本能の牙 短編集   作:新世界のおっさん

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皆様!あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!(オソスグルッ

今回は耶織様のリクエストにて、アスナヒロインルートを書きました!耶織様……感謝の極み……(そしてさりげなくシリーズ化)

前回のあらすじ:アスナとリタが同行を御願いしたのは、後の月夜の黒猫団を率いるイノセンスであった。


アスナルートシリーズ
【アスナルート第0話】白き閃光


 

第一層にてはじまりの街の先にある村<ホルン>、その宿屋にて席を囲む一団がいた……。

 

「それじゃ!なんとか無事つきました記念に!」

 

『乾杯ッ!!』

 

「ああ、乾杯!」

 

その一団とは無論イノセンス達の事である。

はじまりの街から八人の大所帯かつ初心者ばかりながら足並みを乱さず初日にここまでやって来たのは、実力か、運か、はたまた絆か。

 

「いやーっ!やっぱりβテスターがいると違うねぇ!」

 

「まるで迷う事がなかったな……良いことだ」

 

「違いないなぁ!」

 

「俺危うく迷子になりそうな瞬間あったから、引き戻してくれてありがたかったぜ♪」

 

普段そこまで興奮はしないタイプのケイタも、緊張がほどけたようでテンションが高く他のメンツもその様子だ……テツオは……岩タイプだ。

 

「最初はどうなるかと思った、ダッカーはフラフラしすぎ!」

 

「サーセン、リタそん♪」

 

「リタそん言うな」

 

年上しかいないがフランクな雰囲気のメンツなだけあり、敬語が好きじゃないリタが仲良くなるのにはそう時間がかからなかった……すっかりこのメンバーの一員である。

 

「もうすっかり馴染んでるよね、リタは」

 

「敬語を使うなって言ったのは、向こうだもん」

 

「うん、大丈夫だよ?皆深いこと考えないいい人ばかりだからね……アスナも構わないんだよ?」

 

「い、いえ、私は教育上そういう事は徹底されていて……抜けないだけですので、気にしないでいただけると」

 

一方アスナは、敬語が抜けず若干浮き気味だった……。

 

「やっぱり礼儀正しい娘は良いな……」

 

「……可憐だな」

 

「清楚で優しげだよなぁ……」

 

「あれだな、お嬢様♪」

 

『それに比べてお前らは……』

 

「……少し頭……冷やそっか?」

 

「全員表出な、久々にキレちまったよ」

 

「ちょっ!サチさん、リタ!落ち着いて!」

 

「「アスナは黙ってて」」

 

「あっはい」

 

その分男子勢からは一番人気だったりした、やはりおしとやかな印象な娘の方が男子受けが良いらしい。

焦るアスナだが、怒れる二人を止めれるわけもない、その威圧感に思わず黙らされてしまう。

 

「アスナ、ほっとけほっとけ、その内治まるだろ」

 

「イノセンスさん、リーダーなのにいい加減ですよ!」

 

「いやいや、初日から歯止めかけてたら持たねぇって……それに俺臨時だから」

 

「……もう!」

 

そんな様子を見ているだけのイノセンスに、アスナは物申したかったが、彼はさっさと奥へ引っ込んでしまった……無論巻き添えを避けるためだろう、それに気づいたアスナは彼にならい寝室へ向かった……と同時に背後でドンパチが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が寝静まり、静寂に包まれた寝室で起き上がるアスナ。

周りを見渡し、サチとリタの様子を見る。

 

「……スゥ……」

 

「むむぅ……アスナは私がぁ……Zzz」

 

「クスッ……ありがとリタ、でも私……」

 

リタは大切な友達であるアスナを守らなくてはと、常に考えていた様で、夢の中でも彼女はアスナを守っていた。

しかし、アスナはそれに感謝せども、そのまま甘んじているつもりはなかった。

 

「(早く……早くこの世界から出なきゃいけないから、弱い私は人一倍努力しなきゃ……!)」

 

