SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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なんか久しぶりにコメント増えててうれしいです


第67話 反逆のフォールバック

仮眠室での感傷的な空気を引きずる暇もなく、第3詰所のメンバーたちはすぐに「次」の行動へと移っていた。

欠損していたとはいえ、ルミナとビャッコが命懸けで持ち帰った工場の闇データ。

それを解析し、再び地下の深淵へと潜り込む準備だ。

 

「持ち帰ったデータの断片から逆算して、最適化した金庫破りのプログラムを組んだわ。ルミナ、あなたのデータパッドに転送しておくわね」

「うん、ありがとうネオンちゃん。これなら、次はもっと早く防壁を抜けられるはず」

 

コンソールに向かうネオンからデータを受け取り、ルミナはそれを自身の端末へと同期させる。

そして、傍らで新しい白銀の右腕の駆動音を確かめているビャッコへと振り返り、少し心配そうに、そして申し訳なさを滲ませて口を開いた。

 

「あのさ、ビャッコちゃん」

「ん?」

「作っといてなんだけど……あの『フォボス・オーバードライブ』は、絶対に……使わないでよ」

 

ルミナの真剣な懇願に、ビャッコはコクリと頷いた。

 

「概要はA.R.E.S.から聞いたよ。文字通り、奥の手にするつもりだけど……」

 

ビャッコはそこまで言って、ふと何かを思い出したように、白銀の右手で自分の長い耳をポリポリと掻いた。

 

「あ。オファニム、現場に落としてきちゃった。ごめん、ルミナ」

「いいよ! 命があっただけでも丸儲けだし! すぐに別の大型武器を武器庫から見繕ってくるから、ちょっと待ってて!」

 

ビャッコの謝罪に明るく返し、ルミナがガレージの奥にある武器庫へと駆け出そうとした――その時だった。

 

『ピロロロロロロロッ!!』

 

第3詰所のメインシステムからではない。

ネオンの懐、彼女のパーソナルな衣服の奥底に隠されていた極小の専用端末から、鼓膜を刺すような鋭いアラートが鳴り響いた。

 

「え……?」

 

ルミナとアイリスが驚いて振り返る中、ネオンは血相を変えて懐から黒い端末を引きずり出した。

そのディスプレイに表示された強固な暗号化通信の文字列を見て、ネオンの顔から一瞬にして血の気が引く。

 

(嘘でしょ……『治安維持部隊』の秘匿回線……!? なんでこんな急に……!)

 

ネオンが独自に傍受していたその裏回線には、信じがたい文言が羅列されていた。

 

対象:第3詰所所属メンバー全名。

容疑:上位クリアランス違反、ならびに国家反逆罪。

通達:職権停止の上――『特別鎮圧対象』に認定。即時ブリーチを開始せよ。

 

「……ッ!!」

 

ネオンは端末を握り潰さんばかりの力で握り締め、ガタッ!と椅子を蹴り倒して立ち上がった。

 

「今すぐここから脱出するわよ!!」

 

その悲痛なまでの怒鳴り声に、空気が完全に凍りついた。

 

「えっ!? 武器、まだビャッコちゃんの武器が……!」

「探してる時間は無い! 1秒でも早く車両に乗って! あるものだけで行くわよ!!」

 

パニックになりかけるルミナの腕を掴み、ネオンは強引にガレージの装甲車両へと引きずっていく。

ビャッコは自分の腰のホルスターに視線を落とした。

そこにあるのは、オファニムを失い、唯一残された武装であるセラフィムだけ。

 

ビャッコはセラフィムのグリップを白銀の右腕で力強く握り込むと、疑問を振り払うように、ネオンたちの後を追ってガレージへと駆け出した。

 

けたたましいスキール音を響かせ、第3詰所のガレージから一台の重装甲車両が中層地区の裏通りへと飛び出した。

運転席にはネオン、助手席にルミナ、後部座席にはセラフィムだけを握りしめたビャッコ。そして車両の広い荷台には、アイリスがボロボロの『アイアン・メイデン』に搭乗したまま強引にしがみついていた。

 

「ネオンちゃん! いったいどうしたの!?」

 

