恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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1年生 夏

〜夏のある日〜

 

夏の空は高く、白い雲がゆっくりと流れていた。

 

グラウンドの隅。

水筒を持ったまま、パワプロはフェンスの向こうをぼんやりと眺めていた。

 

パワプロ「……今頃さ」

パワプロ「全国じゃ、甲子園をかけた試合が始まってるんだよな」

 

テレビやネットで見かける、真っ白なユニフォーム。

歓声と土埃。

 

パワプロ「……来年こそは」

 

思わず、拳を握る。

 

矢部「しんみりしてるでやんすね、パワプロくん」

 

パワプロ「そりゃするよ」

パワプロ「俺たちは今年、スタートラインにも立てなかったんだから」

 

あおい「……」

 

はるか「……」

 

そんな空気の中、突然矢部は言った。

 

矢部「オイラ、良いことを思いついたでやんす!!」

 

全員「……?」

 

パワプロ「お、なに?部員をあと1人連れてくる方法とか!?」

 

矢部「そ、それは無理でやんす!」

矢部「でも、今の恋恋野球同好会に一番必要なもの……それは!」

 

あおい「……それは?」

 

矢部「合宿でやんす!!」

 

パワプロ「……合宿!」

 

はるか「が、合宿……?」

 

あおい「急にどうしたのさ、矢部くん」

 

矢部「考えてみるでやんす!」

矢部「大会に出られない今だからこそ、時間はたっぷりある!」

矢部「だったら、練習量で差をつけるしかないでやんす!」

矢部「しかも合宿なら……朝から晩まで……いや、夜まで一緒でやんす……!むふふでやんす……」

 

あおい「……最後の方、邪な音がしたけど?」

 

矢部「き、気のせいでやんす!!」

矢部「純粋に野球のためでやんすよ!?本当に純粋でやんす!」

 

パワプロ「……」

 

パワプロは少し考えてから、顔を上げた。

 

パワプロ「……いいじゃん」

 

全員「え?」

 

《パワプロの闘志 発動》

 

パワプロ「確かに今年は大会に出られない」

パワプロ「でもその分、来年勝つための夏にできる!」

 

あおい「……!」

 

はるか「……!」

 

あおい「……合宿」

あおい「……たしかに、いいね。それ」

あおい「ちゃんと練習できるなら、ボクは賛成」

 

はるか「で、でも……」

はるか「場所とか……先生の許可とか……」

 

現実的な心配に、全員が少し黙る。

 

パワプロ「……大丈夫!」

パワプロ「なんとかなる!……たぶん!」

 

あおい「たぶんって……」

 

矢部「そこは顧問の先生に頼るでやんす!」

矢部「行くでやんすよ、パワプロくん!」

 

 

〜職員室〜

 

「失礼します!」

 

パワプロ、矢部、あおい、はるか、部員一同。

 

珍しく、野球同好会の全員が揃って職員室に入った。

 

加藤先生「はいはい。どうしたの?」

加藤先生「野球同好会のみんなが全員揃うなんて、珍しいわね」

 

加藤先生は、成り行きで顧問を引き受けてくれた保健師の先生だ。

 

パワプロ「先生!」

パワプロ「俺たち、合宿に行きたいです!」

 

加藤先生「……合宿?」

 

矢部「でやんす!」

矢部「大会に出られない今だからこそ、合宿で強くなるでやんす!」

 

加藤先生「うーん……」

 

あおい「ボクたち、来年は絶対に勝ちたいんです」

 

はるか「……私も」

 

はるかは小さく一歩前に出た。

はるか「体は弱いですけど……」

はるか「それでも、皆さんの役に立ちたいです」

はるか「できることは……全部、頑張りたいです」

 

しばらく、沈黙。

 

加藤先生は、一人一人の顔を順番に見ていた。

 

泥だらけのユニフォーム。

真剣な目。

 

そして――

 

加藤先生「……そうね」

加藤先生「うん。いいわよ」

 

全員「……え?」

 

加藤先生「だって、あなたたち」

加藤先生「練習だけは、本当に真面目だもの」

加藤先生「文句も言わないし、サボりもしない」

 

加藤先生「それに……」

 

先生は少しだけ笑った。

 

加藤先生「いい顔してる」

 

矢部「や、やったでやんすー!!」

 

あおい「……ほんとに、いいの……?」

 

パワプロ「先生、ありがとうございます!」

パワプロ「絶対、無駄にしません!」

 

加藤先生「あと、はるかさん」

加藤先生「無理は絶対にしないこと。体調第一、いい?」

 

はるか「は、はい……!」

 

矢部「合宿、燃えてきたでやんす!」

 

 

〜数日後:合宿当日〜

 

