恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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1年生 秋

〜秋、合宿から2ヶ月後ほど経過したテスト期間〜

 

恋恋高校の校門前。

夏のギラギラした空気はどこかへ消えて、風が少し冷たくなっていた。

制服の上に羽織るカーディガンが、ちょうどいい季節。

……なのに。

 

パワプロ「はぁ~~~……」

 

パワプロは、めちゃくちゃ分かりやすくため息をついた。

 

矢部「溜め息が深すぎでやんすよ、パワプロくん」

 

パワプロ「だってさぁ!」

パワプロ「テスト勉強って、なんであんなに時間取られるの!?野球したいのに!」

 

あおい「日頃から勉強してない自業自得でしょ」

 

あおいは呆れた目でパワプロを見ながら、腕を組んだ。

 

パワプロ「ええー。あおいちゃんは日頃から勉強してるの?」

 

あおい「ぎくっ!ボ、ボクはやってるでしょ。たぶん…」

 

パワプロ「たぶん?」

 

矢部「……これはやってないやつでやんす」

 

あおい「……それより!パワプロくん、はるかを見習った方がいいよ」

 

パワプロ「はるかちゃんを?」

 

はるか「えっ……わ、私ですか……?」

 

あおい「はるかは入学試験からずっと学年一位なんだから」

 

パワプロ「えっ!?!?」

パワプロ「はるかちゃんそんなすごいの!?」

 

はるか「そ、そんな……大したことじゃ……」

 

はるかは目を泳がせながら、頬をほんのり赤くする。

でもパワプロは今さら色々思い出して、納得してしまった。

 

パワプロ「そういえばさ!」

パワプロ「スコアブックの付け方、俺がちょっと教えただけで即理解してたもんね!」

 

はるか「そ、それは……パワプロさんの説明が分かりやすかったからです……」

 

パワプロ「いやいや!それでも早いよ!」

 

矢部「でも試合がないから、スコアブックを書く機会がないでやんす」

 

その瞬間。

ポカッ!!

 

矢部「いでぇでやんす!!」

 

あおい「余計なこと言うな」

 

矢部「事実でやんす……」

 

パワプロ「はは……でもさ」

 

パワプロは、ちょっとだけ真面目な顔になった。

 

パワプロ「実際に試合できたら、いい線いけると思うんだよね」

パワプロ「みんな本当に上手くなってきたし」

 

あおい「……」

 

あおいは嬉しそうにするでもなく、悔しそうにするでもなく。

ただ、少しだけ目を細めた。

 

あおい「でも、他校がどのくらい強いのか……正直、よく分からない」

 

矢部「この辺だと、あかつき大附属高校が強豪で有名でやんすね」

 

パワプロ「あかつき大附属……?」

 

矢部「甲子園常連校でやんす!設備も人もバケモン揃いでやんす!」

 

パワプロ「へぇ~~~……!」

 

パワプロの目が、きらっと光る。

 

パワプロ「偵察とか行ってみようかなぁ……」

 

矢部「偵察と聞いたらオイラの出番でやんす!!」

 

矢部「パワプロくん!今すぐ行くでやんす!!」

 

パワプロ「よし行こう!」

 

あおい「え、今すぐ!?」

 

矢部「今がその時でやんす!テスト期間でみんな部活が緩い今しかないでやんす!」

 

パワプロ「たしかに!」

 

そしてパワプロと矢部くんは、当然のように走り出した。

 

あおい「……ちょっと!」

あおい「はぁ……」

 

あおいは額を押さえてから、はるかを見る。

 

あおい「ボク、追いかけてみるよ」

あおい「二人だけだと何しでかすか分からないし」

 

はるか「う、うん……」

はるか「気をつけてね、あおい」

 

あおい「はるかは帰ってていいよ。勉強しないとでしょ」

 

はるか「……ふふ。ありがとう」

 

はるかが少し微笑んだ、その瞬間。

 

あおい「よしっ」

 

あおいも走った。

 

〜あかつき大附属高校・グラウンド前〜

 

そして。

気づけばパワプロたちは、あかつき大附属高校のグラウンド前にいた。

 

パワプロ「……ここが……」

パワプロ「うわ、でかっ!!!」

 

思わず声が出る。

広い。とにかく広い。

グラウンドの土の整備も完璧で、ラインもまっすぐ。

ネット、マシン、ブルペン、ベンチ――全部がワンランク上の設備になっている。

 

