SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
ビャッコ達が銀行強盗と殴り合っていた同じ頃。
ニコ達の方も要請に従い、現場に臨場していた。
到着したのは何の変哲もない灰色のオフィスビル。
風景の一部に溶け込むような特徴のない建物であり、ちょっと目を離すと隣のビルと取り違えてしまいそうな外観だった。
第41管区にはこの手の建物が掃いて捨てるほどあり、どこにでもある、ごくありふれた景観の一部である。
何事もなければ、今日も一日、死んだ顔をしたスーツ姿の人間を収監する牢獄のような役割を果たしていただろう。
そのビルを、治安維持部隊の隊員たちが遠巻きに取り囲んでいる。
赤色灯を回転させた装甲車が3台。
その陰に身を隠すようにして、防弾装備の隊員たちが十数名。
彼らはビルの正面玄関へと銃口を向けたまま、じりじりと膠着状態を続けているようだった。
事の発端は、およそ2時間前に遡る。
管内で逮捕されたギャングの構成員を、治安維持部隊が移送していた最中のことだった。
護送車が信号待ちで停車したところへ、ギャングの仲間たちが襲撃をかけたのである。
装甲を施された護送車は横転させられ、車内で拘束されていた犯人が奪還された。
普通ならばそのまま逃走を許してしまったであろうが、幸か不幸か、その現場の近くを別の治安維持部隊がパトロールしていた。
追跡を受けた犯人グループは車両を捨てて逃走し、たまたま近くにあったこの雑居ビルへと逃げ込んだ。
そして現在。
犯人グループはビル内部に立てこもり、居合わせた民間人を人質に取って、逃走用の車両を要求している。
以上が、ニコ率いる第3詰所第1小隊に与えられた情報のすべてだった。
「犯人グループは、追跡した治安維持部隊員の証言から全部で6名。武装はショットガンとパワーハンドガンが確認されています」
データに目を落としながら、ニコが淡々と所見を述べた。
小柄な身体に、支給されたばかりの真新しい制服。
腰まで届く銀糸の髪を揺らしながら、彼女は感情の読めない声で続けた。
「危険度C、任務評価C。よくある事件です」
「よくある事件ってなによ……」
隣で、ネオンが疲れたようにこめかみを押さえた。
「あはは。まあまあ、ネオンちゃん」
もう一人の部下――ルミナが、赤いポニーテールを揺らしながら軽く笑う。
「とにかく、私は現場指揮官の人と話してくるよ。合流の段取りとか確認しないとだしね」
「お願いします、です」
ニコが小さく頷くと、ルミナは「はいはーい」と手をひらひらと振りながら、装甲車の陰に集まっている隊員たちの方へと歩いていった。
その後ろ姿を見送ったニコは、改めて目の前のビルを見上げる。
8階建てのビルは、壁面には経年劣化による細かなひび割れが走り、雨だれの跡が黒い筋となって垂れている。
ニコはその外観をしばらく無言で観察していたが、やがて何かに得心がいったように小さく頷くと、空中に半透明のディスプレイを展開した。
「駄目ね」
その横で、自身の端末を高速で叩いていたネオンが、忌々しげに舌打ちをした。
「建物内部は玄関ホールにしか監視カメラがないみたい。しかも旧式で、ネットワークに繋がっているのは入退室記録の管理システムだけ。内部の映像確認はできそうにないわ」
治安維持の名のもとに、都市の至るところへ監視の目が張り巡らされたこの時代。
しかし、それはあくまで企業が管理する主要施設や公道での話であって、老朽化した民間のオフィスビルまで完全にカバーされているわけではない。
設備投資を渋る貧乏なオーナーにとって、監視カメラの増設など優先順位の低い出費でしかないのだ。
現代の電子戦において、視界の確保は生命線に等しい。
それが最初から潰されているというのは、突入部隊にとって最悪の状況と言えた。
「証言通り、犯人は6名で間違いなさそうですね」
ところが、隣に立つ少女は、そんな悲観的な状況などまるで意に介していない様子だった。
