SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第79話 プロの流儀

日々の業務が騒がしくも流れていた、ある日のこと。

詰所の静寂を切り裂くように、けたたましい緊急警報が鳴り響いた。

 

『41区管内で大規模な反乱発生。第3詰所の全小隊に出動要請がかかっています』

 

無機質なシステム音声のアナウンスに、詰所にいた全員の空気が一変する。

 

「急いで準備を!」

 

俺が声を張り上げると、アイリスとルミナが慌てた様子で準備を始めた。

バタバタと装備を整えていると、非番で家にいたはずのネオン、そして第2小隊の面々までもが足早に詰所へと集結してくる。

 

「やれやれ。せっかくのんびりしていたのに、慌ただしいね」

 

私服の革ジャンの上にタクティカルベストを羽織りながら、JKが肩をすくめた。

相変わらず、渋い服装が似合う落ち着き払った態度だ。

 

「ほんとそれ! せっかくケー様とデート中だったのに、マジ空気読めなくない?」

「勝手におじさまとデートしていたことにするな。ボクらもいただろうが」

「ふふ、うちも一緒にお茶してたんやけどねぇ」

 

ボルトが不満げに唇を尖らせ、ストックが冷静にツッコミを入れ、サイトがはんなりとした笑顔で場を和ませる。

緊急事態だというのに、相変わらずマイペースな奴らだ。

 

(なんだかんだ言って、仲いいな)

 

俺は内心で呆れつつも、全員が揃ったことへの心強さを感じていた。

 

「無駄話はそこまで。アイリスはアイアン・メイデンに搭乗、それ以外の全員は装甲車に乗り込んで現場へ急行するよ」

 

俺の号令とともに、第3詰所の合同部隊はけたたましいサイレンを鳴らしながら、現場へと出動した。

 

 

現場である管内の工業地帯に到着すると、そこはすでに想像を絶するカオスと化していた。

ビルと工場が立ち並ぶ区画には、無数の制服を着た治安維持部隊が到着しており、激しい交戦が始まっている。

飛び交う銃弾の軌跡、爆発の閃光、そして怒号。さながら本物の戦場のようだ。

 

数では治安維持部隊の方が圧倒的に多いはずなのだが、反乱を起こしている柄の悪そうな市民側――最早、賊といった雰囲気だが――も只者ではなかった。

ごつい重火器や、作業用の人型重機、パワーローダー、さらには戦闘用ドローンまで持ち出して武装しており、工場の一部を完全に要塞化して徹底抗戦の構えを見せている。

一筋縄ではいかない状況だ。

 

「一体、なにごとなの……?」

 

俺が思わず呟くと、端末を操作していたネオンが素早く情報を共有してくる。

 

「情報によると、武装化した市民が集まって一斉蜂起の準備をしているっていうタレコミがあって、管轄の部隊が突入したみたい。でも、思いのほか敵が重武装で、押し返されて応援が必要になったようね」

「うーん、なんか見慣れない武器が多いね。違法なルートで流れてきたのかな?」

 

ルミナが目を細めて敵の武装を分析する。

俺も自分の武装を確認し、突入の準備を整えた。

硝煙の匂いと、戦場さながらの熱気に、少しだけ鼓動が高まるのを感じる。

 

その時、ふわりと微かなチョコレートのような匂いが漂ってきた。

隣を見ると、JKがシガレット型デバイスを咥えながら、不敵な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。

 

「そういえば、ビャッコたちの小隊とこうやって大掛かりな作戦を共にするのは初めてだね。どうだい? 戦果が多かったほうが奢り、なんていうのは」

「……不謹慎じゃない?」

 

俺がジト目で睨み返すと、JKは喉の奥でクックッと笑った。

 

「なんだ、怖いならやめておくかい?」

 

完全に挑発されている。

俺は「はぁ」と一つ大きなため息をつき、冷静さを保ちながら答えた。

 

「奢るのは飲み物だけにしておこう」

 

