恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました 作:肌がキレるティッシュ
桜が風にほどけて、校門のあたりに花びらが溜まりはじめた頃。
恋恋高校は、新入生の声でいつも以上にざわついていた。
そのざわつきの中心には――
《パワプロのモテモテが発動していた》
〜放課後/校舎の廊下〜
新入生の女子たちが、廊下の端で集まって小声を交わしている。
新入生女子A「ねえ……見た?」
新入生女子B「見た……恋恋のグラウンドの……」
新入生女子C「キャプテンのパワプロ先輩だよね」
新入生女子D「背、やばくない?制服でも分かる肩幅……」
新入生女子E「顔が……普通に……ずるい……」
新入生女子F「なのに笑うと子どもっぽいの、反則」
別の輪からも声が飛ぶ。
新入生女子G「投げてるの見た?ネットが揺れるやつ」
新入生女子H「球、見えないのにズドンって音だけする」
新入生女子I「怖いのに、見たい……」
新入生女子J「しかも優しいって噂」
〜放課後/グラウンド前〜
フェンスの外に、見学の列ができていた。
しかも、ほとんど女子。
新入生女子A「うわ……ほんとにいた……」
新入生女子B「近いと、さらに顔が良い……」
新入生女子C「横顔がさ……漫画」
新入生女子D「待って、声もいい」
新入生女子E「なんか、ずっと楽しそうに野球してない?」
新入生女子F「楽しそうなのに、たまに目が本気で……それが怖かっこいい」
新入生女子G「怖いのに可愛くてかっこいいの、ずるい」
グラウンドの中心で、パワプロはアップから流れるように投球に入る。
シュッ――
ズドン!
ネットが揺れ、乾いた音が響く。
新入生女子H「今の……音……」
新入生女子I「球が来る前に音がした気がする……」
新入生女子J「投げ方、きれい……」
新入生女子K「手首の返し……なにあれ……」
続けて、バッティング。
キィィン!!
打球が伸びるたび、フェンスの外が小さくざわめく。
新入生女子L「当たった瞬間の音が違う……」
新入生女子M「しかも、打った後に喜んでるの、かわいくない?」
新入生女子N「かわいいのに、体格が強いのが……」
矢部が、フェンスの外の群れを見て目を輝かせる。
矢部(来たでやんす……!)
矢部(ついにこの人数……オイラの時代でやんす!!)
矢部「見学歓迎でやんすよー!!質問あるでやんすかー!!」
新入生女子たち「……」
(視線、全員パワプロ)
矢部「……やんす?」
パワプロがフェンスの方に気づいて、手を振った。
パワプロ「おっ!見学?こんにちはー!」
新入生女子たち「「「こんにちは!!」」
新入生女子A「手、振った……」
新入生女子B「笑った……」
新入生女子C「やばい、こっち見た」
新入生女子D「目が合った気がする」
新入生女子E「気がするだけで死ぬ」
誰かが思い切って声を出す。
新入生女子F「あの……パワプロ先輩と……話したいです……!」
パワプロ「いいよ!」
パワプロ「野球の話だよね?うまくなりたいの?」
新入生女子F「……え、いやあの……」
新入生女子G「私も……相談したいです!」
パワプロ「おお、やる気あるね!2ストライクに追い込まれてからの粘り方の相談とか?」
新入生女子H「パワプロ先輩って、普段何をされているんですか?」
パワプロ「どんな練習してるかってことだよね。えっとね・・・」
矢部「全部、野球の相談に変換されてるでやんす……!」
〜あおいとはるか〜
少し離れたところで、あおいとはるかが見学の列を眺めていた。
はるか「……すごい人数だね」
あおい「……うん。すごい」
はるか「入ってくれたら、部員不足は解決しそうだけど……」
あおいは、フェンスの外をじっと見て、短く息を吐く。
あおい「でも、入るだけだとダメだよ」
あおいは、パワプロが新入生に丁寧に話しているのを見ながら、少しだけ眉を寄せた。
あおい(ああいうの、優しいというか甘いというか……)
あおい(それに、なんかちょっとイライラするし……!)
〜体験練習〜
パワプロ「よーし!じゃあ体験練習やろう!」
パワプロ「キャッチボールできる人はこっち!」
新入生たちが集まる。女子が多い。
パワプロ「最初は怖いよね!大丈夫!」
パワプロ「投げる時はこう、胸の前から――」
新入生女子A「はい……!」
(投げたボールが転がる)
パワプロ「ナイス!今のは投げる第一歩だね!大丈夫、ここからだよ!」
新入生女子A(ナイスって言われた……!)
