「その身のこなし、青白く輝く人造聖剣……貴様、聖王教会の『
鉄仮面のヤンは、警戒の声を上げた。
「いいえ。わたくしはご覧の通り。ヤバマーズの――アスタ様のために働く
「抜かせ。なぜ教会の戦術兵器が、地方の小競り合いに介入などする。そのような
問いに対して。
リュスは、凛と答えた。
「これは仮装でも欺瞞でもありません。わたくしは正真正銘、心からヤバマーズに仕える者であり……そして――」
それは迷いなく。
どこか深い安堵すら滲ませていて。
「これこそが、我が
「ゲホッ、ゴホッ……べ、別に、僕の趣味じゃないぞッ!?」
そして、あまりに聞き捨てならなかった。
僕は血が溢れる喉元を押さえながらも、思わずツッコミを入れる。
「そんな破廉恥なオーダーを、出した記憶は断じてない! これっぽっちもないからね!?」
僕の出血が悪化した。
リュスはさらに一歩、大きく間合いを詰める。
対する、鉄仮面のヤンも迎撃の構え。
「――魔剣錬成ッ!」
「浮遊する数多の魔剣を操る、変幻自在の多刀流剣術……といったところですね」
虚空から、禍々しくも魔剣が次々と生えそろう。
迸るエネルギー、紫電の稲妻。
背後、真横、頭上、さらには足元からすらも。
あらゆる死角を突いて、襲い来る剣の嵐。
常人であらば、抵抗する間もなく肉片へ変えられるであろう処刑絶技。
――だが。
「その剣筋……っ!? 俺の“次の一手”を知っているかのような――」
ヤンが初めて見せた動揺。
変幻自在な無数の刃、その軌道は――あまりにも的確に逸らされていた。
「ええ、知り
「なんだと!?」
「わたくし……
火花を散らし、激突する剣先がどれほど数を増そうとも。
リュスは、寸土たりとも退かない。
縦横無尽。剣戟の組曲が、奏で鳴いて拮抗す。
「そうして、今度こそ……わたくしが、あなたを細切れにする番なのです」
そればかりか。
リュスの剣は冴えに冴え、さらに加速を増し続けていく。
鉄仮面ヤンにとっては、初見の戦闘であっても。
死に戻りなる“回帰の異能”を有すリュスにとっては、なにもかもが既知と成り得る。
消えた時空の彼方。
身を切り刻まれた、苦痛、敗北、死。
屍を積み重ねた、修練の果ての技巧。人の身には為しえぬ剣技。
しかし、そんな壮絶な背景を知らぬ者から見れば――。
リュスには、あらゆる初見殺し。奇襲も暗殺術も通用しない。
ただただ理不尽、不条理の体現。
「――くっ!」
ヤンは紙一重、首筋を逸らす。
すると、聖剣が鉄仮面を掠めた。
「……そうか。種はわからんが、俺の技を知る術があるのか」
ヤンはようやく、情報面において凌駕されたと気付いたようだ。
「魔眼の類か? まあ、いいだろう。しかし、情報の優位は勝利を約束せんぞ」
「……きゃっ!?」
刃が、リュスの肩口を切り裂く。
続いて、地面から突き出た魔剣がロングスカートを裂き、白い太腿に鮮烈な朱を走らせた。
「お前の動きは、まるで“何百回”と繰り返したかのように正確だな。だが、人間の域を出ない」
「どう動いても……避けられない攻撃……?」
「ああ、そうだ。関節可動域、筋肉の収縮速度。人間の動きには物理的な限界がある――それこそが術理」
「……術理」
「動きを読む程度の敵ならば、稀にいるんだ。不思議なことにな。だが、それでもなお、読まれた先の、さらに限界を突けば対処可能だ」
間違いなく、リュスの動きは超人的で、最適化されている。
でも、ヤンの戦闘経験はさらにそれを上回っている!
十六もの魔剣に、サーベル剣術。
達人が繰り出す、そのすべてを躱し続けるなど現実の法則が許さない。
(十字砲火や爆撃と同じだ。このヤンって男は……敵の逃げ道を塞いで、巧みに追い込んでいく)
超高速の近接戦闘。
もはや、手を出す隙間すらない。今の僕では、足を引っ張るばかりだ。
「その通り、ですね。人間には限界がありますから。この身一つでは……どうしようもないことばかりです」
リュスは、さらに鋭く踏み込んだ。
「リュスッ!? やめろっ、やめてくれ!」
追撃の魔剣が、リュスの肩を、脇腹を、容赦なく肉を削いでいく。
「――ですが、それがどうしました! 無力に打ちひしがれては、ヤバマーズの女にはなれません!」
頬を刃が掠め、耳たぶが千切れ飛ぶ。
エプロンの肩紐が断たれ、胸元が赤く染まっていく。
血飛沫が、まるで紅い花びらのように散った。
同時に、傷口からは白い蒸気が立ち昇る。
「傷を負うことは、織り込み済みっ! メイドが身を汚すのを恐れるわけにはまいりません」
「『
傷を負った端から、肉が盛り上がり。
無理やり塞ぐように、癒着しようとしている。
「再生の熱量で自らを焼く気か、
「わたくしはもう焼かれています、焦がれています、狂っていますっ! だから、これでいいっ!
リュスの
それでも、
「リュス、もういい! それ以上は――」
僕は叫ぶ。
自分が“解釈違い”だと言ったあの
リュスが、“似合っていると。可愛い”と褒めて欲しい、といった服が。
今やズタズタに引き裂かれ、血の赤に染まっていく。
公爵令嬢として、清らかであるべき彼女が。
僕の
「アスタ様。……どうぞ、ご心配なく」
リュスは柔らかく微笑み。
「指が折れても、腕が折れても――わたくし、心は折りませんの」
振るわれるサーベルを、魔力の込めた“生身の左腕”で受ける。
グチャリ、と肉が貫かれる嫌な音。
「自暴自棄か? 自ら刺されるなど――」
「いいえ。今、これから減るのはあなたの腕の方です」
――凄絶なる微笑。
貫かれた腕から溢れる血が、青白い聖剣の刀身を伝い励起。
『
「ふふ。
「――バカなッ!?」
魔なる剣山に……綻びが生まれた。
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