SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
『お前ら撃てッ!!』
配管とタンクが立ち並ぶ薄暗い作業ホールに、マズルフラッシュの閃光が走る。
遅れて届く銃声が鉄の壁に跳ね返って、耳の奥でわんわんと反響した。
歩兵の数は10人ちょい。最初は60人いたと聞いていたけど、ずいぶん減ったものだ。
それだけニコが頑張ったということ。
帰ったら、ちゃんと褒めてあげないと。
【集中してください。弾道予測出します】
「はいはい」
アレスの声と同時に、視界に赤い線が走る。
戦闘補助用サイバネティクス、A.R.E.S.によるAR支援だ。
銃口から私の体へ向かって、何十本もの軌道ラインが蜘蛛の巣のように伸びていく。
私は身を翻し、赤い線の隙間へ体を滑り込ませた。
直後、ラインをなぞるように弾丸が通り過ぎ、背後の鉄板が耳障りな音を立てて穿たれる。
以前のアレスは、私が動くべき回避ルートまで線で示してくれていた。
けれど最近は、弾道予測だけに専念してもらい、避ける方向は自分で決めている。
ガイドラインを消すと、予測が出るのがコンマ数秒早くなる。そんな裏技に気づいたからだ。
慣れるまでは判断に迷って被弾も増えたけど、日々の任務と訓練のおかげで、今では反射で動けるようになった。
「っと」
避けきれない一発が、左脇を掠める軌道で迫る。
続けて飛んできた弾丸に右腕のサイバネアーム、フォボスを割り込ませると、金属の掌が甲高い音を立てて弾丸を弾き飛ばした。
万が一弾けなくても、皮膚にはナノスキンアーマーがある。何発かなら問題ない。
この二つがあるから、多少のミスは気にせず動けるのだ。
アレスの演算を絞るこのテクニックのおかげで、最近は治安維持部隊の訓練シミュレーターでも、上位に食い込めるようになった。
攻略wikiなんてものがあれば皆に教えたいところだけど、私と同じ構成の人がいないので、今のところ私だけの独占情報となっている。
私のTierってどんなもんなんだろうね?
回避すること数秒後、銃声が途切れた。
「フォボスで弾いたのが12発に、体に当たったのが3発。及第点かな」
【回避成功が322発。評価Aですね。次はパーフェクトを目指していきましょう】
「次って、回避することが目標じゃないからね?」
硝煙がゆっくりと晴れていく。
その中心には、無傷で立つ私の姿があった。
「う、嘘だろ!? あいつ全部躱しやがったぞ!?」
「いや、何発か当たった……けど、効いてない!? 化け物かよっ!」
ざわつく敵の皆さん。
撃ち切った弾倉を慌てて入れ替えようとして、手が震えている者までいる。
やれやれ、弾幕を切らさないのは基本だろうに。
アッシュ君とテオ君ですら最近はちゃんとできてる。
もちろん、のんびりと装填を待ってあげる義理はない。
アッシュ君が持ってきた機関銃もセラフィムも弾切れだ。ここは
私は腰に手を回し、右手で一本の筒状の物体を引き抜いた。
ガンメタリックの鈍い光沢を放つ、拡声器のような形をしたそれ。
装填の手を動かしながら、敵の何人かが怪訝そうな顔でそれを見る。
戦場には似つかわしくない、間の抜けた形だったからだろう。
――今さら降伏勧告でもする気か?
そんなことを思ったのかもしれない。
だが、残念ながら、撃ってきた相手に悠長に説得するほど私も暇ではないのだ。
「ガルム改め、『トランぺッター』、発射」
引き金を引いた。
キィィィィィィィィィィィン!!!!
