本能の牙 短編集   作:新世界のおっさん

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この作品は、リア友である書き手の<神坂悠理>よりのリクエストより着想を得て書いてるものであります(リア友感謝)

前後編に分けたのは、小出しの方が自分のモチベーションが上がると気づいてしまったからです(笑)



鼠の憂鬱<前編>

超希少アイテム<S級食材>……。

 

それは<ソードアート・オンライン>、通称<SAO>において閉じ込められている全プレイヤーが求めてやまない魅惑のアイテム。

娯楽が少ないこの世界での食事は、殺伐とした空気を緩和してくれる貴重な清涼剤。

しかし、味については本当に美味しいと感じる料理は一握りであり……どれだけ高い<料理スキル>を持ったプレイヤーであったとしても、工夫次第でまともな味に出来なくはないが……限界がある。

故に確実に美味しくなる食材が求められるのは必然であり……その値段の相場と入手難易度が異常なものであるのも、また必然であった。

 

「むーっ……ムムーッ……」

 

いまの語尾が鼻にかかった様なうなり声を上げたのは、SAOのβテストプレイヤーにして、情報において右に出るものはいないとされる情報屋……金褐色でショートカットの髪を左右の耳の前で束ね、深緑のフードを被っている少女(年齢不詳)<鼠のアルゴ>である。

現在のアインクラッド最前線、音楽の溢れる第五十九層首都<ブレーメン>を拠点とし、アルゴは活動していたのだが……その最中妙な噂をキャッチしてしまった。

 

「……<S級食材>……ガセかもしれないガ……本当ならかなりの価値がアルナ」

 

その噂とは<第五十九層の高き山の頂きに光輝く卵を見た>と言うもので、気になって噂の出所を調べあげたのだが……。

 

「ただナ……あの<風魔忍軍>の奴らが声を大にしてふれまわっている案件だかラ……」

 

<風魔忍軍>とは、βテストにおいて敏捷性に物を言わせて最前線を引っ掻き回し、危なくなったら周囲のプレイヤーに擦り付けるような、ある意味恐れられた悪の忍者軍団であり……かつて第二層においてアルゴをしつこく追いかけまわし<体術スキル>の情報を要求していたりもした人物達の事である。

アルゴは悩みながらも、半ば癖の様に自らのアイテムストレージを整理して身支度を整えてしまう。

 

「……ま、いっカ……情報の真偽を調べるのも情報屋の務めだしナ」

 

例えガセかもしれなくても、<その噂はガセである>と言う情報は得られるのだから行く意味はある。

だがリスクとして、あの悪の忍者軍団の姑息な罠の危険性がある……事実アルゴ以外の情報屋も、この案件には首を突っ込むのを躊躇うほどだ。

アルゴは万全を期すためメインメニューのフレンドリストを開く……そして、アルゴの手と瞳がある一点で止まる。

 

「ふム……自宅にいるのか、暇なら良いんだガ……アイツは色々忙しい奴だからナ」

 

そこには<イノセンス>と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十四層首都<オストラント>……和の雰囲気漂うこのエリアは、昔を想い、懐かしさを感じたいが故に観光する人間が多く……そのせいか大概人で賑わっている。

クラインが率いる侍のギルド<風林火山>、そして今回の一件に絡んでいる忍のギルド<風魔忍軍>が拠点とするエリアでもある。

 

「<S級食材>が手にはいる可能性がある案件か……」

 

「悪くない話だと思うガ?」

 

そして、今回アルゴが協力を申し出ようとしている人物……後にSAOの英雄となる、茶髪をウルフカットにし、褐色の肌を真紅のローブで覆う<真紅の怪人>イノセンスのマイホームもここにあった。

現在の状況はと言うと……客間でアルゴとイノセンスが対面し、同居人であるサチ、シリカ、結……さらにお隣にある<風林火山>のギルドハウスに住むトト、おまけに半ばイノセンス専属のスミスになりつつあるリズベットも襖の裏で待機し話を聞きながらひそひそ話していた。

 

「……この様子なら心配ないんじゃないかな?」

 

「いいえ、イノさんは油断ならない人ですからっ」

 

「パパは無意識で堕とすんですがそれは……」

 

「……その時は突撃する覚悟があるわ」

 

「(いやいや、何もそこまでする必要は無い気も……)」

 

「(リズベットさん、そんな甘い覚悟ではパパは手にはいりませんよ?)」

 

「(ッ!この娘、直接脳内にッ!?)」

 

女性陣が裏で四苦八苦しているとは露知らないイノセンスは、とりあえず気になった事を聞いた。

 

「協力するのは構わない……だが、何で俺なんだ?」

 

「……何故それを聞ク?」

 

「いや、気になったからだが……?」

 

理由を答えるのを渋るアルゴに対して、イノセンスは疑問を抱くが次の瞬間……彼女はニヤリと口元を歪めて爆弾を投下した。

 

「ひどいゾ、イノ公……オレっちから無理やり<初めて>を奪っておいテ……このイケズ……」

 

「……は?」

 

頬を赤らめ、身体をくねらせ、如何にも恥じらっているかの様な動作をするアルゴを見て、間の抜けた声を出したイノセンス。

そこで突然襖が吹き飛んだ。

 

「い、い、イノくん!無理やりだなんて!不潔だよ!」

 

「そうですよ!そんな無理やりしなくても私ならいつでも準備出来てますから!!」

 

「失望した、私キバオウさんのファンやめる」ナンデヤ!

