切リードしない」
あおい「!」
パワプロ「好きな球種。好きなコースに投げ込んでよ」
あおいは息をのむ。
捕手がサインを出さない――それは、捕る側にとっても賭けだ。
あおい「……マリンボールも、予告なしで捕れる?」
パワプロは迷いなく頷いた。
パワプロ「大丈夫!」
パワプロ「……あおいちゃんのボールを何万回も捕ってきたのは、俺だよ!」
あおいの肩から、力が抜ける。
あおい「……わかった」
あおい「じゃあ……全力でいくよ!」
パワプロは頷き、ミットを叩いた。
5番打者
あおいは、迷わずマリンボールを投げた。
パシャア——。
沈む、揺れる、そして最後に消える。
打者は……振った。
さっきまで見送っていたシンカーとマリンボールに、急に手を出した。
空振り。
《パワプロの守備職人 発動》
バンッ!
パワプロはマリンボールをしっかりキャッチ。
パワプロ(……やっぱり。サインが読まれてたんだ)
二球目、シンカー。
また振る。空振り。
三球目、ストレート。
釣るように高めへ。
バットは空を切る。
審判「ストライク! バッターアウト!」
三振。
恋恋ベンチがどっと沸く。
矢部「よしでやんす!!」
6番打者
同じだった。
さっきまで捨てていた球に、今度は躊躇なく振ってくる。
あおい(……振るようになった。つまり……)
もう読めない。
読めないから、反射で振ってしまう。
マリンボール。空振り。
シンカー。空振り。
最後は低めストレート。
ズバンッ!
審判「ストライク! バッターアウト!」
審判「チェンジ!」
連続三振。
あおい「よしっ!」
恋恋ベンチは大歓声。
〜六回裏 終了〜
ベンチへ戻る途中、パワプロはあおいに軽く手を上げた。
パワプロ「やったね」
あおい「うん!」
パワプロは息を吐きながら、小さく言う。
パワプロ「……サインを出さないの、やっぱり有効だったね」
その瞬間——
“ひやり”とした感覚が、脳裏に蘇った。
首元。ユニフォームの内側。
あの背番号チェックをした男の指先。
パワプロ「……!」
思わず、ユニフォームの裏側を触る。
首元から胸元へ。縫い目。内側。
パワプロ(これは、まさか……)
パワプロ(……盗聴?)
胸の奥が冷たくなる。
~あかつきベンチ~
監督は表情ひとつ変えず、低い声で言った。
あかつき監督「……ばれたか。まぁいい」
あかつき監督「安全圏まで稼げなかったのは誤算だが、2点リードならパワプロさえ敬遠すれば大丈夫だろう」
あかつき監督「証拠は完全に消せ」
選手A「了解しました」
~恋恋ベンチ~
はるか「……え、盗聴……?」
矢部「名門あかつきが、恋恋相手にそんなことするなんてでやんす……」
恋恋ベンチに、遅れて衝撃が走った。
あおい「……っ!」
あおいは立ち上がり、怒りで顔を赤くする。
あおい「抗議する! そんなの——!」
だが。
パワプロが、あおいの腕を掴んで止めた。
あおい「パワプロくん……!?」
パワプロは、静かに首を振る。
怒りを押し殺すように、低く言った。
パワプロ「……あおいちゃん、ダメだよ」
あおい「でも……!」
パワプロ「発信機があったからって、あかつきが盗聴したって証拠にはならない」
パワプロ「周りからは『弱小の恋恋が自分でこれをつけて、名門あかつきに言いがかりをつけた』……そんな風に見られるだけだ」
あおいの呼吸が荒くなる。
パワプロ「それに、盗聴されているなら、こちらが気づいたことも、たぶん向こうは分かってる」
パワプロ「……証拠はあったとしても、もう消されてる可能性が高い」
あおい「……っ」
パワプロは一瞬だけ、自分の拳を見た。
握りしめる。震えを止める。
パワプロ「気づかなかった俺が悪い」
あおい「そんなの……!」
パワプロ「……野球で取り返すしかない」
その言葉は、冷たくも、熱かった。
パワプロはベンチの外を見た。
グラウンド。審判。相手ベンチ。観客。
(ここで叫んでも、届かない)
(でも——勝てば、全部ひっくり返る)
パワプロ「……ここから、勝とう」
あおいは唇を噛み、やがて小さく頷いた。
あおい「……うん」
恋恋ベンチの空気が、変わる。
怒りではなく——勝つための鋭さへ。
そして。
パワプロは次の打席へ向けて、ゆっくりと立ち上がった。
パワプロ(絶対に……勝つ)
~7回表 恋恋高校の攻撃~
四番、パワプロ。
ベンチを出て、バッターボックスへ向かう。
ざわめくスタンド。
緊張が張り詰めるグラウンド。
パワプロの頭の中は——澄み切っていた。
パワプロ(絶対に、勝つ)
パワプロ(そのために——)
審判「申告敬遠」
その声は、確かに発せられた。
しかし——
パワプロの耳には、届かなかった。
そのままゆっくりと左打席に入り、いつもの綺麗なフォームで構える。
そして、ただまっすぐ。
ただ、目の前の猪狩守だけを見ていた。
猪狩守。
守もまた、パワプロを見ていた。
守(……勝負したい)
守(本当は……)
審判「おい、君! 聞いているのか!」
その声で、現実に引き戻される。
審判「申告敬遠だ。一塁へ行きなさい」
パワプロ「あ……」
一瞬、空白。
パワプロ「……はい。すみません」
パワプロは静かにバットを引き、歩き出した。
一塁へ。
その表情は——険しかった。
一塁へ守が牽制を入れる。
シュッ!
