SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
ついに長いようで短かった配置交換も今日で最終日。
朝から第5詰所は妙に穏やかで、私も「このまま何事もなく終われば万々歳だな」などと呑気なことを考えていた。
なんならアレスに帰りに打ち上げをする店の候補を探してもらっていたくらいだ。
だが、そんな平和な空気は、正午を過ぎたあたりで木っ端微塵に吹き飛んだのだった。
『――第5詰所。緊急招集。臨戦規格甲種にて、30分以内に指定座標へ集合せよ』
心臓に悪いサイレンと無機質な通達音声が、詰所の待機室に響き渡る。
「臨戦規格甲種で集合だって」
「こ、甲種って……それってかなり大規模な作戦ですよね!?」
私が端末に流れる文面を読み上げると、テオ君が椅子から跳ね上がった。
「何事だよ」
アッシュ君がデスクに乗せていた足を下ろし、眉をひそめる。
「詳細は現地で説明するってさ。二人とも装備整えてね」
普段の防弾ベストとハンドガンやサブマシンガンといった乙種装備が日常パトロール用だとすれば、甲種装備はBランク任務以上でなければ許可が下りない本気の戦闘用。
コスパ重視の上層が着用許可を出してくるのはただ事ではない。
私は待機室の奥にある甲種装備用ロッカーへと歩み寄った。
分厚い鋼鉄の扉に手をかざし、通達された命令番号と小隊長権限で電脳から貸し出し手続きを行う。
ピッ
ロックを解除したことで、短い電子音とともに重々しく扉が開く。
「うおっ、来た来た!」
「うう、気が重い……」
開けるや否や、私の頭の上から二人がロッカーに手を突っ込み、それぞれの装備を引っ張り出していく。
私が持つには大きすぎるであろう、ゴツい機関銃とロケットランチャー。
第3詰所ではルミナが標準装備を改造したり、私物の武器を無許可で持ち込むので縁はなかったが、こういった重武装も実はあったりする。
そしてなんと言っても異彩を放つのが。人工筋肉の上に装甲板が張られた歩兵用強化外骨格――《パワーズ・フレーム》。
バイクに乗る仮面ヒーローみたいな軽装のアーマーだが、拳銃弾程度なら平然と弾き返す防御力がある。
何より、人工筋肉のおかげで重い武器や背嚢も軽々と扱えるようになる代物だ。
アッシュ君はともかく、お世辞にも体力があるとは言えないテオ君は、甲種の武装を持つならこの装備がないとまともに戦えないだろう。
そんなに便利なら普段から使わせろという話だが、割と高価らしく、いざという時しか使わせてもらえない代物だ。
かっこいいし未来チックだし、個人的には一押しの装備である。
「…………」
ちなみに私専用のアーマーはない。
そもそも体格に合うサイズがないのもあるが、「戦闘用ヒューマロットはアーマーなしでも活躍できるスペックを持っているからこれ以上の費用をかけるべきではない」という上層部の意見があるらしい。
まあ、私に関して言えば、ナノスキンアーマーと遺伝子レベルで強化されたこの身体があるので、アーマー装備よりも強いまである。
武器だって、ルミナが作ってくれた《セラフィム・サーペント》と、ついでに最近もらった
(……別にいらないんだけどさ)
二人がガチャガチャと準備している間、私だけ手持ち無沙汰で突っ立っているのは、少々寂しいものがある。
ふむ。
私はおもむろにシャツのボタンを外し、高機能ブラジャーをむき出しにすると、自動調節ボタンを押していつもより少し強め締め付けてみた。
うん。ちょっと気合が入った。
「よし、こっちは準備できたぞ……って、なにやってんだよお前は! 一応女の切れ端なんだから下着見せてくんなよ!」
「切れ端じゃなくて端くれ、ね。ごめんごめん、お目汚ししました」
