ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第163話 裸でも服着てるフリくらい出来なきゃ、領主なんかやれねえよ。

「でも、我が家の証書庫(シャルトリエ)がどこにあったのかは言えないぞ。さすがに、それは内緒ってことで」

 

 しかし、オノレは肩をすくめた。

 

「いや、それ。もう言ったようなものだよ?」

「……なんで?」

「あのね。当時、王都の兵が見つけられなくて、今の君に見つけられるところだろ。しかも、大前提として“この村周辺の範囲”だとするなら、そんなに候補はない」

「へ、へえー???(動揺)」

「もうちょい絞ろうか。屋敷などの私有地は除外、平民の家屋とかも除外かな? 保存管理と隠匿性、この二つを長い年月も両立させるには確実性に欠けるね」

「……」

「その上、俺に内容を気軽に話せる。これ、逆に言えば……証書庫(シャルトリエ)の所在を知られたところで、簡単には調べられない場所なんじゃないの? たとえば――そうだな、宗教上の理由とかで?」

「うわ……」

 

 思わず、リュスと顔を見合わせる。

 

 こいつ、怖いわ。

 一瞬で、答え絞ってきやがった。

 

 なんだ、お前。天才か?

 

「でも、アスタ。くれぐれも口にはしないでね。そしたら、俺は知らないことに出来る」

「うん、わかった!(素直)」

 

 そして、最高か。

 なんで、そんなに優しいん? もしかして、僕のこと好きか?

 

「でも、僕――そういう趣味ないんだよ、ごめんな」

「急に、俺がフラれたみたくしないでくれる? 俺だってそんな趣味ないよ!」

「とりあえず、コーヒー淹れるところから始めてくんない? リュスの分も頼むよ」

「そして、流れるようにオーダーするなっ!」

 

 とにかく困った時の、オノレだ。

 おまけに、こいつの部屋ならコーヒーまで淹れてもらえるし。

 

「オノレ様のコーヒーですか。……確かに噂には聞いておりましたが、いただくのは初めてですね」

「リュスも飲みたい時には、ここに来ていいんだぜ」

「俺の部屋をカフェ扱いしないでくれないかなぁ!? ここはデートコースじゃないんだよ!?」

「しかも、どんな話でも聞いてくれるし。いいところだぞ~!(宣伝)」

「いや、さては相談室だと思ってるな!? 薄々気づいてたけど!!」

 

 コーヒーが出てくる、オノレ相談室。

 王立大学(アカデミア)時代からの定番である。

 

 仲良くなってからは、行き詰まって来たら入り浸ってたもんな。

 すごい高い飲み物が、無料提供。砂糖も使い放題。ヤバくない?

 

「まあまあ、堅いこと言うなよ。どうせ、ジルやヘイホーも似たような目的で入り浸ってんだろ」

「君の後輩たち、どいつもこいつも図太すぎるんだよねえ!?」

「お前の後輩でもあるだろ、連帯責任だ」

 

 まるで、僕が原因で集まって来てるみたく言うなっての。

 

 オノレは文句を言いながらも、コーヒー豆を挽き始めた。

 ミルをゆっくり回し始めれば、ギーコーギーコー、リズムを刻む。

 

 リュスはちょっと物珍しそうに、「はぅぅ」と感嘆を漏らして眺めていた。すごく可愛い!!!(口に出さない)

 

「でも、君と幻影(ファントゥム)、もといサキオン氏の喧嘩だけど。別にどっちが悪いって話でもないよなあ」

「……実際、お前はどう思うわけ?」

「俺は別に当事者じゃないのに、口を挟むのもな……」

「いいから!」

「……君は“お前に言われたくない”って感情と共感を求める話をして、向こうは“死人に言っても意味がない”って見解と理屈を話してる。実は、会話が成立してないんだよね。違う階層(レイヤー)でやりとりしてたんじゃないの?」

「それは……」

 

 こいつに、そう言われちゃうとなあ。

 素直に聞くしかない。

 

「君の言うこともわかる。でも、向こうは“感謝や称賛も断わってる立場”だから、ある意味フェアではあるかな、とは思うけど」

「フェア、ねえ?」

 

 でも、やはり気持ちは納得できなかった。

 

「向こうも君に何があったかわからないように、こっちも向こうになにがあったかわからないんだ。……彼女なら、その辺聞けそうかなって思うけど」

 

 謎を解くカギを握るのは、ただ一人。

 自然と、僕とオノレの視線が一点に集まった。

 

「……わたくしが語れることは、あまり多くありませんよ。ですが、それでよろしいのであれば」

 