夏の日差しが強い朝。恋恋高校の校門前に、荷物を抱えた部員たちが集合していた。

 

パワプロ「よーし!みんな揃ったね!合宿だー!」

 

部員たち「おー!!」

 

矢部「青春でやんす……!合宿でやんす……!同じ屋根の下でやんす……!」

 

あおい「矢部くん、顔が気持ち悪い……」

 

矢部「顔が気持ち悪いはひどすぎるでやんす……」

 

はるか「ふふ……でも、なんだか楽しみです」

 

パワプロ「はるかちゃん、無理はしないでね。体調悪かったらすぐ言うこと!」

 

はるか「は、はい……ありがとうございます。パワプロさん」

 

はるかは少し照れたように笑っていた。

 

〜合宿1日目・昼〜

 

パワプロ「よーし!まずは基礎練から!キャッチボール、トス、ランメニュー!いくよ!」

 

部員たち「はいっ!」

 

あおい「初日から飛ばすね……」

 

パワプロ「合宿は時間が命だからね!でも無理はさせないよ!」

 

はるか「私はタイムを取りますね」

 

パワプロ「ありがとう、はるかちゃん!助かるよ!」

 

 

〜夕方〜

 

太陽が傾く頃、全員汗だくになっていた。

 

パワプロ「よし!今日はここまで!ラスト、ストレッチして終わろう!」

 

部員たち「お疲れ様でした!」

 

あおい「……正直、きつかったけど」

 

パワプロ「でも、みんな動き良くなってきてるよ!特に守備の反応、全然違う!」

 

あおい「……うん。たしかに」

 

はるか「皆さん、本当にすごいです……」

 

矢部「オイラ、足が棒でやんす……」

 

パワプロ「あはは。夜はしっかり休もう!」

 

 

〜夜・合宿所〜

 

風呂を終え、食堂兼広間に集まった恋恋野球同好会。

 

矢部「よーし!カードゲーム持ってきたでやんす!むふふ。あおいちゃんもはるかちゃんも一緒にやろうでやんす」

 

部員A「いいね!」

 

あおい「まぁ、ちょっとだけなら……」

 

はるか「私は見ていていいですか?」

 

矢部「もちろんでやんす!」

 

ワイワイ、ガヤガヤ。

 

笑い声が合宿所に響く。

 

矢部「それ反則でやんす!」

 

部員B「知らないよー!」

 

あおい「……あれ?」

 

はるか「どうしました、あおい?」

 

あおい「パワプロくん……いなくない?」

 

はるか「……あ、本当……」

 

矢部「そういえば、夕飯後から見てないでやんす……」

 

はるか「……探しに行こうか」

 

あおい「うん。放っておくと、また野球やっていそうだし」

 

 

〜合宿所の外・夜〜

 

月明かりに照らされたグラウンド。

虫の音だけが響いている。

 

はるか「……静かだね」

 

あおい「この感じ……たぶん、グラウンドだ」

 

二人はそっとフェンスの方へ向かう。

すると——

 

カリカリ……

ペラ……

誰かが紙をめくる音。

 

あおい「……いた」

 

グラウンド脇のベンチ。

そこに、ノートを広げて座っているパワプロの姿があった。

 

パワプロ「……初心者組は、守備の反応速度を上げたいな……明日はノックの後に……」

 

はるか「……」

 

あおい「……」

 

パワプロは二人に気づかず、真剣な顔でノートに書き込んでいる。

 

パワプロ「体力配分も考えないと……はるかちゃんには、日陰でタイム測定をしてもらおうかな……」

 

はるか「……!」

 

あおい「……もう」

 

あおいは一歩前に出た。

 

あおい「パワプロくん。夜はゆっくり休もうっていってなかった?」

 

パワプロ「うわっ!?あ、あおいちゃん!?はるかちゃん!?」

 

はるか「……ここにいたんですね」

 

パワプロ「ご、ごめん!ちょっと思いついたことがあって……」

 

あおい「”ちょっと”ねぇ……」

 

はるか「皆さん、パワプロさんがいなくて心配していました」

 

パワプロ「えっ!?ご、ごめん!」

 

あおい「……」

 

はるか「……」

 

二人は顔を見合わせて、ため息をついた。

 

あおい「まったく……」

 

はるか「でも……」

 

はるかは、パワプロのノートを見る。

ぎっしり書かれた練習メニュー。

一人一人の名前。

体力、癖、注意点。

 

はるか「……やっぱり、パワプロさんですね」

 

パワプロ「え?」

 

あおい「……ほんと、野球バカ」

 

パワプロ「えー!?褒めてる?」

 

あおい「まぁ、半分ね」

 

はるか「ふふ……でも、そろそろ戻りましょう。皆さん待っています」

 

パワプロ「うん……そうだね」

 

