SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第19話 暗闇の共鳴

居酒屋での「チーム結成会」から、一週間ほどが過ぎた。

 

俺たちの日常は、驚くほど平穏だった。

スラムでの一件以来、俺たちの小隊への信頼度は上がったらしい。

あの一件の口止め料替わりなのか回ってくる仕事は雑用レベルのものばかりで、危険な戦闘任務はなりを潜めていた。

美味しいご飯を食べ、定時に上がり、ふかふかのベッドで寝る。

前世のブラック企業時代、そしてこの世界に来てからの激闘の日々が嘘のような、ホワイトな日々。

 

……だが。 サラリーマンの勘が告げている。

「平和な時ほど、水面下で厄介事が進行しているものだ」と。

 

そしてその予感は、やはり的中した。

 

 

「……ふあぁ。で、なんでこんな時間に呼び出されなきゃいけないのよ」

 

夜23時。 薄暗い詰所の会議室で、ネオンが不機嫌そうに文句を言っている。

ブルーライトカットの伊達眼鏡をかけた彼女は、嚙み殺した欠伸を深々と被った帽子で隠そうとしている。

あの飲み会から大分距離が縮まったとは思うが、こうやって部下に無理なお願いすると申し訳なく思うところ、リーダーという役割に向いていないのではないかと自問自答してしまう。

俺は精一杯申し訳ない顔(とはいっても眉の角度が5度程度下がったくらいだろうが)をしながらネオンに言った。

 

「ごめん。上からの緊急オーダーで」

「別にいいけど、深夜手当ちゃんと出るんでしょうね……」

「申請はしておく。……ルミナは?」

「整備ドックで準備中。あの子、夜のお出かけだーって張り切ってたわよ。遠足じゃないんだから」

 

俺は手元のタブレットに表示された作戦概要に目を落とした。

 

【任務種別:調査および制圧】 【対象エリア:第41管区・旧地下鉄大深度エリア】 【発生事案:正体不明の熱源および震動の調査】

 

「今回の現場は、スラム街のさらに下。旧時代の地下鉄遺構だって」

 

俺はモニターに地図を映し出しながら説明する。

大深度エリアの地図はあちらこちらに「データなし(N/A)」の黒塗りがなされた虫食いだらけになっている。

旧時代と言っても地下鉄というくらいだから俺の前世の時代か少し先くらいじゃないかと思うのだが、考えてみればあれから100年以上経っているので、すっかり歴史の一部になってしまったんだなあと複雑な心境になる。

まあ本当に俺の前世と繋がっている未来かというと、よくわからないところはあるが。

 

「ここ数日、深夜2時から4時の間だけ、このエリアで奇妙な震動と高熱源反応が観測されているらしい。日中は静かなんだけど、夜になると活発化するんだって」

「だから、敵が動く時間に合わせてこっちも夜更かしってわけ? ……美容に悪いわ」

「敵が夜行性の生物なのか、あるいは何かの実験なのか……。とにかく、現場を押さえるにはこの時間しかない」

 

それが、今回の夜間作戦の理由だった。

だが、俺には一つだけ懸念事項があった。

 

「本当は夜勤担当の人も一緒にと思って声をかけたんだけど、連絡がとれない」

「夜勤担当? ああ、あの人ね」

 

ネオンがフンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。

俺はそんな様子を見て首を傾げた。

 

「ネオンは会ったことあるの?」

「直接はないわ。ビャッコもないのよね?」

「うん。挨拶したいと思ってたけど、会う機会がなくて」

 

脳内でアレスに表示してもらった、第3詰所のメンバーリストには、俺、ネオン、ルミナの他に、もう一名の名前がある。

 

黒鉄(くろがね)アイリス』

夜勤専門かつ単独推奨とプロフィールに書かれており、俺はまだ一度も顔を合わせたことがない。

毎日肉体労働で夜は眠くなるし、訓練や入院となかなか暇がとれなかったのもある。

だが、締め切りがない仕事はついつい後回しにしてしまうのは俺の悪い癖だ。

そんな俺の思いをよそに、ネオンは眉をひそめて言った。

 