途端、耳障りな高音が、ホールに響き渡った。
空気が波打ち、近くのタンクの表面がびりびりと細かく震える。
次の瞬間、敵の歩兵たちは銃を放り出して耳を押さえ、床の上でのたうち回った。
その光景に、自分が食らった時の感覚を思い出して、少し顔をしかめてしまう。
多少の同情はあるけれど、これも仕事だ。私は容赦なく音の波を浴びせかける。
そう、なにを隠そう、このトランぺッターは、少し前に倒した傭兵団のリーダー、ハウルのメインウェポンだった音響兵器のサイバネを鹵獲・改造したものだ。
あれは、JKやニコ達と企業領域外でハウルを倒し、ルミナ達と合流した時に遡る。
◆
戦闘の熱がまだ残る荒れ地に、焦げた臭いが漂っていた。
私は、目の前で真っ二つになって転がっているハウルの死体をじっと見つめていた。
そんな私に肩を貸してくれていたフルサイボーグの麗人、JKが首を傾げる。
「どうしたんだい? なにか気になる事でも?」
「ん……この死体どうなるのかなって思って」
「まあ、そのうち治安維持部隊か安定防衛機構でもやってきて回収するんじゃない? その後は統合監査局に引き渡して電脳を調べると思うよ」
私はその言葉を聞きながら、ハウルの喉元に埋め込まれたユニットに視線を送る。
胴体から真っ二つにしたので、ユニットはほとんど傷もなく残っている。
「電脳だけでいいなら、この喉についてるソニックブラスターのサイバネ貰ってもいいかな?」
「ええ……」
私の言葉にJKがドン引きしたような目でこちらを見た。
「死体から剝ぎ取る気? まじで?」
「強い敵倒したらドロップした装備は回収するのは当然じゃない?」
「蛮族すぎるでしょ。昔の人の倫理観どうなってんのさ。平和な時代じゃなかったの?」
私の出生を知っているJKは、小声で嫌そうに言う。
モンスターを狩ったら素材を剥ぎ取るものという常識は、2155年現在は残っていないようだ。
これがジェネレーションギャップというやつだろうか。
未練がましく私がハウルを見ていると、JKがハァとため息をひとつ。
「まあ、戦場での鹵獲は国際法でも認められているからいいけどさ……」
「やった。じゃあナイフ貸してくれない?」
「あるけどそんなことに使わないでよ。取り外しするからちょっと待ってて」
JKは肩口から精密作業用のマニピュレーターを展開すると、ハウルの喉元からユニットを器用に外していった。
金属の継ぎ目が外れる小さな音が、静かな荒れ地に響く。
よし、これでパーツは手に入る。
お次は装着だが、私には心強いメカニックがいるからここは問題ないだろう。
私は意気揚々と、少し離れた場所で現場写真を撮っているルミナに声をかけた。
「ねえ、ルミナ、お願いがあるんだけど」
「なになに? どこか調子が悪い?」
赤いポニテとお胸を揺らしながら、ルミナがにこやかに駆け寄ってくる。
「うん、このハウルからソニックブラスターのサイバネ回収するから、私の喉に取り付けてくれない?」
「な、なんでぇ!?」
目に見えて動揺したように声をあげるルミナ。
てっきりルミナのことだから、新しいおもちゃに喜んで飛びついてくると思ったんだけど、意外な反応だった。
「いや、これつけたら強くなるし」
「やめてよっ! ビャッコちゃんのかわいい声が台無しになるよぅ!」
ぶわっと涙を流しながら訴えるルミナを見て、さすがの私も少しだけ、悪いこと言っちゃったかなと思った。
私の声が可愛くても仕事の役には立たないし、強い方がいいと考えたんだけど。
あと音痴だし。
「…………だめ?」
「怪我したならともかく、気軽にぽんぽん換えちゃだめだよ! 武器としてほしいなら私がちゃんと作り直すから!」
「そこまで言うなら……」
私は渋々、ルミナの提案に頷く。こうして、私はガルムとか呼ばれていたソニックブラスターをゲットしたのだった。
なお、サイバネを勝手に増やそうとしたことがバレて、ネオン達に散々叱られることになったのを追記しておく。
◆
そんな経緯で完成したのが、この拡声器型音響兵器『トランぺッター』だ。
使い方は簡単。
敵に向かって引き金を引けば、この拡声器にしか見えない銃身から不可視のソニックブラスターが発射されるというもの。
ハウルの電脳内の制御ユニットが回収できなかったことや、取り回しや燃費との兼ね合いもあって多少ダウングレードしたが、その威力は抜群。