矢部「これが強豪との差でやんす……!」

 

あおい「いや、グラウンドだけが差じゃないけどね……」

 

あおいの視線の先では、ユニフォーム姿の選手たちが、黙々とアップをしていた。

声出しは最低限。

動きは無駄がない。

休憩の水飲みすら、素早い。

 

パワプロ「……たしかにレベル高い」

パワプロ「でもさ」

パワプロ「俺たちだって、負けてないと思うよ」

 

矢部「あっ、今の言い方カッコいいでやんす……!」

 

あおいはグラウンドを見ながら、ふと思い出したみたいに言った。

 

あおい「……そういえば」

あおい「ここ、1年に猪狩守っていう、とんでもない投手が入ったって聞いたよ」

 

矢部「でやんす!」

矢部「あかつきリトルの猪狩兄弟バッテリーの兄の方でやんすね!」

矢部「知らない野球少年はいないレベルでやんす!」

 

パワプロ「猪狩守かぁ……見てみたかったな」

 

その時。

背後から、落ち着いた声がした。

 

守「……僕がなんだって?」

 

振り向くと――

そこにいたのは、鋭い目をした男子。

ただ立ってるだけなのに、空気が変わった。

背筋が伸びて、肩の位置が高い。

 

守「君たち、見慣れない顔だな」

守「二軍グラウンドを覗いて、何をしている」

矢部「げげげげ猪狩守でやんす!!」

矢部「っていうか、ここ二軍でやんすか!?!?」

 

あおい「一軍はもっとヤバいってことだよね……」

 

守「用がないなら帰れ」

 

パワプロ「君が猪狩守!?」

 

パワプロは一歩前に出た。

 

パワプロ「すごく野球上手いんだよね!」

パワプロ「よかったら俺と勝負しない!?」

 

矢部「ああああでやんす!!!」

矢部「偵察が何を言い出すでやんす!!」

 

あおい「ちょ、パワプロくん!目立つのやめてよ!」

 

パワプロ「でも、勝負したいじゃん!」

パワプロ「偵察だろうと、俺は勝つつもりだよ?」

 

矢部「偵察とは思えない、その図々しい精神が怖いでやんす!」

 

守「……」

 

猪狩は、パワプロを見て、一瞬だけ目を細めた。

 

守「断りたいが……」

守「僕が逃げたと思われるのは気に入らない」

守「一打席だけだ」

 

パワプロ「よっしゃ!!」

 

矢部「マジで受けたでやんす!?」

 

矢部「あおいちゃん、猪狩守って挑発に弱いでやんすね……」ボソッ

 

あおい「うーん、たしかに……」ボソッ

 

守「おい、そこ何か言ったか?」

 

矢部「な、何も言ってないでやんす……」

 

あおい(地獄耳だ……)

 

〜パワプロ vs 猪狩守(1打席勝負)〜

 

パワプロはいつも通りに左打席に立った。

猪狩はマウンドに上がると、軽く指を鳴らすみたいにボールを握った。

 

あおい「左対左だね……」

 

あおいは真剣な表情で言う。

 

守「ヒット性の当たりが出たら君の勝ち」

守「それでいいね?」

 

パワプロ「ああ!」

パワプロ「よし、来い!」

 

《パワプロの威圧感 発動》

 

守(この構え……この目……)

守(ただの偵察じゃないな)

守(本気で投げてビビらせるか)

 

猪狩の腕が振られた。

 

ギュオオオッ――!!

 

――速い。

視界の端に白線が走るみたいだった。

 

《パワプロのパワーヒッター/広角打法 発動》

 

カァンッ!!

乾いた金属音。

 

守「なに……!?」

 

ボールは鋭く高く飛び――

三塁側ポールの、ほんの横をかすめてファールゾーンへ消えた。

 

パワプロ「ああっ!惜しい!」

パワプロ「今の球、145近く出てたんじゃない!?」

 

矢部「えげつないでやんす!!」

 

あおい「……でも、パワプロくんも普通に当ててるよ!」

 

守(僕のストレートを、初見で……?)

守(……いや、まだだ)

 

パワプロ「よーし!次!」

 

《パワプロの威圧感 発動》

 

守(この構えと圧……ストレートはダメだ)

守(変化球で外すか……)

 

クククッ――

スライダー。

鋭く、深い。

 

パワプロ(スライダーか!)

パワプロ(……凄い変化だ……!)

パワプロ(でも、間に合う……!)

