ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第173話 チャラチャラと浮つくんじゃねえ! ドワーフ技師が正論で殴ってくる件について。(前半)

「ああーっ、折角の作品を乱暴に扱わないで欲しいっすっ!!」

「お前が破裂するかもなんて、言うからだろうが!?」

 

 ジルはポニテを揺らし、ぷんぷん怒った。

 

「そんなの、アスタ先輩が調子に乗ってガンガン撃つからっすよ。加熱と冷却を繰り返してるんだから、一度に連射し過ぎたら危ないのは当たり前っす!」

「知らねえよ! お前だって、止めなかったじゃん!!」

 

 そんなわけで、しばらく喧嘩した。

 ジルは、ため息をつく。

 

「はあ。要するに、焔王国の錬鉄技術だと均一性がガタガタなんすよ。金属に目に見えない小さな泡――『す』が入るのを防げないっす」

「失敗した卵料理みたいにか?」

「まあ、そうっすね」

「金属でそんなことが起きるなんて……」

「熱して叩けば、かなりマシになるんすけどね。それでも、ゼロにはならないんす」

 

 僕は、どうにも理解しがたかった。

 

「……目に見えない小さな泡ってのを、どうやって認知してんだか」

「それはドワーフの機密に当たるっすけど、まともな職人なら打音で品質がわかるっすね」

「職人ってすごい(感動)」

「とにかく、信頼性が低い道具は、良い作品とは言い難いっす」

「……それでイライラしてたわけね。対策は?」

「シンプルに、機構を分厚くすることっすね」

 

 やけに重くて狙いづらいと思ったら、そのせいかよ。

 射撃武器としては、重心バランスが悪いんだよな。取り回しが最悪すぎる。

 

「あまりに薄くすると、そこから亀裂が入るっすからね。これがギリギリの設計っす」

「……ジルが手掛けても無理か? お前の腕ならなんでも出来るだろ?」

「いや、そもそも設備が悪いんすよね。てか、炉さえあれば、ドワーフ技師なら何でもできると思ってないっすか? 金属加工、ナメないで欲しいっす」

「え、なんか……ごめん」

「素人は"凄腕の職人がいれば、なんでもできる”って勘違いするっすよね。むしろ、なんでそう思うんすか? まさか、(ちまた)の貸本屋にはそんなアホみたいな物語が転がってるんすか?」

「だから、ごめんってば……そんな怒るなよ、僕が悪かったって」

 

 だって、なあ。

 ドワーフ技師なんて、どんな環境でもすごいもの作れそうじゃん。

 

 そこを、ヤバマーズ男爵領の設備が悪いって言われちゃうとなあ。

 領主である、僕の責任になっちゃうじゃん……。

 

「先輩。そもそもどこでも無条件で作れるってなら、職人が工房や道具にこだわるわけないんすよ。頭パッパラパーすか?」

「正論で殴るのやめて」

 

 こいつ、物作りに関しては気が短すぎる。

 頭ドワーフかよ。いや、ドワーフだったわ、義父が。(本人は違う)

 

「だいたい、ネジを作ろうとしても粗悪っすもん。気密性も最悪。バルブを作るのも大変で、隙間に油を塗って誤魔化してるんすけど――あっ、見てくださいっす」

「ん……? 銃口から、水滴が滴ってる?」

「蒸気で弾丸を押し出してるんだから、そりゃ冷えたら水になるんすよね」

「……まさか、これ。弾を撃つのに支障出るのか?」

「んー、たぶん、水でブレーキがかかって、威力や精度が下がるんじゃないっすかね……? 少なくとも、破裂リスクは上がると思うっすよ」

 

 当たり方がデタラメになるのも、そのせいだし! 怖すぎんだろ!!

 

「なんとかならないのかよ、これ……」

「そりゃあ、サイズをデカくしていいなら、気水分離室を搭載したり、排水機構も作れるっすけど」

 

 あん、なんだって?

 専門用語で即答されても、ようわからんぞ??

