SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第78話 言うなれば運命共同体

新しいローテーションを組むにあたり、俺は小隊長として、そして何より一人の労働者として、労働基準法と隊員の健康を第一に考えた完璧なシフトを作り上げた。

まずは今週のシフトを見てほしい

 

月 日勤:ビャッコ、アイリス、ネオン

  夜勤:JK、ボルト、ストック

火 日勤:ビャッコ、アイリス、ルミナ

  夜勤:JK、ボルト、サイト

水 日勤:ビャッコ、ネオン、ルミナ

  夜勤:JK、ストック、サイト

木 日勤:アイリス、ネオン、ルミナ

  夜勤:ボルト、ストック、サイト

金 日勤:ビャッコ、アイリス、ネオン

  夜勤:JK、ボルト、ストック

土 日勤:ビャッコ、アイリス、ルミナ

  夜勤:JK、ボルト、サイト

日 日勤:ビャッコ、ネオン、ルミナ

  夜勤:JK、ストック、サイト

 

極力問題を避けるために、第1小隊と第2小隊のメンバーを分けて配置した。

今週は日勤が第1小隊で夜勤が第2小隊だが、来週はそっくり入れ替える。

そして、各時間帯の出勤人数は3名ずつ。

これで俺の公休も確保できることになった。

社畜を自認している俺であっても、休みは普通にうれしい。

 

これで面倒ないざこざも抑えられて、無茶な連続勤務も避けることができる。

完璧なパズルが完成したはずだった。

 

だが、何事にも完璧というものは存在しない。

完全に勤務時間を切り離したとはいえ、どうしても発生してしまう朝夕1時間の『引き継ぎ時間』。

そこでは、俺の想像を絶する「相性の悪さ」が露呈していた。

 

 

「あの、サイトさん。備品の精算なんですけど……」

 

詰所のデスクで、アイリスが恐る恐る、夜勤明けのサイトに声をかける。

アイリスは本来、自分から他人に強く当たるような子じゃない。

むしろ、控えめで礼儀正しい「いい子」だ。

そんな彼女が、意を決して事務的な不備を指摘しようとしていた。

 

「あら~。アイリスさん、いつもやってもらってありがとう。はい、これ昨夜の報告書と、弾薬の補充申請ね」

「えっ、あ、はい。……いや、そうじゃなくて。これからは自分の分は自分でやっていただかないと困るというか……」

「困る? なんでなん? ちょっと帳簿を見させてもろたんやけど、うちの詰所の予算って、アイリスさんの機甲兵の維持費が大半を占めてるやんか。それやったら、ついでにまとめてやってもろた方が、手間も省けて効率的やと思わへん?」

「うっ……」

 

はんなりとした笑顔。1ミリも悪気を感じさせない柔らかな謎京都弁。

だが、そこに含まれた「正論」という名の弾丸は、アイリスの反論を完璧に封殺した。

確かにアイリスの機甲兵『アイアン・メイデン』のメンテナンス費用は、第3詰所の予算をガリガリと削っている。

それを指摘されると、真面目な彼女はぐうの音も出ない。

 

「……わかりました。私が、やっておきます……」

 

がっくりと肩を落とし、すごすごと引き下がるアイリス。

そんな彼女を横目に、サイトは「おおきに、助かるわぁ」とのほほんとお茶をすすっている。

 

またある日はこんな言い争いもあった。

 

「ちょ、ボルト! 私の席でハンバーガー食べないで! ソースがキーボードに垂れてる!」

「えー、いーじゃんネオンちゃん。あ、ポテト食べる? はい、あーん!」

「いらない! 顔が近い!」

 

夜勤明けのハイテンションなギャル、ボルトに絡まれ、露骨に嫌そうな顔をしながらも逃げ場を失っているネオン。

一見仲良くしているように見えるが、ネオンの表情は本気で嫌がっているようだ。

ルミナも人懐っこい性格なのでボルトに近いものはあると思うのだが、どうやらそこには譲れない違いがあるのだろう。

 

そしてまたある日のこと。

 

