「燃料はまだ少量生産ですが、これは時間が解決する問題です」
「うむ」
「しかし、両家の工房に注文が殺到した時、励起装置は市場に出回りきるでしょうか?」
「それは……供給が追いつかず、普及は滞るだろうな」
「それがよくないのです。儂ら、ヤバマーズは燃料こそを売りたいっ! 世間の需要が高まらねばならんのです!」
「ハッ!? なるほど……っ! 装置の技術をあえてバラ撒くことで、燃料の市場そのものを爆発的に広げるというのか。……なんという恐ろしい商売の仕方だ……!」
「その通りです。いやはや、話がわかる商談相手とは気持ちが良いものですなあ。ふはははは」
なんか、盛り上がってんなあ。
というわけで、僕の作戦その二。
技術なんて、値が付くうちに売っちまった方がいい。
どうせ、いずれはコピーされてしまうもんだ。
(世の中、天才っているもんだからな。僕は自分より、頭が良い奴がゴロゴロしているのを知ってるし。それならマージンだけ貰って、技術競争の先頭は、力のある名家に走ってもらった方がコスパがいいってもんだ)
燃料だけ抱えても、使う装置が世の中になければ需要は増えん。
このやり方なら、勝手に“これが最先端だ”とマウント合戦しながら盛り上がってくれる……はず。
うん、盛り上がってくれると……ありがたいなあ。(願望)
と、まあ、頭のなかの理屈はそんなところなんだが。
(……それにしても、オコトギが話すと、商人たちの食いつきがめちゃくちゃ早いな)
僕は感心していた。
この間の会食で、痛いほどわかったことがある。
僕らヤバマーズ領民と、商人たちでは……あまりに使う言語や生きている文化が違い過ぎるのだ。
いや、本当に喋る言葉が、外国語とかって意味じゃないぞ?
でも、そう表現できるくらい、あらゆる会話で前提となる“文脈”がズレまくってる気がしたんだ。
なんか知らんが、商人の偉い人たちが僕をめちゃくちゃ怖がっている。
それくらいは、僕だって読み取れるんだ。
だけど、なぜ彼らが怯えるのかの理由まではわからない。
(終始ビクビクしているような人間と、建設的な会話をするなんて無理だからなあ)
きっと気付かないだけで、数え切れないほど齟齬も起きてたはずだ。
その点、オコトギは商人でありながら、ヤバマーズの掟を理解する身内。
こいつだけは、僕の意図を汲み……商人側の言葉に翻訳して、齟齬なく取引を成立させられる。
言ってしまえば、ヤバマーズと大商会たちとを繋ぐ“最高の通訳者”。
それこそが、オコトギに与えられた新たな役割だった。
「――ですので、皆様。燃料購入の継続契約、ご検討をお勧めします。その上で、設計図の取引に関しては、生産規模から利益を事前に計算し、数%を我が領に納めてくださるような形になろうかと思います」
「……あい、わかった。話は持ち帰らせていただく」
「決断は、お早い方がいいでしょうな。なにせ、欲しがる者はいくらでもおりますから。……この商売には、希少価値がありますので」
うーん、横から眺めててわかったが。
僕は「燃料の生産コストが高すぎて利益出るのかなあ。生産量少ないし」って、頭を抱えてるんだけど。
その品薄気味で現段階では手に入りにくい部分こそが、希少価値を生むとかいう焦点にもなっているみたいだな。
……はあ、マジで商売って理解できん。
そんな感覚ハリボテだろ、なんの保証もないだろうに。
「ところで――ヤバマーズ男爵。よろしいでしょうか」
思索に耽っていると、一番若手の商人がおそるおそる手を挙げた。
「……なんだ?」
「あくまで、念のための確認なのですが……」
「言ってみろ」
「本当に……本当に、我らキャラバンから一銭の税も取らぬおつもりなのですか?」
どこか疑り深い目。
そりゃあね、商人にとって『タダほど高いものはない』は普遍の真理なんだろうけどさぁ……。
(またこのくだりかよ。……さすがに話し飽きて来たな)
内心ため息をつくが、さすがに税金の話となれば、オコトギの領分じゃない。