荒い運転で左右に揺れる車内で、ルミナがパニック寸前の声を上げる。

ネオンは鋭い目でバックミラーを睨みつけながら、吐き捨てるように答えた。

 

「私たちに、逮捕令状が出てるわ」

「は……? どういうこと!? というか、なんでネオンちゃんがそれを……!」

「……私はちょっと、内部にいざという時のための『耳』を持ってるの。それはともかく、私たち全員が対象ということは、今回の件が原因でしょ」

 

ネオンの言葉に、ルミナは息を呑んだ。

装甲がひび割れ、火花を散らしている荷台のアイアン・メイデンの姿。

現場に落としてきたオファニム。

そして何より、DNAの決定的な証拠となり得る、ビャッコの失われた『生身の右腕』。

向こうに足取りを掴まれる心当たりは、いくらでもあった。

 

「とはいえ……ここまで動きが早くて、大げさになるとはね。チッ……!」

 

ネオンが舌打ちをした直後、入り組んだ路地の奥から、複数の強烈なヘッドライトと耳障りなサイレンの音が迫ってきた。

正規の治安維持部隊の重装甲車が統率された動きで、猛スピードでこちらを追走してくる。

 

『――対象車両、直ちに停止せよ! 繰り返す、直ちに停止せよ! 抵抗する場合は容赦しない!』

 

警告の拡声器と同時に、後続車両から容赦のない銃撃が放たれる。

バラバラバラッ!と、ネオンたちの乗る車両の装甲に重機関銃の弾丸が雨あられと叩きつけられた。

 

「きゃあああっ!?」

「ルミナ、頭を下げて!」

 

ルミナが悲鳴を上げて身をすくめる中、荷台にしがみついていたアイアン・メイデンが動いた。

左腕のマニピュレータで12.7ミリ重機関銃を構え、アイリスが迎撃の火蓋を切る。

 

「私たちを……なめないでいただきたいですわッ!」

 

ズドドドドォォン!

 

アイアン・メイデンの銃口から火線が放たれる。

だが、アイリスは追手の操縦席を直接狙うことはしなかった。

公的な命令で動かされているだけの部隊を無差別に殺せば、自分たちが本当のテロリストに落ちてしまうという、彼女なりの誇りと矜持だった。

 

アイリスの高い狙撃技術によって放たれた徹甲弾は、追走してくる治安維持部隊の先頭車両のタイヤとエンジンブロックだけを的確に撃ち抜く。

火を噴いた先頭車両がスピンして横転し、後続の車両が進路を塞がれて急ブレーキを踏んだ。

 

「アイリス、ナイスよ!」

 

ネオンが叫び、ハンドルを乱暴に切ってさらに路地裏の深部へと車を滑り込ませる。

しかし、追手は次から次へと湧いてくる。レーダーの赤い光点は増える一方だった。

 

「ねえ、どうするの!? このままじゃいつか追いつかれるよ!」

「安全な場所まで逃げ切れる規模じゃないわ。こんなでっち上げの真似ができるのは、上位クリアランスを持ってるやつ……ヴァレリオしかいない!」

 

ネオンはアクセルを床まで踏み込みながら、決死の覚悟を口にした。

 

「このまま、下層地区へ向かう地下搬送エレベーターに行くわ! 工場に突入して、決定的な証拠を押さえて手配を解除させるしか、私たちが生き残る道はない!!」

 

逃げるのではない。敵の懐に自ら飛び込む。

その狂気じみた、しかし唯一の生存ルートに向けて、ネオンの装甲車両は夜の街を弾丸のように駆け抜けていった。

 

巨大な縦穴が広がる『地下搬送エレベーター』。

本来は工業用の大型資材を運ぶためのその巨大なプラットフォームに、火を噴きながら装甲車両が滑り込んだ。

 

「着いた! ルミナ、急いで起動して!」

「やってる! 暗号化プロトコル、強制バイパス……っ!」

 

ネオンが叫び、助手席から飛び降りたルミナが搬送用のメインコンソールに自身のデータパッドを接続する。

しかし、巨大なエレベーターの起動シークエンスが始まるより早く、背後の暗闇から無数の赤いレーザーサイトが彼女たちを捉えた。

 

「――対象を発見。これより制圧する」

 

拡声器を通した無機質な声と共に、治安維持部隊の先遣隊が突入してくる。

防弾シールドを構えた重武装の隊員たちが、アサルトライフルと対物火器で一斉射撃を開始した。

 

ガガガガガガッ!!

