ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第152話 タダより高いものは無いと震える客。タダより高い授業料を払わされる男爵。(後半)

「燃料はまだ少量生産ですが、これは時間が解決する問題です」

「うむ」

「しかし、両家の工房に注文が殺到した時、励起装置は市場に出回りきるでしょうか?」

「それは……供給が追いつかず、普及は滞るだろうな」

「それがよくないのです。儂ら、ヤバマーズは燃料こそを売りたいっ! 世間の需要が高まらねばならんのです!」

「ハッ!? なるほど……っ! 装置の技術をあえてバラ撒くことで、燃料の市場そのものを爆発的に広げるというのか。……なんという恐ろしい商売の仕方だ……!」

「その通りです。いやはや、話がわかる商談相手とは気持ちが良いものですなあ。ふはははは」

 

 なんか、盛り上がってんなあ。

 

 というわけで、僕の作戦その二。

 技術なんて、値が付くうちに売っちまった方がいい。

 どうせ、いずれはコピーされてしまうもんだ。

 

(世の中、天才っているもんだからな。僕は自分より、頭が良い奴がゴロゴロしているのを知ってるし。それならマージンだけ貰って、技術競争の先頭は、力のある名家に走ってもらった方がコスパがいいってもんだ)

 

 燃料だけ抱えても、使う装置が世の中になければ需要は増えん。

 このやり方なら、勝手に“これが最先端だ”とマウント合戦しながら盛り上がってくれる……はず。

 うん、盛り上がってくれると……ありがたいなあ。(願望)

 

 と、まあ、頭のなかの理屈はそんなところなんだが。

 

(……それにしても、オコトギが話すと、商人たちの食いつきがめちゃくちゃ早いな)

 

 僕は感心していた。

 

 この間の会食で、痛いほどわかったことがある。

 僕らヤバマーズ領民と、商人たちでは……あまりに使う言語や生きている文化が違い過ぎるのだ。

 

 いや、本当に喋る言葉が、外国語とかって意味じゃないぞ?

 でも、そう表現できるくらい、あらゆる会話で前提となる“文脈”がズレまくってる気がしたんだ。

 

 なんか知らんが、商人の偉い人たちが僕をめちゃくちゃ怖がっている。

 それくらいは、僕だって読み取れるんだ。

 

 だけど、なぜ彼らが怯えるのかの理由まではわからない。

 

(終始ビクビクしているような人間と、建設的な会話をするなんて無理だからなあ)

 

 きっと気付かないだけで、数え切れないほど齟齬も起きてたはずだ。

 

 その点、オコトギは商人でありながら、ヤバマーズの掟を理解する身内。

 こいつだけは、僕の意図を汲み……商人側の言葉に翻訳して、齟齬なく取引を成立させられる。

 

 言ってしまえば、ヤバマーズと大商会たちとを繋ぐ“最高の通訳者”。

 それこそが、オコトギに与えられた新たな役割だった。

 

「――ですので、皆様。燃料購入の継続契約、ご検討をお勧めします。その上で、設計図の取引に関しては、生産規模から利益を事前に計算し、数%を我が領に納めてくださるような形になろうかと思います」

「……あい、わかった。話は持ち帰らせていただく」

「決断は、お早い方がいいでしょうな。なにせ、欲しがる者はいくらでもおりますから。……この商売には、希少価値がありますので」

 

 うーん、横から眺めててわかったが。

 

 僕は「燃料の生産コストが高すぎて利益出るのかなあ。生産量少ないし」って、頭を抱えてるんだけど。

 

 その品薄気味で現段階では手に入りにくい部分こそが、希少価値を生むとかいう焦点にもなっているみたいだな。

 

 ……はあ、マジで商売って理解できん。

 そんな感覚ハリボテだろ、なんの保証もないだろうに。

 

「ところで――ヤバマーズ男爵。よろしいでしょうか」

 

 思索に耽っていると、一番若手の商人がおそるおそる手を挙げた。

 

「……なんだ?」

「あくまで、念のための確認なのですが……」

「言ってみろ」

「本当に……本当に、我らキャラバンから一銭の税も取らぬおつもりなのですか?」

 

 どこか疑り深い目。

 そりゃあね、商人にとって『タダほど高いものはない』は普遍の真理なんだろうけどさぁ……。

 

(またこのくだりかよ。……さすがに話し飽きて来たな)

 