パワプロはノートを閉じて、立ち上がった。

 

パワプロ「ありがとう、二人とも」

 

月明かりの下、三人は並んで合宿所へ戻っていった。

 

 

〜合宿2日目〜

 

朝から、グラウンドには張りつめた空気があった。

パワプロが組んだ練習メニューは、

誰一人サボれず、誰一人倒れない――

ギリギリを正確に突く内容だった。

ラン、守備、バッティング、投内連携。

休憩のタイミングまで計算されている。

 

パワプロ「よし、ここで10分休憩!水分補給忘れないで!」

 

はるか「はい。タオルと水筒どうぞ」

 

パワプロ「ありがとう、はるかちゃん。無理そうな人はいない?」

 

はるか「今のところ……問題ありません」

 

パワプロ「よし。じゃあ次いこう!」

 

あおい(……すごい)

あおい(全員、限界ギリギリなのに……ちゃんとついてきてる)

あおい(それに……)

 

ちらりと、はるかを見る。

 

あおい(はるかの体調も、ちゃんと考えられてる)

 

無茶なメニューじゃない。

でも、楽でもない。

 

計画されたギリギリの練習だった。

 

 

〜合宿2日目・夜〜

 

消灯時間。

合宿所は、すぐに静まり返った。

部員たちは全員、布団に倒れ込むように眠っている。

 

矢部「……ぐぅ……ぐぅ……でやんす……」

 

その頃――

グラウンドには、ひとりだけ残る影があった。

 

〜グラウンド・夜〜

 

月明かりの下。

白球が、静かに宙を切る。

 

《パワプロの根性が発動していた》

 

シュッ――

ズドン。

 

パワプロ「……」

 

息を整え、もう一球。

 

シュッ――

ズドン。

 

誰もいないグラウンド。

聞こえるのは、虫の声と、ボールがネットに収まる音だけ。

 

パワプロ(みんな、今日はよく頑張った)

パワプロ(でも……)

パワプロ(キャプテンの俺が一番頑張らないと)

パワプロ(明日は休養になるし……今ならまだ体力は残ってる)

 

フォームを確認し、もう一球。

シュッ――

無駄のない、綺麗な投球フォーム。

 

 

〜女子部屋・2階〜

 

カーテンが、ほんの少しだけ揺れた。

 

あおい「……やっぱり」

 

窓際に立っていたのは、あおいと、はるか。

 

二人は並んで、そっと外を見下ろしていた。

 

はるか「……パワプロさん……」

 

月明かりに照らされたグラウンド。

そこに、小さく動く影。

 

あおい「……またやってるよ、あれ」

あおい「昼間あれだけやって……まだ投げるなんて」

 

でも、目は逸らせなかった。

 

シュッ――

ズドン。

 

あおい(……)

あおい(……ほんとに)

あおい(綺麗なフォーム……)

 

無駄がなくて、力が流れていくような投げ方。

見ているだけで、理屈が分かる。

 

あおい(……悔しいな)

あおい(あんな投げ方……ボク、できない)

 

はるかは、胸の前で手を組んだまま、黙って見ていた。

 

はるか「……」

はるか(昼間は、誰よりも皆さんを見て)

はるか(夜になったら……誰にも見えないところで、自分を追い込んで……)

 

小さく、息を吐く。

 

はるか「……パワプロさん」

 

あおい「……」

 

二人とも、声を出さなかった。

 

ただ、同じ人を見ていた。

 

 

〜グラウンド〜

 

パワプロは、最後の一球を投げ終えると、ゆっくりと肩を回した。

 

パワプロ「……よし」

 

夜風が、汗を冷やす。

グラウンドを見渡し、合宿所へ戻っていった。

 

 

〜合宿3日目(最終日)・朝〜

 

加藤先生「はい、最終日!」

加藤先生「今日は完全休養です。体も心もリフレッシュする日!」

 

部員たち「おおお……!!」

 

矢部「や、やったでやんすー!!」

矢部「ついにこの瞬間が来たでやんす……!」

 

パワプロ「よし!じゃあ今日は――」

 

矢部「海でやんすー!!」

 

部員たち「海!?」「マジ!?」

 

あおい「……休養なのに、元気だね」

 

矢部(海……休養……そして水着でやんす……!)

 

 

〜海・昼〜

 

夏の日差しが眩しくて、波の音が気持ちいい。

白い砂浜に足を踏み入れた瞬間、部員たちが一斉に駆け出した。

 

部員A「うおお!海だー!!」

部員B「泳ぐぞー!」

 

パワプロ「おーし!怪我しない程度にね!」

パワプロ「でも思いっきり遊ぼう!」

 

矢部「遊ぶでやんす!泳ぐでやんす!そして――」

矢部(見るでやんす……!)

