ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第147話 誠にイカんです。イカした攻略法探し、イカがなものでしょうか?(後半)

「とにかく、クラーケンの弱点が知りたいんだよ。なにか参考になる話はないのか?」

「参考になるかはわからないんだけどさ、アスタ。仮に、クラーケンが魔素で巨大変異したイカだとしてさ」

「うん」

「……意外と、淡水に生息するイカというのは聞いたことがないね」

「え、珍しいってことか?」

「いや、探せばそんな種もいるのかもしれないが。基本的に、肉体構造に合わないんじゃないのかな」

「なるほど。海に特化しているはずの生物……?」

 

 湖で、クラーケンが目撃された事例。

 さすがに、誰も聞いたことがないと言う。

 

 じゃあ、ますますなんでうちの湖にいるんだよって話である。嫌がらせかよ。

 

「そもそも僕は、海がよくわかんないんだよな。前は、デカい川みたいな感じなのかもと思ってたくらいで」

「今は?」

「デカい湖みたいな感じだと思ってる」

「解像度が一歩前進して、よかったね?」

「バカにすんなよ! 生まれて初めて、湖ってやつを見たからさぁ。ひそかに感動してたんだよ! 僕は!」

「でも、近づいたら化け物がいたんでしょ?」

「……そうなんだよ」

「最悪な思い出になったね」

 

 感動体験が、一瞬でパニックホラーになった。ひどすぎる。

 

「あーあ……イカとか最悪だよ、あんなの食えるわけないじゃん」

「いや、そもそも魔物は食べられないのが普通なんだよ。アスタ?」

「あっ、でも、オノレ。物は考えようじゃないか」

「……なにがだい?」

「綺麗なタンポポ畑が広がってて、すぐそばに美しい湖もあるわけじゃん? ……もう退治は諦めて、上手いこと宣伝してさ。『スリル満点! 幻の怪獣が見られる保養の名所』として売り出せないかなって!」

「「「どうあがいても無理だろ(です)」」」

 

 間髪入れずに、全員のハモった声で“無理”と一蹴。

 お前らってば、本当に僕に冷たいな!

 

 まあ、そんな冗談半分の与太話はさておきだ。

 僕は領主の仮面を被り、あえて断言。

 

「お遊びはここまでだ。クラーケンは討伐する――それがヤバマーズの次なる基本方針だ」

 

 自然と、場がピリリと引き締まる。

 今までのは、みんながバカを言いやすくするデモだった。

 

 ずっと真面目にやってても、良い案なんか出ない。

 トップがバカをやってみせて、初めて気軽に意見が出せる。

 

 ……今回はあまり効果がなさそうだったがな。まあ、次に生きるだろ。

 

「しかし当然、無策で挑む気もないぞ。あんな巨体に力任せに戦うなんて、自殺志願者のやることだからな」

「では、どのような策を用いますか?」

 

 リュスが尋ねてくる。

 

 僕は、腕組みをして思考する。

 いつもなら癖で動いてしまう自分に向き合うように。

 

「そう、そこが悩みどころだ。正直、僕はけっこうトライ&エラーが好きだ、失敗を重ねながら正解を見つけ出すのがな。……それがたまらなく最高にエキサイティングな瞬間なんだが」

「やっぱ変態っすね、先輩って」

 

 ジルの呆れ顔を、僕は「うるせえ」と一蹴。

 今は、茶々入れんなっての。

 

「だが、それは本来、余裕のある時の理屈なんだ。今の僕らには湖で何度も交戦し、いたずらに消耗する余裕なんてない。……そうだな、ヘイホー?」

「はい、男爵閣下。難民受け入れ、拠点建設、そして事業の拡大。あわわ、支出がどんどんかさんでいますねぇ……」

 

 ヘイホーの震え声に、僕は頷く。

 

 トライ&エラーは、努力と言えば聞こえはいい。

 だが、人材、時間、体力、資源をひたすら消費していく行為でもある。

 

 当たりが入ってるかわからんクジを引く。

 ……そんなの、ギャンブルと変わりないだろ。

 

「余裕があるなら、失敗もまた財産になる。だが、部下に無謀な賭けを強要する主君は、バカを通り越して害悪だ」

 

 僕はそんな不毛なギャンブルを勝ち抜いて、この席に座っているが。

 ……だからこそ、やらせたくない。

 