ニコは空中に浮かべたディスプレイを細い指で軽やかに叩き、幾つものウィンドウを同時展開させていく。
半透明の画面には、数字と記号の羅列が滝のような速度で流れ続けていた。
「玄関ホールのカメラ映像を解析にかけました。逃走した犯人グループの入館時刻から遡って、現時点までの入退室記録を突合。ビル内に居住実態のある人物がいないと仮定した場合、脱出済みの人数を差し引いて、内部に残された人質は4名ほどと推測されます」
「……早いわね」
ネオンは半ば呆れたように呟いた。
彼女が「監視カメラが使えない」という事実に舌打ちしている間に、この少女は使える情報だけを瞬時に取捨選択し、そこから人質の人数まで割り出していたのだ。
(わかってはいたけど、完全に役割が被ってるわね。……まあ、楽でいいけど)
第3詰所において、ネオンの担当は情報処理と電子戦だった。
ハッキング、通信妨害、監視網の掌握。
射撃の腕こそ壊滅的だが、その分野においては誰にも負けないという自負がある。
だが、目の前の少女は――脊髄に埋設された次世代型の戦闘適応モジュール、A.R.E.S.によって、少なくとも演算能力という一点においてはネオンを上回っていた。
技術と経験で負けるつもりはない。
しかし、手際のよさという意味では、正直に言って舌を巻く。
(これだけ優秀なら、左遷される意味もわからないけど)
ネオンは横目でニコの横顔を盗み見た。
人形のように整った白い顔。
情報処理だけをやらせていても、十分すぎるほど組織に貢献できるはずだ。
それがなぜ、たった一ヶ月で本部から山ほどのクレームを受ける事態になったのか。
(まあ、そのうちわかるんでしょうけど)
ネオンがそんなことを考えていると、ニコはふと指を止め、何かを思案するように小さく首を傾げた。
そして、再びディスプレイに向き直ると、今度は別のウィンドウを立ち上げ、猛烈な速度で何かを打ち込み始めたのである。
「……ねえ。なにやってるの?」
その様子に嫌な予感を覚え、ネオンは横から画面を覗き込んだ。
それに対し、ニコは事も無げに答える。
「建物の空調系システムと、配管系システムをハックしています、です」
「空調と、配管?」
ネオンは眉をひそめた。
「なぜ?」
「治安維持部隊のデータベースにアクセスしましたが、先に脱出した被害者たちの証言によると、犯人グループは3階のオフィスフロアに立てこもっているものと推測されます」
「そうね。それは私も見たわ」
「このビルは省エネ設計のため、高気密構造かつ完全空調管理となっています」
ニコは淡々と、まるで天気の話でもするような口調で続けた。
「なので、当該フロアの酸素濃度を少しずつ上昇させ、ある程度のところで配管をオーバーフローさせて爆発させれば、一網打尽にできます、です」
「絶対やめなさい!!」
ネオンは絶叫しながらニコのシステムへ強引に割り込み、ハッキング中のプロセスを強制終了させた。
半透明のウィンドウが、けたたましいエラー音とともに次々と閉じていく。
作業を中断させられたニコが、心底不思議そうに小首を傾げた。
「これなら一撃で事件解決なのですが」
「人質ごと吹っ飛ぶじゃないの! ちょっとは考えなさいよ!」
「……」
ニコはしばらく無言でネオンを見つめた後、思い出したように口を開いた。
「過去の対テロ作戦の記録を分析した結果、『テロリストとは交渉しない』という原則を学習したのですが」
「テロリストとそこいらのギャングを一緒にするな! 人質は基本、助けるようにしないと駄目でしょ!」
「なるほど。では、代替案を提示します、です」
ニコは素直に頷いた。
そして、いささかの逡巡も見せずに続けた。
「犯人から何か要求がある度に、一番上の階から順番に吹き飛ばしていくのはいかがでしょうか。口を開くたびに、徐々に自分たちへ迫りくる爆発の衝撃で、犯人の精神を叩き折れるかと愚考します、です」
「愚考が本当に愚考なことある!?」