個人的には、命のやり取りをする場でこういう勝負を持ち込むのはあまり好きではない。

元・平和な国の一般人の感覚としては、安全第一がモットーだ。

しかし、これも第2小隊のリーダーとの『交流』であり、彼女なりの部隊の士気の上げ方なのだろうと解釈して頷いておく。

 

「オッケー。それじゃあ約束だ」

 

JKは咥えていた電子シガレットを懐にしまい込むと、可憐な少女の顔に歴戦の傭兵の凄みを宿し、自分の部下たちへと振り返った。

 

「さあ、ダンスの時間だ。みんな、私を見失うなよ!」

 

その合図とともに、俺たち第3詰所の合同作戦が幕を開けた。

 

 

俺は愛用のハンドガン『セラフィム』を構え、弾丸が飛び交う最前線へと駆け出した。

 

小柄な身体を活かして、銀の弾丸のように一直線に敵陣へ飛び込んでいく。

端から見れば自殺行為のような無茶な突撃に見えるだろうが、俺の視界にはサポートAIであるアレスが弾き出した最適な『戦術線』が、光のガイドとして鮮明に表示されている。

 

飛び交う銃弾を紙一重で躱し、スマートスタンモードに切り替えたセラフィムを構えたまま、敵が潜んでいるであろう塹壕へと躊躇いなく飛び込んだ。

 

着地と同時に銃口を振り抜き、トリガーを二度引く。

放たれたスタン弾が、塹壕内で待ち構えていた敵二人の急所に的確に命中し、彼らは悲鳴を上げる間もなく痙攣してその場に崩れ落ちた。

 

息をつく暇もなく顔を上げると、向こうの方で凄まじい爆音と地響きが上がった。

アイリスの操る機甲兵(カタクラフト)『アイアン・メイデン』が、背部のバーニアから猛烈な火を噴き上げながら、敵陣のど真ん中へと突進していくところだった。

 

巨大な装甲が立ち塞がる敵のパワーローダーと正面から激突し、アイアン・メイデンの右腕に装備された巨大なパイルバンカー――通称『串刺し公(ツェペシュ)』が火を噴いた。

 

凄まじい轟音とともに放たれた極太の鉄杭が、パワーローダーの分厚い装甲を紙切れのように貫き、一撃で鉄屑のスクラップへと変えてしまう。

 

『この子が暴れるには、少々手狭ですわ』

 

アイリスは通信越しに優雅な声色でそう言いながらも、容赦のない攻撃を続ける。

針の穴を通すような精密な射撃でガトリングガンが火を噴き、敵が立て籠もっていたトーチカをあっという間に蜂の巣にして吹き飛ばす。

さらに、半壊したトーチカの中に巨大なマニピュレーターを突っ込むと、中にいた銃撃手の襟首を掴み、そのまま空高く放り投げた。

相変わらず、アイアン・メイデンに乗った時のアイリスは、普段の控えめな姿からは想像もつかないほどの暴れっぷりを見せてくれる。

 

そのアイアン・メイデンの後方には物陰に隠れながら援護射撃を行っているルミナとネオンの姿が見える。

 

『ビャッコ。監視カメラをハッキングして確認したけど、その塹壕内にはもう敵の反応はないみたい。そのまま進んでいいわよ』

 

インカムから、キーボードを叩く音と共にネオンの冷静な声が聞こえてきた。

 

「了解」

『気をつけてね』

「そっちもね」

 

俺は短く言葉を返し、セラフィムを構え直した。

ここまで大規模な戦闘というのも久しぶりだったが、うちの小隊の連携は完璧だ。

それぞれの役割をこなし、互いの死角を完璧にカバーし合う。

 

俺は塹壕を進みながら、周囲の状況を確認した。

塹壕から出たところにある半壊した建物の陰に隠れて、こちらに銃を構える三人の賊の姿を、高性能アイが瞬時に捕捉する。

 

(さて、いくか――)

 

足に力を込め、一気に飛び出そうとした、その時だった。

 

「いっくよー!!」

 

