SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第80話 沈黙の門番

硝煙と焦げた臭いが、重苦しい空気にへばりついている。

つい先程まで飛び交っていた怒号と銃声は止み、代わりに赤色灯の瞬きと、重々しいサイレンの音が工業地帯を支配していた。

 

鎮圧された現場は、まさに凄惨の一言だった。

要塞化されていた工場は半壊し、至る所に瓦礫と薬莢が散乱している。

武装蜂起を企てた賊たちは後ろ手に拘束され、うなだれた様子で治安維持部隊の大型輸送車へと次々に押し込まれていく。

中には自力で歩けない者や、物言わぬ肉塊となってしまった者もおり、それは治安維持部隊側とて例外ではない。

担架で運ばれていく血まみれの隊員たちの姿を見るたび、俺は少しだけ胃が締め付けられるような感覚を覚えた。

 

だが、幸いなことに俺たち第3詰所の合同部隊は、第1小隊、第2小隊ともに目立った負傷もなく、ほぼ無傷でこの修羅場を生き残ることができていた。

 

「ふぅ……」

 

俺は大きく息を吐き出し、張り詰めていた緊張の糸を少しだけ緩める。

 

「お疲れ様。大活躍だったね、JK」

「そういう君も、まあまあの活躍だったみたいだな。ビャッコ」

 

歩み寄ってきたJKと、短く言葉を交わす。

相変わらず口の端にシニカルな笑みを浮かべているが、その声には確かな労いと、戦友としての敬意が込められているように感じた。

俺も、彼女の態度に見合った圧倒的な制圧力を目の当たりにして、素直に感心している。

 

だが、そんな静かな余韻をぶち壊すように、背後から姦しい声が響いてきた。

 

「それで今回の戦果やけど……トータルで見たら、うちら第2小隊の勝ちみたいやねぇ」

『お待ちになって。パワーローダーやトーチカなど、厄介な大物を沈めた数は私たちの方が上ですが?』

 

サイトがはんなりとした笑顔でマウントを取れば、アイアン・メイデンに乗ったアイリスが優雅な口調で反論する。

 

「でもでも! 倒した総数ならうちらの勝ちっしょ! だって、そっちのネオンっちはスコア0だし!」

「うっ……! で、でも、そっちのストックだって撃墜ゼロでしょ!?」

「ボクは後方支援と索敵の専門だよ。最前線で無駄撃ちしていただけのポンコツと、一緒にしないでほしいな」

「ほら、ネオンちゃんだって立派に情報支援はしてたし……。その、銃が当たってないのは事実だけど……」

「ルミナ! 庇うなら最後までフォローしてよ!」

 

ボルトの容赦ない煽りにネオンが涙目で反論し、ストックが冷酷な事実で追撃し、ルミナの天然のフォローが絶妙にネオンの心をえぐる。

死傷者も出ている凄惨な現場だというのに、うちの連中はどうしてこうもマイペースなのだろうか。

周囲で後片付けをしている他の部隊員たちが、ひそひそと「後処理手伝えよ……」と迷惑そうな顔をして横を通り過ぎていく。

 

ちなみに、出撃前にJKが持ちかけた「戦果を競う遊び」の結果としては、大物のポイントをどう換算するかにもよるが、概ね以下のような順位に落ち着いていた。

 

アイリス > JK > ボルト > ビャッコ > サイト >>> ルミナ >(越えられない壁)> ネオン = ストック

 

機甲兵という規格外の火力を振り回していたアイリスが頭一つ抜けているのは、まあ当然として。

あの重武装の賊たちを相手に正面から殴り合っていたJKの打撃力と突破力はかなりのものだったと思う。

逆に、ハンドガン一つでこの順位に食い込んでいる自分を、自分で褒めてやりたいくらいだ。

 

(まあ、今回はあくまで余興だ。この順位がお互いの絶対的な強さに直結するわけじゃないしな)

 

俺は内心で、誰にともなく言い訳をする。

そうそう気軽に使えるものではないが、俺だってセラフィムの『フォトンパイルモード』や、右腕の『フォボス・オーバードライブ』を使っていれば、もっと上の順位に食い込めたはずなのだ。

いや、別に負け惜しみを言っているわけではない。あくまで客観的な自己分析である。

 

(……でも、4位かぁ)

 

そんなことをつらつらと考えながら小さくため息をついていると、ふと、隣にいるJKの様子がおかしいことに気がついた。

 

彼女は難しい表情を浮かべながら、地面に転がっていた賊たちの武器を片手で掴み上げている。

 

「どうしたの? なにかあった?」

 

俺が尋ねると、JKは拾い上げた無骨なアサルトライフルを太陽の光に透かすように掲げた。

 

