恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
〜12月・放課後/部室〜
ストーブの前に部員たちが集まり、吐く息が白く混じる。
矢部「……よし。でやんす」
矢部が急に真剣な顔で立ち上がった。
矢部「クリスマスくらいは……クリスマスイベントをしたいでやんす!」
パワプロ「なるほど……うーん……いや、いいね!たまにはそういうのも必要だよ!」
矢部「部員でお金を出し合って、部室でパーティーでやんす!」
部員たち「おおー!」
あおい「急だね……」
矢部「しかも、加藤先生に許可も取ってあるでやんす!」
全員「ええ!?」
はるか「矢部さん、やりますね」
矢部「できる男は行動が早いでやんす。じゃあ、買い出し係をペアで決めるでやんす!」
パワプロ「おお!分担した方が早いよね!よし、くじで決めよう!」
はるか「……ペア……」
その言葉に、はるかの胸が小さく跳ねた。
(パワプロさんと……買い出し)
(少しだけ……一緒に行ってみたいかも)
でも、その気持ちを悟られたくなくて、はるかはいつもの柔らかい笑顔を作った。
〜ペア決め(1回目)〜
矢部が用意したくじを、部員たちが順番に引いていく。
最後に残った組み合わせが読み上げられた。
矢部「むふふ。オイラと……はるかちゃんでやんす!!」
はるか「えっ……?」
矢部「紳士がエスコートするでやんす!」
周りがざわっと笑う中、はるかの心臓だけが小さく跳ねた。
(……あ)
(私、今……別の相手を想像してた)
その事実に気づいて、はるかは少しだけ頬を熱くする。
(……そんなの、わがままですね)
はるか「よ、よろしくお願いします……」
でも、声はいつもより少しだけ控えめだった。
矢部(はるかちゃんが、めちゃくちゃ照れてるでやんす!)
あおい「……ねえ、矢部くん」
あおいは、矢部に顔を向けた。
あおい「それ、本当に偶然?」ジトー
矢部「も、もちろん偶然でやんす!」
あおい「……ふーん」
あおいはくじの束をちらっと見る。
矢部の手元を見る。
そして、言った。
あおい「……何か細工してない……?」
矢部「ぎくっでやんす」
パワプロ「え、細工!?」
あおい「さっきから矢部くん、くじ作ってる時だけ妙にニヤニヤしてたし」
矢部「ニヤニヤなんてしてないでやんす!!」
あおい「してた」
矢部「してないでやんす……」
パワプロはくじをよーく見てみた。
《パワプロの選球眼 発動》
パワプロ「矢部くん、これどういうこと……?」
矢部「ば、ばれたでやんす!!」
パワプロ「矢部くん、ダメだよ!」
パワプロ「やり直そう!公平にね!」
はるか「……はい」
はるかはほっとしたように頷きながら、胸の奥で小さく息を吐いた。
〜ペア決め(やり直し)〜
今度は全員で紙を書き、箱に入れてシャッフルする。
はるかも丁寧に自分の名前を書いて入れた。
(もし……当たったら)
(何を話そう……どんな顔をしたら……)
期待していいのか分からないのに、胸が静かに騒ぐ。
箱の中が減っていくたびに、心臓の音が少しずつ大きくなる。
そして――
矢部「残りは――パワプロくんとあおいちゃんでやんす」
パワプロ「分かった!よーし!行こうか、あおいちゃん!」
あおい「わかった。行こうか」
あおい(……パワプロくんとか)
あおい(ちょっと嬉しいの、なんでだろ)
はるかはそのやり取りを見て、静かに微笑む。
はるか(……そっか)
はるか(やっぱり、当たらなかった)
はるかは胸の奥の気持ちをそっと畳んで、二人に声をかけた。
はるか「……よろしくお願いしますね。二人とも」
パワプロ「うん!任せて!」
あおい「うん。パワプロくんが野球道具買わないか、ボクが見張らないとね」
はるか「ふふ……」
小さく笑って、はるかは視線を落とす。
クリスマスパーティーの準備は、動き出した。
〜12月・放課後/ショッピングモール〜
恋恋高校の制服姿のまま、俺とあおいちゃんはショッピングモールの入口に立っていた。
パワプロ「うわー!でっかいなここ!」
あおい「うん。人も多いね」
あおいちゃんの声は、どこか柔らかい。
あおい「迷子にならないでよ、パワプロくん」
パワプロ「大丈夫!……たぶん!」
あおい「たぶんなんだ…」
