恋恋高校に高性能なパワプロくんが入学しました   作:肌がキレるティッシュ

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2年生 夏②

恋恋高校は、勢いのまま勝ち上がっていった。

 

2回戦。

あおいが先発で流れを作り、途中からパワプロが継投。

ストレートとジャイロ、チェンジアップの3球種だけで押し切り、終盤は矢部の俊足が効いて追加点。勝利。

 

3回戦。

今度はパワプロが先発で相手打線をねじ伏せ、あおいが最後を締める。

ミスは出る。けど、崩れない。

ベンチの声も、守備の動きも、少しずつ試合の形になっていった。

 

~3回戦試合後~

 

部員A「……俺たち、強くない?」

部員B「え、マジでいけるんじゃ……?」

 

矢部「オイラ、もう恋恋旋風感じてるでやんす……!」

 

パワプロ「だよね!?よーしっ!このままいくぞー!」

 

あおい「……まったく。すぐ調子に乗るだから!」

口ではそう言いながら、表情は明るい。

 

加藤先生「ふふ。良い雰囲気ね」

 

はるか「はい。本当に良い雰囲気です」

はるかは笑顔でスコアブックを閉じた。

 

〜そして、4回戦(地方予選)〜

 

相手校名が出た瞬間。

恋恋ベンチの空気が、ぴたりと止まった。

 

あかつき大附属高校。

 

矢部「……む、無理でやんす……」

矢部「相手、やばすぎでやんす……!!」

 

矢部の顔は青い。

なにせ相手は――

 

あかつき黄金世代と呼ばれる3年レギュラー陣。

そして、2年にしてエース。

猪狩守。

 

あおい「……来たね」

あおいの声が、少し低くなる。

 

パワプロ「うん。来た」

パワプロは笑っているのに、目だけが本気だった。

 

はるかはスコアブックを抱え直す。

指先が冷える。でも、逃げない。

 

はるか(ここが、本当の勝負……)

 

〜あかつき大附属高校・ベンチ前〜

 

猪狩守は、ユニフォームの袖を握りしめていた。

頭の中に、何度も何度も蘇る光景がある。

 

――冬の恋恋グラウンド。

――あのホームラン。

 

守(今度こそ……勝つ)

 

守は捕手の方へ歩いた。

そこにいるのは、3年の正捕手――二宮先輩。

 

守「二宮先輩」

 

二宮「なんだ、猪狩。お前から話しかけてくるなんて珍しいな」

 

守は一呼吸置いて言う。

守「……最初から全力でいきます」

 

二宮「はっ!猪狩が珍しいじゃねぇか」

二宮「なんだ、ビビってんのか?」

二宮「恋恋なんて大したことねぇだろ。知らねえけど」

 

守「……」

 

守は、まっすぐ続けた。

守「僕と同じ2年ですが、パワプロというピッチングもバッティングも異常にうまい奴がいるんです」

守「二宮先輩でも……打てないかもしれません」

 

二宮「……んだと?」

二宮の目がギラつく。

 

二宮「お前より俺の方がバッティングはできんだよ」

二宮「お前のバッティングと同じにすんなよ」

 

二宮は顎で七井の方を示す。

二宮「七井もいるしな」

 

七井=アレフト「そうだネ」

七井=アレフト「軽く打ってやるヨ」

 

守「……わかりました」

守「よろしくお願いします」

 

守は帽子のつばを押さえ、グラウンドを見た。

守(たしかに、先輩方となら勝てるはずだ)

 

そして――

守の胸の奥の炎は、強くなる。

守(勝つ)

守(今度こそ、勝つ……!)

 

〜試合開始〜

 

地方球場に、審判の声が響く。

「プレイ!」

 

恋恋のスタメンは、これまで通り。

 

まずは――

先発ピッチャー:あおい。

キャッチャー:パワプロ。

 

あおいはマウンドへ向かいながら、小さく息を吐く。

あおい(……相手は強い)

あおい(でも、怖くない)

目の前には、あのミットがある。

 

パワプロ「よし、あおいちゃん」

パワプロ「いつも通りでいこう!」

 

《パワプロのキャッチャー◎ 発動》

 

あおい「……うん!絶対勝とう!」

 

4回戦/1回表 あかつき大附属高校の攻撃

 

先頭打者が打席へ向かう。

外野の一角、スパイク音がやけに軽い。

 

1番打者は八嶋。

 

八嶋はニッと笑って、ホームベースの前で屈伸しながら――

キャッチャーのパワプロに声をかける。

 

八嶋「よろしくねー!」

 

パワプロ「……よろしく!」

 

あおいはマウンドで、静かにサインを見る。

 

あおい(まずは……低め。ストライク先行)

 

パワプロの構えが、地面に吸い付くみたいに安定する。

あおいの腕が迷わない。

 

1球目。ストレート、低め。

ズバン!