 

「あんたがモテるのは知ってるけど限度ってものが!」

 

「……本当に突撃しちゃったんですか?」

 

『え?』

 

結だけは混ざらず後ろで眺めていたが、その他全員は突撃した上にシリカはとんでもない事を口走っていた。

 

「クッ……ププッ……」

 

「……お前ら……」

 

結果その先で明らかにしてやったりと笑いを堪えきれてないアルゴと、呆れと失望の眼差しで全員を見つめるイノセンスを目の当たりにすることとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、意外と頑固なんだナ?」

 

「何がだ?」

 

「まさか、全員連れていかないとは思わなかっタ……そこまで怒る事なのかと思ってナ」

 

あの後、女性陣が必死に弁明したがイノセンスは聞き入れずに、アルゴと二人きりでさっさと向かう事にしたのだ。

アルゴの認識では、イノセンスは女性に優しく紳士的……基本温厚な性格で悪人以外にはめっぽう甘いと言う感じだった、故にあの対応は心底意外だったのだ。

すると、イノセンスはこう答えた。

 

「いや、実は全然怒ってはいないんだ」

 

「……ハ?ならなんで置いてきタ?少なくともあのマスタースミスを除けば最前線で通用する実力者じゃないカ……足手まといにはならないんじゃないカ?」

 

そうアルゴが疑問を投げると、イノセンスは彼女を見据えた。

 

「まだ聞いてないからな……俺を選んだ理由を」

 

「……ウェ?」

 

それを聞いてアルゴは固まる。

 

「さっきのは誤魔化しとあいつらを引きずり出す為に、事実を紛らわしい言い方にしただけだろ?だいたい初めてって言ってもβテストで組んでた時、アルゴが誤って片足が<部位欠損状態>になっちまったから<お姫様抱っこ>して運んだだけだろうに」

 

「ウッ……それはそうだガ……」

 

かつて二人はβテスト時代に出会い交流しており、情報屋としてプライベートにかなり気を使っているアルゴが、数少ない全幅において信頼出来るフレンドなのである。

 

「まあ、お前は何処かプライド高い所あるからさ……もしかしたら二人きりなら言えるんじゃないかと思って」

 

「そ、それだけのためカ!?」

 

イノセンスの言葉に驚愕するアルゴ、知ってはいたがこの男突拍子もなく常識が通用しない行動に出る。

彼はただ黙って頷く。

 

「ど、どうしても言わないと駄目カ?」

 

おずおずとアルゴが聞くと、イノセンスはまたも頷く。

 

「ああ、言わないと今回の件は無しって事になる」

 

「……ッ!く、くヌゥ……認識を改めル、イノ公は意地悪ダ……!」

 

まさかこんな事態になるとは思わなかったアルゴは、普段の余裕ある大人ぶった態度は何処へやら……身体を羞恥で震わせていた。

 

「ああ、安心しろよアルゴ」

 

それを眺めながら、普段の彼では見られない悪戯っぽい笑みを浮かべイノセンスは彼女に向かって言った。

 

「意地悪なのはお前にだけだからな……」

 

「ーーーーーッ!?」

 

その刹那、ゾワゾワゾワッ!とアルゴの身体を謎の感覚が駆け抜けた……彼女は自分の理解が及ばない何かに困惑した。

 

「(な、なんダ?こんなのオレっちは知らなイッ……いや、違う認めたくないんダ……そウ、オレっちは今確かに<気持ちいい>と感じタ!)」

 

彼女の中にあったプライドに覆い隠されていたが、確かに存在した……その<何か>を持つ人間は一般的にこう呼ばれる。

 

「(もしかして、オイラ<M>だったのか!?)」

 

自覚するのにそう時間はかからなかった、自分が意地悪されるのが好きなのだと、イノセンスに意地悪されて快感を感じてしまったのだと……今度はみるみる顔が赤く染まりだした。

 

「なんてな……別に無理に言う必要は……」

 

実はイノセンスはあわよくば本音を聞ければとは思っていたが、無理に聞き出すつもりは無かったために黙ってしまったアルゴにその旨を伝えようとしたのだが……。

 

「……アルゴ?」

 

急にイノセンスの腕の裾を掴み、モジモジとしているアルゴは彼に伝える。

 

「……昔から良く世話になっているシ、信頼してル……お前なら断らないと思ったシ、今もそう思ってル……そ、それじゃ駄目なのカ?」

 

「え……あ、ああ……構わないが……珍しいな、いつもならどれだけ本音を聞いてもはぐらかしてたのに」

 

いつもののらりくらりと避ける彼女ではなく、はっきり本音を告げてきた事に困惑するイノセンス。

その様子をジッと見つめ、アルゴは小さく呟く。

 

「あの娘達の気持ち……何となく分かったかもしれないナ……」

 

「ん?」

 

「何でもな~イッ!」

 

とたんにいつもの表情に戻ったアルゴは、突然拗ねた様に唇を尖らせ彼から離れ前に進み出る。

 

「とにかク……これで協力は確定ダッ、今更取り返しは効かないからナ」

 

「ああ、分かってるさ」

 

何故彼女が拗ねているのか、イノセンスは理解できていないが、珍しく彼女が本音が聞けたので特に異存なく頷く。

 

こうして……<S級食材>の疑いがある光輝く卵の調査に、二人は乗り出したのだ。

 

「やはり掛かったか<鼠>……しかも大物を一つぶら下げて……これは上々だな……クククッ……」

 

草葉の影で、男がニヤリと笑ったのは知らずに。

 




最初は<大人っぽく振る舞うものの、イノセンスの前ではあまり維持出来ない>が自分の構想だったのに……何故か<潜在的M>が追加されてしまった!(コンナハズハー

しかし、プライド高い人ほど実はM……アリですかね?

んなことはさておいて、作品への感想、作品のリクエスト……共にお待ちしております!
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