SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
『おじさま、前方に道を作るよ』
「ああ、花道の準備ありがとう」
通信機から響くストックの声に合わせ、JKが夜闇の中でその美しい金髪を揺らし、目に見えない死線をなぞるようにジグザグに駆け抜けていく。
アイリスとボルトとサイトが連携してこじ開けた、敵の弾幕と意識の僅かな隙間。
それが彼女にははっきりと見えているかのような、無駄のない動きだった。
荒涼とした砂漠を蹴り、瓦礫を飛び越えるその迷いない足取りは歴戦の兵士そのもので、素直にかっこいいなと思う。
【目的地、敵のランドトレイン。距離552M。ルートガイドを表示します。なお、現地の状況によりルートは細かく変わりますのでご注意してお進みください】
「こんな物騒なナビある?」
視界に次々と明滅する赤い警告サインと、アレスが脳内に描画する極細の安全ルート。
俺は反射神経にものを言わせて不格好に砂地を蹴るだけだ。
JKのあのカッコよさを十分の一でいいから分けてほしいと思うのは贅沢だろうか。
四方八方から飛んでくる銃弾のうち、避けきれない数発をサイバネ化した右手で強引に弾き飛ばしながら、俺は深いため息をついた。
サクラデバイスコーポレーションの境界線を越えた外の世界は、砂地と風化したコンクリートの残骸がどこまでも続く、荒れ果てた地獄だ。
お世辞にも走りやすい環境とは言えない。
だが、そんな不安定な足場だからか、あるいは背負っている質量の違いか。
体重の軽い俺の方がどうやらJKよりも足が速かったらしく、すぐに彼女の背中に追いつき、ピッタリと張り付くようにして走る。
そんな俺の様子を横目でチラリと見たJKが、呆れたような声を上げた。
「そんなに速いなら私の前を走ってくれて構わないんだよ?」
「いえ、先輩に活躍の場は譲ります」
「詰所の中では君の方が先輩だろ?」
「じゃあ人生の先輩に道を譲るということで。――まだ五歳の若輩ですから」
「五歳とは思えない口ぶりだけどね。……レディーを庇おうとかないのかい?」
「冗談。私より防弾性能高いじゃないですか」
「君だって銃弾弾いていただろ!」
飛び交う曳光弾の嵐の中でそんな軽口を叩きあいながら、短くも濃いデス・マーチを駆け抜ける。
やがて、猛烈な熱気と地鳴りのような重低音が全身を包み込み、目的の巨獣が目前に迫った。
ランドトレイン。その名のとおり、線路がない陸地を走る超重量級の装甲列車だ。
旧世紀の遺物である貨物列車をふたまわりほど巨大化させ、全身を分厚い鋼鉄の増加装甲で覆い尽くしたような無骨なシルエット。
荒涼とした砂漠や瓦礫の山を走破するため、足回りは鉄の車輪ではなく、複数の独立した巨大な無限軌道に換装されている。
エンジンの排熱が周囲の空気を陽炎のように歪ませており、連結された数両の貨車もまた、要塞のように堅牢な装甲で守られていた。
塗装の剥げた屋根や側面には身を隠すための銃眼が穿たれ、上部には威圧的な旋回機関銃座が据え付けられている。
幸いにして、最後尾の車両を睨んでいたその旋回機関銃は、サイトの的確な狙撃によってすでに沈黙していた。
俺とJKは排気ガスと砂塵が渦巻く中、最後方のタラップへと強引に取りつく。
剥き出しの装甲は火傷しそうなほど熱く、絶えず微振動を繰り返していた。
「切符はないから
タラップに身を隠しながら、JKは分厚い扉のロック部分に大型ハンドガンを押し当てた。
躊躇なく引き金が引かれる。
鼓膜を破るような発砲音と金属がひしゃげる音が響き、ロックを破壊された扉が半開きになった。
JKがその細い体でこじ開けるように中へ滑り込み、俺もそれに続くようにして薄暗い車両に転がり込む。
直後、外の銃撃戦の騒音を掻き消すほどの、腹の底を揺さぶる凄まじい地鳴りが轟いた。
巨大な無限軌道が砂漠を削り、金属の関節が軋みを上げる狂暴な振動。
それは、俺たちを乗せたままランドトレインが外の世界へと旅立つ、発車のベル替わりの咆哮だった。
『おじさま!』
『ビャッコ!』
鼓膜を打つ凄まじい駆動音に混じって、インカムからストックとネオンの焦るような声が重なるように飛び込んできた。
急激な加速による強烈なGが俺たちの体を容赦なく後方の隔壁へと叩きつける。
足元の分厚い鋼鉄が悲鳴のような軋み声を上げ、開け放たれたハッチの隙間から見える外の景色が、凄まじい速度で後ろへと吹っ飛んでいくのが見えた。
「ネオン、状況は?」