アスナは焦っていた……良家の令嬢として、親に求められるまま<エリート>の道を彼女は歩まされてきた。

そんな中、このデスゲームに囚われてしまう。

それによる<エリート>からの脱落、そして両親の失望を想像してしまい、それだけが拠り所であった彼女は、今でも内心黙っていたら発狂しそうだった……もし一人でこの世界にいたら、今頃半狂乱で暴れていたはずだ。

 

「……行ってきます……」

 

小さく呟き扉をそっと閉じる。

少しでも早く強くなるため、そしてこの焦る気持ちをまぎらわす為にも、彼女は夜中宿を出た。

と、その時……彼女の目に飛び込んだのは。

 

「イノセンス……さん……?」

 

自分と同じように、夜中黙って一人で出歩くイノセンス……それを見たアスナは思わず広角を上げる。

 

「(何処へ行くかは分からないけど、これチャンスよね!)」

 

βテスターとして知識の豊富な彼の後を追えば、何か得られるかもしれないと判断……アスナは彼の追跡を開始した。

村を出てから歩くイノセンスは全く迷いなく、淀みなく、歩いていく……どんどんと村から離れていくたび、少しずつアスナの不安が高まっていく。

 

「(一体どこまで行くの?)」

 

夜中の為当然視界が悪く、周囲には夜行性のモンスターが彷徨き、遠吠えも聞こえる。

どんなに気を張っていても彼女はただの少女であり、夜出歩くなどの危険な事も親から禁じられていた為したこともなかった。

 

(あっ、少し明るい……)

 

と、しばらく行くと穏やかだが光がある森にたどり着く。

それは森の木の根本に生えたキノコが、僅かに光を放っていた為だった……アスナはそれを見やりながらイノセンスからも目を離さずについていく。

そして彼の歩く道筋を見てアスナは察する。

 

「(なるほどね、キノコのある木と木の間を辿っていけば良いのね?)」

 

彼女は安堵した、目印の様な物が出てきたと言うことは、イノセンスの目的も恐らく近いに違いないからだ。

しばらくして二人が辿り着いたのは多きな滝の前だった……そして完全な行き止まりの様だった。

 

「(え?どうするの?……あっ、もしかして特別なアイテムがあるとか?)」

 

そう予測した彼女だったが、それに反してイノセンスはおもむろに滝壺に飛び込んだ。

 

「えぇ!?」

 

アスナが驚いて飛び出した時には、水面に波紋が広がっているだけだった。

唖然としていた彼女は、ふと我に返り、キッと滝壺を睨み付ける。

 

「間違いない、ここに何かある……!なら、躊躇うな私!」

 

力を、知識を、技術を得るため彼女はここに来たのだ……改めて気合いを入れたアスナは意を決して滝壺に飛び込んだ。

薄暗い水の中を掻き分け、滝の下に穴を発見した彼女は泳ぎ進む……その時ふと気づく。

 

「(あれ?このゲージ何?)」

 

潜りだしてからアスナから見て右下に現れた謎のゲージ……少しずつ減るそれはゲーム特有の<酸素ゲージ>であり、これが無くなれば無論アバターは限界を迎え、<死に至る>。

それを知らない初心者かつ、ゲーム知識がないアスナは一応注意しとこうとは考えたが、多少甘く考えていた。

 

「(いくらかなりリアルでも、これは<ゲーム>だし……)」

 

そう頭で考えながら進んでいて突然目にはいったのは、辺りに浮かぶ人間の物らしき骨……しかも目の前に<頭骨>があったのだ。

 

「(ひぃっ!!)」

 

驚いて思わず口を開いてしまったのを境に、口から水泡が溢れだし、一気に酸素ゲージが減ってしまうアスナ。

そこで初めてゲージの意味を知る。

 

「(そんなッ!まずッ!)」

 

急いで手で口を覆うが、減ったゲージは戻らない……今なお少しずつ減少している。

追い詰められたアスナ。

 

「(嫌だ!嫌だよぉ!こんな……誰も知らない様な所で、何も出来ないまま死にたくない!)」

 

