本能の牙 短編集   作:新世界のおっさん

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後編は冒険と戦闘のパートです。

一応プログレッシブとにらめっこで書いてますので、アルゴの口調はあっているとは思いますが……不安ですな、独特なキャラなので。

しかし予想以上に長くなってしまった……。


鼠の憂鬱<後編>

 

第五十九層はほぼ平原で構成されており、それを囲むように山がある……つまり盆地で、かなり見通しが良いフロアだ。

そして、その中でも標高が高い山はかなり限られている……。

アルゴは出来うる限り情報を集めたのだが、その結果フロア北東に存在する山<テンプル山>が最も可能性が高い事が判明した。

 

「NPCの僧侶が修行の為登るくらいには険しいとは聞いてたが……大丈夫か?」

 

「ムムム……せめて体格がもう少し大きけれバ……」

 

最前線だけあってかき集めても、どうしても情報が足りないので、準備が最小限だったことが仇となっていた……傾斜もきつく、出っ張りだらけでガタガタなテンプル山は登るだけで一苦労であった……特に身体が小さいアルゴなら尚更である。

 

「ほら、掴まれ」

 

「す、すまなイ」

 

イノセンスは上から手を差し伸べ、アルゴはその手を掴み引き上げてもらう。

 

「ふゥ……しかシ、こんな所に卵を生む鳥は随分奇特だナ……近くに緑が欠片もないゾ」

 

アルゴの言うとおり、テンプル山は植物のないハゲ山であった……リアルでの大概の鳥類は、隠れ場所やエサに困らない自然溢れる中に卵を生む事が多い為、奇特と言えば奇特である。

ふとイノセンスは近くにある小石を拾い、それをグッと握る……するといとも簡単に砕け、崩れた。

 

「なにしてル?」

 

「……岩質がかなり脆いな、多分年月で摩耗してるとかなんだろうが……卵にもしもがあったら困るし、急ごう」

 

「ム……オイラを置いていくナ、イノ公ッ」

 

構わずずんずん進んでいくイノセンスを、焦って追いかけその手を握るアルゴ。

イノセンスはそのま手を握り返し、彼女を引っ張っていく。

 

「(……亭主関白とハ、こんな感じだろうカ?今時こんな奴いないしナ……)」

 

彼の背中を見つめ、ボンヤリとそんな事を考えているとイノセンスから質問が飛んできた。

 

「そういや、なんで<キリト>の奴も誘わなかったんだ?」

 

イノセンスが言うキリトとは、SAOプレイヤーで有名なソロで攻略組に参加している強者、全身黒ずくめ故に<黒の剣士>と呼ばれている男だ。

キリト、イノセンス、アルゴの三人はβテスターとして互いに知っており、現在も交流が続いている。

 

「ム?ああ、キー坊カ……アイツは誘ったが忙しかったらしくてナ、おまけに後払いで情報を請求してキタ」

 

「そうだったか、何か巻き込まれてないと良いがな……」

 

「どっちかと言うと首を突っ込んでいるが正しい気がするガナ、何しろ求めてきた情報はあの<黄金林檎>についてダ」

 

「おいおい、マジかよ……100%きな臭い案件じゃねぇか」

 

<黄金林檎>とはかつて存在した中層クラスのギルドであり、リーダーが不慮の事故で死亡してから解散してしまった経緯を持つ、<表上は>。

 

「問題ないだロ、あのキー坊なら間違いなく解決出来そうダ……アイツの実力はオレっち以上に知ってるはずだろ?イノ公」

 

「まあ、そうなんだがな……たまに危なっかしい所あるからさ……一人にするのは不安なんだ」

 

イノセンスはキリトの強さも……そして弱さも知っている。

第一層で泣きつかれた時は、まるで弟が出来た様な気持ちに彼はなったものだ。

 

「安心しロ、<閃光>も一緒だそうダ」

 

「あっ」

 

が、その二つ名で全て<察して>不安が何処かへ飛んでいった。

<閃光>とは……個々の実力の高さにおいては最強と称されるギルド<血盟騎士団>にて副団長を勤め、さらにキリトと良く行動しているため外観的に<白黒夫婦>と周りのフレンド達にからかわれている美少女プレイヤー<アスナ>の事である。

