転生したら地元だった件   作:rayi

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温かい目で見守ってください。


一敗目 やはり車は強すぎる

 高卒で同級生より一足早く就職して早十二年。

 同窓会となればやれ結婚だ、年収が、子供がと俺と無縁の話が始まり祖母の孫口撃が辛く感じていた。

 

 そんな憂さを晴らすため仕事帰りにフラっと駅前に出ようと、談合橋を渡った時だった。

 側面から来る乗用車がアクセルを付加して突っ込んで来た。

 

ドン!

 

 数メートル吹っ飛ばされた俺は、ヤムチャしやがっての格好で道路にうずくまる。

 ヘッドライトの明かりが俺に近づく……

 

 間違いない。

 ヤクザカーや、例のアレにおける黒塗りの高級車としてお馴染みのトヨタ・センチュリーだった。

 (クルルァ)の中には、四人組が乗っている。

 それは立教大トリオとTNOKではなく、ヤクザとその子分。

 

「アニキどうします?」

 

 舎弟の一人が、恰幅のいい男の方を一瞥すると、アニキと呼ばれた男は煙草を咥え別の舎弟に火を付けさせる。

 

「今年は本家を迎えた会合が行われたばかり、ここで俺が引っ張られると組に泥を塗ることに繋がる。俺は居なかったそうしろ身代わりって奴だ。ムショから出てくればお前は下部組織の幹部だ」

 

 アニキと呼ばれた男は囁くように唆す。

 

「幹部……」

 

「中卒、高卒のお前らがこれから半世紀以上ヤクザで食っていくならこれぐらいできるよな?」

 

 ヤクザの会話を聞いている間に意識が薄くなる。

 

 ああ、俺の人生30年。思えばいいことはなかった。

 真面目に勉強していれば大学に行けたのだろうか?

 高校時代に彼女が欲しかった。

 思い返せば後悔ばかりの人生だ。

 

 そして――。

 

「うわああああああ!!」

 

 慌ててベッドから飛び起きる首筋から肩甲骨へ汗がツーっと流れた。

 汗で張り付いたシャツによって体が寒い。

 

「どこだ、ここ」

 

 夢だったのかそう安堵するのも束の間、異変に気付く。

 部屋の内装に見覚えがない。不思議と、体もいつもより軽い。

 戸惑いながらも自室を後にし、洗面台を探し家を徘徊する。

 

「……朝っぱらから何やってるのよ、お兄ちゃん」

 

 洗面台の前で、東映版スパイダーマンの口上とポーズ――それも『自分の正体が分からない男!』という最高にマニアックなところを突いていた俺の背中に、冷ややかな、けれどどこか楽しげな声が突き刺さった。

 

 鏡越しに目が合う。そこにいたのは、磨き上げられた陶器のような肌と、夜の静寂を溶かしたような黒髪を持つ美少女だった。

 学園でなら「深窓の令嬢」と拝められそうなビジュアルだが、今は家。だらしなく着崩したパジャマの隙間から、鎖骨が覗いている。

 

「バカじゃないの? そんなメタ的なセリフ吐いて現実逃避しても、お兄ちゃんの冴えないステータスは書き換わらないわよ」

 

「……お、おう」

 

 女子中高生の放つ、得も言われぬ覇気に気圧される。三十路アラサーにとって、女子学生はもはや接触不可(アンタッチャブル)な高次存在だ。しかも、この妹(?)からは「全部分かってますよ」と言いたげな、オタク特有の洞察力が透けて見える。

 

「邪魔。使わないならどいてよね」

 

 彼女はにへら~とだらしない笑みを一瞬だけ見せたかと思うと、次の瞬間にはジト目で俺を押し除け、洗面台を占拠した。俺は早々に敗走し、ダイニングへと逃げ込む。

 

 三十路(アラサー)にとって女子学生は接触禁止の女王である。

 どこの能登麻美子声の先輩(サテライザー=エル=ブリジット)だよ。

 

 青春コンプレックスか少女趣味を現実に発露した人間が、物理的接触(婉曲表現)からの創生合体(隠喩)する人間がいるため、女子学生に警戒されたオッサンはATフィールドを貼り続けられ戸締りしとこう(とずまりスト4)状態に互いになる。

 

「今日はお父さんが朝ごはん作ってあるから。ちゃんと食べてから学校行きなよ?」

 

「お、おう」

 

 一瞬こちらを一瞥する推定妹を後目にダイニングに向かう。

 

「学校、学校ねぇ……」

 

 米を盛り付け箸を付ける。

 テレビからはいつものニュースが流れている。

 

『東海地方の今日の天気は~』

 

 十年以上も昔のルーティンなど遥か彼方の記憶。

 そしてこの体の少年の通う学校など知りはしない。

 

 アレがあの三十年が胡蝶の夢とでも言うのだろうか?

 

 間違いなく俺はあの三十年を生きたハズだ。

 もし異世界転移・転生であるのならばこの世界はどの作品の世界なのだろうか?

 

「いつもは飲むのに、お味噌汁のむじゃん」

 

「いらん」

 

「……はぁ? 何言ってんの。お兄ちゃんから味噌汁引いたら、ただの『モブキャラA』になっちゃうじゃん。いつもはズビズビ音立てて飲むくせに」

 

 俺は中学以降は、家ではアサリかタケノコの味噌汁しか好んで飲まなかったが少年は朝は味噌汁は飲む派らしい。

 

 彼女は不満そうに口を尖らせ、俺の前にドン、と嗅ぎ慣れた香りの椀を置いた。

 

「合わせ……か?」

 

「いつも通りの合わせ味噌。岡崎の味噌蔵が閉まったときは『これでもうあたしの人生は終わりだ、お兄ちゃんの嫁に行くしかない』って絶望したけど、長野の蔵が引き継いでくれて助かったわよねー。あたしの婚期が延びたわ」

 

「んだね」

 

 適当に会話を流す。

 

『昨日、岸田首相が遊説先の和歌山市雑賀崎漁港でパイプ爆弾とみられる物体が投擲される事件がありました』

 

 前世でも同じようなニュースを見た記憶がある。

 

「味噌蔵が潰れたのって、いつだっけ」

 

「……一年以上前でしょ。ツワブキ生の脳細胞って、一晩でそんなにデリートされちゃうわけ?」

 

 からかうようにニヤリと唇の端を上げた。

 

 

「っ!?」

 

 確かめないと! 疑念を晴らすために部屋に駆け込みクローゼットに吊るされた灰色の制服と青、緑、黄色の三本のネクタイがそこにあった。

 

「嘘……だろ……」

 

 思えば怪しい所は複数あった。

 ニュースが東海地方のモノだったとか、味噌の種類、「~じゃん」そしてこの特徴的な制服とネクタイそして「ツワブキ高校」と言う名前。

 

「俺負けヒロインが多すぎる!の世界に転生したのか……どうせ転生するなら異世界がよかった! どうして地元なんだよ。転生したら地元だった件」

 

 その名を聞いた瞬間、心臓の裏側を冷たい針でなぞられたような感覚に襲われる。俺は飯を喉に詰め込み、自室へと全力で疾走した。

 

「ごちそうさま!」

 

「ちょっと、お兄ちゃん!? 逃げ足だけはイベント回収並みに速いんだから!」

 

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