ゲージは青から黄色へ、そして今赤に差し掛かろうと言う所まで来た。

錯乱し動けないアスナは万事休すかと思われたが、その手を掴んだ者がいた。

 

「(あっ……い、イノセンスさん!?)」

 

そう、背後の異常に気づいたイノセンスが戻ってきたのだ。

彼は自らの唇に人差し指を当てて、口を開かない様ジェスチャーをすると、アスナの身体を抱え泳ぐ。

少し行った所で、上に向かって泳いでいくと、隠れた窪みがあったらしく、そこには酸素があった。

 

「げほっ!げほっ!」

 

「おいおい大丈夫か?」

 

やっとまともに息が出来る場所に出たアスナは、若干器官に入った水にむせかえり、イノセンスは背中を叩きながら声をかける。

 

「だ、大丈夫でず……」

 

「やれやれだ……俺がアスナがいると気づいたから良かったが……一歩間違えればお陀仏だったぞ、気をつけろ」

 

「ご、ごめんなざい」

 

喉の調子が安定しない様子のアスナに、イノセンスは注意を促し、ため息をつく。

 

「……まあ、良いさ……んで何でここにいる?どうせ後をつけてきたんだろうが……」

 

「……ブクブクブクブク……」

 

「こら、んな事じゃ誤魔化されんぞ」

 

図星を突かれたアスナは、口を水面につけブクブクと泡を立てるも、イノセンスはバッサリと切り捨てる。

 

「強くなるためです……イノセンスさんが一人で出ていくのを見て、きっと何か得られると思って……それで後を……」

 

「……そうか……」

 

アスナの言葉を聞いて、少し考えた後イノセンスは突然頭を下げた。

 

「なら、俺が悪かったな……すまなかった」

 

「……えっ、で、でも……」

 

何故彼が謝るのか、アスナには分からず困惑してしまう。

そんな彼女の様子を見てイノセンスが理由を話し出す。

 

「俺がしっかり後ろを確認してれば、アスナの存在に気づけたかもしれないのに、油断してのらりくらり歩いてたわけだからな……そのせいでなにも知らないお前を巻き込んじまった……そこは間違いなく俺の責任だ」

 

「そんなっ!違います!勝手についてきてピンチになったあげく、わざわざイノセンスさんの手を煩わせる事になったのは、私が思い上がって油断してたから……責められるべきは私なんです!」

 

確かにイノセンスは全く振り返ったり、立ち止まったり、周囲の確認等をしていなかった……それが今回の要因の一つではある。

しかしアスナからすれば一番の原因が自分であり、非があるのだから自らを責めて欲しいと思っていた。

それは、親の敷いたレールを進んでいたとは言え、エリートだった彼女の中にあったプライドのような物であった……こうなると、彼女は簡単には引かないだろう……故に。

 

「……分かったよ、どっちにも非があるんだからどっちも悪いって事で、この話は終了な……これ以上はどうも不毛な謝罪合戦の未来しか見えん」

 

「……仕方ありませんね」

 

形上イノセンスが譲歩し、話を早々に打ち切った。

しかし察しの良いアスナには分かっていた……彼が最初から綺麗に話が纏まるように、後腐れが残って自分が気にしたりしないように気を使ってくれた事を。

 

「(改めて分かった……この人かなりお人好しなんだ……見た目不良っぽいなって思うけど、いつも誰かの気遣いしてて、優しくて、強い……そんな良い人なんだ)」

 

イノセンスと触れあった事で、アスナの中での彼への見方が少し変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直した二人は、一緒に泳いで目的地へ向かった。

今度は事故の無いように二人は一定の距離を保ちながら、イノセンスが先行した。

ある程度進んだ所で、行き止まりが見えた……そこから二人は浮上し、水面上に顔を出すと広い空間に出た。

 

「わぁ……ここが目的地なんですか?」

 

「ああ、その通り……ここで俺の欲してる<エキストラスキル>が手に入る」

 

アスナの質問に、イノセンスは答えながら水から上がり、彼女が差し出した手を掴み引き上げる。

 

「んっしょ、ありがとうございます……<エクストラスキル>……?」

 