「ああっ! また私の工具箱のビットがまた勝手に並べ替えられてる……!」

「これは美意識だよ、ルミナ。機能性だけに着目しているようじゃまだまだだね」

「情報端末の設定までいじってる! なにがどこにあるかわからないよ!」

 

ストックに作業机を「芸術的」に荒らされ、半泣きで設定を戻しているルミナ。

 

そんな光景を見てきた俺はただ立ち尽くし、内心で頭を抱えるしかなかった。

 

小隊を分けたはずなのに、この交代時の1時間だけで、詰所の「俺の居場所」と「部下たちの精神」がどんどん削り取られていく。

果たして、この歪な共同生活はいつまで持つのか。俺の胃壁の限界が先か、詰所が物理的に崩壊するのが先か。

 

そして、運命の木曜日がやってきた。

新しいローテーションにおいて、俺とJK、両小隊長の公休が被る「魔の木曜日」である。

 

俺は自室のベッドに寝転がりながら、天井をぼんやりと見つめていた。

本来であれば、連日の激務による疲労を癒すために死んだように眠り続けるか、のんびりと趣味の時間を過ごして英気を養うべき貴重な休日である。

しかし、俺の心は一向に休まっていなかった。

 

チラリと壁の時計を見ると、針はちょうど日勤と夜勤の引き継ぎの時間を指そうとしていた。

 

(……小隊長不在で、ちゃんとに引き継ぎできるんだろうか)

 

脳裏に浮かぶのは、ここ数日の地獄のような引き継ぎ風景だ。

サイトの圧に押し負けるアイリス。

ボルトのハイテンションなウザ絡みに限界を迎えそうなネオン。

ストックの芸術的テロリズムに心を折られかけているルミナ。

 

リーダーというストッパーがいなくなった空間で、あの水と油の六人が交わればどうなるか。

最悪の場合、詰所内で局地戦が勃発し、備品が全損。

休み明けに山のような始末書を前に、俺が泡を吹いて倒れる……という絶望的なビジョンばかりが浮かんでは消える。

 

「……駄目だ。気になって休めない」

 

俺はたまらずベッドから跳ね起きると、私服のパーカーを適当に引っ掛けた。

休日に職場に顔を出す上司なんて嫌がられるかもしれないが、万が一詰所が火の海になってから呼び出されるよりは、ボヤのうちに火消しをした方がマシだ。

 

俺は足早に寮を出ると、コソコソと第3詰所へと向かった。

 

(どうか、アイリスたちが泣いていませんように。そして、備品が無事でありますように……!)

 

祈るような気持ちで詰所の前に辿り着いた俺は、中から聞こえてくる怒号や激しい言い争う声に、心臓が凍りつくのを感じた。

 

「とうとう本格的な喧嘩が起きたか……!」

 

俺は血の気が引く思いで、すぐさま仲裁に入るべく、慌ててドアノブに手をかけた。

だが、乱暴にドアを開け放とうとしたその瞬間。

僅かな隙間から漏れ聞こえてきた「言い争いの内容」に、俺はピタリと動きを止めることになった。

 

「うちの小隊長こそ至高の存在なんです! そっちの小隊長に比べたら可憐さ、可愛さ、健気さ、かっこよさともに圧倒的に上回っているのは明らかです!」

 

まず鼓膜を打ったのは、アイリスの熱烈すぎる演説だった。

 

(うちの小隊長とは俺のこと? なんの話してるの?)

 

俺がそんなことを思っていると、それに答えるように声が続く。

 

「そんなことないよ? うちのおじさまの歴戦のカリスマ性に比べたら、そっちの小隊長さんなんて、ただのチンチクリンやんか。おじさまの、あの背中で語る渋さと器の大きさこそが一番なんよ」

「そーそー! ケー様のあの余裕たっぷりの俺様感、超エモくない? ビャッコちゃんが可愛いのは認めるけど、美しさやかっこよさはうちらの小隊長の方が圧勝っしょ!」

 

サイトとボルトが、アイリスの言葉に即座に噛み付く。(ちなみにボルトの言うケー様というのは言うまでもないだろうが、JKのことだ)

