ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第136話 他人の不幸は、蜜の味。っんなわけあるかッ! 面倒事の種だろ、バーカ!(後半)

 今時期は、向こうも忙しいはずだが……?

 

 不審に思いつつも、念のため兵を伴い、境界線まで出向いてみれば。

 そこにいたのは――今にも力尽きそうなほど、痩せこけた農奴たち。

 

 赤子や妊婦までいるし、男衆は既に負傷している者が多かった。

 

 困惑しながらも、僕は前に出て凄む。

 

「おい……。お前ら、何のつもりだ? また川を奪いに来たのか?」

 

 しかし、彼らは……敵意を見せるどころか、一斉に平伏した。

 

「お助けくだせぇ、アスタ男爵様ぁっ! 恐ろしい魔人すらも討ち倒したという、英雄様のご慈悲を……っ!」

「……事情を話せ。僕は、余所者の泣き言をダラダラ聞くほどヒマじゃない」

 

 話を聞けば。

 隣領でも不作が続き、そこそこ困窮。(それでも、うちよりマシ)

 

 ようやく夏の初収穫を迎えられると、村が希望に沸いていたその時。

 

 森から現れた狂暴な魔物が、畑の作物を荒らし始めたという。

 

 被害は甚大。

 税として農作物を納めれば、食いつなぐ食料が不足する見込みだった、と。

 

 え、なんだか……嫌な予感がする。

 

「そんなもん、領主の仕事だろうがよ。ドラクロワ男爵はどうした?」

「もちろん領主様には“どうかお救い下さい”と、オラたちは涙ながらに訴えましただ! なのに、あの御方は……っ!」

「まさか、助けてくれなかったってのか?」

「“こちらに余力はない、自力救済せよ”……そう言い捨てられたのでごぜえます」

 

 やっぱまさか――こいつら全員難民かよっ!!

 

 出たよ、地方領主の無茶ぶりのせいだ。

 いや、マジかよ……ドラクロワ男爵。

 

 横で聞いていた聖騎士ロダンは、みるみるうちに顔を真っ赤にさせた。

 

「なんと許せんッ! 全くもって度し難い! やはり辺境貴族などという人種は、農民の汗水たらして育てた作物を食い荒らすだけの、卑しい害獣(バーミン)ではないかッ!」

「はーい、どうどう~。おじちゃん、落ち着こうね~」

「ぶるるっ! 吾輩は馬ではないぞッ!」

「わかってるって。……馬じゃなくて、お馬さん係だもんな(ボソっ)」

 

 とりあえず、沸点の低い筋肉ダルマは置いておこう。

 

 だいたい、なんで当然のようについて来たんだよ。

 お前がいるだけで、教会の介入だのと余計にややこしくなるのがわからんのか? ……この天然聖騎士め。

 

「で、なんでまた……ドラクロワ男爵は、そんな極端な采配をしたんだ?」

「それが……近隣で、大規模な盗賊団の目撃情報もあったらしく……ドラクロワの騎士様たちはそっちの警戒で手一杯だそうでごぜえます」

「おん?」

「そんで、他の領も物々しくなっちまってるとかで。魔物退治なんぞに兵を動かせる状況じゃねえから、今は自分たちでなんとかしろって……」

 

 ああ、なるほどね。理解した。

 それ、うちで起きた“盗賊包囲事件”の余波だわ。(理解まで二秒)

 

 まず、ヤバマーズが襲われたと聞いて、周辺の領主たちは「次はうちの番か!?」と過剰に守りを固めた。

 

(まあ、そこまではいい。危機管理としてそこまで間違ってない。……でも、問題は、ここが不仲な僻地領主たちの吹き溜まりってところだな)

 

 きっと、お互いに「この騒ぎに乗じて、誰かが戦準備をしてるんじゃあるまいな?」なんて疑心暗鬼に陥ったんだろう。

 

 姿の見えない外敵と、長年の宿敵である隣人への恐怖。

 結果として、民の悲鳴が聞こえなくなるほど、上の方々は余裕がなくなっちまったってわけだ。

 

(そりゃいきなり百人規模の賊が動いたって聞けば、肝も冷えるだろう。だけどさぁ……領主として、破っちゃダメな一線があんだろ)

 

 世の中の基本身分ってやつを思い出してほしい。

 祈る人、戦う人、そして耕す人。

 

 戦う“貴族”が、耕す“農民”を守る。

 

(僕たちがこの契約と義務を全うするからこそ、支配者として君臨する不平等を正当化できるってのによ。……民に戦いを丸投げしてどうすんだ)

 

 農民たちを使うとしても、せめて陣頭指揮くらいは貴族が取らなきゃ。

 じゃなきゃ……ただの威張ってる木偶の坊だろうに。

 

「それでも……オラたちは代々受け継いできた故郷を捨てるなんて、これっぽちも浮かびませんでした」

「……で、どうしたんだ?」

「励ましあったんす。魔物を狩れば……肉は食えなくても、皮や牙を売って生活の足しになるかもって……そう思ったんす」

 

 決死の覚悟で、村の若者や腕利きたちが森へ入り……。

 そして、一人、また一人と犠牲が増えて。

 

 ――この短期間で立ち上がる力を、あっという間に失った。

 

「……さすがに村一番のまとめ役までもが、魔物の爪に倒れちまったら……もう、あそこには明日なんてありやしねえっ。だから……っ!」

 

 頼みの綱が絶たれて。

 心がポッキリ折れた彼らが縋ったのが……。

 

「だからって、なんでヤバマーズになるんだよ! 水源巡って、親の代から殺し合った仲じゃないか」

「そうでごぜえますがっ! ……これじゃあ税も払えねえし、負傷した男衆を手当てする薬代も払えねえ。仲間を見殺しに、飢え死にするの待つだけだべ」

「それは……わかるけどさぁ……」

「……正直、どこのお貴族様も助けてはくれねえとは思ってますだ」

 

 そうだよ。だからこそ、ヤバマーズに来るなよ。

 お前らなんか、僕だって面倒を見てやる理由がなにひとつねえよ。

 

 ……そう、思ったのに。

 

「だから……それならいっそ“民のためなら魔人すら倒す”という、勇敢なアスタ男爵様に縋るしかねえって、みんなで話し合って……」

「――なっ!?」

 

 さすがに、絶句した。

 そんな理由が、彼らなりの必然。

 

 新資源を見つけた、稀代の魔人殺し。

 オノレの策でバラ撒かれた盛りに盛った噂。

 

 それが廻り巡って……哀れなこいつらに幻覚を見せたってのか?

 

(そんなデタラメを頼りに、赤ん坊抱えて敵地に来た。バカだろ? そんな僕がいるなら、希望があるかもしれないって? ……なんだよ、それ)

 

 ひっっっどく、面倒なことになった。

 さすがに頭を抱える。

 

(おいおい。これってもしかして……僕のせいになるのか?)




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