恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
吐く息が、白い。
恋恋高校のグラウンドは霜で固くなり、
朝の土はまるで石みたいに冷たかった。
それでも――
パワプロたちは、いつも通り練習をしていた。
パワプロ「よし!声出していくぞー!」
部員たち「おーっ!!」
矢部「寒すぎでやんす……!」
はるか「ふふ……でも、皆さんちゃんと動けてます。すごいです」
《パワプロの根性 発動》
パワプロ「冬はね!体作りの季節だから!」
パワプロ「ここで走れるチームが、来年の夏に勝てるんだ!」
パワプロはそう言いながら、スパイクで土を踏みしめる。
〜同じ冬・あかつき大附属高校〜
守「……」
雪がちらつく朝。
誰もいないブルペンに、ひとりだけ立つ影があった。
猪狩守。
グラウンドが開く前。
部員が来るより早く。
先生が来るより早く。
守は、もう投げていた。
シュッ――
ズドン!!
ミットに突き刺さるような音。
守「……っ」
息を吐いて、またボールを握る。
守(――あの一打席)
守(あのホームラン)
守(僕は、負けた)
守の脳裏に、何度も同じ光景が焼き付いていた。
恋恋高校。
軽いノリで勝負を挑んできたくせに――
当たり前みたいに猪狩の球を捉えた男。
守(……パワプロ)
守は歯を食いしばって、さらに投げる。
シュッ――
ズドン!!
守「もう一球」
シュッ――
ズドン!!
汗が滲む。
守の指先は赤く、皮は切れかけていた。
それでも止めない。
守(僕は天才なはずだ)
守(……しかし)
守(天才なんて言葉で済ませるなら、僕は勝てていたはずだ)
守は、投げ終えるとその場で腕立てを始めた。
1、2、3――
回数なんて数えない。
限界までやる。
終わったら、すぐにラン。
校舎の周りを、ただ黙って走る。
息が苦しくても、足が重くても。
守(勝ちたい)
守(勝ちたい)
守(勝ちたい……!)
冬の朝、耳が痛くなるほど冷たい風の中。
守は、顔を上げる。
守(僕は、負けたままじゃ終われない)
あかつき大附属高校の練習が始まっても、守は手を抜かなかった。
投げ込み、走り込み、筋トレ。
フォームの確認。
投球の再現性。
変化球も、磨き直す。
守「スライダー……もっと鋭く」
守「フォーク……落ちる位置を、あと半個分……」
他の部員が帰った後も、守は一人、ブルペンに残る。
あかつき先生「猪狩。そろそろ帰れ」
守「……まだです」
あかつき先生「無茶するな。壊れたら意味がない」
守「壊れない範囲で、限界までやります」
あかつき先生「……そうか」
猪狩の本気の表情を見て、あかつきの先生はそれ以上何も言わなかった。
そしてある日…
守「……これなら」
守(これなら、あいつのバットを――)
守の口元が、ほんの少しだけ吊り上がる。
―― 能力データ ――
猪狩守
【球速】147km/h
【コントロール】150C
【スタミナ】110B
【変化球】スライダー3/カーブ2/フォーク2
【投手特殊能力】安定度4/ピンチ4/リリース○
〜恋恋高校・放課後/校門前〜
冬のある日。
猪狩守は、恋恋高校に来ていた。
ざわざわ……。
校門の前に、見知らぬ男子生徒が立っていると――
女子率の高い恋恋高校では騒ぎになる。
女子A「え、他校の男子……!?しかもイケメン……」
女子B「えっ、あの人有名な人じゃない?野球の……!」
女子C「怖いくらい目が鋭い……」
他校の制服で凛とした立ち姿。
近寄りがたい空気。
でも本人は気にしていない。
守「……ここか」
守は、グラウンドを見つめて――
そのまま中へ入っていった。
〜恋恋高校グラウンド〜
矢部「ややややばいです!猪狩守がきたでやんす!!」
飛び込んできた矢部くんが、震えた声で叫ぶ。
パワプロ「えっ!?猪狩!?」
パワプロが顔を上げた瞬間――
守「……居たな、パワプロ」
空気が変わる。
ざわめきが、一気に静まった。
はるか「……!」
はるかちゃんは目を見開いて、思わず息を呑む。
はるか「恋恋高校に……他校の男の子が来るなんて……」
あおい「めちゃめちゃ目立ってるね……」
あおい(でも、肝心のパワプロくんと猪狩くんは全然気にしてなさそうだけど……)
守はゆっくり歩いてきて、パワプロの前で止まる。
守「前回の仮を返しにきた」
守「今度こそ……勝負をつけよう」
その声は低くて、静かで。
でも、中身は熱かった。
パワプロの胸も、勝手に熱くなる。
パワプロ「おお!来たね!猪狩!」
パワプロ「よし、じゃあやろうか!」
守がマウンドに立つ。
パワプロは、左打席に入る。
矢部「うわぁ……またもや始まるでやんす……!」
あおい「当然のように、始まったね……」
はるか「……ふ、二人とも……怪我だけは……」
守「……一打席じゃない」
守「今日は、決着がつくまでやる」
パワプロ「いいね!よしっ、いつでもいいよ」
《パワプロの威圧感 発動》
守は静かに息を吸って、パワプロを見据えた。
守「――行くぞ」
パワプロ「来い!」
1球目
ギュオオオッ――!!