 

審判「ストライク!」

 

八嶋「おお……」

 

2球目。シンカー、低め。

ズドン!

 

カウントはあっという間に追い込まれる。

 

八嶋「うわぁ……たしかに、女の子なのにすごい球投げるね」

 

軽口みたいに言いながら、目だけは笑ってない。

 

あおい(……この人、油断してない)

 

あおいはもう一球、低めに集めるつもりで――

腕を振った。

 

――その瞬間。

八嶋が、ふっと構えを変えた。

 

パコン。

 

まさかのセーフティーバント。

打球は三塁線の内側へ、ころころと転がる。

 

三塁手が慌てて突っ込んで、素手でつかむ――

投げようとした時にはもう。

 

タッ!

八嶋は一塁ベースを踏んでいた。

 

審判「セーフ!」

 

恋恋ベンチがざわつく。

 

部員A「は、速っ……!」

 

矢部「オイラより、全然速いでやんす……!」

 

パワプロ「……は、はやい」

パワプロ「足だけなら、俺よりも速そうだ……」

 

あおい「……いきなり俊足ランナー背負うなんて……!」

 

パワプロはすぐにタイムを取って、マウンドへ駆け寄った。

 

パワプロ「あおいちゃん、大丈夫」

パワプロ「仕掛けられても、俺が絶対に刺すから」

パワプロ「クイックだけ意識しつつ、いつも通り投げよう」

 

あおい「うん……そうだね!」

 

八嶋「おーい!聞こえてるよー!」

 

八嶋は一塁で笑いながら、手を広げる。

 

八嶋「面白いね!刺してみなよ!」

 

パワプロ「……望むところだね!」

 

あおい「……煽ってくるなぁ、あの人……」

 

次の打者が静かに打席へ入る。

四条賢二。

キャプテン。

無表情で、ポーカーフェイス。

 

四条「よろしくお願いします」

四条は一言だけ挨拶をして、ただバットを構えた。

 

あおい(……ここで、まず1アウト)

 

あおいがセットに入る。

 

――その瞬間。

一塁ランナー、スタート。

 

あおい(一球目から……!)

 

1球目、ストレート。

真ん中高め――ボール。

 

パワプロは反射で立ち上がる。

 

『パワプロの守備職人/送球◎ 発動』

 

一瞬で握り替えて、二塁へ――

 

……だが。

四条が、走塁妨害にならないギリギリの位置にバットを一瞬残して戻す。

パワプロの視界と右腕の軌道が、ほんのわずかにズレる。

 

パワプロ「……っ」

 

それでも送球は鋭い。

低く、真っ直ぐ、二塁へ突き刺さる。

 

二塁手がタッチ――

審判「セーフ!」

 

ギリギリ。

 

八嶋「っぶねー!!」

八嶋は二塁ベースの上で笑うが、目が真剣だ。

八嶋「マジであのキャッチャー肩いいよ!」

八嶋「次は無理かも……!」

 

パワプロは一瞬だけ口を開きかけた。

(今の、ちょっと守備妨害じゃ――)

 

でも、飲み込む。

 

パワプロ(いや……ここで言っても、審判の印象が悪くなるだけだ)

パワプロ(試合の中で取り返す)

 

その時――

ベンチの端でスコアブックを開いていたはるかが、目を見開いた。

 

はるか(パワプロさんが……)

はるか(盗塁を、許すなんて……)

 

はるかは思わずペン先を止める。

当たり前みたいに刺してしまう人だと思っていた。

だからこそ、今の「セーフ」が信じられなかった。

 

あおいは、グラブを握り直す。

あおい(……切り替えないと)

 

四条は無表情のまま、今度はきっちり仕事をした。

送りバント。

一塁側へ綺麗に転がし、走者が三塁へ。

 

審判「アウト!」

 

1アウト、三塁。

あかつきベンチから、小さく拍手が起きる。

完璧に形を作ってくる。

 

そして――

打席へ向かうのは。

 

二宮瑞穂。

 

二宮はバットを肩に担いだまま、ホームベースの前で軽く土を蹴る。

そのまま、ちらりとキャッチャーを見る。

 

――パワプロ。

二宮(こいつが……猪狩が言ってたパワプロか)

二宮(今キャッチャーやってんのは、余裕のつもりか?)

二宮(なら、すぐに分からせてやる)

二宮(――引きずり下ろして、マウンドに出てこさせる)

 

二宮はニヤッともしない。

ただ、目だけが鋭くなる。

 

パワプロはミットを一度、強く叩いた。

パワプロ(……あおいちゃん、ここだよ!)