ネオンの悲鳴じみたツッコミが、現場の空気を切り裂いた。
近くにいた治安維持部隊員たちが、何事かとこちらを振り返る。
ネオンは慌てて声を潜め、しかし語気だけは荒く詰め寄った。
「あのね。時には犠牲が出ることもあるかもしれないけど、最初から投げ捨てていい命はないの。わかる?」
「被害者の企業スコアの合計値と、犯人グループの逮捕による企業貢献の期待値を換算した結果、人質4名を喪失した場合の損失を計上しても、犯人6名を一網打尽で逮捕した場合の評価点が上回っています。さらに、もし人質が一人でも生存していた場合、この収支は大幅なプラスに転化します。これは激熱です」
その言葉にネオンはがっくりと肩を落とした。
「あなた、人権とか理解できないの!?」
「……人権?」
ニコが、初めて聞く単語のようにゆっくりと繰り返した。
そして、数秒ほど沈黙した後、思い出したように独り言ちる。
「すみませんがヒューマロットには適用されない概念なので失念していました、です」
「……」
ネオンは絶句した。
思わず、この少女の顔をまじまじと見つめてしまう。
無表情の中に浮かんでいるのは、悪意でも冗談でもないようだ。
前に白鷺博士はナチュラルへの従順さと任務上の加害のバランスをとるのが難しいという話をしていた気がするが、この子に関してはそれをミスっている気がしてならない。
企業スコア換算による人命の価値判断と命令順守は最低限守っているようだが、これを現実に落とし込むとここまで歪になるとは。
(ビャッコがあまりにも普通だから油断していたけど、こりゃ量産が難しいわけだわ)
ネオンは深いため息をつくと、ぐったりと肩を落とした。
「とにかく、ビルの爆破は禁止。今度こそ左遷じゃ済まなくなるわよ」
「了解しました、です。……効率的だと思ったのですが」
ニコは残念そうに――といっても表情は一ミリも動いていないのだが、なぜかそう見える雰囲気で――空中ディスプレイを閉じたのだった。
「ニコちゃーん。呼ばれてるよー」
戻ってきたルミナが、親指で装甲車の方を指した。
「珍しく本部の方から作戦指示があるみたいだよ」
三人が向かった先には、簡易的な作戦卓が組まれていた。
その中央に据えられた通信モニターに、一人の男が映り、口を開く。
『第41管区作戦統括室、オペレーティング・ディレクターの
痩せた体躯に、皺一つない制服。
頭髪は一本もなく、剃り上げた頭皮が照明を反射して鈍く光っていた。
神経質そうな細い目が、モニター越しにこちらを値踏みするように動く。
オペレーティング・ディレクターとは現場から離れた本部で、複数の部隊の配置と作戦立案を統括する役職だ。
下っ端としては、ある程度の規模になると出てきて命令を飛ばしてくる、なんとなく偉そうな人くらいのイメージである。
全ての現場に顔を出すこともないのだが、今回は護送中の襲撃ということもあって来たんだろうと、ネオンは推測した。
モニター越しの光頭は、そのイメージ通りの固い淡々とした声を出した。
『第3詰所第1小隊だな。作戦を通達する。交渉班が犯人グループと接触し、逃走用車両の手配について時間を稼いでいる。その間に、君たち第1小隊が突入し、犯人6名を制圧しろ。犯人の生死は問わない。以上だ』
それだけ言うと、話は終わりだと言わんばかりに通信を切ろうとしたところで、慌ててネオンが手を挙げた。
「突入の人員がなぜ私たちだけなんですか? 現場には他の部隊も展開しています。合同で当たった方が確実かと」
『ふむ』
光頭は一拍置いて、口の端をわずかに歪めた。
『月影ネオン隊員。君は、他人の手を借りなければ何もできない人間なのかね』
「そういう意味では」
『いや、責めているわけではないよ。ただ、君たちの小隊には最新型の戦闘用ヒューマロットが配備されている。企業の莫大な予算が投下された装備があるならそれに見合った働きをすべきとは思わないか?』
「それは……」