矢部「速っ……!!」
あおい「……前より速い」
はるか「……っ」
パワプロの視界に、白い線が走る。
パワプロは振り遅れないように、身体を反応させる。
カァン――!!
打球は三塁側へ、鋭いファール。
矢部「ファールでやんす!」
守「……」
守の眉が、ほんの少し動いた。
守(初球で当てた……)
守(でも、詰まってる)
守(次だ)
2球目
守の指先が、少しだけ変わる。
ククッ――
ギュンッ!!
矢部「うわ、スライダーでやんす!」
パワプロのバットが空を切る……と思った瞬間。
カツンッ!!
またファール。
今度は一塁側。
パワプロ(……曲がり、鋭いな)
パワプロ(でも……まだ間に合う)
守(……っ)
守の目が、一段鋭くなる。
守(前回の僕なら、これで終わってた)
守(でも、今の僕は違う)
3球目
ストレート。
真っ向勝負。
ギュオオオッ!!
――速い。
冬の空気を裂く音がする。
《パワプロの粘り打ち 発動》
パワプロは踏み込む。
カァンッ!!
打球は、一塁線にいき……またファール。
矢部「またファールでやんす!!」
あおい「……ギリギリのカットだね」
はるか「……パワプロさん……」
パワプロはバットを握り直す。
パワプロ(……やばい)
パワプロ(ちょっと鈍ってるな、俺)
思い返す。
最近、打ってたのは――
あおいちゃんの球と、バッティングセンターの高速ストレート。
速い球に触れてはいた。
でも――
猪狩守の球は、別物だった。
球が生きてる。
伸びる。
押してくる。
パワプロ(でもさ、だからこそ……燃える)
4球目
猪狩守の腕が振られる。
カクン――
フォーク。
鋭く落ちる。
矢部「フォークでやんす!」
パワプロは反射でバットを止めた。
……と思った瞬間。
ボールは、ストンとストライクゾーンに落ちてきた。
パワプロ「……うわっ」
《パワプロの粘り打ち 発動》
慌てて当てにいく。
カツンッ!!
これもファール。。
守(……)
守(今のは釣れたのに)
守(それでも当ててくるな……!)
守の喉が、小さく鳴る。
5球目
守は、表情を変えずに投げた。
ギュオオオッ――!!
ストレート。
今までで一番強い。
パワプロ(……来た)
パワプロの身体が、思い出す。
高速帯の感覚。
腕の振り。
球の伸び。
回転の質。
あおいの球とも違う。
マシンとも違う。
パワプロ(遅れない)
パワプロ(今なら――)
《パワプロのパワーヒッター/広角打法 発動》
踏み込む。
振り切る。
キィィン!!
乾いた音が、冬のグラウンドに突き刺さった。
あおい「え……」
打球は一直線。
センター方向へ伸びて、伸びて――
フェンスに近づく。
部員たち「うおお……!」
守「……っ」
そして――
フェンスを、越えた。
パワプロ「よっしゃあ!!」
パワプロ「ホームラン!!」
矢部「また打ったでやんす!?!?」
あおい「……うそでしょ……」
はるか「……す、すごい……」
部員たち「おおお、さすがパワプロだ!!」
守は、マウンドの上で固まっていた。
拳が震えている。
守(……速くした)
守(曲がりも深くした)
守(それでも……)
守「……なぜだ」
パワプロはバットを肩に乗せて、マウンドへ向かって笑った。
パワプロ「猪狩、めっちゃ強くなってるよ!」
守は、マウンドの上で固まっていた。
拳が震えている。
悔しさを押し殺すみたいに、爪が食い込んでいた。
守「……ッ」
パワプロ「やっぱ猪狩の球、最高だな!!」
守「……は?」
守の眉が、ピクリと動く。
守(ボクの球を褒める? ホームランを打った直後に?)