「あー、えっとな……通常のスキルと違い、特定の条件下やイベントをこなして初めて手に入れられる、特別なスキルの事だ」

 

「なるほど……そういうものもあるんですね、ッ!クシュンッ!」

 

「あらら……こっちに火があるから当たっときな、すぐ治るから」

 

イノセンスの説明に納得した様子だったアスナだったが、今まで水を通ってきた弊害で感覚アブソーバが寒さを感知してくしゃみがでてしまう。

それを見て苦笑しつつイノセンスは、彼女を焚いてある火まで誘導する。

 

「あ〜……生き返ります……それで、その手に入る<エクストラスキル>ってどんな物なんですか?」

 

「ああ、それはな……<体術>スキルだ」

 

「<体術>……身体の動きや、手足を使った攻撃のスキルってことですか?」

 

物事の察しがいいアスナに対して、イノセンスは笑いながら頷く。

 

「βテスト時に第七層で体術についての情報が貰えたんだが、実はその時もらったのは第二層で<体術>が貰えるってことだったんだ」

 

「えっ、でもここはまだ第一層じゃないですか?」

 

頭に疑問符を浮かべるアスナを手で制するイノセンス。

 

「まあ、そう焦らずに聞くんだ……それで、知り合いの<情報屋>と実地検証に向かったわけなんだが……その内容が<破壊不可能オブジェクトギリギリ近い硬度の岩を、拳のみで破壊する>ってものだったんだよ」

 

「ええっ!?そんな無茶苦茶な……出来たんですか?」

 

そのあまりに鬼畜な内容にアスナは驚愕し、半信半疑で聞くとイノセンスは頷く。

 

「結論としては出来たんだが……ログアウトありで5〜6日、ログアウトせずに三日三晩必死に殴らないと壊れないくらいの硬さだった」

 

「うわぁ……良くやりましたね」

 

「一応<あの製作者様>は、性格破綻者かもしれんがゲームについては公平性を持って作ってるからな……壊せると信じていた、ハァ……」

 

しかしあまり良い思い出ではないのか、イノセンスはため息をつく。

 

「ま、そしてだな……なんとか破壊して<体術>を会得した時に、師匠たるNPCが教えてくれたのが……<ともに鍛えあった弟が、第一層にいる>と言う事実とここの場所のヒントだった」

 

「ああ、そういう……えっ?じゃあイノセンスさんここに三日三晩こもるんですか!?」

 

アスナの反応に手を顔の前で左右に動かすイノセンス。

 

「だから焦るなっちゅうに……ちゃんとβ時にここの検証も済ませてるよ、内容はちゃんと別だった」

 

「ああ、良かった……それで、その内容の方は?」

 

「それは聞くより実際に見たほうが分かると思う……もう乾いたんじゃないか?」

 

「え?あっ、そうですね」

 

「じゃあ行くとするか、こっちだ」

 

話に夢中で気づかなかったが、既に装備も髪も乾いていた。

イノセンスに言われるまま奥へついて行くと、其処にはハゲ頭で痩せ型の道着を着た老人が、胡座をかき瞑想していた。

近くまで行くと、目を開き彼は突然話し始めた。

 

『ここまでやってこれた者がいたか……と言うことは、伝えねばなるまい……我が極意を……』

 

「選択肢がでたろ?OKすれば試練をすることになってしまう……アスナは俺がやるのを見てから決めるんだ、まだ押すなよ?」

 

「は、はい……」

 

アスナにしっかり忠告し、OKを押すイノセンス。

すると老人がイノセンスに対して突然構えをとる。

 

『我から見事一本とってみせよ……それが我からの試練だ』

 

「えぇ!?あ、よく見たらおじいさんの名前が、モンスターと同じ色に……」

 

長い時間続ける根性、絶えず岩を殴り続ける集中力が求められる二層の兄の試練。

それに対して実戦での相手の動きを見て判断する対応力、達人レベルの攻撃を見切りかわし当てる反応速度と反射神経が求められる弟の試練。

どちらもキツい試練……兄の場合確実に時間が取られるものの誰でもとれる、しかし弟の場合プレイヤー次第ではすぐ終わるか永遠に終わらないかで、かなり極端であった。

 

