SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第21話 開かずの鉄扉

第41管区、第3詰所。

俺たちの拠点であるそこに帰ってくる頃には、すっかりと空が白み始めていた。

ホームに帰ってきたことで緊張が緩んだのか、欠伸を噛み殺しながら扉を開ける。

 

「しかし、あのロボット達はなんだったのかしら?」

「……普通じゃない、よね?」

「ええ。大深度エリアに警備ロボットが残っている可能性がないとは言わないけど、あの数は異常よ」

 

俺とネオンはそんな事を話しながら詰所のオフィススペースに入った。

ルミナは「ちょっと整備ドックに荷物置いてくるね」といって、詰所の横に併設された整備ドックに消えていく。

そして、アイリスはそのルミナの後ろを、ガチョンガチョンとうるさい音を立ててついて行った。

 

今すぐお布団に入ってグーグーしたいという欲望がムクムクと湧き上がるが、ネオンは早速報告書をまとめ始めているので、小隊長である俺だけが帰るわけにはいかないだろう。

 

「……ビャッコはまだ小さいんだから、おうちに帰って寝ててもいいのよ?」

「寝ない。業務が残っている」

「……そう」

 

そう言いながらネオンが入力に戻っていく。

なんかこの前の打ち上げから、ネオンが妙に優しいことがあるんだけど、それに甘えるわけにはいかない。

体はともかく、心は中間管理職のおじさんなのだから。

 

そうこうしているうちに、ルミナがコーヒーを4つ持ってオフィススペースに戻ってきて、同じく報告書をまとめる作業に突入。

苦いコーヒーで無理やり頭を動かしつつ、報告書を作る作業(俺はアレスにお願いする作業)をすること30分ほど経っただろうか。

 

「……来ないわね」

 

ふと、ネオンが顔を上げて言った。

その視線は、詰所と整備ドックを隔てる扉に注がれている。

誰が、とは言わない。

俺も薄々思っていたところだった。

 

「ルミナ、アイリスと一緒じゃなかったの?」

「いや? ドックの中に鎮座して動かなくなったからシャットダウン処理とかしてるのかと思って先に来たんだけど……」

 

俺たち三人は顔を見合わせると立ち上がり、ドックに繋がるドアを開ける。

そこにはルミナの言葉のとおり、薄暗いドックの真ん中に、漆黒の巨体が鎮座していた。

 

機甲兵(カタフラクト)。 全長4メートル強のその鉄塊は、ドックの壁に向かって背を向け、まるで叱られた子供のように器用に「体育座り」をして固まっていた。

 

そのシュールな光景にルミナは眉を顰めつつ、機体に近づいていく。

 

「報告書を書いてほしいし、さっきの件について話もしたいんだけど。ねえ、聞こえてる?」

 

大きな声で呼びかけるが、 反応はない。

俺は小首を傾げながら近づき、ネオンに倣って大声で呼びかける。

 

「アイリス、聞こえる? コーヒー淹れたよ。炭酸水がよければ冷蔵庫にあるよ。聞こえる?」

 

反応がない。

俺はルミナの方を振り返り、

 

「もしかしたらさっきの戦闘でハッチが壊れているのかも。ルミナ、外から無理やりでも開けた方が――」

『……聞こえていてよ』

 

俺がそんなことを提案したところで、スピーカーから、不機嫌そうなノイズ混じりの声が返ってきた。

 

『言っておくけど、この子に触ったら承知しないわよ』

「ごめん。返事がないから緊急事態かと思って。出られるならこっちに来てくれない?」

 

俺の言葉に、黒い背中はピクリとも動かない。 むしろ、さらに頑なに殻を閉じるように、機体の肩をすくめたように見えた。

 

『……嫌よ。あなた達のような庶民と同じ空気を吸ったら、私の肺が腐ってしまうもの』

「あんたねぇ……!」

 

ネオンが苛立たしげに怒鳴りつけた。

 

「いい加減にしなさいよ! ご飯はどうすんの!? トイレは!? まさかその中で垂れ流しじゃないでしょうね!?」

『愚問ね』

 

アイリスの声は、呆れるほど冷静だった。

 

偶像(アイドル)はトイレなんて行かないわ。摂取した水分はすべて体内で高純度のエネルギーに変換して、残りは光合成で処理しているの。常識よ?』

「それはアイドルじゃなくて植物でしょ!!」

 

ネオンの叫びが虚しく響く。

ルミナは暢気に「機体の中に簡易トイレユニットでもあるのかなぁ」と言っている。

流石にいくら未来でも、人間が光合成できるように進化しているわけではないらしい。

一瞬信じかけてしまったけど、よく考えれば遺伝子改造されたヒューマロットの俺でさえトイレに行ってるんだからそこは変わってないのだろう。

 

俺はその頑なな鉄の塊を見つめる。

彼女がここまで「外」を拒絶する理由はなんだ? 単なる潔癖症か、それとも――。

 