 

矢部は、サッとあおいとはるかの方を見た。

 

そして――

 

矢部「………………」

 

あおい「……なに」

 

矢部「い、いや……なんでもないでやんす……」

 

あおいもはるかも、水着の上にパーカーを羽織っていた。

しかもフードまで深めにかぶっている。

 

矢部「なんでそんな完全防備なんでやんすか!?」

 

あおい「日焼けしたくないから」

 

矢部「嘘つけでやんす!!」

 

あおい「……殴る?」

 

矢部「すみませんでやんす!!」

 

隣では、はるかがパラソルの下に座っていた。

帽子も被って、冷たい飲み物を手に、静かにみんなを見ている。

 

パワプロ「はるかちゃん、泳がないの?」

 

はるか「はい……私、体力がそんなにないので」

はるか「今日は見守り係をしますね」

 

パワプロ「そっか!」

パワプロ「じゃあ無理しないで、涼んでてね!」

 

はるか「ふふ……ありがとうございます、パワプロさん」

 

矢部「むふふ。見守り係って言葉がすでに天使でやんす……」

 

部員たちは波打ち際で水を掛け合って、笑い声が止まらない。

 

パワプロ「よーし!浮き輪投げるぞー!」

 

部員A「パワプロ、こっちこっち!」

 

パワプロは普通にバカみたいに泳いで、普通にバカみたいに楽しそうだった。

パワプロ「ぷはっ!やっぱ夏は海だなー!!」

 

あおい「……子どもみたい」

 

あおいはそう言いながらも、混ざっていった。

 

あおい「よーし、ボクにも浮き輪ちょうだい!」

 

しばらくして……

はるかは、みんなの荷物を整理して、飲み物の残りを確認して、日陰にタオルを用意していた。

はるかが少しだけ視線を上げると――

 

パワプロが、思いきり手を振っていた。

 

パワプロ「はるかちゃーん!!大丈夫ー!?」

 

はるか「……はい、大丈夫です!」

 

はるかは、思わず笑って手を振り返した。

 

 

〜夕方・帰り支度〜

 

海で遊ぶだけ遊んで、夕方になる頃。

全員、くたくたになって浜辺に転がっていた。

 

矢部「休養日……めちゃくちゃ疲れたでやんす……」

 

あおい「やっぱり、疲れてるじゃん!」

 

パワプロ「でもいい疲れだよ!」

パワプロ「これでまた明日から練習できる!」

 

全員「明日から!?」

部員たちは顔が青くなった。

 

パワプロ「冗談冗談!明日と明後日は完全オフ!」

 

あおい「……本当?」

 

パワプロ「本当!」

 

矢部「冗談に聞こえないのが、パワプロくんのマジキチなところでやんす……」

 

はるか「ふふ……本当にそうですね……」

 

帰り支度をしながら、はるかは砂を払って、タオルを畳んで、最後までみんなの様子を見ていた。

 

 

〜帰りのバス・夜〜

 

バスが走り出すと、車内はすぐ静かになった。

カーテン越しの街灯が、ゆっくり流れていく。

 

部員A「……すぅ……」

部員B「……ぐぅ……」

 

矢部「……ぐぅ……でやんす……」

 

あおいも、窓にもたれて目を閉じていた。

昼間の強気はどこにもなくて、少しだけ柔らかい顔。

はるかも、パラソルの下でずっと気を張っていたせいか、うとうとし始めていた。

その隣。

パワプロは――

 

パワプロ(……)

 

珍しく、何も喋らずに外を見ていた。

 

パワプロ(楽しかったな)

パワプロ(合宿……)

パワプロ(みんな、ちゃんと強くなった)

 

ふと、前の席を見る。

 

あおいが眠っている。

少しだけ眉が下がっていて、練習中とは別人みたいだ。

 

反対側を見ると、はるかも小さく息をしている。

 

パワプロ(……このチーム)

パワプロ(絶対、勝てる)

 

静かなバスの中で、パワプロは小さく拳を握った。

 

パワプロ(来年、必ず――)

 

そのまま、眠気が襲ってくる。

 

パワプロ(……でも今は)

パワプロ(休むのも、練習だよな)

 

 

〜合宿終了〜

 

パワプロ「よーし!」

パワプロ「合宿、お疲れさま!」

パワプロ「明日からも――いや、3日後から!」

パワプロ「また頑張ろう!」

 

部員たち「おー……!」

(眠気混じり)

 

あおい「……でも、ちゃんと休んでからね」

 

パワプロ「もちろん!」

 

はるか「ふふ……約束ですよ、パワプロさん」

 

パワプロ「うん!」

 

こうして――

恋恋野球同好会の初めの夏は、楽しく終わった。

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