「そんじゃ、行きますか……アスナ、俺がやるから良く見て学んでおくことを勧める……強くなりたいならな」

 

「わかりました、しかと見させてもらいます」

 

イノセンスは最初から短剣を装備から外しており、素手で構える。

その構えは、その手の事に関しては素人なアスナでもわかった。

 

「(あれってもしかして、空手の構え?イノセンスさん、空手やるんだ……)」

 

意外な事実に感心しながら、アスナはことの成り行きを見守る。

師匠たる老人とイノセンスは互いに構え睨み合う……まさに一触即発の状態だった。

刹那……どこからか、水滴が落ちた音が空間に反響する。

 

『キエエエエエエエエエエェェェッ!!!』

 

「コイヤァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「……えっ」

 

気勢を上げ飛びかかる老人、気合を出し迎え撃つイノセンス。隙の出来

両者の拳が打ち合い、衝撃波が発せられる。

その様に唖然としてしまうアスナ。

 

『やりおるなぁッ!!』

 

「ったく!相変わらず優秀すぎるAIだな!」

 

互いに攻撃を避けては、予断なく突きをかまし、蹴りを放ち、その身が軽やかに舞うように戦う。

 

「(あ、あれ?空手ってこんなにハードなんだっけ!?と言うか二人の動きが速すぎて、目で追うのがやっとよ!)」

 

ある意味次元が違う戦いに、アスナの頭は混乱を極める……それでも目で追うことは止めないのは、彼女なりの維持か。

しばらくの応戦の後にイノセンスは回し蹴りを放つが、身軽な老人はヒラリと回避し、瞬時に再び飛ぶ。

 

『隙だらけじゃッ!!』

 

「ッ!イノセンスさん!あぶない!」

 

回し蹴りを放ち、大きな隙が出来た様子のイノセンスに老人は飛び蹴りを放とうとしている。

アスナは十中八九イノセンスが負けると思った……しかし。

 

「かかったな爺さん!この瞬間を待っていたんだァ!!」

 

『なにぃ!?』

 

「何をする気なんですか!?」

 

なんとイノセンスは回し蹴りの勢いを逆に利用し、身体を大きく回転させる。

そのスピードのまま右手を握りこぶしにし、蹴りに使っていた右足は勢い良く地面を踏みしめ、パワーを増させる。

身体は既に老人の方へ向きかけている、更にそこに上半身の捻り、腕の捻りも加え一気に遠心力を味方につけ威力を上げる。

老人は飛び蹴りを始めた故に体勢が変えられない。

 

『ま、まだだ!!まだ終わってなぁい!!』

 

「チェェェストォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ーーーーッ!」

 

この瞬間を後にアスナはこう語る……<まるで光が走ったようだった>と……。

老人が吹き飛び地に伏せ、イノセンスはふぅ……と息を吐き、笑った。

 

「終わりだな……」

 

『むぅ……見事だ!免許皆伝じゃ……』

 

「ほい、これで<体術>GETと……」

ーーーー

イノセンスは表示される取得メッセージ画面をOKを押して閉じると、アスナを見やる。

 

「これを……出来るか?」

 

「うぅ……や、やれます!やらせてください!」

 

正直に言うとこれは無理だと言いたかった、しかしここまで来て何も掴まないで帰るのはアスナからすれば癪だった。

故にやれると言った……言ってしまった。

 

「わかった、ならOKを押すといい……折れるなよ」

 

ポンとアスナの肩に手をおいて、激励を送るイノセンス……彼女がやると言っている以上止めることはしない。

そして彼女も、アスナもまた止まれない……意を決してOKボタンを押す。

 

『よかろう……ゆくぞ』

 

構える老人に対し、アスナは見様見真似でイノセンスと同じ構えをとる。

とにかく護身術程度の心得しかないアスナは、可能性にすがるしかなかった。

 