 リュスは、伏せたまつ毛を震わせた。

 

 今までとは、もう状況が異なる。ただ、過去を掘り返すだけじゃない。

 彼女は、僕らが未来を検討するための大事な証言者だ。

 

「でも、珍しいよね。アスタが口論吹っ掛けて負けるなんて」

「僕は負けてないぞ。だいたい、あれは議論なんかじゃなかったし!」

「うん、確かに議論ではないね」

「だろ?」

「じゃあ、君がその暫定サキオン氏に、泣かされたのはいいとして――」

「泣いてないっ!」

「――いいえ、アスタ様。あの時、思いきりボロボロと涙を流してらっしゃいましたよ?」

 

 まさかのリュスからの追い撃ち。

 思わず、声が裏返った。

 

「な、泣いてないってば! ……地下室だったから、埃が目に入ったんだけだし!!」

 

 オノレが、肩を揺らして笑う。

 

「さっきまで、目が真っ赤だったもんなあ。王立大学(アカデミア)時代でも、なかなか見ないレアな姿だ」

「うるさいな! リュスの前でそんな話すんな!!」

「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。俺が聞きたいのはさ――」

 

 オノレは、恐る恐る確認して来た。

 

証書庫(シャルトリエ)が見つかるまで、土地の権利書とか、王家からの書状とかの重要書類を一切見失ってた……みたいな話に聞こえたんだけど?」

「ああ、それな。おう、そういう話だったんだが?」

「――やめてよ!? その時点で、超スキャンダルじゃん! 俺、こう見えて、ラプラス伯爵家のスパイなんだよね。わかる? 親が“ヤバマーズの弱みを握れ”って命令したら断れないの!!」

「でも、我が親友(とも)じゃん?」

 

 まあ、マズいんだよ。マズいんだけどさぁ。

 参謀役のオノレに言わない方が、戦略上、支障あんだろ。

 

「だいたい、僕が家督継いだ時にはそうだったもん」

「もうその時点で、コーヒー淹れながら談笑できるレベル超えてるんだよ!?」

「でも、別に“証書を見せろ”なんて誰にも言われたことなんてないし」

「そりゃ、滅多に要求されないけどさぁ!? 」

「裁判で権利書が要求されるなんて、合法的にトドメ刺しにいく最終段階くらいの手続きだぞ。気にするだけ無駄だって(やけに詳しい)」

「でもこの前、王国正規軍に法廷でやり合うかって啖呵切ったばっかじゃん!?」

「裸でも服着てるフリくらい出来なきゃ、領主なんかやれねえよ(十九歳の発言)」

 

 言い切ってやると、オノレは絶句した。

 

「ク、クソ度胸……本気で君、頭どうなってんの?」

「どうせ裁判沙汰になんか出来っこないと思ったし。まっ、仮に裁判になっても――最後には僕が勝つ」

 

 我が家がいつの時代から、証書庫(シャルトリエ)を見失っていたのか?

 それはもはや定かじゃない、今さら父上に確認も出来ないしな。

 

 かといって、マグダリアに聞いたところで、“当主は知っていたけど、あえて尋ねなかった状態”と“当主が見失っている状態”の区別が番人の視点で出来ようはずもない。

 予想としては、三代目サキオン失踪の混乱期だとは思っているが……。

 

「でも、僕も今だから言えるけどさぁ。父上が急死して、途方にくれながら屋敷を家探しするじゃんか。そしたら、権利書なんてどこにもなかったんだよ。この絶望……わかる? マジでホラーだぞ?」

 

 さすがに、誰も茶化してこなかった。

 オノレなんて目を合わせないように、湯を沸かしているし。

 

「“詰んでるどころか、スタートラインに立ってないじゃん”って、膝から崩れ落ちたもんな。はは、マジウケる」

「それは……本当に苦労されましたね、アスタ様」

 

 父上を亡くして悲しむ間もなく、引継ぎ一切なし。

 家督を継いで最初に知るのが、書類が足りない事実。

 それで速攻、ワンオペで領地を治めてんだよ?

 

 権利書もないから、誰かにバレたら終わる状況で、もう平気な顔して、隠し通すしかない十九歳若造のスタート。

 

「実際問題。……正気保ってただけで、僕、えらくないか?」

 

 誰か本当の本当に、ベッタベタに僕を褒めて欲しいよ。なんで、サキオンにあんなこと言われなアカンの?

 

 うん、お嫁さん貰う時は、褒め上手の人を選ぼう。

 こんな僻地領主じゃ、選べる立場じゃない気がするが。




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