 

「察したカ……」

 

「ああ、もう懸念するだけ無意味だとな」

 

「……信頼してるんだナ、<閃光>を」

 

「そりゃな……<抜刀妻>だから」

 

「あの話は本当だったカ」

 

因みに<抜刀妻>とは、一度とある攻略組プレイヤーがキリトをからかい馬鹿にしていたのに腹をたてたアスナが決闘を挑み、フルボッコした事に起因している。

その場にいたキリトとイノセンスとアスナのリアルフレンドの少女<リタ>のみが、話の真偽を知っている。

 

「ああ、あれは……嫌な……事件だったね」

 

「おいやめろバカ」

 

そんな会話を続けていたが、唐突にイノセンスが足を止める。

 

「ン、どうしタ?」

 

「見つけた……間違いなくあれだ」

 

そう言って彼が指差した先には、光輝く卵が見えた……どうやら情報通りであったようだ。

 

「あア、間違いないだろうガ……流石にムリだろあれハ」

 

しかし、あった場所は掴めるか甚だ疑問な極小さな窪みしかない細く長い絶壁の上に、頑丈そうな巣の中にある卵と言った状態……先程の岩質の件も合わさり厳しいと言うレベルではない、ムリゲーに限りなく近い何かであった。

 

「さて、と……行きますか」

 

「マジで行くのカ?」

 

アルゴはプロも真っ青なギリギリのロッククライミングをする気にはなれない……しかし、イノセンスはやる気である。

 

「なめんなよ」

 

ニヤリと笑ったあと、一気に真剣な表情に変わる。

瞼を閉じ思考をクリアにし加速していく……自らが<生きる>ための最善を導くため。

目を開いた彼の瞳は青く輝いている、<本能の牙>を発動している証だ。

イノセンスは本能に導かれた通り、登るために最適な力加減ですいすい上っていく。

 

「……」

 

アルゴはただそれを眺めていた、呆然として。

 

「(アイツはそう言う道でもやっていけそうだナ、うン)」

 

そんなとりとめの無い思考が浮かんでいた頃には、もうイノセンスは頂上近くに到達していた。

 

「よし……後は卵を……」

 

光輝く卵は片手で持てそうではあるが、かなり大きめのサイズであった。

そして何が起きても不思議でない以上、さっさと回収するのが最善だと壁に張り付いたまま、ギリギリ卵に手が届く距離から手を伸ばすイノセンス。

刹那……ピキリ、とひび割れた様な音が響く。

 

「「あ」」

 

それを皮切りに、今まで大丈夫だった柱の様な絶壁が半程からひび割れ折れてしまう……絶対絶命。

 

「イ、イノ公ゥ!」

 

「く、くそったれがぁ!」

 

とにかくイノセンスは右手で装備していた銀の刃の赤い短刀<緋連雀>を抜き、横なりになる柱の上から空中に身を投げ、崖下へ落ちる卵を左手でギリギリキャッチ……しかしこのままだとまっ逆さまに暗い谷底に落ちるだろう、まさにこの間のリズベットの二の舞だ。

 

「ところがギッチョン!」

 

だが彼はこの事態を本能の牙で分かっていた、予め抜いていた<緋連雀>をそのまま先程とは反対側の崖に突き刺しブレーキをかける。

 

「とまれぇぇぇぇぇ!!」

 

火花を散らせ、ガリガリと音をたてながらもなんとか静止する。

 

「……助かったァ~」

 

ホッと息をつき安心したイノセンスは、卵をストレージにいれてゆっくり崖を登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったク、冷や冷やさせてくれル……」

 

「思った以上にデンジャラスなアトラクションだった」

 

「ンなのは見てりゃわかったヨ……それより、卵は本当に<S級食材>なノカ?」

 

その後戻ってきたイノセンスを心配していたアルゴは、とりあえず安心して卵の情報を聞く。

当初の目的はこれなので、そこは重要だった。

 

「ああ、実はこれなぁ……」

 

彼女の質問にイノセンスが答えようとしたその時、あーっと大きい声が木霊した。

 

