SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する!   作:宇宙のモナカ

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第83話 白銀の眠り姫

俺とJKが、ランドトレインの厳重に封鎖された区画――絶対隔壁をぶち破った先で発見した『お宝』は、決して金銀財宝の類ではなかった。

だが、連中がこの無法地帯を突っ切ってでも運び出したかった、とてつもなく重要な代物であることは一目で理解できた。

 

天井の防爆ランプが落とす不吉な赤い光。

それと混ざり合うようにして、巨大な空間の中央から、冷たくて神秘的な淡い青緑色の光に照らし出されるものがあった。

 

「お姫様がいるかもなんて言ってたけど、本当にいるとはねぇ」

「そんなこと言ってる場合?」

 

暗がりの中、呆れたように肩をすくめるJKの軽口に短く言い返しながら、俺は目を細めた。

空間の中央に鎮座していたのは、見上げるほど巨大な円筒形の培養ポッドだった。

極太のケーブルや無数のチューブが、列車の天井や床下から血管のようにポッドへと接続され、列車の走行音とは別の、規則的で低い生命維持装置の稼働音を響かせている。

そして、その分厚い硬質ガラスの向こう側。気泡が立ち上る半透明の冷却液の中に漂っていたのは、一人の小さな少女だった。

 

白く透き通るような素肌は一糸纏わぬ状態で、その細く幼い裸体を羊水のような液体の中にふわりと浮かばせている。

固く閉じられた瞳には長いまつ毛が影を落とし、その相貌は手付かずの可憐さをそのまま形にしたかのようだ。

首の後ろや脊髄のあたりには、生命維持のためのプラグがいくつか無骨に接続されているものの、液体の中でゆらゆらと揺らめく白銀の髪は、淡い光を反射してまるで天使の羽を思わせるほど美しい。

さらに目を引いたのは、その頭部の左右にピンと伸びた特徴的な耳だった。

作り物めいて尖ったその耳は、絵本の中の妖精そのもので、こんな血生臭い鉄の胃袋の中にあっては、極端に現実感を薄れさせる造形だった。

 

「あー、君の妹か何かかな?」

「そんなの聞いたことないはず、多分」

 

ポッドの表面に触れんばかりに顔を近づけたJKの言葉に、俺はどこか自信なく答えるしかなかった。

無理もない。自分と瓜二つの存在が、ホルマリン漬けの標本のように目の前に浮かんでいれば、誰だって気の利いた冗談の一つも出てこなくなるだろう。

 

そこにいたのは、おそらく年齢にして十歳ほどの、ヒューマロットの少女だった。

 

もちろん、髪の長さは違うし、俺のように右腕が白銀の義手にサイバネ化されているわけでもない。

だが、そんな細かな違いを差し引いても、それはまごうことなき『俺』――正確には、俺の身体とそっくりそのままの姿だった。

 

「しかしまあ、これで連中の目的ははっきりした訳だ」

 

JKが愛用の大型ハンドガンを下ろし、ポッドのコンソール画面に目を落としながら低く呟く。

 

「子供のヒューマロットが目的ってこと? そんなに重要?」

 

俺は素朴な疑問を口にした。

言っちゃなんだが、俺のイメージだとヒューマロットなんてものは、工場生産される、十把一絡げの使い捨ての存在だ。

そこらへんの道をうろうろしているし、犯罪に巻き込まれることもしばしば。

決して珍しくもなんともない労働資源。

そんなものを、わざわざ重武装のランドトレインを仕立て上げ、企業の絶対的な防衛線を突破するという大がかりな真似をしてまで持ち去る価値があるとは思えなかった。

 

そんな俺の疑問を察したのか、JKはコンソールから視線を外し、培養ポッドの淡い光に照らされた難しい顔のまま、こちらを振り返って答えた。

 

「ヒューマロットの君に説明するのもなんだけど、サクラデバイスコーポレーションのクローン人間――ヒューマロットは、他の企業からしたら特別なんだよ」

「そうなの?」

「私は他の企業の統治地区も見たことがあるからわかるけどね。サクラデバイスコーポレーションの現在の隆盛は、ヒューマロットにあると言っても過言ではない」

 

そこから手短に受けた説明は、この世界の歴史を知るうえで割と重要な話だった。

 

まずもって2155年現在、世界人口というのはかなりの減少傾向にあるらしい。

それは人類そのものが少子高齢化による影響を受けたこともあるが、21世紀の後半に大規模なパンデミックがあり、致死率が高い病原菌により多くの人が死んだことも原因だという。

その結果、国家という巨大なシステムを維持できない地域が続出し、疲弊した隙を狙う大国同士による世界大戦が勃発。

そこからなんやかんやあって――要するに泥沼の生存競争の果てに、世界を股にかける巨大企業(メガ・コーポ)が国家と立場を逆転し、武力と経済で世界を分割統治する時代になったんだそうな。