呆れたようにそう言いながら、あおいは小さく笑った。
中に入ると、クリスマスの飾りと音楽で一気に空気が変わる。
赤いリボン、光るツリー、流れるベルの音。
周りには――カップルが多かった。
手を繋いで歩く男女。
プレゼントを抱える高校生。
写真を撮り合って笑う二人組。
あおい「……」
あおい(……多いな、ほんと)
視線を逸らしつつ、隣を見てしまう。
背が高くて、目立つ男子。
しかも顔が整ってるせいで、通りすがりの視線がやたら刺さる。
女子A「ねえ見て、あの男子、背も高くて格好よくない……?」
女子B「恋恋の制服?男子いるんだ……」
パワプロは何も気づいてない。
パワプロ「よーし!まずは飲み物とお菓子だね!」
あおい「うん、必要なものからかっていこうか」
あおい(……こういうの、本人が気づかないのが一番厄介なんだよなぁ)
でも、あおいちゃんは変にピリピリするのをやめた。
今日は買い出しだ。
変に意識して疲れるのもバカらしい。
あおい「ちょっと!パワプロくん、スーパーはあっちだよ!」
パワプロ「えっ、ごめん!!」
あおい「もう〜!じゃあいこうか」
スーパーのエリアに入ると、パワプロの目がすぐ輝く。
パワプロ「おおお……!」
パワプロ「これめちゃめちゃうまそうだよ!!」
期間限定のチキンコーナー。
香ばしい匂いが漂っている。
あおい「……たしかに」
あおい「でも、先に買うもの決めてからね!」
パワプロ「うん!さすがあおいちゃん!」
あおい「褒めても、何もでないよ!」
でも、あおいは少し口元が緩んだ。
買い物かごを持って歩きながら、俺はどんどん目移りする。
パワプロ「え、ジュースこんな種類あるの!?」
パワプロ「ケーキの飾りすげぇ!」
パワプロ「うわ、チョコ噴水……!」
あおい「……ほんとに忙しい目だね」
パワプロ「だって全部すごいよ!」
あおい「はいはい」
言い方は呆れてるのに、声はちょっとだけ楽しそうだった。
あおい(こういう時のパワプロくん、変な力抜けてて……)
あおい(……嫌いじゃないな)
必要な物が大体揃った頃。
パワプロ「あ、そうだ」
パワプロ「プレゼントっぽく、お菓子詰め合わせも買わない?」
あおい「それ、いいね」
パワプロ「よし!じゃあ予算の範囲でいいやつ選ぼう!」
あおい「……うん」
あおいは短く頷いた。
(なんだろ)
(こうやって一緒に選んでるだけなのに、ちょっと楽しい)
(変な感じ)
通路を歩いていると、ゲームセンターが目に入った。
パワプロ「おおっ、UFOキャッチャー!」
あおい「え、やってくの!?」
パワプロ「いや、そんなにお金ないけどね!でも、ちょっとだけ見ていこうよ!」
あおい「まぁ、いいけど」
歩いていると・・・
「野球プリクラ NEW!」
パワプロ「おっ、野球!?」
あおい「……」
あおい(プリクラ……)
あおい(いや、別に……撮らなくても……)
そう思った瞬間。
店員「すみませーん!そこのお二人!」
パワプロ「え?俺たち?」
店員は笑顔で近づいてきた。
店員「制服だ!お似合いですね!」
あおい「……っ」
あおい(やめて……)
店員「カップルさんですか?」
あおい「ち、ちがいます!」
店員「あっ、ごめんなさーい!」
店員はすぐに切り替えて、営業へ。
店員「このプリクラ、野球モードあるんですよ!スタンプとか応援フレームとか!」
パワプロ「野球モード!?なにそれ!!」
パワプロの目が一気に輝いた。
パワプロ「撮ろう!あおいちゃん!」
あおい「……」
あおいは一瞬迷って、パワプロの顔を見る。
まっすぐで、楽しそうで、子どもみたいな目。
あおい(……こういう顔されると弱い)
あおい「うーん……じゃあ、一回だけね」
パワプロ「よっしゃ!」
〜プリクラ機の中〜
狭いボックスに二人で入ると、自然に距離が近づく。
あおい(……近い)
あおい(でも……まあ、しょうがないか)
画面に映る二人。
パワプロはニコニコしてる。
あおいは最初だけ少し硬い。
パワプロ「どんなポーズにする?」
あおい「野球っぽいのにするなら……ピッチングフォームとか?」
パワプロ「いいね!やっぱりあおいちゃんは投手似合う!」
あおい「あはは。パワプロくんはバッティングでもいいね」
その返しは柔らかい。
カシャッ!