顔を赤くして怒鳴るアッシュ君と、わざとらしく明後日の方向を向いているテオ君に、私はぺこりと頭を下げて、いそいそとシャツを着なおす。
いかんいかん。
さっき、アッシュ君たちも着替えながら下着見えていたし、私もまあいいかと思って気を抜いていた。
男所帯で気楽に過ごしていたせいで、自認が美少女エルフから脳筋ドワーフおじさんになりかけていたよ。
(そう言えば、JKから女の子を楽しむためにデートでも行こうと誘われていたけど、結局配置交換があって行けずじまいだったな。この任務終わったら行かないと)
そんなことを考えながら装備を整えたところで、いよいよ出発である。
「じゃ、行くか。俺は自分のバイクで行くわ」
装備を背負い終えたアッシュ君が、そう言って詰所の出口へ向かう。
「え、輸送車で一緒に行こうよ」
テオ君が慌てて引き止めるが、アッシュ君はけんもほろろに首を振った。
「やだよ。お前の安全運転に付き合ってたら、着く前にイライラで死ぬわ」
「そんな……僕は法定速度を守ってるだけなのに」
「現場に行くのに法定速度守るなよ」
そう吐き捨てて、アッシュ君はさっさと出て行ってしまった。
まあ、彼のバイクなら私たちより早く着くだろうし、問題はないか。
私はテオ君と顔を見合わせて肩をすくめると、輸送車へと乗り込むのだった。
◆
指定された座標に到着すると、そこは廃工場地帯の手前に広がる空き地だった。
すでに複数の詰所から集められた輸送車や装甲車がずらりと並び、パワーズ・フレームを身に着けた隊員たちが忙しなく行き交っている。
簡易テントが張られ、通信機材が運び込まれ、あたりには作戦前特有の張り詰めた空気が満ちていた。
とりあえず、次の命令があるまで待機かなとか思っていたところ、見知った顔が目に飛び込んできた。
『会いたかったですわ、小隊長!』
聞き慣れた声とともに、地響きを立てて近づいてくる黒い巨体。
アイアン・メイデンに乗ったアイリスは性格が変わるので、今はお嬢様口調だが、そんな声を聞くのも随分と久しぶりな気がする。
そして今、その巨大な両腕がこちらへ向かって差し出されているのだが。
(止まる気あるよね? なんか跳ね飛ばされそうなんだけど)
そんなことを考えながらも私はひらりと身を躱し、アイアン・メイデンの太い足をポンポンと叩く。
「久しぶり、アイリス。配置交代も今日までだと思ってたから、一足早い再会になっちゃったね」
『ええ! こんな組織、早めに捻り潰して、余った時間はゆっくり語らいましょう!』
そんなことを元気いっぱいに言うアイリス。
普段はふにゃふにゃしている癖に、アイアン・メイデンに乗ったら相変わらずの強気である。
「ビャッコちゃーん!」
続いて駆け寄ってきたのは、赤いポニーテールを揺らすルミナ。
その後ろから、腕を組んだネオンがゆっくりと歩いてくる。
2週間とはいえ離れていた部下たちとの再会に思わず頬が緩むのを感じる。
「二人も久しぶり。……ネオン、足は大丈夫?」
もう復帰したとは聞いていたけど、なんやかんや忙しくて会うのは2週間ぶりだから少し心配になる。
しかし、ネオンは気にした様子もなく足をポンポンと叩きながら。
「大丈夫よ。この程度の怪我なら任務に支障もないわ」
「タイミング悪いよねー。今日で交代も終わりだって聞いてたのに、まさかの大規模作戦だもん」
何でもない様子のネオンの言葉に、ルミナが唇を尖らせる。
歩き方も違和感ないし大丈夫だろうけど、本当ならもうちょっと休んでほしいところだ。
とはいえ、みんなに会えると嬉しいのもまた事実である。
「みんな、今日まではニコのことよろしくね」
そう言いながら、私は3人(といっても一人は機甲兵だが)の顔を改めて見た。
――そして、内心で眉をひそめる。
ネオンの目の下には、隠しきれない濃い隈が。