 

いくつかのメガ・コーポは、その減った人口規模に見合った体制を構築したり、労働力をAIとロボットに置き換えることで対応した。

しかし、それだけでは手が回らない労働活動は、クローン技術によって()()された新人類が担うという潮流が生まれた。

 

「しかし、クローン人間といったって意思と手足がある。そんなのを奴隷扱いすればどうなるかは、かつての歴史が証明してると思わないかい?」

「つまりは、反乱が起きたってこと?」

「その通り」

 

JKは培養ポッドのコンソールを操作しながら、淡々と語る。

その反乱のレベル感は、企業が支配する地域によって様々だったそうだ。

 

地域によっては、そのままクローン人間が人権を獲得し、ナチュラルの人間と同等の立場を持つに至った地域もある。

しかし、その場合はクローン生産自体が旧世紀の倫理観に縛られ、当初の目的であった「都合のいい労働力」としては中途半端な結果に終わった。

 

逆に、反乱が失敗に終わり、クローン人間が徹底的な弾圧を受けた地域もある。

そこでは反クローン人間運動が高まり、結局クローン生産自体がストップし、労働力不足で社会的に大ダメージが出たという。

 

「そこに翻ってみれば、我がサクラデバイスコーポレーションはうまくやっている。生産時点でヒューマロットには徹底的な教育を施し、反乱を防止する。そして意図的な見た目の差別化によるナチュラルの反感を抑え、『社会ランク』の構築によって見事に下層のガス抜きをしているんだ」

「……私って、ランク低いの?」

 

俺が尋ねると、JKは少しだけ気まずそうに、だが誤魔化すことなく事実を告げた。

 

「こういうと悪いが、最底辺だ。一番上が特権階級のクリアランス・ゴールド。次が正規労働者のシルバー。その下に下層地区でたむろするアイアンと続いて……最後に、単なる労働資源のヒューマロットとなる。それが君たちの立ち位置だ。別に私は、君のことを下に見たりはしてないがね」

 

まあ、労働資源と散々言われていたから、そこら辺のことは身をもって分かっていたけどね。

下層地区で露骨に差別(マーガリン)扱いされていたことを思い出した。

あれもまた、底辺の連中にさらに下を見せるための、一つのガス抜きだったのだろう。

その上でも反ヒューマロット団体みたいな犯罪組織は存在しているが、それでも暴動で社会が完全に崩壊しない程度には、サクラデバイスはうまくこの世界を回しているらしい。

 

「そこにきて、君の存在だ」

「私?」

「ヒューマロットの最大の弱点は、教育機構がしっかりしすぎて、人間に対する絶対的な服従と、治安維持のための加害能力のバランスを取るのが難しいことだった。自我を持たせれば反逆し、自我を奪えば複雑な戦闘任務をこなせない。しかし、君という存在はそのブレイクスルーになると思われたんだろうね」

「それって、そんなに重要?」

「重要だとも。君みたいに圧倒的な戦闘力と判断力を持ちながら、企業に決して逆らわない完璧な兵士が、工場で大量生産されて軍隊になったら……どれだけ恐ろしくて、どれだけ莫大な利益を生むか、想像もつかないのかい?」

 

従順で、人に逆らわない強力な戦闘ユニット。

確かに自分並みの戦闘力が消耗品として生産されるようになれば、他のメガ・コーポからすれば悪夢以外の何物でもないだろう。

ただし、自分がヒューマロットでありながら不満も持たずに治安維持活動に大人しく従事しているのは、単純に『俺という精神』がこの器に収まっているからに過ぎない。

完璧な洗脳技術が完成したなどと、そんな大それた勘違いを上層部に起こさせてしまったのだとしたら、正直なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 

ともあれ、目の前に浮かぶ少女は自分と同じ戦闘もこなせるヒューマロットという訳だろう。

自分と同じ子供の見た目なのはそれが都合がいい事情が生産上の過程であったということが。

 

俺がそんなことを思いながら少女を見ていると、さっきから説明しながら培養ポッドの周りをうろうろと調査していたJKが、チッと小さく舌打ちをして戻ってきた。

 

「駄目だな。このお姫様は、ここから動かせそうにない。生命維持のケーブルが複雑に絡みすぎている。素人が無理やり引っこ抜いて外に出せば、数分と持たずにショック死してしまうかもしれないな」

 

そう言いながら、苦々しげに培養ポッドに浮かぶ少女を睨みつけるJK。

外見的にはほぼ十歳程度に成長しきっているように見えるが、まだ自立して外気を吸える状態ではないのだろう。

 