 

パワプロの目は、勝手に追いかけていた。

 

キィィン!!

 

打った瞬間、確信する当たり。

高い打球。

伸びる打球。

 

守「……っ!?」

 

ボールはセンター方向へ一直線。

フェンスを――越えた。

 

パワプロ「やったぁ!!」

パワプロ「文句なしのホームラン!」

パワプロ「俺の勝ちだね!」

 

矢部「ほ、ほんとにやったでやんす……」

 

あおい「……うそでしょ……」

 

猪狩は、その場で固まっていた。

 

守「……お前は……何者だ」

 

パワプロ「俺は恋恋高校の一年でキャプテンだよ!」

 

守「僕と同じ一年……!?」

守「そして、恋恋高校……?」

守「……それ、どこだ……?」

 

矢部「パワプロくん!!」

矢部「目立ちすぎでやんす!!」

矢部「あかつきの先生っぽい人が来るでやんすよ!!」

 

遠くから、明らかに先生っぽい大人が歩いてくるのが見えた。

 

パワプロ「えっ!?やばっ!」

 

パワプロは猪狩に向かって、笑って手を振った。

 

パワプロ「猪狩!また勝負しようね!」

 

守「……っ」

 

そしてパワプロたちは――

 

全力で逃げた。

 

あおい「ちょっと!ボクを置いてかないでよ!!」

 

矢部「あおいちゃんも早く走るでやんすー!!」

 

 

〜あかつき側〜

 

五十嵐(先生っぽい人)「猪狩。今のはなんだ?」

 

守「……」

 

守は、唇を噛んだ。

 

守「負けた……」

守「この僕が……同じ一年に……」

 

五十嵐「名前は?」

 

守「恋恋高校……パワプロ」

 

その名を言った瞬間。

猪狩守の目は、悔しさじゃなく――燃え始めていた。

 

 

―― 能力データ ――

 

猪狩守

【球速】145km/h

【コントロール】130D

【スタミナ】103C

【変化球】スライダー2/カーブ2/フォーク1

【投手特殊能力】安定度4/ピンチ4/リリース○

 

 

〜秋・昼休みの廊下〜

 

テストが終わって、学校全体の空気が少しだけ軽くなった頃。

廊下には、昼休みのざわめきが流れていた。

女子たちの笑い声、ローファーの足音、開けっぱなしの教室から漏れてくる会話。

 

その中を――

パワプロはいつも通り、のんびり歩いていた。

 

パワプロ(次の授業、数学か……)

パワプロ(うーん、今日も早くグラウンド行きたいなぁ)

 

そんなことを考えながら、曲がり角を通り過ぎようとした瞬間。

 

「ちょっと、どきなさい!」

 

鋭い声。

次に聞こえたのは、ローファーが床を叩く音と、誰かが小さく悲鳴を漏らす声だった。

 

女子A「ひっ……!ご、ごめんなさい……!」

 

女子B「ちょ、ちょっと倉橋さん……!」

 

パワプロは自然と足を止めて、声の方を見た。

そこには――

金髪のロングヘアーを揺らした、気の強そうなお嬢様。

背筋をピンと伸ばして、まるで女王様みたいに廊下のど真ん中に立っていた。

周りの女子は、ビクビクしながら道を空けている。

 

パワプロ(うわ……なんだあの空気)

 

さらにその子――倉橋彩乃は、目の前の女子を追い詰めるように言った。

 

彩乃「あなた、さっきから邪魔なのよ」

彩乃「私が通るのが見えないの?」

 

女子C「す、すみません……!」

 

彩乃「すみませんというなら、最初から避ければいいでしょう」

 

彩乃は小さく鼻で笑って、相手の持っていたプリント束に、わざと肩をぶつけるようにして通ろうとした。

 

ばさっ――!