ものの数秒で、目の前に並んでいた敵兵がバタバタと倒れていく。
耳から血を流して動かなくなる者が出始めたところで、私は引き金から指を離した。
ホールに、静寂が戻る。
しばらくはまともに立ち上がれないだろうし、これで歩兵は一掃した。
私は改めて、残る一体に向き直る。
見上げるほどの鉄の巨人が、モノアイを光らせて、静かにこちらを見下ろしていた。
「これで残るは君一人だけど、素直に降参してくれるなら、優しく手錠をかけてあげるよ?」
『雑魚を倒したくらいでいい気になるな! こっちにはまだ
まあ、そうだろうね。
一応言ってみただけで、素直に聞くとは思っていない。
しかし、機甲兵と本気でタイマンを張ることになるとは。
着任当初にパワーローダーと戦った時は死にかけたけど、今の私がどこまで戦えるのやら。
【来ます】
機甲兵の手に握られた小銃(といっても、あくまで機甲兵サイズのものだが)が、ゆっくりとこちらに向けられた。
目の前が赤い弾道ラインで埋め尽くされた。
(近くに味方が転がってるのに容赦ないな)
私はそう思いながら、前方へ身を投げ出すようにして飛び出した。
直後、背後で何かが爆ぜるような破裂音が響く。
一拍遅れて、熱を帯びた風が背中を叩いた。
【敵に向かっていくのは虚を突けるのでいいと思いますが、ローリングする必要性はありますか? 隙が大きいのでは?】
(前方ローリングは無敵時間があると相場が決まってるの!)
アレスが呆れたように沈黙するのが、気配でわかった。
肩から床を転がり、勢いのまま跳ね起きる。
視界の端で、さっきまで私が立っていた場所が、粉塵を噴き上げながらえぐれていくのが見えた。
『ちょこまかと……!』
外部スピーカーを震わせて、低い声が響く。
油圧の唸りが、ホール全体を揺らした。
機甲兵がゆっくりと、こちらへ向き直る。
モノアイがぎちぎちと音を立てて私を追い、そのわずかな遅れを、私は走りながら目で測った。
(……見える)
図体が大きい分、予備動作も大きい。
銃口が持ち上がるときの肩の沈み、足を踏み込む前の重心の移動、拳を引く腕の軋み。
そのどれもが、アレスの警告より先に体に伝わってくる。
重い銃声。
右へ跳ぶと、左耳のすぐ横を衝撃波が通り抜けて、頬の産毛を逆立てた。
足元の床が弾け、飛んだ破片が脛を叩く。
頭上に影が落ちた。
反射的に、地を蹴って前へ。
背後で、巨大な鉄の足が床を叩き潰す。
ずん、と腹の底に響く衝撃が、足裏から骨を伝って脳まで届いた。
間髪入れずに、横薙ぎの拳が来る。
身を低くして潜り抜けると、風圧が頭上の空気を押し潰し、髪が引っ張られた。
(風圧だけでもっていかれそうだ)
ナノスキンアーマーを装着していても、あの質量が直撃すれば、骨も内臓も一撃で粉々だろう。
そんな凶器が、鼻先を何度も通り過ぎていく。
背筋がぞくりと震え、脳の奥がチリチリと焼ける。
【アドレナリンの過剰分泌を感知】
「このままでいい」
思ったよりも立ち回れている。
アイアン・メイデンに比べたら遅いし、私の能力も上がっているから、タイマンならもうしばらくは逃げ回れるだろう。
問題は凌いでいるだけでは勝てないことだ。
私は走りながらトランぺッターを構え、巨人の胸部めがけて引き金を引いた。
キィィィィィィィン!!
不可視の衝撃波が、胸部装甲を叩く。
空気が歪み、装甲の表面から細かな塗料の粉が舞い上がった。
……だが、それだけだった。
『その程度の玩具で、こいつが止まると思ったか』
【装甲表面の振動は確認できましたが、内部への伝達率は低いです。同一箇所への攻撃をすれば突破できるかもしれませんが、エネルギー残量を考えると現実的ではありません】
「だよねえ」
あれだけ強かったソニックブラスターも、厚い装甲に阻まれて効果がいまいち。
同じ場所に当て続けていればダメージは蓄積するだろうけど、機甲兵の多層複合装甲を抜く前にエネルギーが尽きそうだし、悠長にやっていたらいずれあの拳でぺしゃんこだ。
(とはいえ、他の武装はニコから借りたルクス・エッジと、使ったら反動がヤバいフォボス・オーバードライブだけか)
どっちも接近しないといけないし、装甲を抜けるかどうか怪しい。
ジャンプしてフォボスを胴体にぶっ刺せばいけるかな?