 

あおいも頷く。

あおい(……ここ、抑える)

夏の球場の空気が、ぎゅっと締まった。

 

二宮瑞穂。1アウト三塁。

一点が欲しい場面で、あかつきの核が打席に立つ。

 

二宮は無言で打席に入って、バットを軽く回した。

視線はずっと、あおいの手元と、パワプロのミット。

 

パワプロは低く構える。

サインは――ストレート。

あおいは頷いて、セットに入った。

 

1球目

 

パワプロの構えは、低い。

ストライクゾーンの底をなぞる位置。

 

あおいが投げる。

低めギリギリ、ストレート。

 

ズバン――!

 

二宮(……これはわずかに低めのボールだな)

二宮(手を出す球じゃねぇ)

 

審判「ストライク!」

 

二宮「なっ!」

二宮(ちっ……誤審かよ)

 

一瞬、二宮は審判を睨みかけ――

すぐに視線をピッチャーに戻した。

 

2球目

 

今度はシンカー。

落ちる。沈む。ギリギリ。

 

二宮(これもギリギリボール)

二宮(これも手を出すのは早い)

 

ズドン――!

審判「ストライク!」

 

二宮「……っ!」

二宮は反射でパワプロを見た。

 

ミットは、ストライクゾーンの端で止まっている。

動かしていない――ように見せかけて、

ほんの僅かな角度と位置だけで「入ってる」に変えている。

 

二宮(ちっ……フレーミングか)

二宮(動かさないタイプだと思ってたが……)

二宮(ギリギリだけ、ゾーンに置き直すやつだな)

 

パワプロ「ナイスボール!」

あおい「うん!」

 

あおい(……やっぱり投げやすい)

あおい(受け止めてくれるだけじゃなくて、ストライクゾーンを広げてくれる……!)

 

カウント0-2。

二宮が、ふっと息を吐く。

そして、手を上げた。

二宮「タイム」

 

二宮はバットを肩に担いだまま、ベース前で軽く首を回す。

そのまま、捕手へ声を投げた。

 

二宮「よう。パワプロ、って言うんだよな」

 

パワプロ「はい。そうですよ」

 

二宮「本業はピッチャーもやってんだろ?」

二宮「なんで投げねぇんだ?」

 

パワプロは、目を逸らさずに返す。

 

パワプロ「勝つために、今はこれが最適です」

パワプロ「あおいちゃんなら抑えますよ」

 

二宮「……ふん」

 

二宮の口元が、ほんの少しだけ吊り上がる。

 

二宮「おもしれえ」

 

審判「プレイ!」

 

3球目

 

パワプロが出したサインは――カーブ。

だが、コースは少し外しめ。

 

あおいが投げる。

ふわっと落ちるカーブ。

 

審判「ボール」

 

二宮がパワプロを見る。

今度はミットは動いていない。

 

二宮(今回は動かさず、か)

二宮(やっぱ臭いところだけゾーンに入れてくるな)

 

二宮は、頭の中で整理する。

 

二宮(ギリギリのボールはストライクになると見た方が良い)

二宮(でも、俺が球を見極めてるのは分かったはずだ)

二宮(この後に大きく外す無駄球はない)

二宮(来るなら――ギリギリだ)

 

二宮の目が、細くなる。

 

4球目

 

パワプロ(おそらく打者は無駄球はもうないと思っている)。

 

構えは、ストレートのギリギリに見える。

けど、要求は――ボールになるシンカー。

 

パワプロ(ここはストライクに見せて、沈めて外す)

あおい(……うん!)

 

投げた瞬間、あおい自身が確信した。

いいボール。落ちる。逃げる。

 

あおい(リリース、完璧)

 

パワプロ(要求通り――完璧なボール……!)

 

二宮(……しまった!またシンカーか!)

 

二宮(でも――)

 

《二宮のアベレージヒッター 発動》

 

二宮のバットが、最後の一瞬だけついてくる。

 

カンッ――!

鋭い打球。

引っ張らない。無理に振り切らない。

ただ、最短で当てて運ぶ。

 

打球はレフト前へ落ちた。

三塁ランナーがホームへ。

 

審判「セーフ!」

 

0-1。あかつき先制。

 

恋恋ベンチが、息を呑む。

 

あおい「……っ」

あおい(意表を突いて)

あおい(しかもボクの得意なボールになるシンカーだったのに……)

 

パワプロ(……ヒットにする力がすごい…)

 

そしてベンチの端で、はるかがスコアブックを見つめていた。

 

はるか(……あおいの得意な球だったのに)

はるか(それでも、打たれるんだ……)

 

ペン先が、ほんの少しだけ止まる。

でも、すぐに書く。

 

はるか(大丈夫)

はるか(まだ、1点)

 