ルミナの明るい口調も、よく聞けばどこか声に張りがない。
そういえば、アイアン・メイデンの突進もいつもより踏み込みが甘かったように思える。
(……連勤、思ったよりきつかったんだな)
ニコから聞いた数字を思い出す。
C難度6件、D難度14件。
たった2週間でその件数をこなせば、そりゃあ疲れも溜まるだろう。
そんなことを考えていると、視界の端で銀色が揺れた。
「ニコ」
「ごきげんよう、です。お姉さま」
そう言ってペコリと頭を下げるのは私の妹であるニコだ。
彼女も私と同じくパワーズ・フレームが支給されていないので、いつもどおりの制服姿なのだが、きちんとアイロンがけされたきれいな制服がこの場では逆に浮いているように思える。
そんなニコは挨拶もそこそこに、とてとてとアッシュ君とテオ君の方へ近づいて行った。
「お久しぶりです。アッシュさん、テオさん」
「…………おう」
「は、はい。……お久しぶりです」
私と第3詰所のメンバー同様、ニコも久々の元部下との邂逅な訳だが、そこに流れる空気は私たちとは比べ物にならないくらい重い。
異動願いが出されるほどうまくいっていなかったのだから、まあ仕方ないだろう。
私がフォローに入ろうかと足を踏み出しかけた、その時だった。
ニコが、すっと頭を下げた。
「すみませんでした」
その声にアッシュ君とテオ君が、揃って目を見開く。
「お二人が、お姉さまの下ではきちんと任務に従事していると聞きました。つまり、私の能力が不足していたということです。なので、ごめんなさい、です」
たどたどしい謝罪の言葉。
その表情は、いつも通りの真顔だった。
けれど、下げられた頭はきっちりと深く、そして長かった。
「……別にいいよ。俺もお前の言うこと聞いてなかったし」
アッシュ君が、気まずそうに頭をかいた。
「僕の方こそ、すみません。お力になれず……」
テオ君も困った顔をしつつもぺこりと頭を下げる。
ぎこちない。実にぎこちない。
だが、少なくともこうやってお互いに歩み寄れるようになったなら配置交代の意味もあったということなのだろう。
(この様子なら私のフォローもいらなそうだな。)
私はそんなことを思いながらも内心で微笑む。
――とそこへ、そんな微笑ましい雰囲気をぶち壊す黒い巨体が、地響きを立てて3人の間にずかずかと割り込んでいく。
『あなたたちが、ビャッコ小隊長の今の部下かしら?』
「ひぃっ!?」
「げ、こいつ地下闘技場で見たことあるぞ」
そんな居丈高な様子で言い放つアイリスの姿に、アッシュ君とテオ君はびしりと体を固まらせた。
テオ君はわかりやすく顔を青くしているし、あの生意気ボーイのアッシュ君ですらその威圧感にたじろいでいる。
そういえばアッシュ君は下層地区出身だし、地下闘技場でチャンピオンを張っていたアイアン・メイデンの活躍を知っていてもおかしくないだろう。
そうでなくてもあんな兵器に詰め寄られてビビらない奴はいないだろうが。
『あなたたち、私の小隊長に変な真似してないでしょうね?』
「し、してねーよ!」
アイリスのドスの効いた声に慌てて答えるアッシュ君。
テオ君もその言葉に同調するようにキツツキのように頭を上下に振っている。
まったく過保護だなあと思うが、私のことを思っての行動なので無碍にはできない。
よし、仕方ない。
「大丈夫だよ、アイリス」
私は努めて穏やかな口調で話しかける。
「アッシュ君は私をバイクに乗せて寮まで送ってくれたり、テオ君は夜遅くまで二人きりで書類作り頑張ったりとよくしてくれたんだから。それに3人で飲みにも行ったし、仲良くしてたよ」
その瞬間。
ミシリ、という音を立てて、アイアン・メイデンの足元のコンクリートにヒビが入った。
危ないな。地盤沈下かな?