「それは確かに光輝く卵……既に先を越されていたでくござるかァ!」

 

「く、悔しいでござるよォ!イスケ殿ォ!」

 

「イスケはお前でござろォ!!」

 

「かたじけのぉござるぅ!!」

 

声に反応して二人が前を向くと、灰色の忍装束の男二人が泣き叫んでいた。

イノセンスもアルゴも知っていた、この二人は今回の噂を広げた<風魔忍軍>のリーダー<コタロー>と副リーダーの<イスケ>だからだ。

何故か様子が変だが警戒するにこしたことはないと、アルゴを強引に自らの後ろに移動させるイノセンス。

 

「ちょ、ちょッ!」

 

突然の事に驚き、顔を赤面させながら抗議の声を出す彼女をスルーして目の前でござるっござるっと鳴く忍達に声をかける。

 

「おい、あんたら」

 

「「なんでござるかぁッ!」」

 

「こいつが欲しくて来たんだろ?かかってこないのか?」

 

とりあえず様子見と、かまかけの為に挑発してみる……状況把握しないことには行動のしようがない。

ここで言葉に乗って襲ってくればお縄に、下手にはぐらかすつもりならば問い詰めようと考えていた。

すると驚き、訳がわからないと言いたげに首と両手を左右に振るう。

 

「いやいや、何故そんな命知らずな真似が出来ようか!」

 

「そこまでして欲しいわけではござらぬよ!」

 

「ほう、しかし卵の情報の出所はあんたらと聞いてるが?」

 

そんな彼らにアルゴが信頼できる筋から手にいれた事実を突きつけた。

これでボロを出すだろうと踏んだのだが……返ってきたのは意外な返事であった。

 

「は?なんでござるかそれは?」

 

「完全に初耳でござる」

 

「……は?」

 

「拙者らは光輝く卵の噂を聞き、ここに勇み来ただけで……噂もつい今朝方知ったばかりでござる」

「完全に濡れ衣でござるよ、酷いでござるぅ」

 

彼らの様子は本当に分からない事を聞かれた人間がする、困惑の表情が顔にハッキリと現れていた。

となると彼らは白?では黒なのは一体……?

イノセンスは疑問に答えをくれないかと後ろに隠れている、アルゴに視線を向ける。

 

「アルゴ?」

 

「……情報は確かなはずダ、わざわざ<風魔忍軍>を知るβテスターにも聞いたんだからナ……<風魔忍軍のメンバー>が噂を流していたト」

 

イノセンスも彼女の情報を信用し、彼女の事を信頼している……だがそれでは一体何が起こっているのか……少し冷静になろうと<本能の牙>を発動した。

そして彼は突如動いた。

 

「アルゴッ!!」

 

後ろのいたいけな少女(年齢(ry)に、左手に持っていた卵を放り、右手で腰の<緋連雀>を抜き、コタローとイスケの前に躍り出る。

 

「おおウッ!」

 

「「何事ッ!?」」

 

青く輝く瞳を細め、正確に素早く短刀を振り抜くとキィンッと金属がぶつかり合った音がした。

驚いたコタローがふと足元を見ると、彼には馴染み深いものが落ちていた。

 

「こ、これは我ら<風魔忍軍>制式装備が一つッ!<風魔手裏剣>ッ!」

 

「なんとッ!曲者!曲者でござるかッ!?」

 

「まさか……伊賀者!?」

 

「間違いないないでござるッ!」

 

「「(いや、それはないだろ(ロ))」」

 

全くもって的外れな推理をしだした忍者に、心で総ツッコミを入れる二人。

すると上から笑い声が響いてきた。

 

「ハッハッハッ!あいっかわらず馬鹿なんだなぁ、<元リーダー>さん方よぉ!」

 

「むむっ、その声はッ!」

 

「もしやッ!」

 

「「<ハンゾウ>ッ!?」」

 

四人が顔を上げると、少し小高い位置から見下ろし嘲笑う、黒い忍者装束で全身を覆い、素顔を隠した鋭い目付きの男<ハンゾウ>……そして、その横には<風魔忍軍>のメンバーが八人……正し元々灰色に統一していた忍装束は、<ハンゾウ>同様に黒に染まっており。