戦場にはおよそ似つかわしくない、能天気といってもいいほど明るい声が響き渡った。

直後、ピンクのツインテールを揺らしながら、第2小隊のボルトが俺の横を猛スピードで駆け抜けていく。

 

彼女の左腕には、全身を覆い隠すほどの巨大な複合素材の盾『タワーシールド』が構えられていた。

敵が放つ無数の銃弾を、ボルトはステッカーの貼られた派手な盾で「あははっ、無駄無駄ぁ!」と笑い飛ばしながら強引に弾き返し、一直線に突撃していく。

 

そして、彼女は右手に提げていた、バズーカの極太の砲身に大鉈を強引に溶接したような凶悪で珍妙な武器――事前のデータリンクによると『バズーカ・マチェーテ』というらしい――を大きく振りかぶった。

 

「お邪魔しまーす!」

 

軽い挨拶とともに、ボルトは先ほど俺が捕捉していた三人の敵の横っ腹――分厚いコンクリートの壁に向かって、巨大な鉈を力任せに叩きつけた。

刃が壁を砕きながら深く食い込むと同時に、ボルトはタワーシールドのストッパーを地面に突き立て、自らの身体を強固に固定する。

 

直後、鉈の背に付いたバズーカのトリガーが引かれた。

 

鼓膜を破らんばかりの爆砕音。

ゼロ距離で放たれた砲撃は、コンクリートの壁ごと背後に隠れていた敵を文字通り吹き飛ばした。

舞い上がる土煙と瓦礫の雨の中で、ボルトはケロッとした顔をしている。

 

(……すっご)

 

あまりのゴリ押しと常識外れの破壊力に俺が呆気に取られていると、目が合ったボルトは無邪気にピースをして見せた。

いつもでかい装備を持っているなと思っていたが、可愛い顔に似合わないパワープレイだ。

 

だが、そんな能天気なボルトの背後、崩れた瓦礫の陰から、辛うじて生き残っていた敵の一人がよろよろと立ち上がり、無防備な彼女の背中に向かって銃口を向けた。

 

(危ない――!)

 

俺が警告を発し、援護のために飛び出そうとした途端。

 

シュンッ、という、空気を極限まで薄く切り裂くような静かで鋭い音が戦場に響いた。

 

次の瞬間、ボルトに銃口を向けていた敵の武器ごと腕が弾け飛び、男は悲鳴を上げてどさりと崩れ落ちた。

俺の高性能アイが発砲音の軌跡を逆算し、遥か後方の高所――工場の無骨なクレーンの上に陣取る人影を的確に捉える。

 

楽器を思わせる美しい意匠の狙撃銃、『レールスナイパー』を構えたサイトの姿だ。

彼女は遥か遠方から、電磁加速された弾丸を寸分の狂いもなく叩き込んだのだ。

しかも、スコープから目を離した彼女は、あろうことか持参した水筒から湯呑みにお茶を注ぎ、優雅に一口すすっている。

 

『ボルトさん。いくら頑丈やから言うて、油断大敵やよ?』

『あはは! サイトっち、ありがとっ!』

 

インカム越しに、はんなりとした口調のサイトと、底抜けに明るいボルトとのやり取りが聞こえてくる。

 

前線をド派手に荒らし回る暴れ馬と、その死角をはるか遠方から完璧にカバーする静かなる狙撃手。

まるで性格の違う水と油のように見えて、第2小隊の連携もまた、俺たちに負けず劣らず見事なものだった。

 

インカムから、後方で索敵を行っているストックの冷静な声が響き渡った。

 

『ポイントΣ。近くにいる人は気をつけてね。そっちにおじさまが行くよ』

 

それとほぼ同時に、太陽の光を反射して美しく輝く金髪が、土煙の舞う戦場を悠々と歩いて進んでいくのが見えた。

 

「さて。どいつが私のお相手かな?」

 

JKは散歩にでも出かけるような気軽さで呟いた。

周囲にはまだ多数の敵が潜んでいるというのに、彼女の足取りには微塵の警戒や気負いもない。

 

