ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

174 / 196
第174話 チャラチャラと浮つくんじゃねえ! ドワーフ技師が正論で殴ってくる件について。(後半)

 僕は、悪あがきをした。

 ジルを煽るように口にする。

 

「あーあ、期待してたんだけどなあ。ドワーフなら、蒸気で動く鉄の船くらい、鼻歌混じりにパパっと――」

「来ると思った。もう、その手には乗らないっすよ」

「予想されてる……だとっ!?」

 

 バッサリ切り捨てられた。

 くそぅ。この手は、予想されると弱いんだぜ。

 

「だいたいね、アスタ先輩。鉄の船が浮かぶわけないじゃないっすか。どうかしてるんじゃないすか?」

「えー? でも、ほら。工夫すれば浮くかもしれないじゃん」

「浮かないっす」

「いやいやいや。ジル、そういう固定観念に囚われちゃ発明なんて出来ないぜ?」

「金属は水よりも重い、だから沈む。常識でしょ、王立大学(アカデミア)の学徒が聞いて呆れるっすよ」

 

 そんな断言されちゃうとなあ。

 まあ確かに、鉄の塊が水に浮かぶなんて見たことない。

 「ドワーフなら不可能を可能にするっす!」と、ひっくり返してほしくて言ってみたんだがな。

 

「でも、本当にドワーフは船を作らないのか? 絶対に?」

「まあ、地下にも水源……地底湖とかはあるっすね」

「だろ?」

「でも、ニッチなローカルジャンルだと思うっすよ。ドワーフが船を乗り回せるってなら、魚類だってトンネル工事くらいできなきゃおかしいっくらいすもん」

「おいおい。養父の種族に、そこまで言うか?」

「だって、地上に長年住んでるはずのドラン親方すら、未だに“青空を見ると気持ち悪い”って愚痴るっすよ?」

「……確かに、それはヤバいな」

 

 引きこもり界の、殿堂入りチャンピオンみたいな言い草だった。

 天井がないことに、生理的嫌悪感あるやん。ドワーフ。

 

「そこまで来ると、地面が水でフワフワし出したら、気持ち悪いじゃ済まなそうだ」

「ドラン親方、船に数日乗ったら発狂すると思うっす」

 

 滅多にはないが、僕だって、ドワーフを街中で見かけたら不思議には思う。

 地下世界で生きてるはずの種族が、どうして眩しい太陽の下をタラタラ歩いてるのか。

 普通に変だろ。自然の摂理に逆らって、無理してるように見えるもん。

 

「そっか。なら別の手を考える、か……」

「だいたい、納期五日足らずで“戦える船作れ”ってバカの発想なんすよね」

「うーん。この後輩、つくづく辛辣ぅ……」

 

 だが、湖が氾濫すると言われても、五日間で治水工事は不可能だ。

 そんなもの年単位で行う治水事業である。

 本当に、洪水が起きるなら、もはや避難するしか手はない。

 

 可能性を模索するなら、せめて湖自体を調べないとと思ったのに、ヤバマーズ領にあるのは川を渡るための小舟くらいだ。

 

「……ハハ。本当に、笑っちゃうくらい絶望的だな、おい」

 

 だが、やれることはやろう。

 

 ヤバマーズの血が囁いている。抗え、と。

 座して滅びを待つのは、ヤバマーズの作法ではないのだ。

 

 僕は、鈍く疼く脚を叱咤して立ち上がった。

 

「よし。じゃあ、みんな。出発するぞ!」

 

 腰に狩猟刀、背にはネジ巻き式ボウガン。

 そして右腕には、ジルが作り上げたばかりの蒸気銃――じゃじゃ馬。

 

「え、どこへ行くんすか?」

「決まってんだろ。まだ、僕らの目で見てないところだよ」

 

 

***

 

 

 ――ピチャ。ピチャ。

 

 不快な湿り気を帯びた足音。ぬかるみに足を取られる。

 辺りからは、聞きなれない虫や鳥の鳴き声。

 

「うええ、なんでうちがこんなところを……」

「我慢しろ」

「こんなのオノレ先輩の使い魔で、探索させたらいいじゃないっすか!」

「魔素が濃いエリアで、長距離探査が飛ばせるなら偵察兵はいらねえんだよ」

「はーあ、インテリ術師ぶってるくせに使えない先輩っすよねぇ。うちの義足、泥とか水とかは出来たら避けたいんすよ? メンテナンスが、めっちゃめんどくて」

「それは……案外、大変なんだな」

 