プリントが床に散らばる。

 

女子C「あっ……!」

 

女子D「ちょっと……」

 

誰も拾えない。

拾ったら拾ったで、また何か言われそうで。

廊下の空気が、一気に固まった。

 

《パワプロのいいやつ 発動》

 

パワプロはそのまま、しゃがみこんでプリントを拾った。

 

パワプロ「はい、これ」

 

女子C「え……」

女子C「あ、ありがとうございます……!」

 

驚いた顔で受け取る女の子。

パワプロは笑って、もう一枚拾って手渡しながら――

そのまま、倉橋さんの方を見る。

 

パワプロ「……わざとやったでしょ」

 

彩乃「……は?」

 

倉橋さんの目が、鋭くなった。

周りの女子が「やばい…」って顔をする。

理事長の孫娘。逆らえる人なんてほとんどいない。

でもパワプロは、別に喧嘩したいわけじゃない。

だから、声のトーンもそのまま。

 

パワプロ「だめだよ」

パワプロ「こういうの、迷惑かかるからさ」

 

《パワプロのモテモテ/ムード○ 発動》

 

彩乃「…………!?」

 

倉橋さんは、言い返すどころか――

一瞬、言葉を失ったみたいに固まった。

その金髪が、ふわっと揺れる。

 

彩乃(……なに、この人)

彩乃(私に……注意した?)

彩乃(この学校で……私に?)

 

心臓が、変な鳴り方をした。

いや、違う。

怒りじゃない。

もっと、変なやつ。

 

彩乃(背が……高い)

彩乃(……顔、近い)

彩乃(目……まっすぐ……)

 

彩乃「………………っ」

 

倉橋彩乃は、急に顔が熱くなるのを自覚した。

 

彩乃(……な、なにこれ)

彩乃(私、今――)

彩乃(照れてる……?)

 

あり得ない。

あり得ないのに、目が逸らせない。

 

パワプロ「じゃ、俺行くね」

パワプロ「プリント、落とさないようにね」

 

女子C「あ、はいっ……!」

 

パワプロはそれだけ言って、何事もなかったみたいに廊下を歩き出した。

 

彩乃「あ……」

 

……その背中に。

倉橋彩乃の視線が、突き刺さっていた。

 

彩乃「…………」

 

彩乃(今の人……一体、誰なのかしら……)

 

 

周囲の女子は、息を止めていたのに。

倉橋さんだけは、なぜか――

ぼうっとしたまま固まっていた。

 

 

彩乃「……ねえ」

 

女子A「は、はいっ!倉橋さん!」

 

彩乃「さっきの人」

彩乃「誰?」

 

女子A「えっ……」

 

女子は一瞬戸惑って、すぐに答えた。

 

女子A「あの方は……1年A組の……」

女子A「パワプロっていう人です」

女子A「野球同好会の……キャプテン、みたいな人で……」

 

彩乃「……パワプロ」

 

彩乃(1年A組……?)

彩乃(野球……?)

 

彩乃「そ、そうなのね……」

 

彩乃は平然を装って、髪を耳にかけた。

でも――

心の中は全然平然じゃなかった。

 

彩乃(パワプロ……様……)

 

自分でも意味がわからないくらい、

その名前が特別な響きに変わってしまった。

 

彩乃(……っ)

彩乃(なにか言い返すつもりだったのに)

彩乃(あの人を見たら、何も言えなかった……)

彩乃(……私、どうかしてる)

 

でも、もう遅い。

倉橋彩乃の胸の中に――

確かに恋が落ちた音がした。

 

彩乃「……あなたたち、ぼーっとしない」

彩乃「さっさと教室に戻りなさい」

 

女子たち「は、はいっ!」

 

周囲への態度は、いつも通り厳しい。

冷たい。

誰も逆らえない。

――なのに。

彩乃は一人になった瞬間、

さっきの光景を思い出してしまう。

 

 

彩乃(だめだよ、って……)

彩乃(あんな風に言われたの……初めて……)

彩乃(……パワプロ様……)

 

顔が熱い。

彩乃は自分の頬を軽く押さえて、小さくため息をついた。

 

彩乃「……なんなのよ……もう……」

 

それから。

倉橋彩乃は――

他の人には厳しいのに、パワプロにだけは何も言えなくなる

そんな、分かりやすすぎる変化を迎えることになる。

 

 

〜1週間後・放課後の廊下〜

 

放課後。

教室から部活へ向かう生徒たちの流れで、廊下はそこそこ賑やかだった。

窓の外は夕焼けで、床に長い影が伸びている。

その中を――

 

あおい「はるか、今日のノート見せてくれない?数学のとこ」

 

はるか「うん。いいよ」

 

あおいとはるかが並んで歩いていた。

はるかはいつも通り穏やかに笑っていて、

あおいはいつも通り少し早歩き。

親友同士の、落ち着く距離感。

 

あおい「テスト終わったのに、まだ頭が痛いよ……」

 

はるか「ふふ……あおい、頑張ってたもんね」

 

あおい「はるかに比べたら全然だけど」

 

