SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第5話 都市パトロール

どうもSFTS1005ことビャッコです。

なぜか、詰所の空気が、液体窒素でも流し込まれたみたいに冷え切っています。

 

ネオンは何かを必死に堪えるような、悲痛な表情でこちらを睨んでいるし、ルミナに至っては、迷子を見守る親のような、痛々しい視線を俺に投げかけてきている。

 

俺はたっぷり数秒、前世で培った「空気を読むスキル」をフル回転させて考え、一つの結論を出した。

 

(……なるほど。やっぱり、こんなちびっ子が上司っていうのは不安なんだろうな)

 

治安維持部隊なんて、名前からして危なそうな職場だ。

そんな現場に、見るからに頼りなさげな小学生(外見)がリーダーとして現れたんだ。

「この子、真っ先に死ぬんじゃね?」って心配するのは、同僚として至極まっとうな感性だろう。

 

だが、安心してほしい。俺の中身は立派な大人だ。

少なくとも、若手二人を引っ張って、定時までに仕事を終わらせるくらいの統率力は見せなきゃならない。

 

俺は空気を切り替えるように、努めて平静な、口調で語りかけた。

 

「それで、これから何をしたらいい? 詰所にずっといればいいの?」

「――え、あー、あ。いてもいいけど、私たちはよくパトロールもしてるかな。私たちみたいなのが街を歩くだけでも、犯罪の抑止効果があるみたいだし」

 

ルミナが、どこか自分に言い聞かせるような声で答えた。

パトロール。なるほど、要するに「お巡りさんの巡回」ってことか。

俺みたいなのを見て犯罪やめようと思うやつがいるかは甚だ疑問ではあるが、やることがないよりかはましだ。

 

「じゃあ、初回だし軽めの巡回にしよっか」

 

ルミナがそう言って立ち上がると、壁際のロッカーを軽く叩いた。

金属音が鈍く響く。

『装備保管庫』と書かれたプレートがきらりと光った。

 

「ビャッコちゃん。装備は最低限でいいよ。いきなり重いものを持たせても、使いこなせないだろうし……」

「最低限って?」

 

返事の代わりに、ルミナはロッカーから取り出した小さなホルスターを放ってきた。

反射的に受け取ると、ずしりとした重み。

 

「それ、小さいけど中身はちゃんとしてるよ」

 

ホルスターから引き抜いたそれは、銃身が極端に短い、マットブラックの無機質な拳銃だった。

表面には余計な装飾が一切なく、企業ロゴと型番だけが刻まれている。

 

――《SDC-P9〈セラフィム〉》。

 

「セラフィム……天使?」

「公式には“秩序の執行者(セラフィム)”って意味らしいよ。……企業のネーミングセンス、悪趣味でしょ?」

 

ルミナは肩をすくめた。

 

「非殺傷用制圧拳銃だよ。電磁スタン、神経遮断パルス、筋肉硬直モードの三段階切り替え。殺さず、逃がさず、逆らわせない。治安維持部隊の基本理念そのものだね」

 

聞けば聞くほど、優しいのか怖いのかわからない。

でもまあ殺さないで済むのはおじさんの精神衛生上にもありがたい。

 

俺が恐る恐るグリップを握ると、銃が微かに振動した。

 

【生体認証完了。使用者:SFTS1005】

【A.R.E.S.とリンク開始】

【A.R.E.S.と同期完了。照準補助、反動制御、危険予測を有効化します】

 

(あ、勝手に始まった)

 

視界の端に、半透明の照準(レティクル)と数値が浮かぶ。 距離、命中確率、周囲の遮蔽物の強度――。

ゲームのチュートリアルみたいだな、なんて場違いな感想を抱いてしまうが、現実感が薄いおかげでパニックにならずに済んでいる。

 

「……大丈夫?」

 

固まっている俺を見て、ネオンが心配そうに覗き込んできた。

 

「うん。……ちょっと、くすぐったいだけ」

 

「そう…」と言いながら、ネオンも装備を整え始めた。

彼女は銃を持たない。

代わりに、手首に巻き付けた細身の端末から、ピアノ線のような銀色のワイヤーを伸ばしている。

 

「ネオンが持ってるやつってなに?」

「これは《オラクル・リール》。監視カメラへのアクセスや、通信、ドローン制御用のデバイスよ」

「なるほど。頭脳派だね」

 

そう言うと、ネオンは一瞬だけ目を伏せた。

 

「……そういう役割なだけ」

 

ちょっと素っ気ない返事。

まあ、真面目な人なんだろう。

 

ルミナはロッカーから大量の道具を出してリュックに詰め込んでる。

 

