陽気な楽園は、死の檻となる。
「――散れッ!」
回避と同時に、数多の蔓が交差し、僕がいた地面を破砕。
ズドォォンッ!
もはや、これは爆撃に等しい。地面に土煙が巻き上がり、タンポポごと地形が消し飛んだ。
魔人エグレットが振るう蔓は、鋼鉄の鎖を束ねた如き圧倒的な質量を伴い、空気を絶叫させた。
「付け入る隙が、ありませんっ! 攻防一体……まるで意思を持つ嵐です!」
「ぬぅぅうっ! 確かにこれでは、近寄ることすら叶わんぞッ!」
こちらがどんなに連携を試みようと、
「やはり、タンポポだ! 僕たちは足元から、動きを見張られているっ!」
「なんと面妖なっ!」
唸るロダンが、迫りくる蔓を渾身の力で弾き返す。
ガキィィィィィィィンッ!
するとなんと、植物と衝突したはずの大剣から、火花が散った。
(大剣が衝突して、火花が出るだとっ!? くっ、表皮が結晶化してやがる。ケイ素でも、構成に使ってんのか?)
しなやかな鞭でありながら、表面強度は超硬質。さきほど突破したゾンビ共とは、比較にならないほど強靭さだ。
用意した毒も、この表皮も突破しなければ通用しない。
「僕の狩猟刀じゃ、まるで刃が通らんな。柔軟な癖に、どうしてこれほど硬い!? 化け物め、どれだけ強欲な進化を遂げれば気が済むんだ!」
おまけに、奴の『遊び』はただ振り回すだけでは終わらなかった。
「アハハッ、オニーチャン、アソボ! 逃ゲチャ、ダメ、ダヨ?」
「おっとっ!? マジか!?」
――ヒュッ、ヒュバババッ!
蔓の先端が枝分かれし、槍のように鋭く突き出される。
一発。飛び出す刃に、掠めただけで、肩の
「アスタ様っ!」
「構うな、リュス。僕はヤバマーズの当主だぞ! いいから、この背中を見ていろ!」
僕は左手、ウロコの拍動。その導きに従う。
「右、上、三本。死角から一本――来たっ!」
僕はあえてステップを大きく踏み、そこからバク転。
派手に立ち回ることで、
「そうだ、僕を狙え! 最高の獲物はここにいるぞ、
「オニーチャン、踊ッテルノ? アタチモ、踊ルー!」
魔人が歓喜の声を上げるたび、死の舞踏のテンポはさらに加速。
だが、僕が『デコイ』の能力を活かし、狙われば狙われるほど――奴の鉄壁の警戒網には、思考の
「お前ら、三時方向から奴を叩け! 僕が合わせてやるっ!」
腰のベルトから、陶器瓶を手に取った。当然、中身は白骨茸の濃縮廃水。
「直接、ぶつけてやりたかったが――割られる前に、ブチ撒けるしかねえ!」
この猛攻の間隙を縫うのは、常人には不可能だ。
だが、僕にはヤバマーズ家が代々培ってきた、無駄に素早い身のこなしがあるっ!
「いっけぇええええッ!」
その極意は、死の境界をなぞり往く、限界曲芸っ!
ウロコの導きが頼り。迫りくる蔓を足蹴にし、トントンと空中へと飛び上がっていく。
「ナニソレッ!? オニーチャン、ズルイッ!?」
「今だっ!」
パリンッ!
すかさず、空中から投げつけた毒液が、タンポポ畑を汚染していく。
ブシュゥゥゥッ!
不快な腐食音、巻き起こる毒ガス。愛らしい黄色い花々が、どんどん黒ずみ溶けていく。
「ミエナイ!? タンポポ、枯レチャウッ。アタチノ、オハナガッ」
魔人の悲鳴。
狙い通りだ。監視網の一角を、科学的に焼き払ったことで、必勝の布陣に穴が開いた。
「おおおおおっ! 我が一撃っ、聖王の裁きと思えッ!」
絶好の機。ロダンが踏み込み、剛腕で大剣を一閃。
「アェッ、イタイィィッ!? ミンナ、ヤメテヨォッ!?」
断面から粘液が噴き出すが、再生する暇は与えない。
「――参りますっ!」
リュスが、一筋の銀光と化した。
空中を浮遊するエグレットまで、あと数メートル。青白い恢復聖剣の刃が、必殺の軌道をなぞる――。
「ダ、メ。オウチ、カエルノ。ジャマシチャ、ダメェッ!!」
上空に停滞していた無数の綿毛が、意思を持った弾丸へと変貌。リュスの頭上へと、雪崩のように急降下。
「ドウシテ、コンナ事スルノォォォ!」
「くっ! 綿毛が自在に追尾してくるなんて……ッ!」
リュスは銀の残像を残し、身を翻す。
舞うように恢復聖剣を振るい、迫る綿毛を切り払うが、それはあまりに凶悪な二段構えの
一つは、明確な指向性と殺意を伴って放たれる、高初速の種子弾。
もう一つは、その連射の合間を縫うように、ゆらりふわりと不規則な軌道で落ちてくる捕食綿毛。
物理法則を嘲笑うかのような剛と柔の飽和攻撃が、リュスの華麗なる剣術すらも封殺し、じわじわと、確実に、死の包囲網へと追い詰めていく。
――白が、リュスを飲みこもうとしていた。
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