 内心ため息をつくが、さすがに税金の話となれば、オコトギの領分じゃない。

 領主である僕が、対応するしかないか。

 

「いいや、一銭も取らんというわけではないぞ」

「そ、そうですよね……」

「通行税は免除するが、地代や露店税はあくまで減免。倉庫の貸し出しに関しても、契約商会には優遇措置を取らせるだけ、と言っている」

「やはり、通行税が免除……!? その上、その待遇!? もはや、税金を取っていないのと同義ではありませんか!」

「……まあ、余所と比べたら破格だろうな。で、なにが不満だ?」

 

 僕がめんどくさそうに、問い返すと。

 ……商人たちが一斉にガタガタと震え出した。

 

 だから、なんでそういう態度になるんだよ。

 

(しっかし、商会の代表どもは、ちゃんと説明してるのか? 前の商談で決めた事柄だろうに。……それとも現場の中堅からすれば、よほど信じられないものなのかね)

 

 確かに、僻地の領主たちは金が欲しい。

 だから、誰もが重い通行税をふっかける。これが常識だろうとは思う。

 

 故に、ある者は「正気か?ここを通過点に輸送するだけで、ボロ儲け出来てしまうぞ」と耳を疑い。

 また、ある者は「そんな美味い話がある訳がない。あとから毟る気だ」と邪推する。

 

 ……まあ、そんなところなのか?

 

「なんだ、つまり僕を疑っているのか。お前ら」

「ひぃっ!? 滅相もないことでございますっ!?」

「……もう一度だけ言う。通り過ぎるだけなら、タダにしてやる。だが、この地で商売をするなら、安かろうがキッチリ税はもらう。それだけだ。……わかったか?」

「は、ははあっ! 愚問を投げかけた、非礼をお許しくださいっ!」

「許すけどさあ……」

 

 この案は、僕の作戦その三……ではない。

 実は元公爵令嬢である、リュスが発案した経済政策だったのだ。

 

 ヤバマーズは、寂れた辺境。

 だが、見方を変え、国の端である辺境と言うことは――それだけ“国境が近い”ということでもある。

 ならば、他の奴らが商人の首を絞めようとする間に、ヤバマーズを通行税ゼロにしてしまえばどうなるか。

 

 多少遠回りになっても、国外からの物流を担う商人たちが通りたがる。

 ついでに商売までしたくなっちゃう。

 

 ……そんな物流通過拠点になる、らしい。

 

 難しくてよくわかんないけど、リュスって有能過ぎない!? さすが、リュス!!!

 そんな美味しい話なら、なんでみんなやらないわけ!?(そんな簡単ではない)

 

「……しかし。大変不躾ながら、閣下。これでは、他領の領主が黙っておりますまいな」

 

 冷や汗を拭いながら、一人の商人がおそるおそる懸念を口にする。

 

「なぜだ?」

「周辺の領主からすれば、自領を通るはずの商人がいなくなってしまいます。今までの通行税も取れなくなると、怒るのではありませぬか?」

「なんだ、そんなことか」

「そんなこと……でございますか」

「ああ、別に問題ない」

 

 僕はいいから、さっさと次の話を進めろ、と顎で急かす。

 

「文句があるなら――受けて立つつもりだからな」

 

 どうせ、近隣領主はみんな仲が悪い連中ばかり。

 法廷でも戦場でも、逃げる気はない。隣のドラクロワ男爵みたいに、ぶっ飛ばす。

 

 まあ、とはいえ。

 仕留めていない獲物(ゲーム)について論じるほど、僕は暇ではない。

 まだ自分の前に現れてもいない、近隣領主(イノシシ)兵隊(シカ)がどう動くかなんて、今から考えても時間の無駄。

 

 少なくとも、今のヤバマーズは交易の要所ではないのだから。

 ……そう。今のところは、まだ。

 

(さあて、オノレからクラーケンの記録ももらえたし。このつまらん商談が終わったら、徹底的に準備してイカ狩りだな)

 

 まだ目の前に出てきてもいない近隣領主(イノシシ)の心配をするより、今は目の前にいる巨大なイカをどう狩るかの方がよっぽど大事で楽しい!

 

(火を恐れるなんて、わかりやすい記述もあったしな。新兵器も使って吹き飛ばしてやるぜ! ふはははは。まっ、勝ったな!)

 

 ――クラーケンには勝てなかったよ。(即ネタバレ)




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