いや、私の手の長さ的に、一撃で倒せるかは微妙だな。
(……いや、待てよ)
【何か思いつきましたか?】
(うーん……まあね。うまくいくかは五分五分だけど)
私は小さく息を吐いて、覚悟を決めると、巨人の懐へと一歩を踏み出した。
私は巨人の側面へ回り込みながら、トランぺッターの引き金を引いた。
キィィィィィィン!!
巨人の足元に当たった不可視の波が床を舐め、コンクリートの表面に細かな波紋が走るも、その脚部はビクともした様子がない。
舞い上がった粉塵が、一瞬だけ渦を巻いて消えた。
『どこに当てている! 無駄だ!』
答えず、走る。
銃口が追ってくる。
重い連射音が響き、弾丸が床を叩いて、跳ね上がった破片が足首から脛を何度も打った。
右へ、左へ。赤いラインの隙間を縫って走る。
走る。撃つ。避ける。撃つ。
ソニックブラスターを
だが、それに動じる様子もなく、機甲兵が、一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。
そのたびに、足元の床が低く唸った。
私は鋼鉄の作業台の陰に滑り込む。
次の瞬間、銃弾が作業台を叩き、金属の悲鳴があがった。
続けて、頭上から拳が落ちてくる。
作業台が、空き缶みたいに潰れた。
潰れる寸前に転がり出て、反対側へ走る。
『いつまで逃げ回るつもりだ!』
息が上がってきた。
死が質量を持って目の前をかすめていく状況は知らず知らずのうちに体力を削っていく。
【トランぺッターのエネルギーセル残量、10%】
壁際へと、後ずさりながら銃撃をかわす。
機甲兵の小銃が火を噴き、背後の壁に穴が穿たれた。
左腕が横薙ぎに振るわれ、私の退路を塞ぐ。
地面を蹴って低く飛び込み、そのまま肩から転がる。
転がった先で、私は仰向けに倒れ込んだ。
そこは、さっき踏みつけでできた凹みのすぐ脇だった。
視界いっぱいに、鉄の巨人が広がる。
モノアイが、光を揺らしながら私を見下ろしていた。
『終わりだ、ヒューマロット!』
巨大な足が、ゆっくりと持ち上がる。
影が私を丸ごと飲み込んだ。
足が踏み下ろされる。
その直前に、私はサイバネアームの指を床の窪みに引っ掛けると、腕の力だけで、全身を横へ引きずり出した。
一瞬前まで私の背中があった場所に、鋼鉄の足が叩きつけられる。
氷塊が砕けるような、バゴン、という音が響く。
次の瞬間、床が、抜けた。
『なっ……!!』
足元から亀裂が走り、円を描いて広がる。
巨体は、腹まで一気に沈み込んだ。
床下の配管が破断し、白い蒸気と液体が噴き上がる。
右腕の小銃が崩れた縁に引っかかり、機体は傾いたまま止まった。
油圧が、悲鳴のような軋みを上げる。
『どういうことだこれは!?』
動揺したパイロットの声が、割れたスピーカーから響いた。
私は立ち上がると、服の埃を払いながら、機甲兵に歩み寄る。
「この工場が化学薬品工場で、床下にパイプが張り巡らされてるって知らなかった?」
『なに……?』
「ソニックブラスターを何度も浴びせて脆くなった床に機甲兵が遠慮なく踏みつけなんかしたら、結果は見てのとおりってわけ」
自分の体重で自分の足場を抜いた鉄の巨人は、腰まで沈んだまま、もがくように左腕を振り回すのを一歩下がってよける。
あれほど機敏だった姿も、こうなってしまえば見る影もない。
さあ、あとはトドメの時間だ。
私は、傾いた巨人の肩に飛び乗り、腰からウリエル・コンダクターを抜く。
起動。
ルクスエッジの青白い光の刃が展開し、低い唸りが掌に伝わった。
『貴様、何を――』
肩口の装甲の継ぎ目に、刃を差し込む。