「《SDC-M5〈グレイハウンド〉》、《パルス・バトン》、《フォールディング・イージス携帯シールド》と……。あ、《リペアドローン・R2》も持って行かないと」

 

ブツブツ言いながら道具を扱う様子はどこか楽しげだった。

俺はよく分からないが危険そうな道具を遠巻きにしつつ、ルミナに話しかける。

 

「そんなに必要?」

「いるかもしれないじゃん」

 

そう真顔で言うルミナに対し、ネオンが言った。

 

「ビャッコ、ああ言ってるけど、ルミナのあれは単なる趣味だから。ツールマニアなのよ」

「なるほど」

 

俺も中身は男の子だからわからんでもない。

ホームセンターでテンション上がっちゃうやつだ。

 

ルミナは「趣味とは失敬な」と膨れながらも、準備ができた様子でリュックを背負いなおした。

 

「今更だけど全員で行くの?」

 

俺はふとそんなことを思って尋ねてみた。

詰所が空になってしまうし、一人か二人でもよくないかと思ったりもするし。

 

「どうせ詰所は誰も寄り付かないし、行くならみんなで行こうよ!」

 

そう言いながらニコニコ笑うルミナの言。

 

「私は別に詰所からオペレートしてもいいんだけど、人手不足だし、現場には何人いても困るものではないわ」

 

と言うのはネオン。

 

まあそんなもんかと思いながら俺は頷く。

折角のお出かけだしみんなで行った方が楽しいもんね。

 

準備が整い、三人で出口へ向かう。

自動ドアが開くと、ツンと冷えた、オゾンと排気ガスの混じった外気が流れ込んできた

 

企業自治区の通りは、相変わらず整いすぎていて気持ち悪い。

無駄のない建物、同じ高さの街灯、等間隔で首を振る監視カメラ。

人々は黙々と歩き、決して俺たちと目を合わせようとはしなかった。

 

「パトロールって、歩くだけでいいの?」

「基本はね。異常があればネオンが拾うし」

 

ネオンは端末を触りながら、イヤホンのようなものを耳に付けている。

なるほど、あれに通報とか入るんだろう。

 

「異常がなければ?」

「なにも起きないのが一番」

 

ルミナは軽い足取りで歩き出し、ネオンは少し後ろから、俺の背中を見守るように続いている。

視線が熱い。

 

(やっぱり心配されてる?)

 

まあ、見た目だけなら初めてのおつかいをしてる小学生のようなものだろうし。

 

「大丈夫だよ」

 

振り返って言うと、ネオンは驚いたように目を見開いた。

 

「え?」

「ちゃんと役目は果たすから」

 

俺なりの気遣いだったんだけど、ネオンはなぜか、唇を噛んで視線を逸らした。

 

「……そう」

 

うーん、安心させることは失敗したかもしれない。

まあ、上司たるもの率先して成果を見せないと部下はついてこないだろうし、事案があったらがんばることにするか。

 

俺は前を向き直り、街を見渡す。

 

(よし。初パトロールだ)

 

俺はお散歩してるくらいの気持ちでのんびりと歩き出す。

 

三人で並んで歩く。

俺の脳内は、「巡回が終わったら、どっか美味しいお店でもないかな。……あわよくば、パトロールの後にみんなでクレープとか食べられたら、もう完璧に青春だよな!」なんてお花畑全開だった。

 

しかし、現実は甘くない。 整然としたメインストリートを抜け、少しだけ照明の暗い、旧市街の境界に差し掛かった時。

そのとき、ネオンの端末が小さく振動した。

 

「……反応あり」

 

ネオンの声が、一瞬で「治安維持部隊」の冷徹なトーンに切り替わった。

彼女はイヤホンに手を当て、空中に浮き出た座標を鋭く見据える。

 

「北側ブロック、C-12ポイント。挙動不審者一名。企業の生体IDが未登録……『ノイズ』よ」

 

ルミナがにやっと笑い、背負ったリュックのストラップを締め直した。

だが、その目は笑っていない。銃を抜く代わりに、彼女は俺の前に一歩踏み出し、さりげなく俺を庇う位置に立った。

 

「さっそく出番かもね、小隊長。……お手並み拝見、かな?」

「うん。……じゃあ、行こっか」

 

俺は、ワクワクする気持ちを「仕事へのやる気」に変換して、軽やかに歩き出した。

視界の中で、セラフィムのレティクルが、まだ見ぬ標的に向けて静かに赤く染まり始めている。

 

A.R.E.S.が囁く。

 

【対象、捕捉。最短経路での制圧を推奨。――業務を開始します】

 

青春のパトロールが、その一歩から「効率的な狩り」へと変質していくのを、俺だけがまだ気づいていなかった。

 

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