 

「えと、サイズを維持したまま改善する方法は?」

「機構をもっと細かく作ることになるんで……結局、冶金(やきん)から見直しっす」

「……ジル。僕、言ってる意味がわかんない」

「はあ。だから結局、そこも良質な材料と工作設備が必要って話っす」

「あー、なるほどな。完璧に理解したわ(よくわかってない)」

 

 結局、どれを詰めようとしても、同じ結論になる。

 今は無理ってことだけわかればいいや。(理解放棄)

 

 え!? ……って、ことは?

 

「僕、クラーケンに通用するような、携行兵器が欲しくて頼んだんだけどっ!?」

「ふーん。まっ、クラーケンの肉厚を貫くには、これじゃ圧倒的にパンチが足りないっすよね」

「じゃ、役に立たないってことじゃん!」

「だから、そう言ってるんすよ」

「僕のアイディアと、お前の技術を結集したのに!!?」

「作るのは面白かったっすけど、出来上がったのはマジでただの玩具っすね」

「ガーン!?」

 

 ジルの態度が厳しい。

 周りの猟兵(シャスール)たちも、「ジル坊ちゃんは相変わらずだな」と苦笑している。

 

「だいたい、言われて作ったこの蒸気銛砲(ヴァプール・ハープーン)だってそうっすよ。これ、役に立つんすか?」

「なんだってんだよ、これこそ大本命だろ!」

 

 視線を向けたのは、大型の台座に据えられた蒸気銛砲(ヴァプール・ハープーン)

 

「射程も貫通力も申し分なし! 巨大生物相手にゃ、最高だ!!」

「そりゃデカい銛を飛ばせば、威力は最高でしょうよ。代わりに反動も増えて、重量も増えたんすよ」

「……ああ、設置型になっちまったな」

「あのイカ野郎、湖に居座ってるんすよ? これ、ここから運ぶんすか?」

「え、まあ……?」

「で、よしんば刺さるとするじゃないっすか。追い詰めても、逃げられるっすよね?」

「……そう、だな」

「っすよね? なら、アイツと綱引きでもするつもりっすか? 刺さったら、紐を繋げて引っ張り合い?」

 

 そう、最大の難問。

 奴は湖の主。岸辺で戦っても、最後には逃げられるのがオチ。

 リュスが『回帰』で見た未来でも、結末はそこまでだった。

 

「だからさ、ジル。そこで、僕は考えて来たんだよ! クラーケンを倒して、そのまま湖を調べるためのアイディア!」

「相変わらず、思い付きの速度と量だけは凄いっすね」

「そんな褒めんなって、照れるだろ?」

「あー、褒めてるように聞こえるっすか。そっすか」

「ほら、お前なら作れるじゃん。湖の上を自在に動けて、調査も出来ちゃう。攻撃もへっちゃら、重たい砲を積んでも沈まない――そんな探査船ってやつをさぁっ!!」

 

 僕は、期待を込めて尋ねた。

 しかし、ジルは本日一番の「何言ってんだこいつ」という顔をする。

 

「…………アスタ先輩。今、なんて言ったんすか?」

「船だよ、船。お前の技術があれば、鉄の船だって作れるだろ?」

「………………うちはドワーフの養子っすよ?」

「それがどうした」

「あのね、アスタ先輩。ドワーフの歴史書を、数千年でも遡って探してきてほしいっす」

「何をだよ?」

「地下生活を営む、ドワーフの技術体系に――『造船』なんてあるわけないでしょうがッ!」

 

 それはもう、絶叫だった。

 

「ドラン親方たちドワーフは、暗くて深い地下で生きてきた種族っすよ? 空に輝くのは宝石、地面は硬い岩盤! 浮力なんて、チャラチャラと浮ついた概念はないっす!」

「浮力って、チャラついてたのかっ!?」

「そりゃそうでしょ。ドワーフは硬派に穴を掘るもんす! 泳がないし、航海もしないっす!」

「少なくとも、お前は硬派じゃねえよ」

「はあ? うちほど硬派な漢、なかなかいないっしょ?」

「やべえ、こいつ本気で言ってやがる」

 

 でも、盲点だった。

 ドワーフという種族にとって、船はあまりにかけ離れた異物だったらしい。

 

 え、もしかしてコレ……詰んでね?




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