 

「イノ公……気づいていルカ?」

 

「ああ、勿論な……暫く見たくも無かったんだが」

 

彼らのカーソルは<ハンゾウ>を除き<オレンジ>だった……つまり<PK>ないし<それに準ずるプレイヤーへの攻撃>を行った証……端的に言えば<犯罪者>になっていたのだ。

 

「そうだよ、お久し振りだな……元気そうで何よりだよ……ククッ」

 

「お主、最近拙者らの前から突然雲隠れした思ったら……」

 

「勝手にメンバーを連れ出し、こんな所で何をやっているでござる!?」

 

どうやら、今回の案件は<風魔忍軍>のメンバーの一人<ハンゾウ>による独断専行らしく、コタローとイスケは関与していない様子だ。

 

「あんたらの馬鹿に付き合うのはうんざりでね……悪いがもうこれっきりだ」

 

「何を!?」

 

「それに……俺に着いてきたのは<コイツらの意思>だぜ?なぁ?」

 

「なん……だと……?」

 

二人が驚愕の表情で八人に目を向ける。

すると八人は口々に文句を吐き出した。

 

「もうやだ、いつも馬鹿にされて!」

 

「こんなギルドにいられるか、俺は武器をとるぜ!」

 

「他のβテスターは皆攻略組として頑張ってるのに……あんたらの方針じゃ置いてかれてく一方だ!」

 

「俺は100mを5秒フラットで走れるんだ」

 

「ハンゾウは俺達に道を示してくれた……あんたらの汚いだけの忍道より遥かにマシだ!」

 

「ちくわ大明神」

 

「事実ハンゾウのおかげで俺達は遥かに強くなれた!もういらないんだよあんた達は!」

 

「誰だ今の」

 

「お、お主ら……」

 

「こ、コタロー殿……」

 

その言葉にショックを受け、ガクリと項垂れるコタロー。

イスケはそんな彼に声を掛けようとして、ハンゾウの笑い声に思わず身体を固める。

 

「クックックッ……どうだ、絶望は見えたかよ?さて、あんたらならまんまと引っ掛かると思ったら案の定ってやつだ……少し猶予をやるから選んどけ」

 

ハンゾウは目を細め、低い声で告げる。

 

「死んで身ぐるみ剥がされるか、全てを献上して俺達の奴隷になるか……どっちにしろ地獄だがな」

 

「拙者が至らぬばかりに……すまぬ……すまぬ……」

 

「ぐぬぬぅ……」

 

震える二人を一瞥し、今度はアルゴに目を向けるハンゾウ。

 

「そして……お前だけは確実に殺すぜ<鼠>……」

 

「ほウ……随分物騒な事を言ウナ……だが俺っちはお前を知らなイ……確かβテストにもその名はなかったからな……何故狙ウ?」

アルゴはあくまでも平静に、淡々と聞く……今の彼女は間違いなく情報屋<鼠のアルゴ>の顔であった。

彼女の問いにハンゾウもまた平静に答える。

 

「あくまで邪魔なだけだ、お前の情報は<凶器>だからな……いつ俺達に向けられるか分からない以上……放置は危険極まりない」

 

「そうカ……ま、殺される可能性がある以上ハ、覚悟くらいこの仕事に手を出した時点で出来ているガナ」

 

「随分潔いな……」

 

「仕事柄ナ……まあ、今回に限れば死ぬ気はしないガ」

 

そう言ってニヤリと笑い、彼女は目の前の人物の隣に来てコツンと身体を預ける。

その人物は勿論、先程から瞳を青く輝かせ続けているイノセンスである。

 

「コイツがいるからナ」

 

「……ああ、そうだったなぁ……まさかの大物が釣れたんだったな……会いたかったぜ<怪人>……!」

 

ハンゾウは今までとうって代わり、心底楽しそうに言葉を発する。

 

「あんたには憧れてたからなぁ……圧倒的な力の象徴の二つ名<ビーター>……まさに俺の忍道にも通ずるものがある」

 

「……」

 