抵抗は一瞬だった。熱で溶けた金属が白く弾け、給気口のカバーが根元から切り飛ばされる。
『おいやめろ!』
内部から噴き出した蒸気で、視界が白く曇った。
息を止め、そのまま左肩の関節へ。
装甲の隙間は、指一本分もない。そこへ光刃をねじ込んでぐりぐりと回すと、内部の配線と油圧ホースが次々に焼き切れていく。
左腕がぐらりと揺れ、力なく垂れ下がった。
『や、やめ――』
頸部へ。
頭部と胴体をつなぐケーブルの束を、まとめて薙ぎ払う。
火花が散り、モノアイが不規則に明滅した。
『わかった! もう降参するから――』
「動いてるうちは、信用できない」
刃を逆手に持ち替える。
背中側の装甲の隙間から、赤く脈打つコアブロックが見えた。
動力部や制御パーツが集中するそこへ、全体重を乗せて突き立てる。
光刃が、根元まで沈む。
低い駆動音が尻すぼみに途切れ、モノアイから光が消えた。
静寂。
ホールの奥で、配管から漏れる水の音だけが続いていた。
「よし、これで任務完了! ニコが言ったとおり、コアブロックに突き刺したら一発だったね!」
【……あの、ニコ隊員がおっしゃっていたのは、電子防壁破壊のためであって、物理的に破壊する意味じゃなかったと思うのですが】
「えっ、そうなの?」
アレスの指摘に、私は頭をぽりぽりと掻いた。
この武器、どうみても〇ームサーベルか〇イトセイバーみたいでかっこいいと思っていたから、そっちの機能しか目に入ってなかった。
まあ、私、電子戦できないからこうするしかなかったと思うけどさ。
そんなことを考えていると、ガコン、と鈍い音がして、機甲兵の胸部のハッチがゆっくりと持ち上がった。
煙の中から顔を出したのは、四十過ぎの男だった。
無精髭に煤が貼りつき、額から血が一筋垂れている。
渋みのあるオジサマで、反企業組織の一部隊を率いるだけのリーダーシップはあるんだろうなと思わせる風貌だ。
私にはない威厳というものがあってちょっとうらやましい。
その両手は、頭の高さまで上げられており、どうやら素直に降参してくれるようだ。
「じゃあ、連行するから、機体から下りたらそのまま頭の後ろで手を組んで地面に伏せてね」
しかし、男は答えない。
私は少し警戒度を上げつつ、ルクスエッジの刃を向けて言い放つ。
「見たと思うけど、私結構強いから無駄に抵抗しないでくれると助かるんだけど」
私の言葉に、男は自嘲するように言った。
「こんなガキのヒューマロットにやられるなんて、ボスに合わせる顔がないな」
「大丈夫だよ。多分、刑務所で相部屋にはならないと思うから」
そう返すと、男は鼻で笑った。
「いや、次にボスに会うのは地獄だよ」
その笑みは、諦めとも満足ともつかなかった。
そして、上げた手の中に、小さなスイッチが握り込まれているのが見えた。
【警告! 高密度爆薬の反応――】
ちらりと男のジャケットの下に弾倉のような、四角い箱が、いくつも巻き付けられているのが見えた。
私は咄嗟に身を翻して飛び出したが、アレスの声が終わるより早く、男の腹が閃光に包まれる。
ドンッ!!
激しい爆発音とともに、爆風が横殴りに私を薙ぎ払う。
熱と衝撃が全身を叩き、一拍遅れて、背後の巨大なバックパックが誘爆した。
積まれていたミサイルが、次々に弾ける。
世界が白く塗りつぶされ、轟音が耳を殴った。
ナノスキンが硬化して、体表を締めつける。
咄嗟にフォボスで頭を庇ったけれど、体はボールみたいに宙を舞い、床に叩きつけられた。
耳鳴りの向こうで、工場のどこかが、ぎしり、と軋む音がした。
天井から、細かな破片が降ってくる。
そこまで見たところで、意識が途切れた。