「でも、我が家の
しかし、オノレは肩をすくめた。
「いや、それ。もう言ったようなものだよ?」
「……なんで?」
「あのね。当時、王都の兵が見つけられなくて、今の君に見つけられるところだろ。しかも、大前提として“この村周辺の範囲”だとするなら、そんなに候補はない」
「へ、へえー???(動揺)」
「もうちょい絞ろうか。屋敷などの私有地は除外、平民の家屋とかも除外かな? 保存管理と隠匿性、この二つを長い年月も両立させるには確実性に欠けるね」
「……」
「その上、俺に内容を気軽に話せる。これ、逆に言えば……
「うわ……」
思わず、リュスと顔を見合わせる。
こいつ、怖いわ。
一瞬で、答え絞ってきやがった。
なんだ、お前。天才か?
「でも、アスタ。くれぐれも口にはしないでね。そしたら、俺は知らないことに出来る」
「うん、わかった!(素直)」
そして、最高か。
なんで、そんなに優しいん? もしかして、僕のこと好きか?
「でも、僕――そういう趣味ないんだよ、ごめんな」
「急に、俺がフラれたみたくしないでくれる? 俺だってそんな趣味ないよ!」
「とりあえず、コーヒー淹れるところから始めてくんない? リュスの分も頼むよ」
「そして、流れるようにオーダーするなっ!」
とにかく困った時の、オノレだ。
おまけに、こいつの部屋ならコーヒーまで淹れてもらえるし。
「オノレ様のコーヒーですか。……確かに噂には聞いておりましたが、いただくのは初めてですね」
「リュスも飲みたい時には、ここに来ていいんだぜ」
「俺の部屋をカフェ扱いしないでくれないかなぁ!? ここはデートコースじゃないんだよ!?」
「しかも、どんな話でも聞いてくれるし。いいところだぞ~!(宣伝)」
「いや、さては相談室だと思ってるな!? 薄々気づいてたけど!!」
コーヒーが出てくる、オノレ相談室。
仲良くなってからは、行き詰まって来たら入り浸ってたもんな。
すごい高い飲み物が、無料提供。砂糖も使い放題。ヤバくない?
「まあまあ、堅いこと言うなよ。どうせ、ジルやヘイホーも似たような目的で入り浸ってんだろ」
「君の後輩たち、どいつもこいつも図太すぎるんだよねえ!?」
「お前の後輩でもあるだろ、連帯責任だ」
まるで、僕が原因で集まって来てるみたく言うなっての。
オノレは文句を言いながらも、コーヒー豆を挽き始めた。
ミルをゆっくり回し始めれば、ギーコーギーコー、リズムを刻む。
リュスはちょっと物珍しそうに、「はぅぅ」と感嘆を漏らして眺めていた。すごく可愛い!!!(口に出さない)
「でも、君と
「……実際、お前はどう思うわけ?」
「俺は別に当事者じゃないのに、口を挟むのもな……」
「いいから!」
「……君は“お前に言われたくない”って感情と共感を求める話をして、向こうは“死人に言っても意味がない”って見解と理屈を話してる。実は、会話が成立してないんだよね。違う
「それは……」
こいつに、そう言われちゃうとなあ。
素直に聞くしかない。
「君の言うこともわかる。でも、向こうは“感謝や称賛も断わってる立場”だから、ある意味フェアではあるかな、とは思うけど」
「フェア、ねえ?」
でも、やはり気持ちは納得できなかった。
「向こうも君に何があったかわからないように、こっちも向こうになにがあったかわからないんだ。……彼女なら、その辺聞けそうかなって思うけど」
謎を解くカギを握るのは、ただ一人。
自然と、僕とオノレの視線が一点に集まった。
「……わたくしが語れることは、あまり多くありませんよ。ですが、それでよろしいのであれば」
リュスは、伏せたまつ毛を震わせた。
今までとは、もう状況が異なる。ただ、過去を掘り返すだけじゃない。
彼女は、僕らが未来を検討するための大事な証言者だ。
