ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第135話 親方、空から人手がっ! ついでに、魔法の壺も!?(現実逃避)

「……一瞬でしたね」

「ああ。本当に、一瞬だったな」

 

 眼下に広がるのは、見事に瓦解した……軍団の成れの果て。

 

 ついさっきまで、威風堂々と槍を並べていた兵たちが。

 今は、恐れおののき地面に這いつくばっている。

 

「旦那様。こいつら、ぜんぜん手応えがなかったですぜ」

「ひぇぇええっ!? 命だけは、命だけはお助けをぉっ!」

 

 その中央。

 ヤバマーズ男爵家の紋章色(リバリー)――鮮血の赤と無垢なる純白――に身を包んだ猟兵(シャスール)たちが、一糸乱れぬ統制で獲物を包囲。

 

 彼らにとって、これこそが“新生ヤバマーズ私兵団”としての輝かしい初陣。

 

 その記念すべき捕縛対象は、あろうことか隣領を治める領主一族とその私兵たち。

 ……って、なんでやねん。

 

「まあ、なんだ。相手が悪すぎたとしか言いようがないな。……皆、ご苦労だった」

 

 僕は首の包帯をさすりながら、力なく笑う。

 

「はぁ……。なんでこう、僕の人生には次から次へと面倒事が全力疾走してくるんだろうね?」

 

 隣に立つリュスが、真剣な面持ちで考えこむと淡々と告げた。

 

「日頃の行い……ではないでしょうか」

「え、僕、そんなに素行悪いかなっ!? むしろ、いつも被害者側じゃない!?」

 

 さて。

 なぜ、僕がこんな大捕り物を演じる羽目になったのか。

 時計の針を、ほんの数日ほど巻き戻すとしよう。

 

 

***

 

 

「……あの、アスタ先輩。ハッキリさせておきたいんすけど」

「なんだよ、改まって」

「うち、技師であって大工じゃないんすよ」

 

 前線拠点、および工房『黄金の冠(クロンヌ・ドール)』の建設に向けて。

 設計やら、材木の切り出しやらが始まったのだが。

 

 ジルがぷくーっと頬を膨らませ、不満の声を上げていた。

 

「設計ならまだしも……木を担いで地面を掘るなんて、うちの仕事じゃないっす!」

 

 動きやすそうな作業着は、すでにオガクズまみれ。

 自慢のポニーテールも萎れている。

 

「え、もしかしてジル……出来ないの?」

「は?」

「いや、ドワーフの技術者なら、てっきり家の一軒や二軒は鼻歌混じりに、パパっと建てられるもんだと思ってたから……期待しすぎちゃったかな?」

「で、出来な……っ、出来ないとは言ってないじゃないっすかッ!!」

「いや。別に出来ないもんは、素直に出来ないって言っていいんだぜ?」

「違うっすよ! うちは建築だって学んでるっす!ただっ、こんな――」

「ああ、わかったわかった。確かに、マクスウェル子爵家のご令息に無理なことはさせられないし」

「はぁああああっ!? 無理なことぉぉおっ!!?」

 

 いきなり、ブチギレるポニテ技師。

 

「なんで、いきなりキレてんだよ」

「いいっすか、アスタ先輩! ドワーフの工学美(アーツ)ってのはね、精密時計から巨大地下建築までカバーしてるんすよ! 木造の小屋ひとつ建てられないなんて思われたら、ドラン親方の名に傷がつくんすからねぇッ!」

「あー、つまり。小屋くらいならやれるけど、本格拠点はさすがに無理って話か。わかるよ、難易度高いもんな」

「……カッチーン」

「ん?」

「やってやりますよ、やってやりゃ文句ないんっすよねぇッ!!! ドワーフの意地、見せてやるっす!」

「おー、さすがジル。お前にならやれるぞー!」

 

 ちょろい。

 実にちょろいぞ、我が後輩。

 

「ふっふっふっ。追い込んだり、無意味に論破したり、心を傷つけたくないとは言ったが……仲間を言いくるめないとは、僕はまったく言ってないぞ(悪い笑み)」

 

 そうして、ジルは屈強な男衆に混じり。

 真っ赤な顔して、ヤケクソ気味に建材を担ぎ始めた。

 

 さすが、マクスウェル子爵家の後継者。その腕っ節や技術は、際立っている。

 

(……なんだけど。如何せん一回りも二回りも華奢なもんだから、見ていてちょっとハラハラするな?)

 

 まあ、ジルのやる気が百点満点だとしても。

 根本的な問題は解決しない。

 

 そう、人手不足ってやつだ。

 

「もうすぐ夏の最初の収穫だし。次の作物に向けた土づくりも始まってる……夏は夏で、みんな忙しいんだよな」

 

 ヤバマーズの領民は今、農繁期に突入していた。

 

 前線拠点と、工房の設営。

 さらに、そこへ至るための物資輸送路の確保。

 

 これらすべてを、既存の領民と猟兵(シャスール)だけでこなすのは無理な話だった。

 

「でも、急ぎなんだよなあ。どこかにさぁ。メシさえ食わせれば、文句言わずにバリバリ働いてくれる。……そんな都合のいい人手、空から降って来ないかなあ……」

「その“食わせるメシ”も、ヤバマーズじゃ貴重品なんですけどねぇ?」

 

 僕がぼやけば、ヘイホーがツッコむ。

 それも、あまりに現実的なやつ。

 

「それはそう。なら、『麦が湧き出る魔法の壺』もセットでだな」

「男爵閣下、現実逃避が激しくなってますよ」

「世界は広いし、どこかにあるかもしれないじゃん」

 

 今すぐ開拓を進めなきゃならんが、どうしても“外”からの労働力が必要。

 だが、人手が空から降ってくるわけもなく。

 

 ……と思っていた矢先のことだ。

 

「だ、旦那様ッ! 大変でごぜえやす、隣領ドラクロワから団体客が押し寄せてきて来やがりやしたっ!」

 

 報告を聞いた時、思わず耳を疑った。

 

 ――ドラクロワ男爵領。

 

 かつてヤバマーズと水源を巡り、血で血を洗う小競り合いを演じてきた。

 いわば、不倶戴天の宿敵。

 

「なんであいつらが、わざわざこんな時期に……?」




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