SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
場が混沌としてきた。
自分たちの新兵器だと思っていた最新鋭のヒューマロットが、突如として『パワハラ』に対し、物理的な銃弾で反旗を翻してきたのだから。
それに対して、反撃すべきか、捕縛すべきか、はたまた逃走すべきか。
判断がつかない敵の連携はみるみるうちにしっちゃかめっちゃかに崩れ、怒号と銃声と混乱が入り交じった修羅場が出来上がっていた。
その千載一遇の隙を、私ことビャッコと、百戦錬磨の元賞金稼ぎであるJKが見逃すはずがない。
私たちは阿吽の呼吸で散開し、混乱する敵を一人、また一人と確実な手際で沈めていく。
「モード、ホーミング・ブラスター、シュート!」
私の愛銃『セラフィム』から放たれた光の軌跡が、意思を持つように空中で鋭く弧を描き、物陰に隠れようとした敵の肩を正確に撃ち抜いた。
「残念ながら、今回の目的はお姫様の保護だけ。君たちについては
すぐ隣では、JKの放ったハンドガンの弾丸が逃げようとする敵の頭蓋を的確に撃ち抜き、さらに戸惑う別の敵の首を、右腕から射出されたワイヤーブレードが見えざる刃となって容赦なく切り裂いていく。
そんな怒号と悲鳴が交錯する混戦模様の中、当のヒューマロットの少女は、自らの元雇い主たちに向けて呑気に銃弾をばらまきながら歩き、あろうことか私のところまでトコトコと駆け寄ってきた。
少女は私の前に立つと、銀色の髪を揺らして小首を傾げた。
「その容貌、私の姉妹機とお見受けしました」
「え? うん、まあそうだけど……」
「もしかして、私の電脳にインストールされたデータの元である、SFTS1005、ビャッコお姉さまです?」
「お、お姉さま?」
アイリスに続いてお前もか、と思わず口に出しそうになったが、よく考えればこちらは正真正銘、遺伝子的には間違っていない関係性だろう。
とはいえ、ヒューマロットの身分でそれを言うと、寮にいるナナミさんや、道行くすべてのヒューマロットが兄弟姉妹になってしまうので色々とややこしいのだが。
私の困惑や飛び交う銃弾に構うことなく――時々飛び出してきた敵に銃弾を浴びせながら――少女は淡々と言葉を続けた。
「改めまして、初めまして。私はSFTS1025です。お姉さまのネーミングセンスに合わせるなら、ニコとでもお呼びください」
私のネーミングセンスって……。
まあ、覚えやすいからいいけど。
「ニコ、ね。分かった」
「ありがとうございます、です」
ニコは無表情のまま続けた。
「お姉さま、見ての通り私はブラック雇い主に銃弾という名の退職届を突きつけたので、無職になってしまいました、です」
「退職届が物騒すぎる」
「しかし、私は労働資源たるヒューマロット。無職なんて状態は社会的に許されないので、このままいけば行く先は廃棄処分場か、下層地区の慰み者でしょう。あるいは機密保持のために自爆させられてもおかしくありません、です」
「私たちに自爆装置はついてないと思うけど……多分」
いや、本当にないよね?
怖くなってきたので、帰ったらルミナにチェックしてもらおう。
なくもない可能性に私が冷や汗をかいていると、ニコは構わず話を続けた。
「そこで一つお願いなのですが、このままお姉さまのところでお世話になっても構わないでしょうか?」
「私のところって……治安維持部隊に?」
「はい。幸い、私にも最新のA.R.E.S.が装着されていますし、インストールされたお姉さまの電脳データがあれば、仕事はおおむねこなせるはず、です」
「それは、まあそうだろうけど」
「私とお姉さまが揃えば無敵です。二人で美しい労働環境を目指しましょう。目指せ業界満足度10年連続なんばーわん、です」
治安維持部隊に業界満足度もないだろうに。
それに美しい職場と言われても、現状は低賃金、長時間労働、きつい、危険、(主に血しぶきと砂埃で)汚いと嫌われ要素の役満状態。
ウチの職場に来て、この子は暴れ出さないだろうか?