「はあああああああッ!」

 

『未熟ものめがぁッ!!!』

 

真っ先にかかりに行ったアスナ、しかし明らかに隙が大きく、あっさり蹴り飛ばされてしまう。

 

「キャアッ!!」

 

『精進が足りん!』

 

老人はカッと目を見開き、アスナを一喝する。

悔しげな表情で立ち上がる彼女は、まだ諦めてはいないらしかった。

 

「まだっ、まだああああああああああ!!」

 

『キエエエエエエエエエエェェェッ!!!』

 

アスナは立ちあがり続けた、いつか見えるかもしれないそのたった一本のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「……アスナ」

 

最早時刻は日が明けかけている頃合いだった……それまでの間アスナは果敢に挑み続けた。

しかし、限界だったのか……もうその身体は倒れ伏してしまっていた。

この状態には流石のイノセンスも、彼女を無理やり連れ帰る選択肢を視野に入れた。

 

「もう無理か?」

 

「…………」

 

それは肯定か、否定か、或いは疲れすぎて答える気力もないのか……アスナは黙りだった。

圧倒的な実力に叩きのめされ、地に伏す彼女にイノセンスは一抹の望みにかけることにした。

 

「黙ってるなら仕方ない……俺は一人で帰るとするよ、お前はここに置いていく」

 

「ーーーーッ!!?」

 

「どのみちどちらかが帰らなきゃ他の奴らが混乱してしまうからな……だから、俺は帰るぜ……アスナは黙ってるしな、俺はもう諦めた」

 

わざとらしく彼女を煽るつもりでイノセンスは若干冷たい言葉を並べる。

しかし、これらの言葉が彼の意図したものと違う方向でアスナに影響を与えていた。

 

「(<置いて行かれる>ッ!?<諦めた>ッ!?)」

 

彼女の頭の中で両親の顔が浮かび上がる、完全に自らに対して失望の色を強く出しているその表情が突然<真っ白>になりアスナは恐怖する。

失望されたくない、見捨てられたくない……そのために必死だった彼女は今、両親以外の顔も頭に浮かび上がった。

今まで一緒にいたイノセンスの顔、優しい笑みをたたえていたそれは、アスナを一気に絶望に叩き落すかの様に<真っ白>になってしまう。

サチたちの顔も、リタの顔も、浮かんでくる知り合った人間全ての顔が<真っ白>だった……まるで今までの自分の人生が<真っ白>で空虚なものだと言われているようだった。

 

「(やめてぇ!!私は!私の人生はそんなものじゃないよぉ!!)」

 

<真っ白>な顔に囲まれ縮こまってしまうアスナ……その顔もまた真っ白になりかけていた……。

 

「(わたしもこのまま……みんなとおんなじに……)」

 

と、そう考え始めていたアスナの耳に声が聞こえてくる。

 

『明日奈、貴女は本当に良い娘ね……とっても物覚えが良くて、お母さん教え甲斐があって嬉しいわ』

 

「(あ……)」

 

それはかつて母が褒めてくれた自分の長所、褒めてもらいたくてその日からどんどん知識や技術を吸収していった。

最早それは天賦の才能であり、身体に染み付き、無意識の間に実行出来るレベルだった。

 

『アスナ、俺がやるから良く見て学んでおくことを勧める……強くなりたいなら』

 

「(私は……)」

 

ついで聞こえたのはイノセンスが自らが試練に挑む前に口にした言葉、アスナもその言葉に従い、彼の戦いを目を離さず見続けた。

結果、様々な衝撃を受けるような出来事ばかり目撃した……特に今でも記憶に鮮明に残っているあの<閃光のような一撃>。

 

「(置いて行かれたく……ない……諦めてほしくなんか……ない……ッ!)」

 

アスナの周りの白い顔が距離をおいていく、彼女の顔はもう<真っ白>などではなかった。

その瞳には光が宿り、表情にも生気が満ちていた。

 

「(だから……私は立つ……ッ!立ってあの老人に勝ちたい……ッ、そのためにも欲しいッ!力がッ!私が前に進むための力がッ!!)」

 