パワプロは何事もなかったみたいに、にっこり笑った。
パワプロ「でもさ」
パワプロ「今のストレート、ちょっとだけ惜しい!」
守「……惜しい、だと?」
パワプロ「うん。回転は良いのに、最後の伸びがほんの少し足りない気がするんだよ」
守「……」
矢部「えっ、あの球で惜しいでやんすか!?」
守はゆっくり息を吐き、パワプロを睨む。
パワプロ「猪狩、手首の使い方次第でもっとキレが出ると思うんだよ!」
守「…………」
守「お、おい」
守「僕は敵校だぞ!?」
矢部「またパワプロくんの野球教室が始まったでやんす……」
パワプロ「えー?だってさ」
パワプロ「野球って、みんなでやった方が楽しいじゃん!」
パワプロ「ライバルも強い方が燃えるだろ?」
守「……」
守は言葉に詰まる。
パワプロ「猪狩は俺のライバルだからね!」
守「僕の……ライバル……」
守の胸の奥が、じわっと熱くなる。
守「……しかし!」
守は顔を上げて叫ぶ。
守「お前たちもいいのか!?他校の僕がアドバイスを受けてしまって!!」
矢部「パワプロくんは野球馬鹿だから仕方ないでやんす」
あおい「うん。ボクも別に構わないよ」
守「な……」
はるか「……ふふ」
守は一瞬だけ視線を逸らし、口の中で言い直す。
守「……そもそも、どうして僕にアドバイスができる」
守「お前はピッチャーについて……」
パワプロ「俺のメインポジションはピッチャーもだからね!」
守「なんだと……!?」
守の目が、すっと細くなる。
守「パワプロ」
守「次は僕がバッターをやる」
パワプロ「おっ、いいね!」
パワプロ「じゃあ俺が投げるよ!」
パワプロ「俺以外にキャッチャーいないから、またもや後ろはネットになるけどね!」
守「構わない」
〜パワプロ vs 猪狩守〜
パワプロ「よーし!じゃあいくよ!」
《パワプロの威圧感 発動》
矢部「うわ、また圧が出たでやんす……!」
守(この空気……)
守(やはり、投手としても相当……)
パワプロは、軽く踏み込む。
――ギュオオオオッ!!
一直線の白球が、冬の空気を裂いた。
守は見送る。
ズドン!!
ボールはネットに吸い込まれた。
《パワプロのノビ○/重い球 発動》
守(……速い)
守(150近い……いや、それ以上に重い)
パワプロ「猪狩!今のストライクでいいよね!?」
守「あ、ああ……」
守は喉が渇くのを感じた。
パワプロ「じゃあ次行くね!」
2球目
パワプロは、全く同じフォームで投げる。
《パワプロのキレ○/リリース○ 発動》
守(リリースは同じ。ストレートだ!)
しかし。
クククッ――
ギュン!!
ボールが途中で逃げた。
ブォン!!
守のバットは空を切る。
守「……ッ!?」
矢部「高速スライダーでやんす!!」
あおい「速っ……!」
守「……140は出ていたぞ……!」
パワプロ「ツーストライクだね!追い込んだよ!」
守「くそっ……!」
守は歯を食いしばる。
守(フォームが変わらない)
守(見分けられない……!)
3球目
パワプロが、少しだけ指の掛かりを変えた。
《パワプロのジャイロボール 発動》
ギュルルルル……!!
ボールが、まるで押してくるみたいに伸びる。
守「……!」
ブォン!!
また空振り。
守「バカな……!」
守「球が……手前でポップしたぞ……!?」
あおい「パワプロくんの得意球だね!」
パワプロ「よし、三振!」
パワプロ「また俺の勝ちだね!」
恋恋メンバー「おおおおお!!」
矢部「さすがパワプロくんでやんす!!」
守は、悔しそうに拳を握る。
守「……もう一度だ」
パワプロ「うん、いいよ!」
守「もう一度勝負させてくれ!」
パワプロ「何度でもやろう!」
その後――
パワプロと守は、投打交代しながら何度も勝負した。
冬とは思えない熱がグラウンドに立ち上っていく。
矢部「練習のテンションじゃないでやんす……!」
あおい「二人だけで試合してる……」
はるか「……見てるだけで、胸が苦しくなるくらい真剣ですね……」
そして。
投げたり打ったりを交互に繰り返しながら、最後の勝負が終わった時。
守は、肩で息をしていた。
守「……はぁ……はぁ……」
パワプロも汗を拭って、笑う。
パワプロ「猪狩、凄いな!」
パワプロ「俺にここまで対抗できるとは思わなかったよ!」
守「……何を言っている」
守は息を整えながら、まっすぐ返す。
守「半分以上はヒット性の当たりだったぞ」
パワプロ「でもさ!」
パワプロは嬉しそうだった。
パワプロ「俺のバッティングを半分も抑えるって凄いことだよ!」
パワプロ「全部ホームランのつもりだったのに!」
矢部「とんでもない発言でやんす!!」
あおい「その感覚がもう化け物なんだよ……」
守「……」
守は小さく笑いそうになって、すぐに表情を引き締めた。
守(こいつ……)
守(本当に、楽しそうに野球をする)
守「ふん……。どうやら……この天才猪狩守の前に強力なライバルが現れたようだな。」
守「……次はこうはいかない。覚悟しておけ」
⸻
(おまけ:その頃の倉橋彩乃)
彩乃「……今日、グラウンドが騒がしいと思ったら……」
彩乃「……他校の男子?」
彩乃「……ふん。どうでもいいですわ」
(数分後)
彩乃「えっ?……パワプロ様もいる……?」
彩乃「………………えっ」
彩乃「見に行きますわ!!!!」
猪狩守との勝負終了後・・・
彩乃「やっぱりパワプロ様は素敵ですわ……」