SF世界にTS転生した俺は治安維持部隊を全力で社畜する! 作:宇宙のモナカ
「ビャッコとお風呂に入れると聞いて!」
「小隊長! お待たせしました!」
そんな声と共に公衆浴場に飛び込んできたネオンとアイリスは汗だくになっていた。
ここまで全速力で走ってきたかのようだった。
いや、アイリスの方はそこまででもないか。
「私はアイアン・メイデンで来たので」
「それ外に置いておいて大丈夫なの?」
「ちゃんと駐車場に停めてますから大丈夫ですよ。勝手にハッチ触ったらマイクロミサイルを打ち上げて知らせるようになっているから防犯上も問題ありません」
「それ新たな問題を生んでるような……」
そんな会話をしてみるが、別の問題が発生したことに私は頭を抱えることしきりだった。
仕事の前にお風呂に入って綺麗にしておこうと思ったら、いつの間にかニコに公衆浴場まで引きずられてきて、あれよあれよという間に第1小隊メンバーである部下が揃ってしまった。
「いやー早かったね二人とも」
「ルミナ、よく知らせてくれたわね。さすが幼馴染。頼りになるわ」
「ルミナさん、今度アイアン・メイデンを好きに整備していいですよ」
「二人とも目がバッキバキになってて怖いんだけど。感謝してくれるのは嬉しいけど、ビャッコちゃんに何する気なの?」
隅っこの方でなんかルミナ、ネオン、アイリスの3人がぼそぼそと会話しながら相談している。
3人とも同僚や上司とお風呂入るの嫌じゃないんだろうか?
それとも22世紀ではこれが普通なんだろうか?
分からない。何も分からない。
そんな感じで内心頭を抱えていると、ニコがちょこちょこと3人の方に近づいて行った。
「ビャッコお姉さまの妹のニコです。改めまして、どうぞよろしくお願いします、です」
そう言ってペコリと頭を下げるニコ。
こういうところが如才ないというか。
そんなに饒舌でもなさそうなのにコミュ強の気配がする。
「そう、よろしく」
そう言って複雑そうな顔でニコを見下ろすネオン。
「うう、お姉さまと呼ぶポジションを取られてしまいました……」
としょんぼりしながら言うアイリス。
いや、そのポジションを君に与えたことはないが。
「じゃあ初対面も終えたことだし、私はこの辺で失礼するね」
恙なく挨拶を終えたところで、私はそっと出口に向かおうとして――。
「さっきからどこへ行こうとしているのです?」
「ひっ、は、離してほしい、ニコ」
あっけなくニコに行く手を阻まれてしまうのだった。
「ビャッコはさっきからなにやってるのよ」
「お姉さまはどうもお風呂がキライみたいなのです。さっきから逃げようとしてるのです」
「あら、駄目よビャッコ、子供みたいなことを言ったら」
「別にお風呂が嫌いなわけではなくて、皆と入るのが恥ずかしいだけで……」
「女同士じゃない。気にする必要ないわ」
そう言って私は4人がかりでずるずると脱衣所に引きずられるのだった。
もう逃げ場や救いはないようです。南無三。
◆
「こうやって見ると、ビャッコの体は細かい傷が多いわね……」
そう言いながら、ネオンが私の上着を脱がせながらボソッと耳元で呟く。
ナノスキンアーマーにしてからそうそう傷つかないようになっているものの、先日の戦いでできた傷や内出血がまだ薄っすらと残っているのを見たのだろう。
「そ、そうかな? ちゃんと治療はしてもらってるけど」
「もしかして、お風呂が嫌なのはこの傷を見られたくなかったとか……?」
心配そうな表情で言うネオンに対して、そんなことを気にしたことはなかったものの、違うと否定すれば『じゃあなんでだ』という話になりかねないので、これ幸いにと曖昧に頷いておくことにした。
すると、アイリスが私の胸に飛び込んできて言った。
「大丈夫です! 小隊長はきれいです! 舐めろと言われたら私、どこだって舐めれますから!」
「いや、何で舐めさせるのさ。しないよそんなこと」
「そうですか、残念ですぅ」
そう言いながらアイリスがいそいそと私のズボンを下すと、丁寧に畳み始めた。
「これが名誉の負傷というやつですか。労災申請はしていますか?」
「一応してるよ。毎回博士がタダで治療してくれるし、それとは別に手当は振り込まれてるみたい」
「それはよかったです。私も怪我することがあるかもしれないので、労働者の権利がヒューマロットにも保証されていると知って安心しました」
ニコがそう言いながら私のブラとショーツを手早く脱がせると、綺麗に小さくたたんでしまった。
ショーツってああやって畳むんだね。
いつも適当に丸めていたから知らなかったよ。
というか、無駄に洗練された連係プレーにより、私はいつの間にか一糸纏わぬ姿になっているではないか。
一体何が起きたの?