「前の小隊長からは、黒鉄さんは難しい人だから無理に会わなくていいとは言われてたの。でもね――」

 

ネオンが奥歯をギリっと噛みしめる。

 

「この前の打ち上げの時も同じ班員で仲間外れはかわいそうかと思って一応連絡はしてみたのよ? それに対しての返事が『底辺同士で群れるのは勝手ですけれど……その汚い輪の中に、わたくしを入れようとしないでちょうだい』よ!? 初めて会話するメンバーに対して言うセリフ!?」

 

ヒートアップしたネオンは机をバンバン叩きながら文句を言う。

怒りたくもなる気持ちは分かる内容ではあるが、俺は意外な気持ちでそれを聞いていた。

実は、俺の中での彼女の評価はかなり高かったのだ。

 

「すごく真面目な子だと思ってたんだけど」

 

俺は端末を操作し、彼女から提出された「業務日報」を表示させる。

 

『〇月〇日、異常なし。巡回ルートA完了。』 『〇月×日、小型害獣の群れを駆除。弾薬消費率0.2%。』

 

その言葉とともに、報告書には几帳面にも証拠写真や参考データが添えられている。

誤字脱字もなく、簡潔にして要点を得た文章。ビジネス文書として完璧だ。

毎日決まった時間に送信されてくるその日報を見る限り、彼女は「規律正しい、クールな仕事人」という印象だった。

 

「綺麗な報告書。きっと几帳面で、責任感の強いベテランだと思ってた」

「…………だといいけどね。少なくとも社会性はないんじゃない?」

 

俺の称賛に対し、ネオンは何も言わず、不貞腐れたような目で俺を見た。

 

「少なくとも優秀なのは間違いないみたいだよ?」

 

そんなことを言いながらヒョコっと顔を出したのはルミナ。

その背中にはいつも通り大きいリュックサックをパンパンにして背負っている。

 

「お疲れ様、ルミナ。ルミナは会ったことあるの?」

「ううん、私もないよ。でも噂は聞いてる」

「噂?」

 

ルミナがコクリと頷いた。

 

「『極夜の悪夢(ポーラーナイトメア)』と言えば、ここら辺の裏社会ではちょっと知られた名前だよ。夜だけ現れる治安維持部隊の秘密兵器だってさ」

「……おお、すごい異名」

「ちなみにビャッコちゃんは、『白い死神(ホワイト・リーパー)』とか『白夜の騎士(ホワイト・ナイト)』とか『企業の猟犬(カンパニー・ハウンド)』とか言われてるね」

「私まで!? しかも多くない!?」

 

思わず大きい声が出てしまった。

中二病感あふれる名前にちょっとぞわっとしちゃった。

でも、まあいいや。それだけ俺が仕事で認められているということなんだろう。多分。

 

ネオンは端末を取り出すとこちらを向いて言う。

 

「装備にGPSついてるから一応追ってみましょうか? 通常の巡回しているだけなら合流していけばいいし」

「お願い」

 

俺が頷くと、ネオンは端末に視線を落とし、しばらく操作を続ける。

そして、そこに表示された画面を見てピタッと固まった。

 

「……ビャッコ。今回の任務のこと黒鉄さんに伝えた?」

「連絡はつかなかったけど、任務概要のデータは送った。なんで?」

「GPSが途絶えてるけど、最後に信号拾ったのが地下鉄遺構に繋がる搬入口になってるわ」

 

俺たちは顔を見合わせて、数秒の沈黙。

 

「一人で勝手に先行してるってこと?」

「ほら、社会性ないじゃない」

「ちょっと待って。連絡してみる」

 

俺は自分の端末から、彼女の識別コードへ通信を送ってみる。

『プルルルル……』という呼び出し音が続いたが、途中で『この端末は電源が切られているか、電波の届かない場所に――』という自動音声が空しく響いた。

それを聞きながら苦笑するルミナ。

 