カシャカシャッ!
テンポよく撮影が進む。
パワプロ「あおいちゃん、表情硬くない……?」
あおい「……意外とこういうところで笑顔って難しいなぁ……」
パワプロ「じゃあ俺が、あおいちゃんの真似で笑わせてあげるよ!」
あおい「え?」
パワプロ「矢部くん・・・殴る?(裏声であおいちゃんの真似)」
あおい「……馬鹿にしてる?」
あおいちゃんが小さく笑った。
その瞬間、またシャッターが切られる。
カシャッ。
〜落書きタイム〜
加工画面に切り替わると、野球スタンプだらけ。
バット、ボール、グローブ、ユニフォーム。
パワプロ「うわ、すげぇ!」
あおい「……ほんとに野球だらけだね」
文字を入れる欄が出る。
パワプロ「よし、メッセージも入れよう!」
あおい「え、どんなメッセージ書こう?」
パワプロは迷わず入力した。
『絶対 甲子園優勝しようね、あおいちゃん!』
あおい「……っ」
胸が小さく跳ねた。
(そんなの、真っ直ぐに書くんだ)
ふざけたノリじゃない。
本気の言葉。
あおい(よし。ボクはもう少し控えめな目標だけど・・・)
『来年こそ野球部にして大会に出る!』
パワプロ「いいね!」
パワプロ「最高だよ、それ!」
あおい「……うん!」
プリクラが印刷されて出てくる。
二人で覗き込む。
そこには野球スタンプに囲まれた二人と、
大きく入った文字。
『絶対 甲子園優勝しようね。あおいちゃん!』
あおい「……変なの」
パワプロ「え?めっちゃ良くない!?」
あおい「あはは。うん、良いね」
あおいはプリクラをそっと受け取って、
制服のポケットにしまった。
パワプロ「よし!買い出しも終わったし、戻ろう!」
あおい「うん。帰ろ!」
あおいはいつもの調子で言った。でも、頬は少しだけ温かかった。
胸の奥に残ったのは、さっきのプリクラみたいな、真っ直ぐな言葉。
あおい(……甲子園優勝)
あおい(絶対、叶えたい)
あおいはポケットのプリクラを指先で確かめて、小さく笑った。
〜部室〜
部室を少しでも広くするために、はるかはグローブやバット、ボールケースを部室の外へ運び出していた。
冷たい空気の中で、ドアを開けたその時――
パワプロ「でね!その先生がさ……」
あおい「え、それ面白いね。実はボクも……」
楽しそうな声が、校門から近づいてくる。
振り返ると、買い出し袋を提げたパワプロとあおいが、並んで歩いてきた。
笑い合いながら話す姿は、どこか――カップルみたいで。
はるかの胸が、ほんの少しだけきゅっとした。
パワプロ「――あっ、はるかちゃん!」
パワプロ「ただいま!」
はるか「お帰りなさい。どうでしたか?」
いつも通り、柔らかく微笑んでそう返す。
あおい「もう、大変だったよ。パワプロくん、気になるものがあるとすぐそっち行っちゃうんだから」
パワプロ「え、そうだった!?でも、あおいちゃんも同じ感じだったよ!」
あおい「いや、ボクは違うよ!?」
はるか「ふふ……」
穏やかに笑いながらも、胸の奥で小さな感情が跳ねる。
はるか(……私も、行きたかったな)
でも、その気持ちは声にしない。
ただ、そっと胸にしまった。
クリスマスパーティーが始まると、部室は一気に賑やかになった。
ジュース、チキン、お菓子、笑い声。
席を探していると――
たまたま、パワプロの隣が空いているのが見えた。
はるか(……ちょっとくらい、いいよね)
そう思って、急いで腰を下ろす。
パワプロ「あ、はるかちゃん!そこ寒くない?」
はるか「だ、大丈夫です」
距離は近いけど、触れないくらい。
それが、少しだけ心地よかった。
笑って、食べて、他愛ない話をして。
気づけば、楽しい時間はあっという間に過ぎていた。
パーティーの終わり。
はるかは片付けをしながら、そっと思う。
(……今日、楽しかった)
それだけで、少しだけ胸が温かくなった。
小さなクリスマスの夜は温かな空気で終わった。