ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第129話 オシャレに目覚めた、超ワルオヤジたち。頬染める。

 思いつきにしては、『魔物狩猟の成果給』は我ながらなかなか上手い制度だったと思う。

 ちゃんと無駄なく働かせた分だけ、私兵を食わせてる状態なんだから。

 

(正直、この都合のいいサイクルを崩すのは惜しいというか、なんというか……ねぇ?)

 

 ぶっちゃけると勿体ない。

 僕は、ちらりとヘイホーを見る。

 

 すると、ヘイホーはやはり一般論を述べた。

 

「必要な時だけ金を払うのと、衛兵やら従者として雇い続けるのとでは、財政に掛かる負担がまるで変わってきますね」

 

 返って来たのは、そんなもっともな言葉。

 

「ましてや現状、我が領地における新規事業の収支目途は、まるで立っていませんから」

「うーん、そうだよなあ……」

 

 つまり、だ。

 今この段階で、大所帯を丸ごと抱え込む度胸があるかと言われると……どうにも首を縦に振りづらいのが本音。

 

「――というわけだ、我が猟兵(シャスール)たちよ。その正式雇用の判断は、もう少し待ってくれないか? なにせ、うちはまだ景気が良くないからさぁ……」

 

 僕は苦笑を浮かべながらも、率直に猟兵(シャスール)に突き返す。

 しかし、連中も簡単には引く気はないらしい。

 

「けどよぉ、旦那様! 聞けば例の商談が上手くいったって話じゃありやせんか。ってことは、これから先も王都あたりからお偉い客人がワンサカ押しかけてくるってわけでしょう?」

「……なにが言いたいんだよ」

 

 オッサンたちは互いに顔を見合わせ、一斉に声を大にして切り出してきた。

 

「とくりゃあ、あの紋章鎧(リバリー)をバシッと着こなす護衛役が、絶対に必要でしょうや!」

「そうだそうだ、俺たちがいねえと格好がつかねえぞ~!」

「やっぱり、領主たる者。強そうな手勢を引き連れて、肩で風切って歩かねえとなあ。余所者にナメられちまいやすって!」

 

 おいおい、なんだなんだ。その妙に高いテンションは……。

 気圧される僕をよそに、眼帯の男がさらに一歩詰め寄ってくる。

 

「それとも、今後はあっしらの手はもういらん。用済みだと切り捨てるおつもりで?」

「いや、そりゃあ……商人たちを受け入れて、流通を強くするってなれば、まずは森を切り開かないと始まらないぞ。道も整備しなきゃだし、建築するための土地も欲しいし――」

 

 だから、なおさら初期投資がかさむし金の目途は立たん。

 そう言って、話を終わらせようとしたのだが。

 

「だったら、なおさらだ! どうせ開拓すんなら人足だけじゃなく、森の魔物を相手取るベテランの腕前が不可欠なんじゃないですかい?」

「……開拓開発をするなら、魔物対策は必須ってか」

「へへ、そういうことでさぁ! なのに、客人迎える時だけおめかしさせて、普段はそこらの野良の狩人扱いってのは……そりゃあ、ちょいと冷たすぎやしませんかねえ?」

 

 一理あった。

 

 要するにこいつらは、自分たちを都合の良い肉体労働者じゃなく、森の専門家として重用する気があるんなら、きちんとした扱いにしてくれと要求して来た。

 

「お前らに商才があったとは知らなかったな。意外と、売り込み方が上手い」

「へへ、あっしらは普段から商売してるもんで」

「おい。それ、うちの領法を犯してる話題じゃないよな?」

 

 堂々と密売経験を暴露してるんだったら、今すぐ口を閉じろ。

 さすがに処刑すんぞ。

 

「はあ。まさかとは思うけどさ……お前ら、あの一張羅が気に入ったとは言わないよな?」

「ええっ? あ、いやー……その、でへへ」

「なんだよ、その気持ち悪い反応は。……おい、まさか本当に?」

 

 頼むからやめてくれ。

 小汚いオヤジたちが、頬を染めて恥ずかしそうにする仕草なんて需要がないぞ。

 

「いや、旦那様。そりゃあね。“王都の騎士より強そうに見える”なんて褒められた日にゃ、男として悪い気はしねえってもんですぜ」

「ちなみに、僕は“地獄の番人に見間違うくらいだ”とも揶揄してやったんだが、そっちは都合よく忘れてやがるな?」

 