新入生女子B「私も……!」
(すっぽ抜ける)
パワプロ「おっと!でもいいよ!フォームはこれから!」
新入生女子B(パワプロ先輩が近い……!)
矢部「なんか、全部刺さってるでやんす……!」
しばらくして、入部希望の声が増え始める。
新入生女子C「入ってみたいです!」
新入生女子D「マネージャーも募集してますか?」
新入生女子E「私、なんとなく……楽しそうで……!」
その女子たちの発言に、あおいの眉を動かした。
あおい「……ちょっといい?」
あおいが前に出ると、空気が変わる。
新入生たちが一斉に背筋を伸ばした。
あおい「入部希望、いる?」
新入生たち「は、はいっ!」
あおい「でも、恋恋野球部は遊びじゃないよ」
あおい「甲子園を目指すんだ」
新入生女子E「……甲子園……」
あおい「厳しい練習もするよ」
新入生たちが、少し黙る。
あおい「だから――入部テストしようかパワプロくん」
パワプロ「え、テストなんているかな?初心者も多いみたいだし」
あおい「初心者でも、最低限の運動神経はいるよ」
パワプロ「うーん、まぁたしかに……」
〜入部テスト〜
グラウンドでテストが始まった。
内容はシンプル。
・10mキャッチボール
・ゴロ捕球
・素振り、スイングチェック
・簡単なルール確認
・最後に続ける覚悟を聞く
まずキャッチボール。
新入生女子A「……こ、怖い……!」
(目をつぶって投げてしまい、ボールが明後日に転がる)
新入生女子B「グローブ、どっちの手ですか……?」
新入生女子C「ボール当たったら痛いですか……?」
はるか「……」
はるかは苦笑いに。
あおい「……」
あおいの目は、すっと冷たくなる。
ゴロ捕球。
新入生女子D「わっ!」
(避ける)
素振り。
新入生女子E「えっと……バット、重い……」
(腰が引けたスイング)
ルール確認。
新入生女子F「アウトって……3回で……?」
新入生女子G「ファウルって、何回でアウトですか……?」
パワプロ「まあまあ、ルールは後からでも――」
あおい「パワプロくん」
パワプロ「ん?」
あおい「最後の質問、やるよ」
あおいは新入生たちを見て、まっすぐ言った。
あおい「試合に出られなくても、毎日練習する」
あおい「最初は上手くいかなくても、怒られても、走りつづけなくちゃいけない」
あおい「そういう努力ができる?」
あおい「できる人だけ、残って」
静かになる。
何人かが、視線を逸らす。
「え、そこまで?」という空気が混じる。
新入生女子H「……週1とかじゃ、だめですか……?」
新入生女子I「日焼けしたくないので……」
新入生女子J「なんか質問が怖い……」
あおい「……じゃあ、合わないと思う」
ぱらぱらと、人が引いていく。
残ったのは、ほんの少し。
新入生女子K「……私、ルール分からないけど」
新入生女子K「覚えます。走ります。やります」
あおい「……」
あおいは、ほんの少しだけ笑って言う。
あおい「うん、一緒にやろうか!」
パワプロ「おっ!いいね!」
〜その後〜
入部テストの噂は、良い意味で広がった。
「恋恋野球部、ちゃんと本気らしい」
「厳しいけど、真面目にやってる」
それを聞いて来たのは――
今度は男子が多かった。
男子新入生A「ここ、試合に出れなくても一生懸命に練習してるって聞きました」
男子新入生B「俺、そういうとこでやりたいです」
男子新入生C「弱いところから勝つのも面白そうですね」
パワプロ「おお!よし!一緒に強くなろう!」
あおい「……やっと、まともな勧誘になってきたよ」
はるか「ふふ……はい」
こうして部員は一気に増えていき――
恋恋野球部は、ついに9人(マネージャー1人)から22人へ。
加藤先生「……よく頑張ったわね。野球部として申請しておくわ」
加藤先生「ただし、部活動承認は予算の関係で認められないことも多いから、あまり期待しないでね」
〜その数日後〜
加藤先生「……なぜかあっさりと部活動承認が通ったわ!!」
全員「……!!」
パワプロ「やったぁ!!」
矢部「ついにでやんすー!!」
あおい「……スタートラインだね」
はるか「ここから、ですね」