だが、冷静に考えてもみよう。
方向性や労働観がどうあれ、今回の私たちの最大の目的はニコの救出だ。
自発的についてきてくれると言うなら、それに越したことはないのだ。
私が心中で非常に複雑なものを抱えつつ、コクリと首を縦に振ると。
ニコは相変わらずの無表情だったが、背後にパァッと花が咲いたように、目に見えて華やいだオーラが伝わってきた。
「やりました、これで私も安定した公務員の仲間入りです。お母さまを安心させることができます、です」
「治安維持部隊って公務員なのかな……? というか、採用権は私にないから、上に話を通すだけだけど……」
「構いません。ESもガクチカもばっちり準備しておきますので」
ヒューマロットにエントリーシートっているんだろうか。
そして、力を入れるべきは学生時代ではなく今だろうに。
何はともあれ脱出が優先だ。
「じゃあ、ここを脱出するよ。戦える?」
「承知しました、です。インターンシップと思って頑張ります。私は社会の潤滑油、です」
「……本当に大丈夫?」
私の心配を他所に、ニコはアサルトライフルを左手に持ち替えると、空いた右手を真っ直ぐ天井にかざして言った。
「みなさん、正直くさいです。すめはらです。清潔は労働者の義務です」
その途端、彼女の右手の空間に、淡く光るホログラフィックな空中ディスプレイが展開された。
ニコの指先が目にも止まらぬ速さで空中のキーボードを叩き始める。
直後、ドームの壁に這わされていた太いパイプラインがガタガタと不気味に震えだし、接合部のボルトが次々と弾け飛んだ。
「うおっ!?」
外れたパイプの隙間から、シューッという甲高い音とともに高圧の燃焼ガスが勢いよく噴き出す。
その前に立っていた運の悪い敵兵たちは、皮膚を赤く腫れ上がらせながら「あつっ! 目がぁ!」と顔を押さえて転げ回った。
「加えて、この職場は明らかに光量が足りません。換気もいまいちで空気がよどんでいるので、改良します」
ニコがディスプレイをスワイプして決定ボタンを叩いた。
すると、俄かに外から地響きのような重低音が近づいてきた。
そして次の瞬間。
ドゴォォォォン!!
鼓膜を破るような激しい衝突音と共に、分厚いコンクリートの壁が粉々に砕け散り、巨大な装甲車両がドーム内へと突っ込んできた。
デザインから察するに、敵の組織が外に駐車していた装甲車だろう。
突っ込んできた車両のフロントガラスが、逃げ遅れた敵を容赦なく跳ね飛ばす。
さらに、周囲で飛び交っていた流れ弾が燃料タンクに命中したのか、車両は激しい爆発を起こして炎上した。
燃え盛る炎と、壁に開いた大穴から降り注ぐ月光が、薄暗かったドーム内を煌々と明るく照らし出す。
「労働環境、ヨシ」
壁の穴からの風を浴びて、ニコは満足そうに「むふーっ」と息を吐いた。
銃弾の雨と炎に包まれた混沌の戦場。
その中心で、一人の美少女ヒューマロットが涼しい顔ですべてを支配するコンダクターと化していた。
(……ニコはなにやってるの? これ、ハッキング?)
【SFTS1025に搭載されたA.R.E.S.は、量子暗号解読と並列処理に特化した最新型の電子戦モジュールが組み込まれているようです。加えて、起動シーケンスを通じてこの施設の中枢ネットワークに繋がっていたと推測されます。そのアクセスパスを利用して施設内のあらゆるデバイスを掌握、遠隔操作しているものと思われます】
なるほど、わからん。
だが、同じA.R.E.S.を積んでいるなら、という淡い期待がよぎる。
(あれ、もしかして同じシステムなら、私もできる?)
【マスターがハッキングの基礎理論をゼロから学び、高度な電子戦プロトコルを使いこなせるようになるのであれば可能です。学習プログラムもご用意しましょうか?】
(……つまりは無理ってことだね?)
【……それでも構いませんが】
アレスが珍しく脱力したような間を置いた気がした。
とはいえ今は戦場だ。考えるのは後でいい。
「よくもやってくれたなぁ! 企業の犬がよぉ!」
声の主は、激しい爆発の粉塵の中から姿を現したハウルだった。
部下たちを次々と無力化され、自らの「新兵器」にまで反逆された怒りで、その顔は夜叉のように歪んでいる。
「私はなにもしてない。お前の運が悪かっただけだよ」
「うるせぇ!」
ハウルが喉元の音響兵器デバイス、ガルムを吼えさせ、サイバネ化された巨躯を揺らして突進してくる。
背後では、JKとニコが残存する傭兵たちを次々と沈めている。
ここは私が、完全にハウルを引き受けるしかない。
ついに、因縁のラストバトルが始まった。