恐怖はもうない、だが今の自分では勝てない……それを分かっていたアスナは願った、新たな力を……<本当の自分らしく生き抜く力を>。

すると白い顔たちを押しのけてアスナの前に、しっかりと顔のあるイノセンスが現れた。

 

『そうか、力が欲しいか……なら、手を貸してやる……』

 

「イノセンス……さん?」

 

『ああ、そうだとも言えるしそうでないとも言える……だが俺はお前の味方だ、手出してくれ……』

 

アスナは不思議と本当にイノセンスなのか曖昧な彼を自然と受け入れ、素直に手を差し出し、その手を握られる。

 

『もう後一歩まで来てるがその一歩が、アスナは踏み出せてない……だから俺は軽く後押しするだけだ』

 

そう言うと、彼の瞳が青く輝き出した……アスナはその美しい輝きに魅入られた。

そんな彼女の様子を見て、イノセンスのような彼は微笑んだ。

 

『<お前のそれも、似合ってるぜ>……じゃ、もう終わったから俺は帰る……また会おうな、アスナ』

 

そう言い残し彼は消えてしまった……本当に力が手に入ったのか、アスナは確信に至れてはいないが、<彼>を信じ立とうと気合を入れる。

 

「よぉし!!頑張れ、私!!」

 

ピクリとアスナの身体が動き、イノセンスは安堵した。

 

「(良かった……煽りが効いたか?それとも……どっちにしろ、倒れたまんまよりかはずっとマシか)」

 

ゆらりと立ち上がるアスナは、瞼を閉じた状態で構えに入る……そこで彼女の異変にイノセンスは気づいた。

 

「(構えが堂に入っている?おかしい……少なくとも今の今までは空手の見様見真似だったはず……何があった?)」

 

『まだやる気か?よかろう、相手をしよう』

 

「…………」

 

老人が構えに入り、その後飛びかかってくる。

 

『キエエエエエエエエエエェェェッ!!!』

 

「……フッ!!」

 

と、このタイミングで突然アスナは<右足で回し蹴り>をする……しかしあまりにもタイミングが早すぎて空振りする。

 

『なんだそれは!猿真似では我は倒せぬぞぉ!!』

 

「……アスナ、お前まさか?」

 

イノセンスは察した、先ほどの動きは間違いなく自らがやった回し蹴りと<寸分違いなく同じ動きだったのだから>。

アスナはそのまま回し蹴りの勢いで回転し、右拳を握り、右足で踏み込む。

 

「それはどうでしょう?やってみなくちゃわからないでしょう?」

 

『ぬぅ!?』

 

身体と腕に捻りを加え、右手を突き出す……まさしくそれはあの時の<閃光のような一撃>と同じ動きと技術だった。

その時彼女は同時に瞼を開いた……瞬間老人の目が驚愕に見開かれる。

 

『白き……閃光……ッ!』

 

「チェェェストォオオオオオオオオオオオ!!!」

 

ふと飛ぶ最中、老人が抱いたのは感謝の念と最大限の尊敬であった。

 

『見事だぁぁ!!』

 

倒れ伏す老人、今だに残心を取っているアスナ……そしてそれをイノセンスが驚愕しながら眺めている。

とりあえず黙っているのもなんだったのでイノセンスはアスナに声をかけた。

 

「おい?アスナ?」

 

「……えっ?あれ?」

 

と、ちょうど声を掛けた時彼女は我に返ったようで、何があったのか分かってない様子であたりをキョロキョロとしている。

 

「私どうして?」

 

「お前覚えてないのか?試練突破したんだぞ、よく前見ろ」

 

「あ……」

 

そこには<体術>を取得した旨が書かれたメッセージが表示されていた……みるみるボンヤリしていた表情が、満面の笑みに変わっていった。

 

「やった……やった!やったぁあああああ!!!あはははははっ!!!」

 

「ちょっ、おいアスナ!?」

 

喜びのあまり思いっきりイノセンスに抱きつくアスナ、彼は突然の事に珍しく焦っていた。

 