楽しそうに語るハンゾウをよそに、黙ってそれを見つめるイノセンス。

気になったアルゴがその表情を伺うが、情報屋たる彼女でも彼が何を考えているか判別出来なかった。

 

「どうだい?俺達と来ないか?間違いなくあんたなら、より強くなれるはずだぜ?」

 

「……」

 

無言。

無表情。

無感情。

そう表現するのが正しそうな、イノセンスの状態にアルゴも少し不安を感じ出す……が依然として彼は何も変わらずハンゾウを見つめている。

暫く答えを待っていたが、何も動きが無い為痺れを切らせたハンゾウが苛立ち口を開く。

 

「……おい、何か言って」

 

「何となく気づいたんだが……」

 

「……あ?」

 

その絶妙なタイミングで突然喋り出したイノセンス、突然会話が切られた為にまた少し苛立ちを感じ、明らかに怒気を含んだ相づちをうつハンゾウ。

そして、止めと言わんばかりの台詞を彼は放った。

 

「この場の人間の名前が覚えられないほど、お前は馬鹿なのか?」

 

「ア"?」

 

「イ、イノ公?」

 

「「イノセンス殿!?」」

 

イノセンスは先程から変わらない、全くの無表情でハンゾウに淡々と告げる。

 

「忍道だかなんだか知らんが、てめぇの事情に俺を乗っけるなよ……寒気がするんだよ<勘違い強者>が」

 

「か、勘違いィ……?」

 

「何だ、無自覚か……怖いねぇ<強者(笑)>は」

 

立て続けに来る鋭い煽りに、ハンゾウは怒り心頭で身体が震え出す。

最後のダメ押しに一言。

 

「さっ、<あんなの>ほっといて帰ろうぜ」

 

「ーーーーッ!!あいつらを殺せッ!!全員だッ!!!」

 

「「「「「「「「御意ッ!!」」」」」」」

 

完全にキレたハンゾウから指示が下り、待ってましたと言わんばかりに飛びかかってくる忍達。

 

「「お、終わったでござるッ!!」」

 

「なにしてンダァ!バカァ!!」

 

「いいから全員伏せろっ!!」

 

「「「!?」」」

 

コタローとイスケは絶望し、アルゴは文句を叫ぶが、イノセンスの一喝で反射的に全員伏せた。

そのまま彼はストレージから<非常用煙幕>を取りだし使用する。

周囲が黒い煙に覆われる。

 

『何だとォ!!』

 

『まるで意味が分からんぞ!?』

 

視界が不明瞭になり混乱する八人を他所に、イノセンスはイベントリを操作……本来の相棒たる短刀<金鵄>を左手に持つ。

これにより<二刀流(裏)>が発動する。

 

「(まだ公表出来ない、こいつの実験台になってもらうぞ)」

 

<二刀流(裏)>とは……イノセンスが五十層において刃が折れた相棒<雷切>が、最近新たな刃を得て<金鵄>となったと同時に手にいれた<短刀専用のパッシブスキル>である。

その効果は両手に短刀を装備した時に発動し、<ソードスキルの攻撃回数を倍にし、攻撃速度を上げる……ただし一発の威力が下がる>と言うものである。

イノセンスが構えると金鵄と瞳が同時に輝く。

 

「<絶>」

 

短刀ソードスキル<絶>を発動させる、片手四発な為計八発になる……現状彼の持つ最も高い威力のソードスキルであった、イノセンスの代名詞である。

身体が残像を残しゆらりゆらりと動いた後、急加速する。

一撃目は横斬り、本能に導かれ確実に叩き折るラインをなぞり<武器破壊>する。

 

「なっ」

 

二撃目は右上切り上げ、あっさり武器が弾かれ何処かへ刺さる、周囲が真っ黒なので分からないが。

 

「むっ」

 

三撃目は回転斬り、遠心力がつき衝撃が強くやられた側は<スタン>必至だ……思わず武器を落としてしまう。

 

「さっ」

 

四撃目は牙突、短剣の派生だけあり突きも強力……お好みで~スタイルとつけるとよろしいです、今回はゼロスタイル故に敵は吹き飛ぶ。

 

「んっ」

 

以下もう1セットあったが、同じな為割愛、尺は大事。

 