「まったく報連相は社会人の基本なのに。アイリスちゃんもなかなかの自由人だねぇ」

 

人のことを言えたものだろうかと内心で突っ込みを入れつつ、俺は急いで二人に言った。

 

「急ごう。彼女が危険な目に遭っている可能性がある」

 

俺は装備を整え、意気揚々と立ち上がった。

 

 

 

 

地下へと向かう業務用エレベーターは、重苦しい駆動音を立てて下降していく。

深度計の数字が3桁を超え、気圧の変化で耳がツンと痛む。

 

『地下30階層。大深度エリアに到着しました』

 

ガコン、という重い着床音と共に、分厚い隔壁が開く。

その瞬間、俺たちの肌にまとわりついたのは、湿度を含んだ冷たく淀んだ空気だった。

 

「うう……なんかここ、空気が重いよぉ……」

 

隣でルミナが俺の袖を掴んで身を縮こまらせる。

さっきまで「夜のお出かけ!」とはしゃいでいた彼女が怯えるのも無理はない。

 

目の前に広がっていたのは、圧倒的な虚無だった。

 

かつては数万人の人々が行き交ったであろう、広大なコンコース。

ドーム状の高い天井は闇に溶け込み、そこから垂れ下がる無数のケーブルが、死んだ巨獣の内臓のようにぶら下がっている。

中空には大量の埃が雪のように舞い、林立する太い支柱は、まるで巨大な墓標のように静まり返っていた。

 

「……広い」

 

俺はタクティカルライトを振るが、その光束は闇に吸い込まれてしまい、壁の端さえ照らし出せない。

本来なら、喧騒と足音、アナウンスの声で満たされているはずの場所。

それが完全に沈黙しているという事実は、ゾンビや怪物が現れるよりも遥かに精神を削る「不気味さ」があった。

 

「ライト点灯。はぐれないようにね」

 

ネオンの声が、吸音材のような闇に響いて、すぐに消える。

俺たちは慎重に足を進めた。 コツン、コツンという自分たちの足音だけが、やけに大きく聞こえる。

 

改札を抜け、ホームへと降りる。 そこはさらに異様な光景だった。

直径10メートルを超える巨大な円筒形のトンネルが、どこまでも続いている。

二本のレールは赤錆びて闇の奥へと伸び、その先はまるで地獄の喉元のように口を開けていた。

 

「……静かすぎるわね」

 

ネオンが銃を構えながら周囲を警戒する。

事前の情報では、ここに「熱源」と「震動」があるはずだった。 だが、聞こえてくるのは遠くで滴る水滴の音と、巨大な質量が頭上にのしかかっているような、低い地鳴りのような圧迫感だけ。

 

ここにあるのは「静寂」ではない。「死」だ。 都市の排泄器官として見捨てられた場所特有の、怨念めいた気配が肌を刺す。

 

「おーい、アイリスちゃーん? いますかー?」

 

ルミナが恐る恐る声を上げるが、返事はない。 ただ虚しい反響音が返ってくるだけだ。

 

「ルミナ、ちょっと待って」

 

俺がルミナを追いかけようとした、その時だった。

 

「……ん?」

 

足元に違和感があった。 何かを踏んだ感触。

ライトを足元に向けると、そこにはひしゃげた金属塊が転がっていた。 いや、ただの金属塊ではない。

それは、何かに「握りつぶされた」かのように圧縮された、機械の残骸だった。

 

「これなに?」

「これはー、警備用の旧式のオートマタ―みたいだね。でもまだ焦げ臭いから壊されたのは新しいみたいだよ」

 

ルミナが機械を覗き込んで教えてくれた。

俺はその言葉に頷きながらあたりを見回して息を飲んだ。

そこいらには、同様のスクラップが山のように築かれていのだった。

壁には巨大な爪痕。地面は高熱で溶解し、ガラス状に変質している。

ここは「静かな場所」ではない。 「戦闘が終わった後の場所」だ。

 