「でも、珍しいよね。アスタが口論吹っ掛けて負けるなんて」
「僕は負けてないぞ。だいたい、あれは議論なんかじゃなかったし!」
「うん、確かに議論ではないね」
「だろ?」
「じゃあ、君がその暫定サキオン氏に、泣かされたのはいいとして――」
「泣いてないっ!」
「――いいえ、アスタ様。あの時、思いきりボロボロと涙を流してらっしゃいましたよ?」
まさかのリュスからの追い撃ち。
思わず、声が裏返った。
「な、泣いてないってば! ……地下室だったから、埃が目に入ったんだけだし!!」
オノレが、肩を揺らして笑う。
「さっきまで、目が真っ赤だったもんなあ。
「うるさいな! リュスの前でそんな話すんな!!」
「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。俺が聞きたいのはさ――」
オノレは、恐る恐る確認して来た。
「
「ああ、それな。おう、そういう話だったんだが?」
「――やめてよ!? その時点で、超スキャンダルじゃん! 俺、こう見えて、ラプラス伯爵家のスパイなんだよね。わかる? 親が“ヤバマーズの弱みを握れ”って命令したら断れないの!!」
「でも、我が
まあ、マズいんだよ。マズいんだけどさぁ。
参謀役のオノレに言わない方が、戦略上、支障あんだろ。
「だいたい、僕が家督継いだ時にはそうだったもん」
「もうその時点で、コーヒー淹れながら談笑できるレベル超えてるんだよ!?」
「でも、別に“証書を見せろ”なんて誰にも言われたことなんてないし」
「そりゃ、滅多に要求されないけどさぁ!? 」
「裁判で権利書が要求されるなんて、合法的にトドメ刺しにいく最終段階くらいの手続きだぞ。気にするだけ無駄だって(やけに詳しい)」
「でもこの前、王国正規軍に法廷でやり合うかって啖呵切ったばっかじゃん!?」
「裸でも服着てるフリくらい出来なきゃ、領主なんかやれねえよ(十九歳の発言)」
言い切ってやると、オノレは絶句した。
「ク、クソ度胸……本気で君、頭どうなってんの?」
「どうせ裁判沙汰になんか出来っこないと思ったし。まっ、仮に裁判になっても――最後には僕が勝つ」
我が家がいつの時代から、
それはもはや定かじゃない、今さら父上に確認も出来ないしな。
かといって、マグダリアに聞いたところで、“当主は知っていたけど、あえて尋ねなかった状態”と“当主が見失っている状態”の区別が番人の視点で出来ようはずもない。
予想としては、三代目サキオン失踪の混乱期だとは思っているが……。
「でも、僕も今だから言えるけどさぁ。父上が急死して、途方にくれながら屋敷を家探しするじゃんか。そしたら、権利書なんてどこにもなかったんだよ。この絶望……わかる? マジでホラーだぞ?」
さすがに、誰も茶化してこなかった。
オノレなんて目を合わせないように、湯を沸かしているし。
「“詰んでるどころか、スタートラインに立ってないじゃん”って、膝から崩れ落ちたもんな。はは、マジウケる」
「それは……本当に苦労されましたね、アスタ様」
父上を亡くして悲しむ間もなく、引継ぎ一切なし。
家督を継いで最初に知るのが、書類が足りない事実。
それで速攻、ワンオペで領地を治めてんだよ?
権利書もないから、誰かにバレたら終わる状況で、もう平気な顔して、隠し通すしかない十九歳若造のスタート。
「実際問題。……正気保ってただけで、僕、えらくないか?」
誰か本当の本当に、ベッタベタに僕を褒めて欲しいよ。なんで、サキオンにあんなこと言われなアカンの?
うん、お嫁さん貰う時は、褒め上手の人を選ぼう。
こんな僻地領主じゃ、選べる立場じゃない気がするが。
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