俺が小さいのは事実なので腹も立たないのだが、それを聞いていたネオンとルミナはそうでもなかったようだ。

 

「は? ビャッコのよさが分からないとかそれこそ子供すぎるでしょ。あの子は見た目は子供だけど、その責任感や任務中の真剣な表情のギャップがいいのよ。それでいて、無表情だけど、おいしいもの食べた時や遊んでいるときの無邪気な感じもまたキュンとするのよね。あの子の耳がピコピコしているのを見たらきっとあなた達も理解(わか)るはずよ」

「そうそう! JKちゃんもあのフルサイボーグのボディはかっこいいけど、ビャッコちゃんの随所に施されたサイバネだって負けないくらいかっこいいんだから!」

 

それを聞いたストックが眼鏡をクイと上げながら鼻で笑った。

 

「おじさまのサイボーグボディがかっこいいというのはいい目線。ビャッコ小隊長の右腕も、まあ多少は褒める部分はあるけど、やっぱり全体で見ればおじさまの勝ちはゆるがない」

「そんなことないもん! きっと今にかっこいいフルサイボーグボディを私が作り上げるし!」

「ちょっとルミナ。ビャッコがフルサイボーグになる前提で話さないでくれる?」

「ごめん、売り言葉に買い言葉で……」

 

ネオンとルミナの言葉に、ストックも参戦して見事な三対三の構図が出来上がっている。

 

(……なんだこれ)

 

俺は脱力のあまりその場にしゃがみ込みそうになった。

ドアの向こうで繰り広げられているのは、仕事の流儀や思想の対立などという高尚なものではなかった。

ただの「自分たちの小隊長がいかに素晴らしいか(そして可愛いか)」という、推しアイドルを語り合う熱狂的なファンのような、信じられないほど次元の低いマウント合戦だったのだ。

 

しかも、ネオンやルミナに至っては俺の「耳がピコピコ動く」だの「無邪気な表情がキュンとする」だの、中身が三十代の自認おじさんである俺にとって、致死量に達するほどの気恥ずかしいポイントを大声で熱弁している。

お互いに相手のリーダーをけなしているようで、実は「うちのリーダーが一番尊い」と主張し合っているだけなのだ。

 

(……恥ずかしくて、死んでも中に入れない……!)

 

彼女たちが俺を慕ってくれているのは小隊長としてありがたいが、当人のいないところでここまで熱烈に語り合いをされるのは、一種の公開処刑に近い。

 

俺はそっと、本当にそっとドアノブから手を離した。

これ以上聞いていたら、俺の精神が別の意味で限界を迎える。

ルミナが俺を勝手にフルサイボーグ化しようと企んでいる件については後で問い詰めるとして、今は仲裁などという野暮な真似はせず、彼女たちの気の済むまで言い争わせておくのが、大人の男としての――いや、ただの逃げだが――正しい選択だろう。

 

バレないように、足音を殺して踵を返す。

 

俺が通路の角を曲がり、死角に足を踏み入れた、その時だった。

 

ふわりと、チョコレートのような甘い匂いが鼻を掠めた。

足を止めると、薄暗い通路の壁に背を預け、シガーレット型の電子デバイスをふかしている人影があった。

 

金糸のような美しい金髪。透き通るような白い肌。

だが、その可憐な容貌とは裏腹に、彼女は着古した無骨な革ジャンに色落ちしたジーンズという、やけに年季の入った渋い私服を着こなしていた。

第2小隊のリーダー、JKだ。

 

彼女は俺の姿を認めるなり、シガーレットを指の間に挟んだまま、小さく指をピッと振って挨拶してくる。

 

「……なにやってるの?」

 

俺が呆れたように尋ねると、JKはふっ、と紫煙を細く吐き出して肩をすくめた。

 

「そういう君こそ。いや、言わなくても大体わかるけどね」

 

その言葉と、彼女のどこかバツの悪そうな表情を見て、俺は全てを悟り、思わず苦笑を漏らしてしまった。

 