「これで私失望されないんですね!!?置いて行かれたり、見捨てられないんですね!!?」

 

「ーーーーッ!?」

 

ここで初めてイノセンスは気づく、彼女の本当の生きる原動力、そして先ほどの力がどういうものか……なぜ、彼女がこんなにも喜んでいるかにもである。

 

「ああ、そうだよ当たり前だろ!お前一人置いていったら俺が殺されちまうよ!あれはアスナを焚きつけるために言っただけだ!!」

 

「……え?そうだったんですかぁ!?よ、よかったぁ〜」

 

事実が知らされ、一気に力が抜けてしまうアスナ。

もう何時間も一方的に殴り飛ばされてきたのだ、彼女は心身共にヘトヘトだった。

 

「あらら、もうしかたねぇな……ほい、よいしょっと」

 

「……ぅ?」

 

そんな彼女のために、イノセンスはアスナを背負い歩き出す、ここには既に用はないのだから。

帰りは一本道で別ルートの穴があるらしく其処を通って行くイノセンス……そこで彼は彼女に伝える。

 

「アスナ」

 

「……はい?」

 

「お前さ、自分が全部ちゃんとやれなきゃ、周りの親しい人たちが自分から離れちまうって考えてやいやしないか?」

 

「……ッ」

 

「そうか……やっぱりな」

 

アスナの様子で、事実が確認できたのでイノセンスは話しだした。

 

「結論な、少なくとも俺達は……俺はそんな事では離れたりしないよ……今までお前の身近にいた人間がどうだったのかは知らないけどさ」

 

「…………」

 

「何だったら、この世界でくらい……そんな事考えないで生きてみたらどうだ?いや、別に無理に言ってるわけじゃないけどもさ」

 

イノセンスの言葉に少し躊躇いを見せたが、アスナはこう答えた。

 

「……頑張ってみます」

 

「ん、今はそれでいいや……俺はあくまでもアスナに無理をしてほしくないだけだからな」

 

アスナの返事に微笑み、胸を撫で下ろすイノセンス。

そう話している間に外に出た二人は朝日を浴びる。

 

「おお、もう朝かぁヤバイなこりゃ……さっさと戻らにゃ、なぁアス……寝ちまったか」

 

彼の背中で眠る彼女は、心の底から安心しきった顔で可愛らしい寝息をたてていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から数日後、イノセンスたちはパーティーで狩りに出ていた。

装備新調と回復アイテム補充のために金策が必要だったのだ。

現在狩っているのはコボルドランサー、彼らの落とす槍がドロップ率の割に高めで取引されていたためである。

 

「よし!アスナ!スイッチだよ!」

 

「わかった!任せて!」

 

ランサーの突きを、片手剣で軽く打合せて弾き、スイッチにて立ち位置を入れ替える二人。

隙だらけとなったランサーにかけより、細剣のソードスキル<リニアー>を発動させるアスナ。

 

「チェストォオオオッ!!!」

 

「おおうっ!」

 

突然の気合の掛け声にびっくりするリタ、そのままアスナは<リニアー>で貫きランサーを撃破する。

 

「ふぅ……お疲れさま!」

 

「お、おつかれ!ところで気づいたんだけどさ……なんかアスナ前と違うよね、動きが全く迷いないし、速いし、そのくせかなり気合入ってるし……何があったの?」

 

リタは気になっていたことをアスナに聞いた、すると彼女は笑顔でこう答えた。

 

「そうだね……<本当の自分らしく生きる>覚悟が出来たって感じかな?今ね、この世界に来る前よりずっと心に余裕があるくらいなの!」

 

そう言い切った彼女の瞳が、<白い輝きを放った>事に太陽の逆光でリタは気づくことはなかった。

 




覚醒……抜刀妻。

この後第一層での事案があり、アスナはイノセンスについて行き、これから書こうとしている第一話に繋がります。

アスナさんの過去をかえりみて「これ使えるな」と思い書きました……白き本能の牙、それが彼女の新たな力です。

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