パワプロは戻る。
守はもう一度牽制。
また戻る。
パワプロは、動かない。
守(……これでも走る気か?)
猪狩守がクイックしたその瞬間。
スタート。
《パワプロの盗塁◎ 発動》
爆発的な加速。
進「来た!!」
送球。
だが——
スライディング。
審判「セーフ!」
進(兄さんは牽制もクイックもうまいのに……)
守は歯を食いしばる。
守(まだだ……)
しかし——
次に猪狩守がクイックした瞬間。
パワプロが、三塁を狙った。
進「なっ——!?」
進が慌てて送球。
しかし。
審判「セーフ!!」
三盗成功。
スタンドがどよめいた。
「三盗!?」
「猪狩バッテリー相手にマジか……!?」
「止められない……!」
三塁上で、パワプロは立ち上がる。
その目は——燃えていた。
打席には、五番打者。
バントシフトを続けるあかつき守備陣。
五番「……」
三塁のパワプロを見る。
五番(パワプロがここまで気合いを見せてくれてたんだ)
五番(俺だって……!)
振る。
カキン!
しかし——
パワプロの闘志の伝染により、恋恋打線がいつも以上の実力を出せても、猪狩守の球は当てるのがやっと。
内野フライ。
三塁走者は動けない。
審判「アウト!」
ワンアウト、三塁。
パワプロは歯を食いしばる。
パワプロ(それなら……)
六番打者。
その時。
パワプロが、三塁からサインを送った。
あおい「……!」
矢部「まさか……!」
スクイズ。
しかも——バントシフトの中で。
守が振りかぶる。
投げた。
その瞬間。
パワプロがスタート。
守「!?」
六番「うおおおお!!」
フォーク。
低い。
難しい。
それでも——
バットに当てた。
コツン。
転がる。
三塁手が飛び出す。
しかし——
パワプロが滑り込む方が早い。
審判「セーフ!!」
一点。
恋恋高校、得点。
1-2。
恋恋ベンチが爆発した。
矢部「やったでやんす!!」
あおい「パワプロくん!!」
はるか「……!」
パワプロは立ち上がり、拳を握った。
その目にはまだ炎があった。
パワプロ(あと1点……!)