「「「「ありえん(笑)」」」」

 

煙幕が晴れた頃には、全員武器を損失ないし吹き飛び壁に埋まっていた……ポカンとするコタローとイスケ、ある意味安心し微笑むアルゴ。

その戦場の中心に立ち、イノセンスはハンゾウに右手の<緋連雀>を向ける……左手には既に<金鵄>の姿は無かった。

 

「俺を殺したければ自分でやるんだな、もっとも自信があるならばだが」

 

「……ちっ」

 

ハンゾウは舌打ちをすると、さっと飛び降りイノセンスに相対する。

 

「……決闘と行こうじゃねぇか」

 

そのままデュエル申請をしてきた彼に、イノセンスは特に依存なく受ける。

 

「わざわざ決闘で勝とうとするとは、余程力を誇示したいと見える」

 

「<勘違い強者>とか言われて黙ってられるか……例え俺の忍道に反してでもやってやる」

 

「お前の忍道?」

 

会話をしながらイノセンスはルール確認する、どうやら下手を打てば死ぬリスクがある<半減決着モード>を選んだらしい……流石に<完全決着モード>を選ぶほどは覚悟が無いらしい。

申請を受け、カウントダウンが始まり双方構えをとる。

 

「ああ、それはな……<どんな手を使っても勝つ>ってやつさぁ!」

 

カウントダウンが終わるその少し前に、ハンゾウは動きだす、忍者を称するだけありかなりの敏捷性である。

黒い短刀振り上げ、イノセンスに斬りかかるが、颯爽と身体を捻りギリギリ短刀を避ける。

 

「やるなぁッ!」

 

ハンゾウが更に追撃をかけ、イノセンスは今度は緋連雀で応戦する。

黒と銀の刃がしのぎを削り、火花が散る。

二人は互いに同系統の得物と戦闘スタイルな為、ステータス配置が似かよっていた。

故に中々拮抗しており、何度も何度も打ち合う。

 

「あのイノ公と互角にやり合うとハ……」

 

正直ここまで強いとはアルゴにも予想外だった、そこでイスケが横槍を入れる。

 

「ハンゾウは元々ソロで修羅の道を行っていた男らしいでござるからなぁ」

 

「……なるほどナ、まあ経験値効率はソロの方が良いのは間違いないシナ……しかシ」

 

その話を聞き強さには納得がいったが、アルゴにはまだ腑に落ちない点があった。

無数に斬り結ぶ中、<体術スキル>で腹に膝げりを入れたイノセンス。

苦悶に歪む表情を見せるハンゾウに、追撃でソードスキル<天>を発動、身体を屈めた後一気に上に跳躍と同時に強烈な斬りあげを当てる。

辛うじて短刀で受けきれたハンゾウだったが、余りの衝撃に大きく後ずさる。

 

「なぜ、攻略組に来なかった?」

 

ダメージをくらい余裕なさげなハンゾウに、イノセンスはアルゴが抱いたのと同じ疑問を投げ掛ける。

それを聞き、ハンゾウは答える。

 

「攻略組には<秩序>があるからな、しかもそれを無意識に強要する……俺にとっちゃそれは我慢ならないんでね!」

 

「……」

 

その言葉を黙って加味したあと、突如メインメニューを開き<緋連雀>をイベントリから外す。

 

「おい、なんの真似だ?勝負はまだ」

 

その行動に不満を露にしたハンゾウが声を上げるが、それを遮る様にイノセンスは語りだす。

 

「お前のそれは、子供のわがままとそう変わらない……自らの思い通りにならないからと駄々をこねる」

 

「なっ」

 

「そして、<どんな手を使ってでも勝つ>だったな……履き違えるな、それは犯罪を行う事を肯定した言葉ではない……限りある自分の手札で、本当に自分の守りたいものの為にやるから意味があるんだ」

 

その言葉の後、イノセンスは鋭い目付きでハンゾウを睨み付ける。

 

「お前はただの……<犯罪者>だ……」

 

「ーーーーッ!!」

 

痛い所を突かれ、狼狽えるハンゾウ……今まで転がり無力化されていた元<風魔忍軍>の忍者たちにも動揺が伝播する。

 