春のグラウンドに、喜びの声が響いた。
恋恋高校野球部は、ようやくスタートした。
(おまけ:野球部に認められる直前の倉橋彩乃)
彩乃「……まったく。野球部がまだ正式に認められていないなんて……」
彩乃「パワプロ様があれほど素晴らしい投球をなさるのに……」
彩乃「……ありえませんわ」
〜理事長室〜
彩乃「……おじいさま。少しお時間、よろしいかしら?」
理事長「おお、彩乃か。珍しいな」
彩乃「……学校の発展について、少し提案がございますの」
理事長「ほう?」
彩乃「現在、我が校には正式な野球部が存在しておりませんわよね?」
理事長「うむ。まだ男女共学になったばかりだしな」
彩乃「ですが――」
彩乃「才能ある生徒がいるとしたら?」
理事長「ほう?」
彩乃「もし、その生徒が大会で結果を出せば……学校の名も上がりますわ」
彩乃「入学希望者も増え、スポンサーも――」
理事長「……ふむ」
彩乃「……わたくし、あの方なら出来ると確信しておりますの」
理事長「ずいぶん肩入れしておるな」
彩乃「べ、別に特定の誰かのためではありませんわ!」
彩乃「これは学校の未来のためですの!」
理事長「……はっはっは。なるほどな」
(数日後)
掲示板
『野球部、正式承認』
彩乃「……ふふ」
彩乃「当然の結果ですわね」
彩乃「……パワプロ様は、わたくしが支えますもの」
〜放課後/職員室〜
加藤先生「……よし。練習試合、組めたわよ」
パワプロ「えっ、ほんとですか!?」
矢部「つ、ついに試合でやんすか!!」
あおい「相手はどこですか?」
加藤先生「バス停前高校」
はるか「バス停前……高校……?」
矢部「名前がもう弱そうでやんす」
加藤先生「コラコラ。言い方」
加藤先生は咳払いして、紙を机に置いた。
加藤先生「まぁ、実際とてつもなく弱小校って聞いたわ」
加藤先生「でもこっちも同じ扱いだからね。他に練習試合を受けてくれないのよ」
パワプロ「……」
パワプロは一瞬だけ、言葉を選んだ。
パワプロ「……でも油断はしないです」
パワプロ「恋恋は試合、初めてですから」
あおい「うん」
あおい「実際、部になったのは先月だし、うちより弱いところなんてないって思って、万全で行こう」
矢部「自虐が重いでやんす!」
はるか「でも……そのくらい慎重な方が安心です」
加藤先生「そう。いい心構え。頑張ってね」
パワプロ「はい!」
〜試合当日・朝/バス停前高校グラウンド〜
バスが止まる。
……グラウンドの目の前で。
矢部「ほんとにバス停前でやんす!!」
あおい「うーん。校名に嘘がないね……」
グラウンドは、土がところどころ剥げていて、ベースの白も薄い。
ネットは少し破れていて、バックネットの支柱は斜め。
でも――
恋恋メンバーはいつも通り、アップを始める。
パワプロ「よし!声出していこー!」
部員たち「おーっ!!」
はるか「本日のスタメン表、こちらです。先生、確認お願いします」
加藤先生「ありがとう、はるかさん。完璧ね」
〜相手校のアップ〜
ふと、相手チームに目をやる。
相手部員A「おい、グローブって右?左?」
相手部員B「ボール硬くね?これって硬球ってやつ?」
相手部員C「え、キャッチャーって痛くないの?防具ないんだけど」
相手監督「……えーと、とりあえず並べ!並べ!」
あおい「……」
はるか「……」
矢部「……」
パワプロ「……」
全員、黙った。
あおい「……ねえ、パワプロくん」
パワプロ「うん……」
あおい「……ガチで弱いかも」
矢部「かもじゃないでやんす……ほぼ素人集団でやんす……!」
はるか「で、でも……。きっと事情が……」
あおい「うん。分かってる」
あおいは小さく息を吐いて、目を開いた。
あおい「……試合は試合だよね」
《パワプロのいいやつ 発動》
パワプロ「もちろん」
パワプロ「相手がどんなでも、礼儀は変わらない」
〜試合開始〜
両校整列。
相手主将「バス停前高校、よろしくお願いしまぁす……!」(声が小さい)
恋恋主将――パワプロが一歩前に出る。
パワプロ「恋恋高校、よろしくお願いします!!」
部員たち「お願いします!!」
相手チームが、びくっと震えた。