なんか運命とか大きいものに翻弄されたりした?
なんとなく恥ずかしくなって両手を使って胸と下半身を隠すようにしたのだが。
「あ、ついでに右手はサイバネ用の洗浄機あるからそっちに入れとくねー」
そう言ってルミナが端末を操作してロックを解除すると、私の右手をガチャリとあっさり取り外してしまった。
そして、外した右手は脱衣所の隅にあったコインランドリーのような『洗浄機(腕用)』と書かれたマシンの中に放り込む。
マシンの中が洗浄液で満たされ、微細な振動によって汚れを綺麗に取り除いていく仕組みのようだ。
綺麗にしてくれるのはいいが、私は残された左手でどちらを隠せばいいんだ……。
「ビャッコは初めてだから分からないと思うけど、隠すから恥ずかしくなるのよ?」
堂々と胸を張るネオンは、引き締まったしなやかな手足と、女性特有のふくよかな膨らみを惜しげもなく晒している。
張り詰めた白い柔肌と、すらりと伸びた手足が織りなす隙のない造形は、元男の理性を軽く焼き切るほど扇情的な大人のプロポーションだった。
「そうそう。折角の裸の付き合いなんだからさらけ出していかないと!」
一方のルミナはさらに無防備で、普段の分厚い作業着から解放された暴力的なまでの質量が、身振り手振りをするたびにたわわに揺れて圧倒的な存在感を主張してくる。
全く恥じらいのない柔らかな素肌と、重力に従ってこぼれ落ちそうな二つの果実は、もはや視線を逸らすことすら困難な引力を持っていた。
健康的に焼けた腕の小麦色の肌の部分と、服の下に隠れていたであろう白い肌の部分のコントラストが目にまぶしい。
「いえ、皆さんもう少し慎みを持ってもいいのでは……」
顔を真っ赤にしてタオルで必死に前を隠すアイリスだったが、布地をきつく身体に押し当てているせいで、かえって小ぶりながらも形の良い膨らみや、腰のくびれなどの瑞々しいラインをくっきりと浮き彫りにしてしまっている。
隠そうと身をよじることで逆にフェティシズムを激しく刺激するその姿は、ある意味で一番タチが悪い目の毒だった。
ちなみに、サイズ感はルミナ>>>ネオン>アイリスだ。
何がとは言わないが。
「何ですかお姉さま」
ちなみに私とニコは同じで、ほぼ『無』だ。
いや、ニコはニコで可愛いんだよ?