「だから……少し趣向を変える」

 

そう言ってイベントリを操作して<金鵄>を装備。

 

「今からここにいるのは、攻略組の一人<イノセンス>……ではなく」

 

真紅のローブ<ナイトメアローブ>のフードを被る。

するとエキストラ効果により顔が全て影で覆われ、誰なのか全く判別が不可能になる。

そして<金鵄>を抜き放ち、底冷えするような、冷たく低い声で言った。

 

「<軍>の御抱えにして罪人の裁き手……<真紅の怪人>だ」

 

『!!?』

 

一瞬、その場の全員が一気に恐怖に駆られる……それははっきりと感じたからだ……<殺意>より遥かに濃厚な<敵意>を。

 

「(イノ公……昔はこんなに酷かったノカ!?)」

 

それはアルゴも話に聞いただけで、はっきりと知らない友人の一面……かつて<軍>の依頼でソロで練り歩き、罪人たる<オレンジ>を根こそぎ狩っていたある種の<秩序>の象徴……それが目の前にいた。

 

「(……しかシ、なんでこれでゾクゾク来てしまうのカ……オイラはどうしてしまったンダ……)」

 

恐怖と同時に得られる快感……あの声、あの姿、あの感情……それで攻められたらと考えてしまったのだ……しかしこれは危険な思考だとアルゴは振り払う。

 

「な、な、何なんだ……お前はぁ!?」

 

「何を言ってる?お望みだったはずだ……<真紅の怪人>を……憧れていたんだろ?……さぁ<ヤろうか>……」

 

恐怖で動揺するハンゾウを見据え、駆ける怪人は<金鵄>の大幅なAGIブーストにより、先程より遥かに速かった。

 

「ひぃっ!!」

 

最早先程の様な斬り結びが出来る気がしない、そんな感覚にとらわれ後ずさるハンゾウ……しかし。

 

「な、何てなァ!!」

 

ギリギリ恐怖に打ち勝ち、振りかぶり迎え撃つハンゾウ。

だが余りに大振り過ぎたため、怪人には見え見えだった。

刃が顔に届く直前に、腕を掴み動きを止め、腕ごと黒い短刀をもぎ取る。

 

「ガァッ!?う、腕がぁ!?」

 

<部位欠損状態>に焦るハンゾウ。

怪人はダランとした彼の腕から、黒い短刀を<スナッチ>し、そのままハンゾウの腹に突き立てる。

 

「そら、返すぞ」

 

「ッ!!?」

 

刺さる感触と共にHPバーか削れる、そして短刀の上に更に<金鵄>を突き立て刃を深く押し込む……さらにHPバーが大きく削れ、ハンゾウの表情は先程コタローがしていた様な<絶望>に包まれていた。

 

「……終わりだな」

 

そう言って短刀を腹から抜き、地面に刺す……既にハンゾウのダメージは半分を切っていた……勝負は決したのだ。

 

「さて……コタロー」

 

「な、なんでござりましょう!?」

 

焦って口調が可笑しな事になっているコタローに、イノセンスは監獄エリア行きの<回廊結晶>を取り出しながら聞く。

 

「俺はこれからこいつらに、これを使用して<軍>に渡そうと思うが……構わんよな?」

 

かつてのリーダーに彼らの処遇を聞く。

一度監獄エリアに行けば、二度とこの世界で陽の目を帯びる事は無いだろう。

コタローは神妙に答えた。

 

「拙者にその者らの罪を精算する資格はない……お任せするでござる」

 

「……分かった」

 

コタローの答えを受けて、イノセンスはハンゾウ達元<風魔忍軍>に<回廊結晶>を翳す。

 

「リアルでは間違いを犯さない事を祈るぜ、お前ら」

 

「……」

 

震えるハンゾウもその取り巻きも何も言わぬまま、監獄エリアに送還されていった。

こうして一つの事件が幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでその卵、本当に<S級食材>なんでござるか?」

 

「気になるでござるよ!」

 

「おっト、そう言えばすっかり忘れてイタ」

 