領主である僕が、対応するしかないか。
「いいや、一銭も取らんというわけではないぞ」
「そ、そうですよね……」
「通行税は免除するが、地代や露店税はあくまで減免。倉庫の貸し出しに関しても、契約商会には優遇措置を取らせるだけ、と言っている」
「やはり、通行税が免除……!? その上、その待遇!? もはや、税金を取っていないのと同義ではありませんか!」
「……まあ、余所と比べたら破格だろうな。で、なにが不満だ?」
僕がめんどくさそうに、問い返すと。
……商人たちが一斉にガタガタと震え出した。
だから、なんでそういう態度になるんだよ。
(しっかし、商会の代表どもは、ちゃんと説明してるのか? 前の商談で決めた事柄だろうに。……それとも現場の中堅からすれば、よほど信じられないものなのかね)
確かに、僻地の領主たちは金が欲しい。
だから、誰もが重い通行税をふっかける。これが常識だろうとは思う。
故に、ある者は「正気か?ここを通過点に輸送するだけで、ボロ儲け出来てしまうぞ」と耳を疑い。
また、ある者は「そんな美味い話がある訳がない。あとから毟る気だ」と邪推する。
……まあ、そんなところなのか?
「なんだ、つまり僕を疑っているのか。お前ら」
「ひぃっ!? 滅相もないことでございますっ!?」
「……もう一度だけ言う。通り過ぎるだけなら、タダにしてやる。だが、この地で商売をするなら、安かろうがキッチリ税はもらう。それだけだ。……わかったか?」
「は、ははあっ! 愚問を投げかけた、非礼をお許しくださいっ!」
「許すけどさあ……」
この案は、僕の作戦その三……ではない。
実は元公爵令嬢である、リュスが発案した経済政策だったのだ。
ヤバマーズは、寂れた辺境。
だが、見方を変え、国の端である辺境と言うことは――それだけ“国境が近い”ということでもある。
ならば、他の奴らが商人の首を絞めようとする間に、ヤバマーズを通行税ゼロにしてしまえばどうなるか。
多少遠回りになっても、国外からの物流を担う商人たちが通りたがる。
ついでに商売までしたくなっちゃう。
……そんな物流通過拠点になる、らしい。
難しくてよくわかんないけど、リュスって有能過ぎない!? さすが、リュス!!!
そんな美味しい話なら、なんでみんなやらないわけ!?(そんな簡単ではない)
「……しかし。大変不躾ながら、閣下。これでは、他領の領主が黙っておりますまいな」
冷や汗を拭いながら、一人の商人がおそるおそる懸念を口にする。
「なぜだ?」
「周辺の領主からすれば、自領を通るはずの商人がいなくなってしまいます。今までの通行税も取れなくなると、怒るのではありませぬか?」
「なんだ、そんなことか」
「そんなこと……でございますか」
「ああ、別に問題ない」
僕はいいから、さっさと次の話を進めろ、と顎で急かす。
「文句があるなら――受けて立つつもりだからな」
どうせ、近隣領主はみんな仲が悪い連中ばかり。
法廷でも戦場でも、逃げる気はない。隣のドラクロワ男爵みたいに、ぶっ飛ばす。
まあ、とはいえ。
仕留めていない
まだ自分の前に現れてもいない、
少なくとも、今のヤバマーズは交易の要所ではないのだから。
……そう。今のところは、まだ。
(さあて、オノレからクラーケンの記録ももらえたし。このつまらん商談が終わったら、徹底的に準備してイカ狩りだな)
まだ目の前に出てきてもいない
(火を恐れるなんて、わかりやすい記述もあったしな。新兵器も使って吹き飛ばしてやるぜ! ふはははは。まっ、勝ったな!)
――クラーケンには勝てなかったよ。(即ネタバレ)
いつも応援ありがとうございます!
「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。
作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!