壁に背中を預けてどうにか立ち上がりながら、俺は冷静さを装って通信を返す。
『ランドトレインが完全に動き出したわ! 敵の増援に妨害されて、ビャッコとJK以外は誰一人として車両に取り付けてない!』
ネオンの声には明らかな焦燥が混じっていた。
ハッチの隙間から吹き込む砂塵の向こう側、徐々に遠ざかっていく防衛線の跡地には、無数のマズルフラッシュが瞬いている。俺たちを追おうとした仲間たちが、足止めを食らって釘付けにされている証拠だった。
「了解。ここから先はJKと二人で進むから、残った部隊の指揮とその場の対応は任せたよ」
『ちょっと待って! 完全に領域外に向かって加速してる! このままじゃサクラデバイスの通信網から外れて孤立するわよ、危険すぎるわ!』
必死に引き留めようとするネオンの叫び。
その背景でも、アイリスの『小隊長、飛び降りてください!』という悲痛な声が微かに聞こえた。
「そう言われても、もう乗っちゃったし。それに今回はJKもいるから平気だよ、多分」
『そんな適当な……! お願い、今ならまだ間に合うから……ザザッ……ビャッ、コ……聞こえ……ピーーーッ』
ネオンの悲痛な抗議は、唐突に耳障りなノイズに掻き消された。
境界線を越え、サクラデバイスのネットワーク網から完全に切断されたのだ。
ピーという無機質な電子音だけが、脳内で虚しく鳴り響いていた。
横目でJKの方を見ると、彼女はしばらくストックとなにか通信機越しに激しく言い合いをしていたようだが、やがて大げさなため息をつくと、自らインカムの電源を叩き切った。
「……話はまとまった?」
俺が尋ねると、JKは肩をすくめて乱れた金髪を手で梳いた。
「まとまったというか、爆散した感じだね。ストックのやつも心配性で困る。過保護なナビゲーターを持つと苦労するよ。そっちは?」
「似たようなものかな。……JKが降りるって言うなら、私も今すぐ一緒に飛び降りるけど」
「さて。これだけド派手な歓迎を受けておいて、手ぶらで帰るわけにはいかないだろう? 連中がこんなバカげた鉄くずに何を積んで逃げようとしているのか……中身を調べておかないと、気になって夜も眠れそうにないんでね」
「…………そうですか」
半ば希望を込めて聞いたつもりだった。
もし彼女が「割に合わない」と言ってくれれば、俺も迷わず飛び降りる言い訳ができたのだから。
しかし、この好戦的な同僚は一歩も引き下がるつもりはないらしい。
精巧なガラス細工のように整ったその顔に、肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべ、JKは愛用の大型ハンドガンのスライドをチャキリと引いた。
俺は列車の外への脱出を完全に諦め、改めて室内の構造を見回した。
客を乗せる快適な鉄道車両とは程遠い。ここは無機質で分厚い鋼鉄に囲まれた、薄暗く無骨な汎用貨物区画だった。
外の猛烈な砂嵐は遮断されたものの、巨大な無限軌道が荒野を削る絶え間ない振動と、金属同士が軋む重低音が容赦なくブーツの底から這い上がってくる。
空調設備などという気の利いたものはなく、奥から伝わってくるエンジンの熱気が肌にまとわりつく。
天井の防爆ランプが列車の揺れに合わせて不気味に明滅し、金網越しに血のような赤い光を巨大な空間に落としていた。
車内には、油まみれの予備パーツや無地の木箱、そして武装兵たちのものと思われる粗末な仮眠用ベッドが無造作に押し込まれている。
むせ返るような鉄錆と機械油の匂いに、安い煙草のヤニの臭いが混ざり合い、ここは獲物を飲み込んで消化を待つ巨大な鉄の胃袋なのだと嫌でも実感させられた。
「警戒を怠るな。まだここは、ほんの入り口に過ぎない」
JKが両手でハンドガンを構えたまま、鋭い視線で薄暗い通路の先を睨む。
先ほどの獰猛な笑みはすでに鳴りを潜め、その横顔は完全に冷徹な仕事人のそれへと切り替わっていた。
俺たちは視線だけで頷き合い、互いの死角をカバーしながら、息を潜めて車両の奥へと進む。
コンテナの陰から、赤いセンサー光を放つ自動警備ドローンがフヨフヨと姿を現した瞬間だった。
俺が銃を向けるよりも早く、JKが音もなく床を蹴る。
ドローンの銃口がこちらを向く直前、彼女の蹴り上げたブーツのつま先が正確にメインカメラを粉砕し、俺がすかさず落下する機体を空中でキャッチして激突音を殺した。
阿吽の呼吸。余計な言葉は一切必要ない。
連結部にある分厚い気密扉のロックをJKがその銃で
弾薬が山積みにされた危険物区画、泥にまみれた四輪駆動の装甲バギーが固定された車両など、前方に進むごとに積荷の性質がより暴力的で物々しいものへと変わっていった。
