ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第146話 誠にイカんです。イカした攻略法探し、イカがなものでしょうか?(前半)

「やはり、ヤバマーズの湖など怪物の巣だったではないか!」

「うっせえよ! あんなもん外れ値だ、外れ値!」

 

 聖騎士ロダンの文句に、言い返す。

 

 しかし、海魔がいくら凶悪さを誇ろうとも、所詮は水棲生物。

 陸まで追いかけて来るはずもなく、岸辺から離れればなんてことはない。

 

 あっさり安全は確保されたのだった。

 

(いや、逃げ出すのすら命がけだったけどな?)

 

 思い出すだけで背筋が凍るぞ、あんなん。

 触手を砂へ潜らせて、獲物の逃げ場を奪おうとするなんて、トリッキーな真似をする生物がいてたまるか。

 自然の神秘はき違えてんだろ。

 

「なんなんだよ、クラーケンって……。てか、アレって元々はどういう分類の生き物なんだ?」

 

 僕の知識にあるクラーケンとは、おとぎ話でしか知らない魔物だ。

 頭に浮かぶのは、船を沈めるバケモノの挿絵のみ。

 

 首を傾げる僕。

 すると、逃走劇で乱れた髪を直しながら、リュスが答えた。

 

「元もなにもありませんよ、アスタ様。どこからどう見ても、イカだったではありませんか」

「イカ? ……なんだよ、そのイカってのは」

「……まさか、ご存じないのですか?」

「聞いたことがあるような、気はする、が……?」

 

 リュスは信じられないとばかりに、視線を向けてくる。

 

「ええと、イカは海の生き物で……大きさの違いはあれど、わりとあのままの姿です」

「え……?」

「多数の触手と吸盤を持ち、墨を吐いて逃げる。そんな軟体生物ですよ」

「海の、生き物……? あれがあの姿まま……?」

 

 僕は信じられなかった。

 

 あんなヤバそうな見た目なのに、魔素で禍々しく変異したせいじゃないってこと!? サイズが違うだけ!?

 

「じゃっ……じゃあ、なにかよ!? 小型クラーケンみたいな生き物が、海にはうようよいるって――え、海って怖っ!?」

「うようよはいませんよ、わたくしが知る限りでは」

「なんだ、よかった……」

「漁網に引っかかる程度には、ありふれてますけど」

「いや、なら十分に怖いな!? ヤバマーズなんて目じゃないじゃん!」

「まさか、アスタ様。一度も、海をご覧になったことがない?」

「あるわけないだろ、そんな魔境への旅行経験! ナメんなよ、こちとらド田舎の貧乏貴族じゃ!」

 

 ふんす、と胸を張って貧乏自慢をする僕。

 しかし、リュスはさらに不可解そうにする。

 

「ですが、アスタ様。イカはご存じないのに、どうして魔物のクラーケンは瞬時に見分けられるのですか……?」

「え、そこ驚くことなの? クラーケンなら、たまに騎士物語とかの挿絵に出てくるじゃん」

 

 どうにも世間の貴族が持つ常識が、いまいちよくわからない。

 

(でも、内陸部に住んでたら、見たことないもんじゃね……? 少なくとも僕は、イカが活躍する感動巨編なんて読んだことないぞ)

 

 王都では、そういう文学が人気あんのかな……?

 なんか、いまいちやりとりがかみ合わない。

 

 そんな僕らを横目に、聖騎士ロダンは唸る。

 

「ムムゥ。いずれにしても、あのクラーケンをなんとかしなければ、湖の調査など出来まいな」

「そうだよ! アイツを倒さないと美味しいお魚が食べられないじゃん! 僕の漁業計画が!」

「貴公。こんな目に遭っても、まだ食い気が勝るのか……?」

 

 仲間たちが、一斉に呆れ果てる仕草。

 

 いやいや、食い扶持増えてんだから、食料確保は大事だろうがよ!!

 僕は、これでも真面目に領主してんだよ。(それはそれとして魚食べたい)

 

 結局、今は打つ手なし、ということでいったん帰還。

 

 しかし道中、気になることがあった。 

 誰に何度確認してみてもさっき湖畔で見かけた、いけ好かない男を“見ていない”と口を揃えて言うのだ。

 

(まさか、本当に連日の疲れが見せた幻覚だったのか? いや、でも、男が口にした警告は真実だったし。……よくわからんな?)

 

 これも、ヤバマーズの血が騒ぐというやつだったのだろうか。

 僕はたまに変に直感が働くからな、似たようなものかも。

 

 考え始めるときりがない。強引に、思考を切り替える。

 

 今、目の前にある確かな事実。

 それは僕たちの明るい未来のためには、乗り越えるべきヌメヌメとした障害が居座っている。

 

 ただ、その一点だけなのだから。

 

 

***

 

 

「はい、というわけで。誰かイカに詳しい人ー?」

 

 というわけで戻ってから、みんなを招集。

 今後の方針会議を開いてみたけど、誰も手を上げなかった。

 

「おいおい遠慮すんなって、ほらほら! ヘイヘイ、我こそはイカ博士なりって奴ぅっ!」

 

 囃し立てながら、一同を見渡すが……。

 依然として、静まり返った空気。気まずい。

 

「……って、マジかよ。本当に誰もいないのかっ!?」

 

 窓の外を眺めて、現実逃避してる奴もいれば。

 帳簿を読み返している奴もいるし。

 意味もなく、工具を弄んでいる奴までいた。

 

「お前らなあ、よそ見すんなよ。もうちょっとやる気出せってば! 緊急事態なんだぞ!」

「いや、そう言われてもねえ……」

 

 オノレがぼやき、みんなが顔を見合わせる。

 

「いくらドワーフの技術が最高でも、対クラーケン武器なんてないっすよ? 縁がないっすもん」

 

 ジルが両手を広げて、口を開いた。

 地下に住む種族だもんな、そりゃそうだ。

 

「なら、オノレ! 勿体ぶんなよ、お前ならなにか知ってんだろ」

「無茶言わないでくれるかな? 軟体動物なんて専門外だよ」

 

 なん……だと……ッ!?

 

「――上位貴族ってイカに詳しいんじゃないのかよっ!?」

「なんでそうなるんだい!?」

「だって、海に行ってそうじゃん!」

「海への旅行経験あっても、イカに縁があるわけじゃないよね!?」

 

 えー? でも、イカって言ったら、みんなわかったような顔してるじゃん。

 常識なんじゃないの?

 

「あ、あの、男爵閣下。ボクは何の話かさっぱりわかんないです」

「ヘイホー、お前はイカを知らないのか。よしっ、なら僕の側だな!」

「待ちたまえ、アスタ。話が脱線してる」

 

 そうだった、クラーケン対策会議がしたいんだった。




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