「外の連中に引き渡す前に、ここでポッドごと破壊してしまった方が、企業(サクラデバイス)のためにはなるんだろうが――」

 

JKはハンドガンの銃口を分厚いガラスに向け、一度だけ俺の方を見た。

その視線には、冷徹なプロフェッショナルとしての判断と、自分と同じ姿をした無抵抗な存在を撃ち殺すことへの、微かな躊躇いや抵抗感が混じっていた。

こんな狂った世界で非情な仕事に就いていながら、人道的な視点もちゃんと持ち合わせている同僚に好感を抱きつつ、俺は真っ直ぐに答えた。

 

「できれば、この子は助けてあげたい」

 

正直、自分と同じヒューマロットだからという同族意識はあんまりない。

転生してから何ヶ月も経つのに、たまに鏡を見ると「誰だこの美少女は」と驚くことがあるくらい、自分の外見には未だに馴染めていないのだ。

とはいえ、企業によって勝手に生み出されたのに、企業の利益にならないからといってここで理不尽に殺されるのは、あまりにもあんまりだろう。

自分みたいに治安維持部隊の犬になるのが幸せかどうかはわからないが、この世界にも美味しいご飯や、ささやかだが楽しいこともあるということくらいは、人生の先輩として教えてやりたかった。

 

俺がそんなことをつらつらと考えていると、JKはハンドガンを下ろし、ふぅと短く息を吐いた。

 

「……了解。私としても、こんな可愛いお姫様を殺すのは気が乗らないからね。とはいえ、現実問題、ここからどうするか――」

 

JKがそう言いかけた直後だった。

鼓膜を劈くような凄まじい金属の摩擦音が鳴り響き、足元から突き上げるような強烈なブレーキの振動が、ランドトレイン全体を激しく揺さぶった。

疾走していた鉄の巨獣が、軋み声を上げながら急速にスピードを落としていくのが、体感としてハッキリとわかった。

 

「到着、みたいだね」

 

JKが油断なくハンドガンを構え直す。俺もすぐさま銃を抜こうとしたが、その瞬間、右腕に鉛をぶら下げたような強烈な倦怠感が走った。

先ほどの『フォボス・オーバードライブ』。わずか2.8秒とはいえ、リミッターを解除して細胞を異常燃焼させた代償は、確実に肉体を蝕んでいた。

息が乱れ、腕がひどく重い。

 

完全に列車が沈黙した直後、重々しい油圧の駆動音が響き渡った。

俺たちと培養ポッドがいるこの区画の、右側面の分厚い装甲壁が、まるで巨大な獣が口を開くように外側へとゆっくりと倒れ込んでいく。

外の冷たい空気と砂埃が一気に流れ込んできた。

俺とJKは弾かれたように背中合わせになり、開け放たれた外界へと銃口を向ける。

 

だが、そこに広がっていたのは絶望的な光景だった。

装甲壁が開ききったと同時に、無数の赤いレーザーサイトが暗闇から真っ直ぐに伸び、俺たちの胸や額、そして背後の培養ポッドにピタリと固定された。

見渡す限りの荒野。

そこを取り囲むようにして、完全武装の兵士たちと重機関銃を搭載した装甲車両が、三百六十度、一切の隙間なく俺たちに銃口を向けて包囲陣を敷いていた。

 

「……この状況を潜り抜ける秘密兵器とか、何かあったりする?」

 

互いの背中の体温を感じながら、俺は背後の同僚に尋ねた。

 

「自分一人で強引に逃げ出すだけならなんとかなるかもだけど、このお姫様を傷つけない自信がないな。そっちは?」

「私も全員一撃で倒す自信はないかな」

 

JKは周囲の包囲網と、無数の銃口をぐるりと見渡した後、小さく肩をすくめた。

 

「オーケイ。ひとまずここは降参しておこう。なあに、私の経験上、こういう連中はすぐに引き金を引いたりしない。私たちを生かして聞き出したいことがあるはずさ」

 

そう言うと、JKは愛用の大型ハンドガンを床に放り投げ、両手を頭の後ろで組んで見せた。

右腕の重さと、ポッドの中の少女の無垢な寝顔を天秤にかけ、俺も小さくため息をつく。

そしてJKに倣うように銃を捨て、ゆっくりと両手を挙げた。

 

「動くな! 少しでも妙な真似をすればハチの巣にするぞ!」

 

怒号と共に、土足の兵士たちが一斉に列車内へと雪崩れ込んでくる。

抵抗しないと分かると、彼らは俺とJKを乱暴に床へと引き倒し、その両腕を背中に回して強固な拘束具でキツく縛り上げた。

床の冷たい金属の感触を頬に感じながら、俺はただ、培養ポッドの中で眠り続ける白銀の少女を見つめていた。

 

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