コタローとイスケの言葉で、胸元で抱いていた卵が本来の目的であった事を思い出したアルゴ。

どんなアイテムか聞いた所で邪魔が入ったので、知らずじまいだった。

卵に触れ、アイテムの詳細を見ると<条件付きイベントアイテム>の種別で……残りわずかなカウントダウンが表示されていた。

 

「何だこれハ?」

 

「そろそろだな」

 

疑問を浮かべるアルゴに対し、既にそれがなんなのか悟っていたイノセンスはそう言った。

 

「何がダ?」

 

「生まれるぞ?」

 

「……は?」

 

次の瞬間、卵の輝きが一層増し、ヒビが入る。

 

「なァ!?」

 

「「おお!!」」

 

「ハハッ!」

 

光が一面に広がり、少しずつ晴れていくと……アルゴの手元には深緑の羽毛に、紅と蒼の美しい尾羽を生やした鳥系モンスターがいた。

 

「クルルゥッ♪」

 

「……エ?」

 

「「ふ、ふつくしい……」」

 

「名前は……<ケツァルコアトル>か……んでそのネームの色、無条件で<テイム>出来てるな」

 

生まれたモンスター<ケツァルコアトル>は確かにテイムされたモンスター同様にネームの色が変化している。

 

「じゃア、この子はオレっちのペットって事カァ!?」

 

「イグザクトリィ(そのとおりでございますが、何か)」

 

「お、オレっちにペット……」

 

「クルルゥ♪」

 

どうやら胸で暖めたアルゴを母親だと認識しているらしく、頬擦りして甘えている。

 

「まあ、良かったじゃないか……卵の正体を実物で証明出来る上に、頼りになる子供も出来たんだし」

 

「いヤ、だがしかシ……」

 

思っていた結果と違った故に少し困惑気味のアルゴ。

と、突然ケツァルコアトルが飛び出しイノセンスの元にやってくる。

 

「ん?なんだ?」

 

「クルルゥッ!」

 

ケツァルコアトルはイノセンスの手元で突然鳴くと、手元に暖かく硬い何かが落ちる。

それは小さくはなったものの、強い輝きを放つ卵だった。

調べると、そこには<S級>の文字が。

 

「……噂は間違いでは無かった様だな」

 

「クルルゥ♪」

 

彼の言葉に満足した様子のケツァルコアトルは、先程アルゴにした様に今度はイノセンスに甘えた。

 

「「……もしかしてお主らの子d(ry」」

 

「シャベルナァァァァォァァ!!!」

 

「「ご、ござるぅぅぅぅぅ!!!」」

 

ある意味空気を読んだ発言をしようとした忍者二人は、激怒したアルゴを見てダッシュで退散した。

 

「……ったク」

 

「軽い冗談だろうに、そこまで怒らなくても良かったんじゃないか?」

 

そう聞いたイノセンスにアルゴが、少ししおらしく答える。

 

「こうすれバ……二人きりだろウ?」

 

「……プッ、なんだそりゃ……意趣返しか何か?それとも聞きたい事が?」

 

「クルルゥ?」

 

アルゴの言葉に思わず吹き出し、理由を聞いたイノセンス。

するとアルゴは真剣な目で答え、聞いてきた。

 

「正確にはどちらもダナ……お前、<子供が出来たら何人ほしイ?>」

 

「は?……う~ん、<沢山>……かな?まあ相手が望む限りだが」

 

「そうカ……それハ……大変そウダ♪」

 

「ん?変なやつだな……な?お前もそう思うだろ?」

 

「クルルゥ……」

 

その後、ケツァルコアトルと共にイノセンスの自宅に頻繁に遊びに行くアルゴの姿があったとか無かったとか……。

 

完。





はい、これで鼠の憂鬱は終わりです。
これは本編内で起こった出来事と処理して頂いて問題ありません……アルゴ姉さん可愛い。

本当は昨日投下しようと思っていたのに、用事出来たり、思ったより筆が乗ったりで長引きこのざまぁ(笑)

でも良いリハビリにはなったかもしれません(´・ω・`)

では引き続き、感想とリクエスト待ってます……いや、もう気軽に書いて下さって構いませんので!

初見さんも、常連さんも問わず待ってます~(貰えないと書けないので……)
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