妖精が絵から抜け出してきたかのような可憐さがある。
だが、それはそのまま同じラインで製造されたであろう自分にも当てはまる訳で、普段の見慣れた自分の裸体と大差ない。
よって、何も思うところはなく、落ち着いて視線を向けられる。
「む、なんか失礼なことを思われてる気がするです」
「気のせいだよ」
私はそう言いながら浴場の方に向かって歩き出した。
「おお、これが未来の銭湯……」
「なにが未来なんです?」
「いや、別に気にしなくていい」
ニコが私の独り言に反応したため、私は慌てて首を振った。
そこは私の予想に反して、いい意味で『普通の銭湯』の姿を保っていた。
壁際にずらりと並んだ洗い場のカランや、一番奥に鎮座する巨大な湯船という基本的なレイアウトは、私の知る令和の公衆浴場と大して変わらない。
大きく違う点と言えば、正面の壁に描かれている富士山の絵が、時間経過で雲が流れ鳥が飛ぶ超高画質の3Dホログラムになっていることや、洗い場のシャワーヘッドがタッチパネル式の最新型マイクロナノバブル噴射機になっていることくらいだろうか。
空間にはリラックス効果を緻密に計算された合成ヒノキの香りが満ちており、ちゃぷちゃぷという小気味よいお湯の音が響いている。
もっと無機質な空間を覚悟していたのだが、ここはしっかり『人間のための憩いの場』として設計されているようだった。
「ほぉら、早く行くわよビャッコ。突っ立ってないで」
「ええ。まずはしっかりと身体の隅々まで洗浄します!」
「お姉さま、私が背中を流してさしあげます、です」
しかし、そんなノスタルジーと安心感に浸る余裕など、今の私にあるはずがなかった。
背後から迫り来る、極めて扇情的な三つの素肌と、無表情な妹のプレッシャー。
片手をもがれた哀れな一匹の獣は、まな板の上の鯉よろしく、四人に包囲されたまま洗い場へと連行されていくのだった。
「自分で洗えるから! ほんとに! 子供じゃないんだから!」
私は洗い場のプラスチック椅子の上で必死に抵抗を試みた。しかし、屈強な美少女たちの包囲網を、片手をもがれた非力な私が突破できるはずもない。
「なに言ってるの。さっきルミナに右腕を外されたばっかりじゃない。片手じゃ背中もまともに洗えないでしょ」
「そうです! しかも小隊長はいつも寮の『全自動サニタリー・ポッド』ばかり使っていると聞いています。自力で身体を隅々まで洗うこと自体、不慣れなはずです!」
「うっ……」
「さあ、お姉さま。お湯加減はいかがですか、です」
痛いところを突かれ、私はぐうの音も出ない。
結果として、後ろからニコとルミナが私の髪や肩周りを、左右からネオンとアイリスが私の腕や胴体を洗うという、四人掛かりの完全介護状態が完成してしまった。
(だめだ、視界が暴力すぎる……ッ!)
四方八方から迫る艶かしい肌の色。
泡立てられたスポンジが私の肌を滑るたび、彼女たちが身を乗り出してくる。
その度に私の視界には、水気を帯びて輝く柔肌や、不意に揺れる桜色のナニカが否応なしに飛び込んできて、メンタルの処理能力が完全にパンクしそうだった。
どこを見てもアウト。目を閉じても手の感触がヤバい。
(助けてアレス! 緊急事態! どこかに脱出ルートはないの!?)
私は最後の頼みの綱である脳内AIにヘルプ信号を送る。
【――生体スキャン完了。マスターの脳内において、快楽物質である『ドーパミン』および『オキシトシン』が大量に分泌されていることを確認。幸福は社員の義務です。もうこのままでいいのでは?】
(人には本音と建前と、守るべき尊厳というものがありまして!!)
無機質な相棒にまで見捨てられ、私の悲痛な叫びが脳内に木霊する。
そんな私の内心のパニックなど露知らず、背後から頭をわしゃわしゃと洗っていたルミナが口を開いた。
「あ、二人とも。ビャッコちゃんの身体を綺麗にしてくれるのはいいけど、右肩の義手マウント部の中にだけはあんまり泡が入らないようにしてねー? あとで拭き取るの面倒だから」
「ええ、もちろんよ」
「お任せください!」
真剣な目つきになったネオンとアイリスの手が、スポンジを握り直して容赦なく私の身体をわっしゃわっしゃと擦り上げる。
手加減のない、けれど決して乱暴ではない絶妙な力加減。
それがナノスキンアーマーで覆われているとはいえ、敏感なままの私の素肌を刺激して――。
「っ……あ、んっ……!」
不意に、自分の口から信じられないほど甘い声が漏れ、身体がビクンと大きく震えてしまった。
しまった、と息を呑んだ時にはもう遅い。
一瞬、私を洗っていたネオンとアイリスの手がピタリと止まる。