「この武器、他所(よそ)の企業統治区域から流れてきたものだな」

「よく分かるね」

 

俺は素直に感心して首を傾げた。

俺はこの世界の情勢や複雑な社会構造について、まだ完全に理解しきれているわけではない。

自分たちが今いるこの街が、『サクラデバイスコーポレーション』という巨大企業が統治する区域であることくらいは知っているが、他所の企業の武器だと言われてもピンとこなかった。

JKが言うには、サクラデバイス以外の巨大企業で作られた武器が、なぜかこの街の賊の手に渡っているということらしい。

 

「まあ、私も昔は色んなところで戦っていたからな」

 

JKはライフルの銃身についた細かなパーツの接合部を指先でなぞりながら、静かに続けた。

 

「一見すると出処が分からないように偽装されているが、これは大陸の方の企業の癖が残っている。しかも、スラムの工場で作られたような粗悪なコピー品じゃない。紛れもない正規品だ」

 

彼女の鋭い眼光が、連行されていく賊たちの背中を冷たく射抜いた。

 

「どうしてこんな代物が、あんなチンピラどもの手にあるのかね……」

 

確かに、ただの暴動を起こす市民が手にするには、先ほどの武装は些か大規模かつ高度すぎたように思う。

JKにとってこのミスマッチな事象は、ひどく気に入らないことのようだ。

彼女は手にしたライフルを瓦礫の上に放り投げると、インカムのスイッチを入れた。

 

「ストック。内部回線から安定防衛機構HSG支局の交易課のヨシタケ氏に繋いでくれる? 文句の一つでも入れておこう」

『わかりました』

 

通信の向こうで、ストックが即座に端末を操作する音が聞こえてくる。

俺は横でそのやり取りを聞きながら、ふと疑問に思った。

 

(安定防衛機構って、ちょいちょい話を聞くけどなんだっけ?)

【サクラデバイスコーポレーションにおいて、企業統治区域境界での貿易の管理と警備を行っている部門です】

 

俺の脳内での問いかけに、サポートAIのアレスが即座に淀みない音声で答えてくれる。

 

(つまり、税関と国境警備隊の役目みたいなもの?)

【肯定します】

 

なるほど。他所の区域から怪しい武器が流れ込んできているなら、まずは境界を管理している部門に文句を言うのは筋が通っている。

それにしても、と俺はJKの横顔を盗み見た。

一介の治安維持部隊の小隊長が、別部門である安定防衛機構の担当者に直接文句を言えるほどのパイプを持っているとは。

 

「うちのケー様はとっても顔が広いんだよー!」

 

俺が感心していると、いつの間にか横に来ていたボルトが、自慢げにその豊かな胸を張って言った。

 

「交易課の偉い人ともマブダチだし、なんか色々融通利かせてくれるんだよねー」

「へえ、それはすごいね」

 

俺は素直に頷いた。

そういう意味では、基本的に職場である詰所と寮を往復するだけの生活を送っている自分を振り返ると、交友範囲の狭さにちょっとしょんぼりしてしまう。

同僚以外で会話をする相手といえば、せいぜい同じ寮にいるヒューマロットの人と近所の子供くらいか。

 

俺が自分の狭い世界に少しだけ悲愁を感じている間にも、JKはストックから回線を繋がれた通信端末を耳に当てていた。

 

「ああ、治安維持部隊のJKだ。ヨシタケ氏に繋いでくれるか?」

 

彼女は親しげな、それでいてどこか凄みのある声で語りかけた。

しかし、次の瞬間にはその形のいい眉がピクリと動いた。

 

「……いない? いつ戻ってくる? わからない? どういうことだ――」

 

そこで言葉が途切れる。

JKは通話を一方的に切られた端末を耳から離し、憮然とした表情で画面を睨みつけた。

 

「切られちゃった?」

 

俺が尋ねると、JKはふうと息を吐き出して首を振った。

 

「いつも愛想がいいとは言えない連中だが、ここまで露骨にひどい対応は初めてだな。――少し待ってくれ。境界執行課の方の知人に繋ぐとしよう」

 

JKはそう言って、再び端末を操作し始めた。

 

(境界執行課……)

【安定防衛機構における実力行使部隊です。境界付近での密輸団の摘発や、不法侵入者の物理的な排除を担う、重武装の戦術部隊に該当します】

 

俺の疑問を察知したアレスが、視界の隅にテキストデータを表示して補足してくれる。

なるほど。物流を管理する交易課という事務方だけでなく、実働の武力部隊にまでパイプがあるのか。俺はJKの顔の広さに感心しながら、彼女の通話が終わるのを待った。

 