『…………そこのお二人は、ゆっくりお話をする必要があるみたいね』
「おい! ビャッコ! これお前の部下なんだろ!? ちょっと説明を――」
「お姉さま」
いつの間にか隣に来ていたニコが、私の袖をくいと引いた。
「作戦本部があちらで、小隊長以上に招集をかけています。作戦の下知のようです」
「了解。じゃあ行こうか」
私はニコと連れ立って、簡易テントの方へと歩き出した。
背後で何やら獣が吠えるような音と、若い男性の悲鳴が聞こえた気がしたが、まあそれはさておき、そろそろ気を引き締めることにしよう。
◆
簡易テントの中には、すでに何人もの小隊長が集まっていた。
いずれもパワーズ・フレームを着込んだ屈強な男たちだ。
その中に私とニコが混じると、異物感がひどい。
職場見学にやってきた子供のような気持になるが、舐められないように精一杯胸を張るしかないだろう。
そんなことを考えていると、テントの壁に貼られたスクリーンに映像が浮かび上がった。
映し出されたのは、痩せぎすで、頭髪のない神経質そうな男。
『揃ったな。私が本作戦のオペレーティング・ディレクターを務める、光頭だ。今から作戦内容を伝える』
(これが例の……)
事前にニコから話を聞いていたせいだろうか。
どうもその細い目が嫌な光を宿しているように見えるのだが、これは私の先入観かもしれない。
『対象は反企業組織「パラノマニア」。統合監査室からの情報により、大規模な軍事作戦を準備していることが発覚した。連中のアジトと情報網は多岐にわたるため、ぎりぎりまで情報を伏せての電撃作戦となった。敵の拠点は複数あるため、同時に襲撃をかけることになる』
だから急な招集だったのか。
企業支配が続くこの世界の管理体制に反対して活動を行うテロ組織は色々いるが、パラノマニアとやらもそのうちの一つなのだろう。
どの程度の組織かは知らないが、少なくともBランク以上の難易度ということは、この前みたいな銀行強盗とは比較にならない危険度になるだろう。
『諸君らには、ここから3キロ先の廃工場群にあるアジトの一つを襲撃してもらう。配置は今送った通りだ』
視界に、作戦配置図のデータが送られてくる。
敵の推定人数は30名程度。
思ったよりも少ない、という印象を受けた。
まあ、数ある拠点の一つならそんなものなのかもしれない。
武装は不明とあるが、逆に特記事項もない。
そして――配置図に目を通した瞬間、私は眉をひそめた。
正面ゲートからの主力突入。
そこに割り当てられていたのは、第3詰所第1小隊を含む、ごく少数の部隊だった。
アイリスは別枠で、裏口に続く街道脇で増援や脱出ルートを抑えること。
他の詰所の部隊は側面からの支援。
そして私たち第5詰所は――施設外周にある逃走ルートの一つだと言われた細い
疑問が口をついて出るまで、そう時間はかからなかった。
「あの、質問があります」
『……なんだね』
「正面突入の戦力配分についてです。第3詰所第1小隊は、ここ2週間の応援要請で連勤が続いており、隊員の疲労が蓄積しています。最も負荷の高い主力突入を任せるには不適当かと」
『ほう』
「対して、私たち第5詰所は比較的余力があります。配置を入れ替えるか、あるいは正面突入に第5詰所も加えていただければと」
私の進言に、テント内の空気がわずかにざわついた。
スクリーンの中の光頭は、しばらく無表情でこちらを見下ろしていた。
そして、口の端をゆっくりと歪めた。
『小隊長風情が、私の命令に口を挟むな』
「――」
『疲労だと? 隊員の体調管理も含めて小隊長の職務だろう。それを理由に任務を回避しようというなら、そもそもその小隊は使い物にならんということだ』
「そういう意味ではありません。ただ、戦力の最適配分として」
『最適配分を決めるのが私の仕事だ。君の仕事ではない』
光頭ODは淡々と続けた。
『駒は駒らしく、言われたことだけをやっていればいい。それ以外のことは考えるな。そんな簡単なことも教わらなかったのか? それともお前の頭の作りが悪いのか、どっちだ?』
ふん、と鼻を鳴らして言った光頭ODの目にははっきりとした蔑みの色が透けて見える。
なるほど、ここまで露骨な扱いをされれば流石の私でも侮辱されているのは分かる。
ヒューマロットが企業の資産だという理解はあったし、差別されることもあったが、ここまで露骨に道具扱いされるのは珍しい。
幸い、私の堪忍袋の緒はこれしきのことで切れることはない。
画面越しにネチネチ言われたところでね。