「……あそこ、なにかいるわ」

 

ネオンが指さした先。 スクラップの山の頂上に、それは鎮座していた。

 

全長4メートル近いその巨体は、闇に溶け込む漆黒の装甲に赤いエネルギーラインが走らせており周囲を不気味に照らし出している。

中世の騎士を思わせる、優雅で威圧的なシルエットの上に、幾重にも重ねられた装甲は舞踏会のドレスを髣髴とさせた。

しかし、それは遊びのための機体でないことは、その両手や背中に装着された凶悪な武装が否定している。

間違いなく、それは戦うための存在だった。

 

その姿に俺は最近見た姿を重ねる。

 

「パワーローダー?」

「いや、あれは機甲兵(カタフラクト)だよ」

 

真剣な顔をしたルミナがそれを訂正する。

 

「パワーローダーはあくまで産業労働用の機械だけど、機甲兵は安定防衛機構とかで使われてるガチ戦闘用アーマーなんだよ」

「戦闘用アーマー……」

「ベースはSDC社の『城壁(ランパート)』シリーズ……いや、脚部のサスペンション構造と装甲の積層角度が微妙に違う。あの丸みを帯びた優雅なスカート形状はむしろ旧連合の『重騎士(パラディン)』型に近い? でもパラディンは十年前に製造中止になってるはずだし、正規のパーツ供給が止まってる中でどうやってこのコンディションを維持してるの? 共食い整備? それとも3Dプリント?」

「あ、うん。ありがとう。もういいよ?」

「いやそれより異常なのはあのエネルギーラインよ! 通常の「ブルー」じゃなくて『レッド』!? ってことは常時リミッターギリギリの出力で炉を回してる? それとも排熱をあえて装甲表面に循環させて防御力に転用する『ヒート・ジャケット』理論の実装? 待って、あの不規則な明滅パターン、教科書でしか見たことないけどまさか旧時代のロストテクノロジー……?」

「いや、ルミナさん?」

「右腕のパイルバンカー、マズルブレーキの形状からして重工業大手の『タイタン・インダストリー』製……に見えるけど、シリンダーの径が純正の1.5倍はあるし、接続部の溶接痕が荒々しい。これ絶対市販品じゃない、スラムの闇工場で作られたインチキパーツか、あるいは完全なワンオフの削り出し? だとしたら貫通力はカタログスペックの3倍……いや4倍は下らないはず……それを支えるフレーム強度が計算合わないんだけど!? 対して左腕は面制圧用……口径は15mm? いやバレルジャケットの厚みと排莢口のサイズから逆算すると20mmの6連装ガトリングキャノン『魔弾の射手(フライクーゲル)』!? これを固定砲台じゃなくて片腕で運用するなんてマニピュレーターのトルクどうなってるの!? 毎分1500発の反動を制御するにはアクチュエーターを直列で最低でも4基は噛ませないと手首がねじ切れるはずだけど、そこをどうやってクリアしてるの!? ジャイロ補助? それとも力技――!?」

「もう黙りなさい」

 

ネオンが背後からルミナの頭をスパンと引っぱたくと、「――はっ、私は何を?」と言いながらルミナが我に返った。

要するにすごい機体ということだろう。

 

もし、今回の事件の犯人があれだとしたら今回も命がけの戦いになるか。

そう思いながら俺はセラフィムを構えてモードを切り替え――、

 

【GPS反応あり。識別信号確認。――黒鉄アイリスを確認】

「えっ?」

 

俺がアレスのその言葉に驚きの声を上げたところで、

 

『あら?』

 

黒い機体から外部スピーカーの声が響く。

 

『ごきげんよう。残念ね、舞踏会(パーティー)はもうお開きよ。 ……それとも、カーテンコールの拍手をしに来てくれたのかしら?』

 

それが、俺と3人目の部下、黒鉄アイリスとのファーストインプレッションだった。

 




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