周囲では、治安維持部隊の隊員たちが慌ただしく動き回っている。

重機の残骸を撤去する金属音や、サイレンの音が絶え間なく響く中、JKだけが静かに端末を耳に当てていた。

しかし、何度か別の相手に発信を繰り返しているようだが、そのたびにJKの形のいい眉がだんだんと顰められていく。

 

何度目かの通話を切った後、彼女は苛立たしげに端末の画面を指先で弾いた。

 

「……おかしいな。だれにも繋がらないし、応答があったと思っても、どこも判を押したように『分からない』の一点張りだ」

 

普段の余裕ある態度からは珍しい、怪訝そうな呟き。

すると、インカムからストックの冷静な声が割り込んできた。

 

『少し気になったので、先ほどからおじさまがかけている回線の通信ログを解析してみました。暗号化プロトコルを辿りましたが、間違いなく、安定防衛機構のHSG支局のネットワークには繋がっているようです。……ですが』

 

カチャカチャとキーボードを叩く軽快な音が響いた後、ストックは微かな戸惑いを交えて結論を口にした。

 

『返ってきた音声データは、どれも微妙に声紋を変えて調整されていますが、すべて同一のAIプログラムを経由して生成、応答されているようです』

 

その報告を聞いて、JKは目を細め、呆れたように肩をすくめた。

 

「つまりはこういうことか。安定防衛機構の支局が、どういうわけか自動音声による応答しかしなくなっていると」

 

ここまで聞けば、いくらこの世界の常識に疎い俺でも異常事態だと分かる。

巨大企業が統治する区域の境界警備。他地区からの人や物の流入を管理する、いわば街の『門番』だ。

そこが機能不全に陥っているどころか、外部からの連絡に対してAIを使って巧妙に偽装工作を行っている。

先ほどの暴動といい、他所の企業から持ち込まれた大量の正規品の武器といい、きな臭いにもほどがある。

 

現場の暴動がただの市民の不満爆発ではなく、何者かによって意図的に武装させられた結果だとしたら。

 

俺が思考を巡らせていると、JKは手元の端末を懐にしまい込み、小さく息を吐いた。

 

「まあ、この事実を治安維持部隊の上層部にリークして、あとはお偉いさん同士で片付けてもらって終わり、でもいいんだが」

 

JKは瓦礫の山から視線を外し、遠くに見える巨大な壁――この企業統治区域を外界と隔てる境界線の方向へと目を向けた。

 

「せっかく乗りかかった船だ。このまま友達の顔でも見に行ったことにでもするか」

 

JKはこちらに向き直ると、静かに薄く微笑んだ。

 

「どうだいビャッコ? せっかくだから君にも、私の友達を紹介してあげようか?」

 

本来の任務である暴動の鎮圧は完了している。ここから先は完全に管轄外の越権行為であり、誰に命じられたわけでもない独自の調査だ。

俺は空を仰いだ。

この前、治安維持部隊の集会で独断専行をするなと怒られたばかりだ。

 

だが、目の前のJKは行く気満々のようだし、止めても無駄だろう。

それに、同僚が怪しい場所に突っ込もうとしているのを、見過ごすわけにもいかない。

 

俺はJKの顔を見返し、できるだけ無表情を装ったまま答えた。

 

「残業は気乗りしないけど、同僚のお手伝いなら(やぶさ)かでもないよ」

「ふっ……いい返事だ」

 

俺の答えを聞いて、JKは満足げに笑った。

 

「じゃあみんなで行くとするか!」

 

JKが声を張り上げると、少し離れた場所で待機していた第2小隊の面々が一斉にこちらを向いた。

 

「はーい! ケー様の行くところならどこまでも!」

「お供しますえ~」

「ボクももちろん行くよ」

 

相変わらずの調子で言い合う彼女たちの様子を見て、うちの小隊員たちも歩み寄ってきた。

 

『小隊長、次の作戦行動でしょうか? アイアン・メイデンの弾薬はまだ十分に余裕がありますわ』

「私も平気よ。索敵範囲の設定を更新しておくわね」

「安定防衛機構かー。ほかの機甲兵とか見れたりするかな?」

 

やる気に満ちたアイリス、手元の端末で素早く作業を始めるネオン、そして呑気に語るルミナ。

うちの子らだって十分に頼りになる。

 

「よし、じゃあみんなで安定防衛機構HSG支局へ見学ツアーに行くことにしようか」

 

JKの言葉に全員が頷く。

 

完全に日が落ち、ネオンサインと赤色灯が入り交じる夜の工業地帯。

重装甲の輸送車に再び乗り込み、俺たちは巨大な企業統治区域の境界――不気味な沈黙を保つ安定防衛機構の拠点に向けて、エンジンを唸らせた。

 

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