 このろくでなしのオッサンたち。

 なにをトチ狂ったのかサッパリわからんが、どうやらお揃いのド派手な御べべ(リバリー)を着こなす快感に目覚めてしまったらしい。

 

 リュスも大概だが、お前らまでそっちに目覚めるとはなあ。

 なにが琴線に触れたのやら。

 

「実は村の女からも、あの格好だと七割増し男前に見えたって大評判でして!」

「普段があまりに酷いからだろ……お前たちに関しては、せいぜい二割増しがいいところだよ」

「おおっ!? 元がとびきりのいい男だもんで、二割増しでも引っくり返るほどすげぇ男前になるってなもんだ!」

「調子乗んな」

 

 クソ、いかつい癖に少年のように目を輝かせやがって。

 

(小汚いオヤジが、ちょっと可愛く見えるじゃないか)

 

 そんな風に期待に満ちた顔をされたら、無下に断りづらい。

 

(それに聖騎士ロダンと交わした、探索を支援する約定もある。向こうもそろそろ、教会に成果を報告できないとマズいだろうな)

 

 本格的に事業を動かすとなれば……最初は赤字になったとしても、いつでも命令を下せる私兵を手元に常備したいのは確か。

 

 有事の際だけ、人を集めて来る。

 なんて綱渡りなやり方も、これまで老執事ゲロハルトがこなしていた職人芸だ。

 

 だが、それも今の状況を考えれば厳しくなってきている。

 

(何気にうちの爺さんも、とんでもなく貴重な人材だったんだよな。ゲロハルトが“集まれ”と言えば、一発で集合できたんだからさ。あの求心力は異常だろ)

 

 やれやれ仕方ない、か。

 僕はこれからの苦労を予想して、頭を掻きながら頷いた。

 

 先が見えない時より、見える時が一番めんどくさい。

 

「わかった! わかったよ、もうっ! ……お前ら全員、僕が面倒見てやる!」

「ちょ、ちょっとお待ちください!? 男爵閣下ぁっ!?」

 

 ヘイホーは慌てふためくが、猟兵(シャスール)らは大喜びだ。

 

「本当でございやすかっ、旦那様っ! さすがは我らが領主っ!」

「ただし! ……多少、給与が滞ったりしても絶対に怒るなよ。急な話なんだから」

「「「えええーーーっっ!!?」」」

「不満そうな声を上げるな! 僕だって、未だに不味いメシ食って我慢してるんだぞ!? うちの金庫番たちの了解も得ずに、これ以上話を進められるかっ! 追って沙汰するから暫し待て!」

 

 あーあ。もう、なんとかするしかない。

 

 ヘイホーが不満そうな目で見て来るが……。

 

「まあ、聞けよ。ヘイホー。森に手を加えたら、どんな魔物を刺激するかわかったもんじゃないんだよ。……僕も本調子じゃないし、いざって言う時に働いてくれる人間は必要だ」

「そうなんですかぁ? 勢いとかじゃなく?」

「勢いもあるけど、そこはマジでそうなの。うちの森はヤバい」

「……まあ、男爵閣下がそこまで仰るなら、実際そうなんでしょうけど」

「で、なるべく現金以外の支給でやりくりする方向で……ね?」

「……うーん、考えてはみますけど」

 

 これ、あとでリュスにも頭下げて、相談しなきゃな。

 本当にどうしようもなかったら、オノレに泣きつくという最終手段もある。(そして、叱られるダメ領主)

 

 森を切り開くための計画は、本格的に始まっていく。

 

 まず必要なのは、黒銀結晶(クロシュライト)を生産できる大規模工房。

 しかも、これは秘密を守れる特別な立地が必要だ。

 

 その上、生産コストを安価にするための技術的な方法も考えないといけない。現状、採算が厳しいからな。

 材料を安定供給できる環境をいかに確保するか。

 

 さらに、領地に倉庫を建てたり、外部の人間を滞在させる受け皿を用意したりと……ヤバマーズにとっては難しい課題だらけだ。

 

「人手がたくさん欲しいんだけど……今時期は、畑仕事もそこそこ忙しいし。かといって、余所者を使うのは出来れば勘弁なんだよなあ」

 

 ただでさえ、閉鎖的なヤバマーズ領民が受け入れられない問題もあるが。

 それ以上に、わざわざ働く土地を求めてふらふらと流れてくる人間なんてのは、何かしらの訳ありの連中ばかりなのだから。




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