こんな休日の夕方に、わざわざ私服で詰所の死角に潜んでいる理由など一つしかない。

彼女もまた、リーダー不在の『魔の木曜日』に部下たちが上手くやっているか気になり、こっそりと様子を見に来ていたのだ。

そしておそらく、俺と同じようにドアの向こうから聞こえてくるマウント合戦を耳にして、気恥ずかしさから中に入るタイミングを完全に失って黄昏れていたのだろう。

 

「意外と部下のこと気にしてるんだね」

 

俺が少しだけ意地悪くそう言うと、JKは照れるでもなく、大人の余裕を感じさせる笑みを崩さずに答えた。

 

「まあ、ね。否定はしないさ」

 

その口調には、部下たちに対する確かな愛着と、どこか親が子を見守るような温かい響きが含まれていた。

普段の不遜で堂々とした態度からは想像もつかないような、面倒見の良さ。

なるほど。彼女もまたしっかりまとめ役の自覚があるようだ。

 

俺たちはそれ以上言葉を交わすことなく、並んで冷たい壁に背を預けた。

ドアの向こうからは、相変わらず「ビャッコちゃんの耳が!」「おじさまの背中が!」という、愛に溢れすぎた呆れた言い争いが聞こえてきている。

 

薄暗い通路の壁に背を預け、俺たちはしばらくの間、ドアの向こうから聞こえてくるやかましい口論をBGMに無言の時間を過ごしていた。

 

やがて、シガーレットを懐にしまい込みながら、JKがポツリとこぼした。

 

「すまないね、うちのじゃじゃ馬たちが」

「そう思うなら、もう少し手綱を締めてほしいんだけど」

 

俺の切実な願いを口にすると、JKは喉の奥でクックッと笑った。

 

「そいつは無理な相談だな。じゃじゃ馬ってのは、無理に乗りこなすもんじゃない。覚悟を決めて、一緒に走ってやるもんさ」

 

面倒は全て自分が被る。その覚悟があるからこそ、サイトたちは彼女を『おじさま』と呼び、絶対の信頼を寄せているのだろう。

ドアの向こうで熱弁されていたJKのかっこよさというものが、俺にも少しだけ理解できた気がした。

 

「なるほどね。第2小隊のみんなに慕われるわけだ。その渋さが羨ましいよ」

 

俺の言葉に、JKは少しだけ照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。

そして、壁から背中を離し、俺の方へと向き直る。

 

「さてと。部下たちの元気な声も聞けたことだし、私はそろそろ引き上げるとするかな。……せっかくだから、これからデートでも洒落込むかい? 近くに行きつけのバーがあるんだ。奢るよ?」

 

JKは長い金髪をかき上げながら、可憐な少女の姿には全く似つかわしくない、キザなセリフで俺を誘ってきた。

だが、その誘いに対する俺の答えは決まっている。

 

「残念だけど、お酒は飲めない」

「おや、下戸だったのかい?」

「いや、見ての通り未成年だから」

 

俺が自分の小さな身体を指差して見せると、JKは一瞬キョトンとした後、思い出したようにおかしくてたまらないという風に笑い声を上げた。

 

「ハハッ! そいつは残念だった。あんまりにも話が合うから、すっかり忘れてたよ」

 

ひとしきり笑い終えた後、JKは少しだけ真面目な顔になり、俺の瞳を真っ直ぐに覗き込んできた。

 

「……君、ヒューマロットらしくないね」

 

その見透かすような碧眼を見返しながら、俺は小さく肩をすくめる。

 

「よく言われる」

 

俺の答えを聞いて満足そうに頷くと、JKは「じゃあね」と短く手を上げ、夜の道を歩き出した。

俺もまた、ドアの向こうの彼女たちに見つからないよう、道の反対側、自分の寮に向かって歩き出す。

明日からもにぎやかな日々は当面続きそうだが、同じように苦労している『同僚』がいると思えば、この騒がしくて歪な共同生活も、不思議と悪くないと思える。

今はただ、明日の朝に備えて、少しでも長くベッドで眠ることにしよう。

 

夜空を見上げながら、俺はほんの少しだけ足取りを軽くして、自分の帰る場所へと歩みを急ぐのだった。

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