歩きながら、JKが自分の右太ももを軽く叩いた。

ガシャン、という小気味良い機械音と共に、太ももの装甲がスライドして展開し、内部に収納されていた漆黒のハンドガンが射出される。JKはそれを空中で見事にキャッチし、そのまま右手へと収めた。

 

ドン、ドン、ドンッ。

 

腹に響くような重い発砲音が連続して響き渡る。

ろくに狙いも定めていないように見えるカジュアルな射撃だが、その一発一発が正確に敵の急所を撃ち抜き、隠れていた賊たちが次々と崩れ落ちていく。

 

「さあ、どんどんいってみようか」

 

JKは楽しげに口角を上げると、今度は左の太ももを叩き、そこから射出されたロングバレルをハンドガンの銃口に手品のような手つきでガチャリと装着した。

さらに、腰や背中など、身体の各所に隠されたハッチが次々と展開していく。そこから飛び出したスコープや銃床などの拡張パーツを流れるような動作で組み上げていき、瞬く間に彼女の手には、重厚な存在感を放つ巨大なアサルトライフルが完成していた。

 

ズドドドドドドドドドッ!!

 

完成したライフルから、圧倒的な火力の弾幕が放たれる。

ただ撃ちまくるだけでなく、アサルトライフルとは思えないほどの精密さで敵のカバーごと粉砕していく。

全身の至る所に兵器を仕込み、状況に合わせてそれらを組み立てて戦場を蹂躙するその姿は、まさに歩く武器庫といった様子だ。

 

「くそがっ! 死ねぇ!」

 

その時、物陰に隠れていた賊の一人が、恐怖から逃れるようにしてJKに向かって飛び出してきた。

男の構えた拳銃から、至近距離で弾丸が放たれる。

 

「おいおい、勘弁してくれ。服に穴が空いたら、後でストックからどやされるのは私なんだ」

 

JKがわずかに首を傾けた直後、甲高い金属音が戦場に鳴り響いた。

男が放った弾丸は、JKの着ている革ジャンに着弾、その下にあるフルサイボーグのボディに直撃したが、文字通り傷一つ付けることなく明後日の方向へと弾き飛ばされていた。

 

フルサイボーグのボディは伊達ではない。

無論、特注のナノスキンで覆われた俺のボディであっても、拳銃弾程度なら無傷で切り抜けることはできるだろう。

だが、弾丸の衝撃を全く殺さず、あそこまで微動だにせずに受け止めるなんて真似は不可能だ。

 

JKは落ち着き払った動作でライフルを左手に持ち替えると、男から少し距離が離れているにも関わらず、空いた右手で何もない空間を軽く薙ぎ払うように振り抜いた。

 

「え、あ……?」

 

賊の男は、自分が何をされたのかすら理解していなかっただろう。

間の抜けた声を漏らした男の首が、不自然な角度でゆっくりと左右にずれたかと思うと、ゴロンと重い音を立てて地面に転がり落ちた。

切断面から鮮血が噴き出す中、赤い血で濡れた極細のワイヤーが光を反射しながら、シュルシュルとJKの右手首へと収納されていく。

 

(……なにが起こったの?)

【極小径のワイヤーブレードと推測されます。ただし、あの距離から敵の首だけを的確に切断できるのは、彼女本人の純粋な戦闘スキルでしょう】

 

俺の内心の驚きに、サポートAIであるアレスが即座に冷静な分析を返してきた。

 

(さすが普段大口を叩くだけはあるな。攻撃力・防御力ともに不足なしか)

 

あの圧倒的な制圧力を誇るJKに加えて、規格外の突撃力を持つボルト、後方から死神のように狙い撃つサイト、そして、それを装備面で支えているであろうストック。

第2小隊の実力は、俺の想像を遥かに超えていた。

 

(ともあれ、味方だと思えばこれほど頼もしい連中もいない。俺たちも、負けないように頑張らないとな)

 

俺は改めて気を引き締め直すと、さらに深い戦場へと駆け出していくのだった。

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