―――だが。
猪狩守は、崩れなかった。
守(……もう一点もやらない)
全身全霊。
七番を三振でチェンジ。
守は静かに息を吐いた。
~8回 恋恋高校の攻撃~
それでも、恋恋は前を向く。
ベンチの空気は沈んでいない。むしろ——燃えていた。
明らかに当たるようになってきている。
八番。
狙って振り抜く。だが——
ズドン。
詰まらされた打球は、セカンドへのゴロ。
九番。
少しでも前へ、少しでも外野へ。
必死に食らいつく——が、
キレのあるスライダーに泳がされ、浅いフライ。
そして一番、矢部。
矢部「……ここで出るでやんす……!」
守は、表情を変えずに投げ込む。
ストライク。
ストライク。
そして——決め球を矢部が全力で振り抜くも、ライトフライ。
チェンジ。
恋恋ベンチに戻る矢部は、悔しさを噛みしめながらも顔を上げた。
~9回 恋恋高校の攻撃~
最終回。
点差は、1点。
そして相手は——猪狩守。
二番。
当てた。だが、守の球が重い。
打球は伸びず、内野ゴロ。
三番あおい。
踏ん張って運ぶ。
しかし、打球は外野の正面。
フライアウト。
ツーアウト。
球場の空気が、ぎゅっと縮む。
そして、9回ツーアウト1点差で四番。
パワプロが、ゆっくりとバッターボックスへ向かう。
スタンドが息をのむ。
(リードしている最終回くらいは勝負してくれ)
誰もが願ったその瞬間。
審判「申告敬遠!」
どよめき。
ため息。
ブーイングすら混ざる。
パワプロは、一塁へ歩く。
悔しさを押し殺した、硬い表情のまま。
そして最後の望みを繋ぐ五番。
五番「……ここで終われるかよ」
歯を食いしばり、必死に食らいつく。
——当てた。
だが。
打球は高く、弱く上がった。
猪狩進がマスクを外し、数歩。
ミットが上がる。
ズシン。
捕球。
審判「アウト!」
そして——
審判「ゲームセット!」
その声が、球場に重く響いた。
スコアボードには、残酷な現実が刻まれている。
恋恋高校 1
あかつき大付属高校 2
あと一点。
あと一歩。
それだけが、届かなかった。
~恋恋ベンチ~
整列が終わり恋恋メンバーはベンチに戻る。
しかし、誰もが片付けすらできず呆然としていた。
矢部「……負けたでやんす……」
その声は、かすれていた。
あおいも俯いている。
はるかはスコアブックを閉じることができず、同じページを見つめ続けていた。
パワプロは、ただグラウンドを見ていた。
パワプロ(終わった)
パワプロ(これで春の甲子園は絶望的だ……)
胸の奥に、重い何かが沈んでいく。
悔しい。
その時。
足音が近づいてきた。
猪狩守だった。
守は、パワプロの前で止まる。
少しの沈黙。
守は拳を握りしめ、そして言った。
守「……パワプロ」
守「本当は……勝負したかった」
守の声は、震えていた。
守「申告敬遠なんて、したくなかった」
守「……すまない」
その言葉を聞いた瞬間——あおいが、はっと顔を上げた。
あおい「……それだけじゃないでしょ」
震えている。声も、肩も、握りしめた拳も。
悔しさを押し殺そうとしているのに、抑えきれていないのが分かった。
守「!」
あおいは守を睨みつけた。
その瞳には、はっきりと涙が滲んでいた。
あおい「あんたのところが、球種を盗んでいたから負けたんでしょ!!」
恋恋ベンチの空気が、一瞬で凍りつく。
守「……!」
矢部も、はるかも、守を睨んでいた。
矢部「……卑怯でやんす」
はるか「……許されることではありません」
あおい「パワプロくんの球種が盗まれなかったら……」
唇を噛みしめる。次の言葉を吐き出すまでに、一瞬の間があった。
あおい「……絶対、打たれなかったんだから!!」
あおいの涙が一筋、頬を伝った。
守は、目を見開いた。
守「待ってくれ……!何の話だ……?」
守の顔に浮かんでいたのは——困惑。
守「球種を……盗んだ……?」
守「僕は……そんな話は……」
その反応は、演技ではなかった。
本当に、知らない。
守は、ただ立ち尽くしていた。
『盗聴について、猪狩守は本当に何も知らなかった』
それを察したパワプロが一歩前に出た。
パワプロ「……いや」
静かな声だった。
パワプロ「なんでもないんだ」
あおい「パワプロくん……!」
パワプロは、守をまっすぐ見た。
悔しさも、怒りも——全部飲み込んで。
パワプロ「猪狩」
パワプロ「次こそは……今回よりも、いい勝負をしよう」
守の目が揺れる。
パワプロ「次は、夏の甲子園をかけてね」
そして。
パワプロは、右手を差し出した。
握手。
守は、その手を見つめた。
守はゆっくりと、その手を握った。
守「ああ……」
守「……次は、絶対に」
次こそは正面から勝負する――そう決意したまま交わしたその握手には、確かな約束が宿っていた。
猪狩守が去っていく中、あおいは涙で滲む視界のまま、パワプロの背中を見ていた。
あおい(……パワプロくん)
溢れた涙が頬を伝い、視界を歪ませる。
パワプロも悔しいはずなのに。
怒っているはずなのに。
それでも――その背中は、まっすぐ前を向いていた。
はるかは静かに目を閉じた。
はるか(これで終わりじゃない)
矢部も拳を握る。
矢部(次は、勝つでやんす……!)
パワプロ(次だ……夏の甲子園にすべてを懸ける……!)