 僕らは湖から距離を取りつつも、その縁をなぞるように歩いていた。

 

 西の森の湿地帯。

 淀んだ水の腐った臭いに、べっとり肌に纏わりつく湿気。

 独自の生態系が織りなす、実に興味深いエリアだ。

 

 連れ歩くのは、たった三人の猟兵(シャスール)。そして、ジル。

 

「だいたい、リュスさんを置いて行ってよかったんすか? あのお姉さん、ついて来たがるでしょ……」

「仕方ないだろ。リュスは本調子じゃないし、かえって進軍速度が落ちる。僕は速攻行って、速攻帰りたいんだっての」

 

 リュス、聖騎士ロダン、オノレ。

 三人とも、常人より遥かに強いんだが……少数で適宜、魔物を避けながら動くには、実は向いてない。

 野伏(レンジャー)のような技能を修めてないからだろう。

 

 一方で、何気にジルは猟兵たちと並んで、ゲリラ的な夜戦を一晩延々とやれちゃったくらいの猛者。その上、機動力も高い。

 機動戦力として連れ歩くなら、どうしたってこいつ一択になる。

 

「でも、アスタ先輩だって、まだ脚を引きずってるじゃないすか……」

「だから、お前を頼りにしたんだろうが。いざって時は頼むぞ」

「はいはい。……はあ、これだからアスタ先輩は。リュスさんのこと、全然わかってないっすね(ボソリ)」

「なんか言ったか?」

「いーえ、なにも!」

 

 ジルはポニテを揺らすと、人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「で、先輩。うちら、どこを目指してるんすか?」

湖尻(こじり)だよ。まあ、河口でもいいが」

湖尻(こじり)? ……なんすか、それ」

「水の出口のことさ」

「……出口」

「ああ。もし、この湖が外に水を逃がしている“外流湖”なら、出口が必ずあるわけだ」

 

 簡単な話だ。

 

 洪水とは、流れ込む水と、外に出ていく水。

 この収支のバランスが崩れた時に起こる、物理現象に過ぎない。

 

「水文学の基礎的な考え方だ。湖自体を調べるのは、クラーケンがいて難しい。しかし、水の出入り、その収支を調べれば何かがわかる……かもしれん」

「へー、水文学?」

 

 湖尻の位置なら、古地図で予想が出来る。

 今と変化はあるだろうにしても、方向は間違っていないはずだった。

 

「じゃ、収支ってことなら、先輩は入ってくる水も見たいんすね」

「そうだな。でも、どちらかといえば、僕は出口を見たい」

「ずいぶんと、出口にこだわるんすね」

「まあな。周辺の河川で、増水の報告を受けた記憶がないからな。それっておかしいだろ」

「え? ……それのなにが、おかしいんすか?」

「あー。湖の面積が目に見えて広がったなら、普通に考えると、下流へ押し出される水量や勢いも増えるもんだ。この数十年、民の生活に“異常がないのが異常”だよ」

「……なるほど、面白いこと考えるもんすね」

 

 素直に、感心するジル。

 

 僕はそのリアクションが嬉しかったので、調子に乗って喋り始めた。

 

「一応、理屈だけで考えると、湖の面積が増えると蒸発する量も増えるはずではある。だとしても、水の流出量に影響が出ないってのは、さすがに違和感があるわけだな」

「……へー、そうすか」

「だから納得がいくのは、出口が詰まってるか。あるいは、水が地下とかに逃げてるパターンなんだが、これだと地盤に影響ありそうで怖い――っておい、なんだ。その顔」

「いや、なんか……」

「おん?」

「あれ、もしかして……アスタ先輩って、実は頭いいんすか?」

「おい、ぶっ飛ばすぞ」

 

 王立大学(アカデミア)で、学位取得目前だったのは伊達じゃねえよ。

 お前らみたいな専門家に、勝てねえだけだっつの。

 

「いやー。なんか魔物だの毒キノコだの、ヘンなもの食べてるくせに。勉強はできるとか意味わかんないっすよね」

 

 こいつ、ほんっとうにうるせえわ! 呼んだの、誰だよ!(僕です)




いつも応援ありがとうございます!

「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。

作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。