時折、巡回していた見張りの兵士と鉢合わせたが、悲鳴を上げる間すら与えなかった。
背後から忍び寄ったJKが兵士の口を塞ぎながら頸椎を鮮やかに極め、同時に俺がもう一人にスタンパルスを正確に撃ち込む。
敵を片付ける度に、この列車がただの貨物輸送ではなく、何か途方もない目的のために動いているという確信が強まっていく。
やがて、ひと際分厚く、厳重なロックが施された巨大な隔壁の前に辿り着いた。
フレームにはご丁寧に『第壱級危険物指定区画』というかすれた印字があり、見るからに他の扉とは規格が違っている。
扉の向こうからは、これまでとは違う、何か途方もなく巨大で重々しいものがひしめき合っているような、異様な圧迫感が漏れ出していた。
「ここがどうやら、目的のブツが眠る金庫室みたいだね」
「JK、開けられそう?」
尋ねながら、俺は分厚い扉をコンコンとノックした。
返ってくるのは、中身がぎっしりと詰まった無垢の鋼鉄特有の、低く鈍い音だけだ。
当然ながら、開く気配は微塵もない。
「私も鍵開けは素人だからね。ストックを連れてこられればよかったんだけど」
「さっきみたいに銃でこじ開けられないの?」
「今の音の反響だと、厚さ十センチは下らない、チタンと高圧縮セラミックの複合装甲だね。おまけに扉の四方からは、壁のフレームに向かって極太のシリンダーボルトが何本も撃ち込まれて完全に噛み合っている。銃じゃ絶対に開きそうにないな」
「爆弾とか持ってないの?」
「人をなんだと思ってるんだ。……まあ、あるけど」
「じゃあ」
「だけど、こんな密閉された室内で使ったら、私たちも無事じゃ済まないよ。最悪この車両ごとスクラップだ」
その言葉に俺は顔をしかめた。
JKが「さて、どうするか」と顎に手を当てて呟いている横で、俺は脳内でアレスに短く相談を持ち掛ける。
視界の端にグリーンで『可能』という文字が灯ったのを確認し、俺は扉の前に進み出た。
そんな俺を、JKが不思議そうな表情で見つめる。
「どうしたんだい? 君の銃でも開かないと思うよ。下手に跳弾したら危ないから無茶はしないでほしいけど――」
「ちょっと下がってて」
そう言って俺は腰を落とし、白銀の右腕を脱力してダラリと垂らした。
深く息を吸い込み、覚悟を決める。
【SYSTEM WARNING:『
「一瞬で終わらせるよ」
俺の言葉と共に、アレスの痛覚カットのフィルターを貫通して、右腕から中枢神経を直接焦がすような熱い痺れが走る。
装甲の隙間からシュウゥゥと高圧の蒸気が吹き出し、手首の周囲の空気が異常な排熱によって陽炎のように揺らめき始めた。
チリチリと空気が焦げる異臭。
直視できないほどに白く、そして禍々しい光華が右拳から溢れ出し、圧倒的な熱量を持った短い刃の形を成して顕現した。
俺は白銀の右腕を分厚い装甲に深々と突き立てた。
金属が激しく悲鳴を上げてドロドロに溶ける音。
そのまま一気に、光の刃を横へと振り抜く。さらに、その勢いを殺さずに手を上から斜め下へと振り下ろした。
ズバァァァァァンッ!!
圧倒的な質量を誇る複合装甲が、まるで熱したナイフに当てられたバターのように容易く斬り裂かれていく。
切断箇所から爆発的な火花と赤熱した金属の破片が吹き飛び、巨大な隔壁のど真ん中に、人が通れるほどの巨大な×印の切れ目が深く刻まれた。
【システム強制停止します。起動時間2秒8】
視界を真っ赤な警告ウィンドウが埋め尽くし、アレスの無機質な音声が脳内に響く。
それと同時に、先ほどまでの光が嘘のようにフッと消失し、白銀の腕は薄い煙を上げながら普段の色を取り戻した。
「……ふぅ。これでおしまい、っと」
強烈な反動で焼け焦げたように熱い肺から、白っぽい息を吐き出す。
視界の端に走るノイズを瞬きで散らしながら振り向くと、珍しく目を丸くしたJKがこちらを見ていた。
「…………驚いたな。それが君の奥の手かい?」
「うん。代償つきの技だから乱用はできないけど」
「言われてみれば、顔色がさっきより悪くなってるね。大丈夫かい?」
「これくらいならなんとか。さあ、早く行こう」
俺は穴をくぐり抜け、JKもそれに続くように身を屈めて赤熱した縁を避けながらそれに続いた。
そして、その先のコンテナ区画に広がる光景に、俺たちは同時に息を呑んで言葉をこぼした。
「……これは」
「やれやれ。連中、とんでもないものを盗もうとしてるな」
薄暗い赤色灯に照らされたその巨大な空間に鎮座していたのは――。