相手主将「うわ、声で負けた……」
矢部「そこからでやんすか!?」
1回表:恋恋の攻撃
先頭打者、矢部。
矢部「よーし!オイラの俊足巧打が火を噴くでやんす!」
相手投手は……なぜか山なりで投げた。
ボールがふわ〜っと来て――
矢部「……え?」
ポコン。
矢部のバットの先に当たって、内野のど真ん中へ転がる。
相手二塁手「うおっ!?」
(ボールを取ろうとして、グローブを逆に出す)
ボールが、股の下を抜けていく。
矢部「えっ!?走るでやんす!!」
普通に一塁セーフ。
矢部「巧打が光って、出塁したでやんす!!」
あおい「……いや、今のエラーだよね……」
はるか「エラー……ですね」
そして次の打者が打つたび、同じことが起きる。
・ボールが取れない
・カバーがいない
・サインが伝わってない
・そもそも守備位置がズレてる
あおい「……」
あおい「……ちょっと、これ……」
パワプロ「うん」
加藤先生も、顔が引きつっていた。
加藤先生(……これは……練習試合というか……)
気づけば――
1回表で10点。
矢部「これ、試合というより、両チームともがほぼ走塁練習でやんす……!」
あおい「……相手がかわいそうになってきた」
はるか「……はい……」
1回裏:恋恋の守備
あおいがマウンドに立つ。
あおい「……よし」
パワプロ「無理しないで、力抜いていこう」
あおい「分かってる」
相手の先頭打者。
構えが、怖い。
相手打者「えっと……バットって、こう持つんだっけ?」
あおいのストレート。
シュッ――
相手打者「うわっ!!」
相手ベンチ「おおおおお!!打ったぁ!!」
しかし、バントみたいに当たって、ボテボテのゴロ。
あおいの目の前に転がる。
あおいが普通に処理して――一塁へ。
アウト。
あおい「……」
あおい(……これ、全力で投げたら危ないかも)
次の打者は、空振り三振。
次の打者は、見逃し三振(ストライクが分からず固まってた)。
あおい「……三者凡退」
相手ベンチ「お前、バットに当たったのすげえなぁ!」
矢部「相手が凡退して喜んでるでやんす……!」
パワプロ「……よし」
パワプロはベンチに戻る途中、相手監督に小声で声をかけた。
パワプロ「……もしよかったら、途中でルール確認とか、守備位置の確認、入れます?」
相手監督「……え?」
相手監督の目が潤んだ。
相手監督「……すまん……頼む……」
あおい「……パワプロくん」
あおいはちょっと呆れた顔で言う。
あおい「相手にまで教えるの?」
パワプロ「うん」
パワプロ「だって、試合にならないと俺たちも練習にならないし」
矢部「聖人でやんすか……!」
あおい「まったく、変わらないなあ」
はるか「……ふふ」
〜2回以降:試合という名の合同練習へ〜
ルールが少し変わった。
恋恋は盗塁禁止
強い打球(長打)狙い禁止(基本は転がす)
守備は声出し・カバー・中継を徹底して練習
バス停前高校は守備位置と基本動作をその都度確認して進行
矢部「またもや熱血野球教室になったでやんす……!」
はるか「はい……でも、相手校の心が壊れなくて済みますね」
矢部「他校もマネジメントしてるでやんす……!」
~試合結果~
恋恋高校 18 — 0 バス停前高校
相手主将「……ありがとうございました……!」
相手主将「俺たち、今日めちゃくちゃ恥ずかしかったけど……」
相手主将「……でも、ちょっと楽しかったです」
パワプロ「うん!」
パワプロ「次は良い試合をしよう!」
相手主将「……はい!!」
~試合後・恋恋ベンチ~
矢部「勝ったのに、達成感が変な方向でやんす……!」
あおい「まぁ、いいじゃん。初試合で勝てたし」
パワプロ「うん」
パワプロ「次だね。次はちゃんと強い相手とやろう!」
加藤先生「……そうね。次こそ良いところと組めるようにするわ」
はるか「課題、まとめました。今日の反省会用です」
矢部「準備が良すぎるでやんす!!」
パワプロ「よーし!」
パワプロ「じゃあ、帰ったら反省会して、明日からまた練習だ!」
部員たち「おーっ!!」
あおい「こんな時でも……相変わらず元気だね」
はるか「ふふ……でも、頼もしいです」