 

けたたましい銃声が反響し、コンクリートの破片が弾け飛ぶ。

 

『行かせませんわッ!!』

 

アイリスの悲痛な叫びと共に、荷台からアイアン・メイデンが巨体を躍らせた。

左腕からは火花が散り、装甲も限界までひび割れている。

それでも彼女は、ルミナたちを庇うように巨大な鉄の体を盾にし、重機関銃で決死の牽制弾幕を張り続けた。

 

火花が散り、アイアン・メイデンの装甲が次々と剥がれ落ちていく。

 

「くっ……! 開いたよ、エレベーター!!」

 

ルミナのハッキングが完了し、地響きと共に巨大な防爆扉がゆっくりと左右に開いた。

 

「ビャッコちゃん、早く!」とルミナがエレベーターの箱の中に転がり込む。

ビャッコもそれに続き、白銀の右腕でセラフィムを構えながら後退する。

 

しかし、ネオンは動かなかった。

 

彼女はエレベーターには乗り込まず、外側のコンソールパネルを開き、中の配線を素手で握りしめたのだ。

 

「ネオンちゃん!? 何してるの、早く乗って!」

「あなたたちが地下に降りたら、私が地上からこのエレベーターの回線を物理的に破壊してロックする」

 

銃弾の雨が降り注ぐ中、ネオンは振り返り、信じられないことを口にした。

 

「そうしないと、追手が次々になだれ込んで、あなたたちの背中を撃つわ」

「え……? 嘘でしょ、ネオンちゃんも乗って! アイリスちゃんもどうするの!?」

『私はここで部隊を引き付けますわッ!』

 

アイリスが叫びながら、突撃してきた治安維持部隊をタクティカル・ランスで牽制する。

その姿を見てパニックになり、扉から飛び出そうとするルミナ。

それを、ビャッコの左腕がガシッと力強く掴んで引き留めた。

 

「ビャッコちゃん、離してっ! 二人を置いていけないよ!」

「ルミナ、駄目だ。……ネオンの覚悟を無駄にするな」

 

ビャッコの静かな、しかしひどく重い声に、ルミナが息を呑む。

ネオンはアサルトライフルを構え、部隊へ向けて牽制のフルオート射撃を放ちながら、血のにじむような声で叫んだ。

 

「私たちはここで、絶対に食い止める! だから……必ず証拠を掴んで、生きて戻ってきなさい!!」

 

ゴウンッ、と。

ネオンが外部から強制ロックのコマンドを叩き込み、分厚い防爆扉が閉まり始めた。

 

「ネオンちゃん……ッ! アイリスちゃんッ!!」

 

泣き叫ぶルミナを抱き寄せたまま、ビャッコは狭まっていく扉の隙間から、ただ一度だけ、ネオンに向けて深く頷いた。

ネオンの口が、微かに「頼んだわよ」と動いた気がした。

 

ガァンッ!!

 

重厚な金属音が響き、扉が完全に閉鎖される。

直後、エレベーターを吊るす巨大なワイヤーが軋みを上げ、重力に引かれるように猛スピードで地下の闇へと下降を始めた。

 

地上で繰り広げられているであろう、仲間たちの絶望的な防衛戦の音は、分厚い装甲に遮られてもう聞こえない。

薄暗い非常灯だけが照らすエレベーターの中で、ルミナは床にへたり込み、声を殺して泣き咽んでいた。

 

「…………」

 

ビャッコは無言のまま、たった一丁の武装であるハンドガン『セラフィム』を構え直した。

あるのは、ルミナが魂を込めて繋いでくれた『白銀の右腕』と、その奥底に眠る命を削る悪魔のシステムだけ。

 

ウィィィン……。

 

暗闇に、微かなモーターの駆動音が響く。

 

「……行くよ、ルミナ」

 

仲間と引き換えに手に入れた、片道切符の再突入。

反逆者へと突き落とされた少女たちの、巨大な闇への孤独な反撃が、今、静かに幕を開けた。

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