「ああーっ、折角の作品を乱暴に扱わないで欲しいっすっ!!」
「お前が破裂するかもなんて、言うからだろうが!?」
ジルはポニテを揺らし、ぷんぷん怒った。
「そんなの、アスタ先輩が調子に乗ってガンガン撃つからっすよ。加熱と冷却を繰り返してるんだから、一度に連射し過ぎたら危ないのは当たり前っす!」
「知らねえよ! お前だって、止めなかったじゃん!!」
そんなわけで、しばらく喧嘩した。
ジルは、ため息をつく。
「はあ。要するに、焔王国の錬鉄技術だと均一性がガタガタなんすよ。金属に目に見えない小さな泡――『す』が入るのを防げないっす」
「失敗した卵料理みたいにか?」
「まあ、そうっすね」
「金属でそんなことが起きるなんて……」
「熱して叩けば、かなりマシになるんすけどね。それでも、ゼロにはならないんす」
僕は、どうにも理解しがたかった。
「……目に見えない小さな泡ってのを、どうやって認知してんだか」
「それはドワーフの機密に当たるっすけど、まともな職人なら打音で品質がわかるっすね」
「職人ってすごい(感動)」
「とにかく、信頼性が低い道具は、良い作品とは言い難いっす」
「……それでイライラしてたわけね。対策は?」
「シンプルに、機構を分厚くすることっすね」
やけに重くて狙いづらいと思ったら、そのせいかよ。
射撃武器としては、重心バランスが悪いんだよな。取り回しが最悪すぎる。
「あまりに薄くすると、そこから亀裂が入るっすからね。これがギリギリの設計っす」
「……ジルが手掛けても無理か? お前の腕ならなんでも出来るだろ?」
「いや、そもそも設備が悪いんすよね。てか、炉さえあれば、ドワーフ技師なら何でもできると思ってないっすか? 金属加工、ナメないで欲しいっす」
「え、なんか……ごめん」
「素人は"凄腕の職人がいれば、なんでもできる”って勘違いするっすよね。むしろ、なんでそう思うんすか? まさか、
「だから、ごめんってば……そんな怒るなよ、僕が悪かったって」
だって、なあ。
ドワーフ技師なんて、どんな環境でもすごいもの作れそうじゃん。
そこを、ヤバマーズ男爵領の設備が悪いって言われちゃうとなあ。
領主である、僕の責任になっちゃうじゃん……。
「先輩。そもそもどこでも無条件で作れるってなら、職人が工房や道具にこだわるわけないんすよ。頭パッパラパーすか?」
「正論で殴るのやめて」
こいつ、物作りに関しては気が短すぎる。
頭ドワーフかよ。いや、ドワーフだったわ、義父が。(本人は違う)
「だいたい、ネジを作ろうとしても粗悪っすもん。気密性も最悪。バルブを作るのも大変で、隙間に油を塗って誤魔化してるんすけど――あっ、見てくださいっす」
「ん……? 銃口から、水滴が滴ってる?」
「蒸気で弾丸を押し出してるんだから、そりゃ冷えたら水になるんすよね」
「……まさか、これ。弾を撃つのに支障出るのか?」
「んー、たぶん、水でブレーキがかかって、威力や精度が下がるんじゃないっすかね……? 少なくとも、破裂リスクは上がると思うっすよ」
当たり方がデタラメになるのも、そのせいだし! 怖すぎんだろ!!
「なんとかならないのかよ、これ……」
「そりゃあ、サイズをデカくしていいなら、気水分離室を搭載したり、排水機構も作れるっすけど」
あん、なんだって?
専門用語で即答されても、ようわからんぞ??
「えと、サイズを維持したまま改善する方法は?」
「機構をもっと細かく作ることになるんで……結局、冶金《やきん》から見直しっす」
「……ジル。僕、言ってる意味がわかんない」
「はあ。だから結局、そこも良質な材料と工作設備が必要って話っす」
「あー、なるほどな。完璧に理解したわ(よくわかってない)」
結局、どれを詰めようとしても、同じ結論になる。
今は無理ってことだけわかればいいや。(理解放棄)
え!? ……って、ことは?
「僕、クラーケンに通用するような、携行兵器が欲しくて頼んだんだけどっ!?」
「ふーん。まっ、クラーケンの肉厚を貫くには、これじゃ圧倒的にパンチが足りないっすよね」
「じゃ、役に立たないってことじゃん!」
「だから、そう言ってるんすよ」
「僕のアイディアと、お前の技術を結集したのに!!?」
「作るのは面白かったっすけど、出来上がったのはマジでただの玩具っすね」
「ガーン!?」
ジルの態度が厳しい。
周りの
「だいたい、言われて作ったこの
「なんだってんだよ、これこそ大本命だろ!」
視線を向けたのは、大型の台座に据えられた
「射程も貫通力も申し分なし! 巨大生物相手にゃ、最高だ!!」
「そりゃデカい銛を飛ばせば、威力は最高でしょうよ。代わりに、反動も増えて、重量も増えたんすよ」
「……ああ、設置型になっちまったな」
「あのイカ野郎、湖に居座ってるんすよ? これ、ここから運ぶんすか?」
「え、まあ……?」
「で、よしんば刺さるとするじゃないっすか。追い詰めても、逃げられるっすよね?」
「……そう、だな」
「っすよね? なら、アイツと綱引きでもするつもりっすか? 刺さったら、紐を繋げて引っ張り合い?」
そう、最大の難問。
奴は湖の主。岸辺で戦っても、最後には逃げられるのがオチ。
リュスも『回帰』で見た未来でも、結末はそこまでだった。
「だからさ、ジル。そこで、僕は考えて来たんだよ! クラーケンを倒して、そのまま湖を調べるためのアイデア!」
「相変わらず、思い付きの速度と量だけは凄いっすね」
「そんな褒めんなって、照れるだろ?」
「あー、褒めてるように聞こえるっすか。そっすか」
「ほら、お前なら作れるじゃん。湖の上を自在に動けて、調査も出来ちゃう。攻撃もへっちゃら、重たい砲を積んでも沈まない――そんな探査船ってやつをさぁっ!!」
僕は、期待を込めて尋ねた。
しかし、ジルは本日一番の「何言ってんだこいつ」という顔をする。
「…………アスタ先輩。今、なんて言ったんすか?」
「船だよ、船。ドワーフの技術があれば、鉄の船だって作れるだろ?」
「………………うちはドワーフの養子っすよ?」
「それがどうした」
「あのね、アスタ先輩。ドワーフの歴史書を、数千年でも遡って探してきてほしいっす」
「何をだよ?」
「地下生活を営む、ドワーフの技術体系に――『造船』なんてあるわけないでしょうがッ!」
それはもう、絶叫だった。
「ドラン親方たちドワーフは、暗くて深い地下で生きてきた種族っすよ? 空に輝くのは宝石、地面は硬い岩盤! 浮力なんて、チャラチャラと浮ついた概念はないっす!」
「浮力って、チャラついてたのかっ!?」
「そりゃそうでしょ。ドワーフは硬派に穴を掘るもんす! 泳がないし、航海もしないっす!」
「少なくとも、お前は硬派じゃねえよ」
「はあ? うちほど硬派な漢、なかなかいないっしょ?」
「やべえ、こいつ本気で言ってやがる」
でも、盲点だった。
ドワーフという種族にとって、船はあまりにかけ離れた異物だったらしい。
え、もしかしてコレ……詰んでね?
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