『その戦力を遊ばせておいて、他部隊の人的資源を無駄に消耗させる。それが君の言う「確実」なのかね? 実に興味深い判断基準だ』
ネオンが言葉に詰まる。
反論しようにも、口を開けばさらに絡め取られるという嫌な予感があった。
『それから、条件を一つ加える。人質は全員無傷で確保すること』
「え?」
今度はルミナが声を上げた。
「いや、人質を助けるのは当然ですけど……。どなたかVIPの方でもいるんですか?」
『できないと?』
「いや、できないというか、わざわざ言及するのも珍しいので――」
人命救助は大原則ではある。
だが、あらかじめ条件に付けられるのでは、重みが変わってくる。
正直言って、心理的にやりづらい。
『炉崎ルミナ隊員』
光頭の声が、ねっとりと絡みつくように低くなった。
『君は市民の命に軽重があると考えているかね? それとも、無駄に被害者に怪我させるつもりだと? それとも無能の言い訳を事前にしておきたいタイプか?』
「そうは言ってません!」
『では問題ないな。全員無傷。以上だ』
会話が成立していない。
ネオンとルミナが顔を見合わせた、その時だった。
「質問があります、です」
それまで黙っていたニコが、すっと一歩前に出た。
光頭の目がニコを認めると、先ほどのネオンとルミナに対してよりも、一段飛ばしで険しくなったような気がする。
『……なんだ』
「突入時、人質がすでに負傷していた場合、それは『無傷での確保』の条件を満たさないことになりますか? あとは、負傷の定義はどこまでを指すでしょうか?」
モニターの向こうで、光頭が鼻を鳴らした。
『最新型のヒューマロットとやらは、その程度も自分で判断できんのかね。少しは頭を使ったらどうだ』
「では――」
ニコは表情一つ変えずに続けた。
「『自分で判断しろ』ということであれば次のように判断していいでしょうか。負傷の起点は本小隊が突入開始予定時刻のヒトマルサンサンよりで。銃声による聴覚への影響、人質に取られたことによる心的負担まで考慮すると作戦に支障が出るので軽微なものは除外したすべきかと思います、です。なので、負傷の範囲は生体資源管理局の定義する軽傷等級区分のうち――」
『――もういい』
光頭が、うんざりしたように片手を振った。
『こちらは複数の現場の指揮で忙しいんだ。こんなつまらん事件でこちらを煩わせるな』
「承知しました、です」
通信が、一方的に切断される。
暗転したモニターの前で、ルミナがぽつりと呟いた。
「……なんか、感じ悪い人だったね」
「感じ悪いで済ませていい人じゃないと思うけど」
ネオンは腕を組み、消えた画面を睨みつける。
(確かにニコは企業が予算をかけて投入した戦闘用ヒューマロットだけど、このあからさまにひどい扱いされているのはなにかしら? あの嫌味なディレクターの性格の問題? それともうちの小隊が上層部のヘイトを買いすぎた?)
そんなことを考えていると、ニコはパンと手を叩くと、その場にいた治安維持部隊員に向かって宣言した。
「では、光頭オペレーティング・ディレクターから最新型ヒューマロットの私に判断に全て委ねるという承認をいただきましたので、今後は現場の指揮権を預からせていただくです」
「え? そんな話だった?」
その場にいた部隊員たち全員の心の声を代弁するようなネオンの疑問の声に、ニコはまっすぐに見つめ返して言った。
「要約するとそういう話かと思われます。上司の手を煩わせることがないように皆さん頑張っていきましょう」
言い終えると、ニコはくるりと背を向け、突入用の装備を確認し始めた。
不快感も達成感も、その横顔からは何も読み取れない。
「……とりあえず、準備しましょ」
ネオンは小さく息を吐き、装甲車の陰へと足を向けた。
何はともあれ、作戦開始だ。
3人は装甲車の陰で、それぞれの装備を最終確認していた。
ネオンが取り出したのは、支給品のスマート・ハンドガン。
残弾を確認してスライドを引き、構える。
「ネオンちゃんの武器それでいいの? なんか貸そうか?」