まあ直接怒鳴りつけられたところで、こちらにはいつでも捻り潰せる武力があるので、怖くもないだが。
パワーイズドリーム。力は全てを解決する。
(とはいえ、だ)
私一人が侮辱されるのは構わないが、このまま作戦が進んでいくとニコたちの身が危険だし、私が助けられる余地がないのは困る。
普段の遊撃部隊みたいな状況と違って、配置を確定されてしまうとさすがに勝手に動けないし。
(私の知らない情報や根拠があるのかな? いや、それにしたって正面突入部隊が手薄なことに意味があるとは思えないんだけど)
しかしながら、ヒューマロットである私が下手に逆らったところで任務放棄と見なされて処分の可能性さえあるのが難しいところ。
私が言葉を探していると、隣で小さな声がした。
「私たちは問題ありません、です」
ニコだった。
『ほう。当事者はそう言っているようだが?』
「30名程度であればやり方次第で対応可能です。部下の体調不良分は私がカバーできます、です」
淡々と、いつもの調子で。
まるで、これが当然のことであるかのように。
私は思わず彼女を見た。
だが、その横顔からは何も読み取れない。
当事者本人が問題ないと言い切ってしまえば、私に食い下がる根拠は残っていなかった。
『結構。話は以上だ』
光頭ODが満足げに頷く。
『作戦開始は14時ちょうど。各員、配置につけ』
通信が切れ、スクリーンが暗転する。
小隊長たちが次々とテントを出ていく中、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「ニコ」
テントを出たところで、私は妹の腕を掴んだ。
「なぜあそこで問題ないなんて言ったの」
「事実だからです」
「みんな疲れてるでしょ」
「疲労の蓄積は認めます。ですが、任務遂行が不可能なレベルではありません。それに――」
ニコは少しだけ間を置いてから続けた。
「あの場で私が同意しなければ、お姉さまはさらに食い下がったと思われます。そうすれば、お姉さまの評定に傷がつきます、です」
私はその言葉に、言葉を詰まらせる。
「私は現在、評定を落としても失うものが少ない立場です。ですが、お姉さまは違います、です」
淡々とした言葉だった。
そこに感情の色はまるでない。
だが、その理屈は、明らかに私を庇うためのものだった。
その気遣いは嬉しいのだが。
「私を姉と呼ぶなら、妹らしく素直に助けられてよ」
私のそんな言葉にニコは少し考えてから口を開いた。
「生まれですぐに助けてもらいました、です。今度は私ががんばる番です」
無表情でそう言うニコの言葉に私は苦笑する。
責任感が強いのはいいことだが、無理してほしくないんだけどね。
まあ、そこに関しては私も人のことを言えないが、
「ともかく」、と私は彼女の正面に回り込み、その両肩に手を置いて言った。
「無理はしないこと。危なくなったら迷わず退くこと。それから無理なものは無理って、ちゃんと言っていい。上の命令だって間違えるんだから。その時は――」
「その時は、お姉さまが助けてくださる」
ニコが先に言葉を引き取られてしまった。
「覚えています、です」
「ちゃんと呼んでよ?」
「……考えておきますです」
私は思わず唸ったが、これ以上どう言えばいいのかも分からなかった。
「もう。……本当に、気をつけてね」
「はい、です」
◆
配置につくため、それぞれの部隊が散っていく。
私は外周の担当区画へ向かう途中、ネオンとルミナの姿を見つけて足を止めて声をかけることにする。
「二人とも、無理しないでね」
「ビャッコに言われたくないわよ」
私の心配する声に、ネオンがあっさりと切り返してきた。
「毎回ボロボロになって帰ってくる人が、よくそんなこと言えるわね」
「うっ」
「あははっ、ネオンちゃんの言う通りだよー」
ルミナが笑いながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「大丈夫だって。相手は30人程度でしょ? ニコちゃんも強いし、他の人たちもいるし」
「そうだけど」
「それより、終わったら打ち上げしようよ! 第5小隊の人も入れてさ!」
「……うん。そうだね」
私が頷くと、二人は手を振って正面ゲートの方へ歩いていった。
その背中を見送りながら、私は思う。
大丈夫だ。
相手もそんなに多くないし、ニコだって優秀だ。
だから、心配することなんて何もないはずなのだ。
――そう自分に言い聞かせながら、私は外周の配置場所へと歩き出した。
胸の奥のざわつきは、結局、最後まで消えてくれなかった。