はるかは顔を上げて、マウンドのあおいを見る。

 

はるか(……ここからだよ、あおい)

 

二宮のレフト前で先制され、なおも1アウト一塁。

 

あおいはマウンドで一度だけ息を吸う。

パワプロはミットを叩いて、低く構えた。

 

パワプロ(まだ1点)

パワプロ(ここで止める)

 

しかし――

次の打者の名前がコールされた瞬間、空気が変わった。

 

4番。七井=アレフト。

 

地毛の金髪。

真っ黒のサングラス。

近寄りがたい威圧感。

 

矢部「……で、出たでやんす……」

矢部「二宮よりヤバい匂いするでやんす……!」

 

七井はゆっくり打席に入る。

バットを軽く回しただけで、重さが伝わってくる。

 

パワプロ(ここは――絶対長打を打たせない)

 

パワプロは精一杯のリードを組んだ。

外す。沈める。低め。

あおいもそれに応えようと、必死に指先へ意識を集める。

 

あおい(……低め)

あおい(丁寧に……!)

 

だが。

七井の視線は、最初から揺れていなかった。

 

七井=アレフト「……まだ、甘いネ」

 

次の瞬間。

ガァンッ!!

 

金属音が、球場の空気を割った。

打球は低く、速い。一直線。

 

フェンス――

ドン!!

 

フェンス直撃。

 

外野が追う。

しかし、恋恋の外野は一瞬もたつく。

 

恋恋外野「球がフェンスに当たって変なところに転がってる!?」

 

その一瞬が致命的だった。

七井は涼しい顔で二塁を回り、三塁へ。

 

審判「セーフ!」

 

その間に、二宮がホームイン。

 

0-2。

1アウト三塁。

 

あおい「……っ」

 

パワプロ(……スイングが、速すぎる)

 

5番。三本松。

打席に入った瞬間、でかい。

パワプロよりも大きいガタイ。

素振りだけで、風が鳴る。

 

パワプロ(このパワー……)

パワプロ(犠牲フライでも1点入る)

パワプロ(ここで失点したら、流れが――)

 

一瞬、頭をよぎる。

 

(交代するか?)

(俺が投げて、ここを止めるか?)

 

けど。

パワプロは、あおいの目を見た。

 

あおいは、まっすぐパワプロを見返していた。

悔しさはある。焦りもある。

でも――諦めてない。

 

あおい(……まだ、やれる)

 

その目が言っていた。

 

パワプロ(……そうだよね)

パワプロ(ここは、任せる)

 

パワプロはサインを出す。

また低め。

上げさせない。

 

あおいが頷く。

あおい(……丁寧に)

 

1球目、低めストレート。

見送られる。

 

2球目、低めシンカー。

フォン!!

グラウンドに響き渡るほどの勢いの空振り。

 

三本松「……」

 

3球目。

外角低め、カーブ。

 

三本松が振る。

 

――――カキィン!!

 

鋭い金属音。

打球は三塁側スタンドへ一直線。

 

観客「うおおおっ!!」

 

ファウル。

 

あと数メートルで本塁打だった。

 

矢部「ひ、ひぇでやんす……」

 

あおいの喉が鳴る。

あおい(……危なかった)

 

パワプロは、もう一度同じコースにサインを出す。

今度は、さらに低く。

 

4球目。

外角、地を這うカーブ。

 

三本松が強振。

 

ブォン!!

空を切る。

 

審判「ストライク!三振!」

 

パワプロ「あおいちゃんナイス!」

 

あおいは小さく拳を握る。

あおい「……やった!」

 

2アウト三塁。

 

そして――

6番に入る影。

 

猪狩守。

 

打席へ向かいながら、守はマスク越しのパワプロを見る。

そして、淡々と言った。

 

守「いつまで座っているつもりだ、パワプロ」

守は顎でマウンドを示す。

守「お前は――あっちに行くべきだろう」

 

パワプロ「……」

 

パワプロは少しだけ笑って立ち上がった。

 

パワプロ「そうだね」

パワプロ「……あおいちゃんには申し訳ないけど」

パワプロ「猪狩とは、勝負したいからね」

 

あおい「……!」

 

あおいは一瞬だけ驚いて――

すぐに頷いた。

 

あおい「……うん」

あおい「ボクも、分かってる」

あおい(ここは、チームの勝ち筋)

 

パワプロとあおいが、ゆっくりとポジションを入れ替える。

 

マウンドへ向かうパワプロ。

マスクをかぶるあおい。

球場の空気が、さらに重くなる。

 

矢部「つ、ついに来たでやんす……」

 

はるかはスコアブックを握りしめたまま、目を逸らさない。

はるか(……ここが、勝負)

 

そして――

恋恋のエースは、ついにマウンドへ上がった。

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