恐る恐る視線を上げると、二人は顔を見合わせ――カッと瞳に恐ろしい捕食者のような光を宿し、すぐさま先ほどの倍の速度で手を動かし始めたのだ。
「ちょ、ちょっと! 早い! ストップ!」
「小隊長! 汚れを完璧に落とすための必要な摩擦です! さあ!」
「そうよビャッコ、綺麗になるためなんだから我慢しなさい! あっ、ニコ、ちょっとそこ代わって! 私が耳の裏も洗ってあげるから!」
「お姉さまの敏感な箇所の洗浄は、妹である私の管轄、です」
かくして未来の公衆浴場には、私の情けない悲鳴と大量の泡が虚しく弾け続けるのだった。
「ひどい目にあった……」
私は大きな湯船の隅っこに陣取り、水面に鼻先まで沈めながらブクブクと恨み言を吐き出した。
「あはは、でも隅々まできれいになってよかったじゃん」
「ええ、そうよ」
「またいつでも私たちが洗いますよ」
悪びれる様子もなくルミナが笑い、妙につやつやとした顔のネオンとアイリスもにっこりと微笑む。
上司の体を洗うことの何がそんなに楽しかったのか。
もし自分なら上司の背中流せと言われたら普通に嫌なのに。
もしかして日頃の鬱憤を晴らしたかったのかと勘繰りたくなる。
「どうですか。お姉さま、これが文化的な入浴というものです」
そんなこちらの不満をよそに、頭の上に綺麗に折り畳んだタオルを乗せたニコが、隣で自慢げにふんすっと胸を張った。
「なんで最近生まれたばかりのニコのほうが先輩面なのさ……」
私はジト目で妹を睨みつつも、大きく深呼吸をして身体の力を抜いた。
文句は言いつつも、やっぱり広々としたお風呂というのは格別だ。
手足を思い切り伸ばして、温かいお湯がじんわりと身体の芯まで染み渡っていくのを感じる。
戦闘の疲労も、先ほどの洗い場でのパニックも、すべて湯気と一緒に溶けていくようだった。
「それにしても、案外お風呂って昔と変わってないんだね?」
極楽気分で気が緩んでいた私は、ぽろりとそんな感想を漏らしてしまった。
「昔?」
ネオンがピクリと反応し、不思議そうに首を傾げた。
しまった、と私は内心で冷や汗をかく。
「あー……、その、お風呂に来る前に、2025年ごろの公衆浴場の歴史データを参照してて……」
「なんでそんなマニアックなところを参照しているのよ」
ネオンは呆れたような声をあげているが、なんとかギリギリ誤魔化せたようだ。
私の苦しい言い訳をきっかけに、ルミナたちがお風呂談義を始めた。
「でも、21世紀のお風呂と今の違いってなんかあるっけ?」
「昔は蒸し風呂しかないんじゃなかったかしら?」
「それ、もっと昔の時代じゃない?」
「あ、私、歴史資料の映像で、猿とか大きいネズミみたいな動物がお風呂に入っているのを見たことがあります!」
アイリスが思い出したように手を挙げた。
「動物と混浴ってこと? すごいわね、昔の人は……」
「あとは、生の果物や本物の花をお風呂に浮かべたりしてたみたいですよ」
「ええっ、それ全部本物のやつ!? 今じゃ考えられないわね。合成香料じゃなくて本物の植物をお湯に入れるなんて、どれだけお金持ちの道楽なのよ」
カピバラ温泉やゆず湯のことなのだろうか。
合成食品やナノマシンが当たり前のこの時代から見ると、随分とワイルドで贅沢な文化に思えるらしい。
ちなみにカピバラ温泉に人間は混浴しないのだが、面倒くさいので一々訂正はしない。
「電気風呂とかサウナはあったのかしら」
「それは昔からあった、……みたいだよ」
「ふーん。じゃあ、『メディカル・ナノフィッシュの湯』は?」
「なにそれ」
ネオンの口から出た謎の単語に、私は首を傾げた。
「医療用の微小なナノマシンがお湯に溶け込んでて、浸かるだけで毛穴の奥の汚れや古い角質を全部洗浄してくれるお風呂よ。あそこの青いお湯のやつ」
「へえ、そんなのが……って、ちょっと待って。それがあるなら、さっき洗い場でよってたかって私の身体を洗う意味、なくなかった?」
私がジト目で睨みつけると、ネオンはスッと綺麗に目を逸らした。
「………いいじゃない。手で直接洗うほうが、より人間味があって文化的な触れ合いになるんだから」
「ひどい……」
「まあまあ。あとは、『高濃度オキシジェン・リキッドの湯』は昔からあった?」
ルミナが話を逸らすように、別のお風呂を指さした。
「それは知らない。多分だけど」
「じゃあ、百聞は一見に如かずね。行ってみましょ。見たほうが早いわ」
「賛成です。はりーはりー、です」
ネオンとニコに促され、私たちはザバァとお湯から上がり、その謎の最新鋭風呂へと向かうのだった。