「第一、あの海魔には知性がある。僕らが情報を得ようとする以上に、アイツも学習するだろうな」

「……つまり、確実に仕留める案を練ると?」

「そうだ。だから――僕らには情報が足りない。それっぽい思いつきだけで、みんなを危険に晒すのは……最終手段だと思ってる」

 

 アイデアならあるさ、いくらでも出せる。

 

 でも、思い付きで、部下を殺したくない。

 情報を軽視する者は、人の上に立つ資格はないと思う。

 

「オノレ。お前の使い魔と人脈をフル稼働させて、情報を集めてくれ」

「具体的には、どんな?」

「クラーケンとの交戦記録……それも可能な限り詳細な奴だ」

「……たぶん、偶発的な遭遇戦記録が主になる。数は期待しないでくれるかな?」

「なら、イカの生態……軟体生物の研究をする風変わりな学者でもいればありがたいかな」

 

 オノレは天井を仰ぎ、困ったようなそぶりを見せる。

 

「イカの専門家? ……いるのかなあ、それはあまりに奇特すぎる」

「世の中広いんだから、どこかには居るだろ」

「いても、とうていお金にならない分野だ。……規模もたかが知れている」

「いいや、どこかには一生を捧げてイカの足を数えている狂人だっているはずさ」

「……本当にそう思うのかい?」

「ああ、僕がそういう生き方をしたいくらいだ。無理なら、過去の文献を遡って欲しい。神話でも詩歌でもいい」

 

 まずは、情報。

 それがなきゃ始まらない。

 

 デカい怪物ってのは、それだけで脅威。

 僕たちの使う剣なんて、奴からすれば皮膚を刺す針にすらならない。

 

「ジル。お前は、僕と黒銀(クロシュ)式スラリー燃料の生産ラインを動かす。商談で約束した以上、次に来るキャラバンには現物を用意する」

「ういっす、任せるっす」

「ついでに、クラーケンと戦えそうな武器も考えないとな。他のメンバーは通常業務をこなしつつ、前線設営と難民の受け入れへの配慮を――」

 

 指示を飛ばし、会議を締めようとしたその時。

 待ったをかける声が、凛と響く。

 

「――お待ちください、アスタ様」

 

 声の主は、リュスだった。

 

「クラーケンの情報を得る方法ならば、心当たりがございます」

「……どうやって?」

「わたくしの伝手を――ロザリス公国内に繋ぎを取ります。あの国は海の要衝ですから」

 

 一同の視線が、リュスに集まる。

 

 ロザリス公国。フルーレス公爵家の令嬢リュシエンヌのルーツ。

 彼女の曾祖母、リュディヴィーヌが愛し守ろうとした故郷。

 数代を経たとしても、協力は得られるのかもしれない。

 

 だが、それは――。

 

「却下だ」

「……アスタ様」

「ロザリスへ繋がりを持とうとする行為は、あまりに目立ちすぎる」

 

 リュスの居場所が、表舞台にバレる可能性が高まる。

 それはダメだ。

 

 聖王教会がどのような思惑で、彼女を祓魔女(エクソシスター)という名の消耗品に仕立て上げたのか。

 真相はまだ闇の中。

 

 そんな危うい状況で、僕らが外国と通じる動きを見せれば、どの勢力が牙を剥くか予想できない。

 

「僕らは今、手の届く範囲で解決策を探る。いいな?」

 

 有無を言わせぬ語気。

 僕はみんなの目を無視して、強引に解散させた。

 

 

***

 

 

「男爵閣下……少々よろしいでしょうか」

 

 会議室を出て、自室に戻ろうとした時。

 ヘイホーが引き留めた。

 

「なんだ、ヘイホー」

祓魔女(エクソシスター)リュス。……マダム・リュスのことです」

 

 ヘイホーの額に、うっすら汗が浮かんでいる。

 

 僕は、周囲に目配せをした。

 さすがに誰かに聞かれているとまずい。

 

「……続きを言ってみろ」

「もしかして、彼女は……いえ、あの御方は『断罪令嬢(シャティウーズ)』『鉄棘の乙女(レピーヌ・ドゥ・フェール)』と畏怖された公爵令嬢リュシエンヌ様ではありませんか?」




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