『とにかく、私はこの『アイアン・メイデン』から一歩も出る気はないわ。外の世界はバイ菌と悪意だらけだもの』

「アイアン・メイデン……?」

 

俺は眉をひそめた。

 

「それがその機体の名前? 中世の拷問器具と同じ名前」

『失礼ね。これは私の「城」であり「ドレス」よ。あなた達のような野蛮人から、高貴な私を守るためのね』

 

彼女はそう言い捨てると、外部マイクがプツンと途切れる音がする。

ドックの照明が落ち、赤いセンサーの光だけが蛍のように闇に浮かぶ。

 

その途端、俺の端末が震える。

何事かと見てみると、そこには『業務報告書』というタイトルのファイルが、目の前の機体の中にいるであろうアイリスの名前で送られてきた。

気づけばいつもの報告書がくる定刻。

几帳面なのか何なのか。

 

少なくとも、このタイミングで送られてきたそれは、俺たちとの会話を打ち切る一方的な通告に見えた。

 

「……はぁ。扱いづらい子が来たわね」

 

ネオンが肩をすくめて自分のデスクに戻っていく。

俺も戻るかと思っていると、ルミナが俺の袖をくいくいと引っ張りながら自分の端末を見せてきた。

 

「ビャッコちゃん、これ見て。……あの子の機体の解析データ取ってきたんだけど」

「治安維持部隊の最新機だったとか?」

「ううん、逆」

 

ルミナは首を横に振った。

 

「コアユニットは、7年前に製造中止になった『環境保全管理局の危険地帯管理用防護シェル』だよ。耐久性だけは特級品だけど、設計思想は純粋な戦闘用じゃない」

「……そんな旧式であの機動力が出るの?」

「そこが異常なの」

 

ルミナは画面をスワイプし、機体の四肢の拡大図を表示した。

 

「右腕のパイルバンカーはタイタン社製の船舶アンカー用。脚部はパラディン型の重装甲レッグ。ジェネレーターは大型プラント用の定置型融合炉を直結してる。火器管制システムは……なんだこれ、ブラックマーケットの違法改造品かな?」

 

画面に表示された機体構成図は、警告色(レッド)のエラー表示だらけだった。

 

「見て、この溶接跡。……これ、全部規格がバラバラのパーツを、無理やり繋ぎ合わせてる。普通なら、一歩歩いただけでバランスを崩して転倒するはずなんだけど」

「……つまり?」

「あの子は、つぎはぎだらけの暴れ馬を、腕一本でねじ伏せて戦ってるってこと。……信じられないよ」

 

ルミナの声には、整備士としての呆れと、それを上回るパイロットへの戦慄が混じっていた。

 

俺は再び、アイアンメイデンへ視線を戻す。

ただのわがままなお嬢様じゃない。

あれは、泥沼のような戦場を這いずり回り、使えるものは何でも使って生き延びてきた者の機体だ。

 

俺は再度呼びかける。

 

「……アイリス、一つだけ質問させて」

『…………』

 

相変わらずの無言だけど、こちらの声を聞いているような気配がする。

そう思って、俺は質問を続けた。

 

「どうして今回は一人で行ったの? 本当に私たちが邪魔だったから?」

 

俺の問いに、機体はしばらく沈黙した。

ドックの闇の中でアイアンメイデンのセンサーがジジジ、と明滅する。

こちらが黙って見つめていると、やがて、根負けするように外部マイクがつながる音がした。

 

『……嫌な予感がしたのよ』

「嫌な予感?」

 

俺が聞き返すと、アイリスは自分に言い聞かせるように滔々と話す。

 

『腐った汚泥と、甘ったるいお菓子が混ざったような……不快な気配。でも、あいつはもう死んだはずなの。だから、それを確認しに行っただけ』

「あいつって? 何の話?」

『……あなた達には関係ないわ』

 

彼女は冷たく突き放した。

 

『私の邪魔をするなら、あなた達も敵と見なすわ。……覚えておいて』

 

プツン。 今度こそ完全に通信が遮断された。 体育座りの巨体は、再び沈黙の彫像へと戻る。

ルミナが肩をすくめて振り返った。

 

「ありゃまあ。前途多難だねぇ。明日からも一緒に行動するの?」

「あの様子だとまた一人で行きそうだし。放っておくわけにもいかない」

「りょーかい。ネオンちゃんは怒るだろうけどねぇ」

 

ルミナは苦笑しながらオフィスの方に戻っていった。

俺はしばらく、電気の消えたドックをじっと見つめる。

 

鉄の処女、アイアン・メイデン。

その分厚い装甲の中には、誰も寄せ付けようとしない、棘だらけの迷子が震えている。

彼女が追っている「あいつ」とは何者なのか。

そして、いつか彼女はその重たい鉄の扉を開いて、こちら側に出てくることがあるのだろうか。

 

(……とりあえず朝食でも食べようかな)

 

俺はそんなことを考えながら長い夜の(とばり)を下ろしたのだった。

 

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