「いいわよ。どうせ当たる気がしないし」
「弾幕張れるやつもあるよ?」
「人質に当てたら怖いし、悪いけど射撃の方は期待しないでよ」
「りょーかい!」
ルミナが軽い調子で言いながら、バックパックから装備を取り出す。
短い銃身に、分厚いボックス型のマガジンを上部へ寝かせて装着した屋内制圧用のサブマシンガン。
本来はコンパクトなはずのそれに、放熱フィンだの補助グリップだの用途不明の増設パーツだのが所狭しと生えており、シルエットはもはや原型を留めていない。
「また装備いじったの? 装備課の検査通らなくなるわよ」
「ちゃんと戻すから大丈夫!」
そんなやり取りを横目に、ニコが後ろ腰から一挺の武器を抜いた。
グリップこそ引き金の付いた銃の形状だが、そこから伸びるのは白銀の細長い刀身。
幅は5センチほど、全長は50センチ余り。装飾を削ぎ落とした直線的なフォルムの中を、涼しげな青白いエネルギーラインが一筋、先端まで貫いている。
その切っ先には、精密な端子が結晶のように連なっていた。
指揮官のサーベルか、あるいは魔法使いの杖か。
少なくとも、銃火器の類には見えなかった。
その武器を見たネオンが目を見開いた。
「ちょっと待って。それ、接触侵襲型の電子戦装備よね? 対象に触れるだけで電子防壁を焼き切るやつ。噂には聞いてたけど、現物見るの初めてだわ」
「はい。装備名、《ウリエル・コンダクター》です」
「うわっ、両端に付いてるオプションユニット!」
今度はルミナが目を輝かせて食いついた。
「これ複合磁場閉じ込め式光刃発生器でしょ? 実物初めて見た!」
「こちらはルクス・エッジといいます。これで接近戦も問題なくこなせます、です」
そう言いながらニコがグリップのスイッチに触れると、刀身の両端――付け根と切っ先の発光ユニットから、青白い光がスッと立ち上がった。
二点に支えられた一直線の光。
ちょうど寄ってきたコバエがその光に触れると音もなく消滅してしまい、ニコは「おや失敬」と言いながら光刃を消した。
そこまで興奮していたルミナがふと真顔になった。
「どっちも最新型だし、このセットでとんでもない値段するよね?」
「お母さまから買ってもらいました、です」
事も無げに言われ、ルミナとネオンは同時に沈黙した。
「……買ってもらった」
「はい。就職祝いです」
「就職祝い……」
事も無げに言われ、ルミナとネオンは同時に沈黙した。
値段も去ることながら、就職祝いという響きとかけ離れた兵器にどうコメントすべきか言葉もないようだった。
そんな呆れた様子のネオンとルミナを構うことなく、ニコは隣の準備区画へと歩いていく。
そこには、他の詰所の隊員が並べていた屋内偵察用の小型ドローンが数機、待機状態で置かれていた。
掌に乗るほどのサイズで、武装は付いてないが静音駆動に特化した索敵専用機である。
ニコはその中の一機に近づくと、無造作にウリエル・コンダクターの切っ先を機体へ当てた。
トン、トン。
軽い音が二度鳴っただけだった。
次の瞬間、ドローンのステータスランプが青から白へと切り替わり、ふわりと浮上してニコの頭上へと移動する。
「ちょっと借りていきます、です」
「早っ!?」
ネオンが素っ頓狂な声を上げた。
治安維持部隊の装備には当然、部隊識別の認証がかかっている。
本来なら管理者権限の奪取に数十秒はかかる作業だ。
それを、2回叩いただけで終わらせた。
「あ、こら! 勝手に持ってくなよ!」
「現場責任者として必要な措置です。終わったらお返しします、です」
準備をしていた隊員の慌てた声にニコは丁寧に一礼すると、さっさとビルの方へ歩き出してしまった。
頭上のドローンが、忠実な小鳥のようにその後を追う。
残された隊員が、呆然とした顔でこちらを見た。
「……うちの装備」
「うちの小隊長がごめんなさい。後で正式な手続きはしますから」
ネオンはげんなりした顔で答えると、ルミナと顔を見合わせて、その小さな背中を追いかけたのだった。