その瞬間。

 

はるか「えっ……?」

 

廊下の空気が、すっと冷たくなった。

前から歩いてきた女子たちが、波みたいに左右に避ける。

まるで道を作るみたいに。

そして、その中心にいたのは――

金髪のロングヘアー。

背筋を伸ばした、気品のある姿。

倉橋彩乃だった。

 

彩乃「……あら」

彩乃は、はるかを見るなり目を細める。

 

彩乃「七瀬さん」

 

はるか「え……?」

 

はるかはきょとんとして、名前を呼ばれたことに驚いた。

 

はるか「……あ、あの……」

 

あおい(……うわ、出た)

あおいは直感で察した。

あおい(これ、面倒なやつだ)

 

彩乃「あなた」

彩乃「今回のテストも、学年1位だったそうね」

 

はるか「……え?」

はるか「す、すみません。お会いしたことありましたか……?」

 

彩乃「……は?」

彩乃の目が、わずかに鋭くなる。

彩乃「2位である私のことなど、眼中にもないと?」

彩乃「そういうことなのかしら?」

 

はるか「い、いえ…あ、す、すみません……」

 

はるかは完全にオドオドしていた。

 

はるか(えっと……この人……誰だろう……)

はるか(私、何かしたのかな……)

 

彩乃「……ふん」

 

彩乃は一歩近づいて、言葉を刺すように落とす。

 

彩乃「私はずっと2位」

彩乃「ずっとあなたの下」

彩乃「……あなたが1位を取っていなければ、私が1位だったのよ」

 

はるか「……っ」

はるか「ご、ごめんなさい……」

 

あおい「は?」

あおいの眉が跳ね上がった。

あおい「はるかが謝ることじゃないでしょ」

 

彩乃「……口を挟まないでくださる、早川さん」

 

あおい「はぁ?」

 

あおいが一歩前に出ようとした、その瞬間――

 

パワプロ「なになに?どうしたの?」

 

軽い声。

廊下の奥から、ひょいっと現れたのは――

パワプロだった。

 

パワプロ「あれ?あおいちゃんとはるかちゃん」

パワプロ「なんか揉めてる?」

 

《パワプロのムード○ 発動》

 

はるか「パ、パワプロさん……!」

 

はるかはホッとした顔で、思わず小さく息を吐いた。

 

あおい「パワプロくん、ちょうどいい」

あおい「この人が、はるかに絡んで――」

 

しかし。

あおいの言葉が終わる前に。

 

彩乃「……っ!?」

 

倉橋彩乃が、パワプロの顔を見た瞬間。

驚いたみたいに目を見開いて、

次の瞬間――

 

彩乃「……な、なんでもありませんわ!」

 

噛みそうな勢いで言い放った。

 

はるか「あ、あの……?」

 

あおい「は?」

 

彩乃はあおいともはるかとも視線を合わせず、まるで火がついたみたいに踵を返す。

 

彩乃「失礼しますわ!!」

 

そして――

倉橋彩乃は、信じられない速さで廊下の向こうへ消えた。

 

あおい「……え?」

 

はるか「……ええ……?」

 

パワプロ「……?」

 

パワプロは首をかしげた。

 

パワプロ「今の子、何だったんだろ」

 

あおい「こっちが聞きたいよ……」

 

はるか「……すごく、怒ってましたよね……?」

 

あおい「怒ってたはずなのに、最後逃げた……」

 

パワプロ「……?」

パワプロ「よく分かんないけど、はるかちゃん大丈夫?」

 

はるか「は、はい……」

 

はるかは胸を撫で下ろしながら、廊下の向こうを見つめた。

 

 

はるか(今の人……)

はるか(パワプロさんを見た瞬間、顔が変わった……)

 

あおい「……怪しい」

あおいは小さく呟いた。

あおい「絶対、怪しい」

 

パワプロ「え?なにが?」

 

あおい「いや、パワプロくんは気にしなくていい」

 

パワプロ「???」

パワプロは最後まで首をかしげていた。

 

その頃――

廊下の角を曲がったところで、倉橋彩乃は壁に手をついていた。

 

彩乃「……っ」

彩乃(見ちゃった……)

彩乃(パワプロ様の顔……)

彩乃(あんなところで……)

彩乃(しかも……憎き七瀬さんと一緒……)

彩乃(……なんなのよ……胸がうるさい……!)

 

倉橋彩乃は、耳まで赤くなっていた。

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