ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第47話 友情の押し売り、クロシュライトが猛ダッシュ!(後半)

「だいたい新資源だと!? まだ、まともに魔力抽出も実現してない石コロだろうが!」

 

 黒銀結晶は、安定化した魔力資源。これは事実だ。けれど、実用レベルでエネルギーを取り出す実験なんてしたことがない。

 加工例だって、せいぜい(やじり)にして、ぶっ放した程度。これを国家規模の発見として、吹聴するのはあまりに詐欺が過ぎる。

 

「だから、俺は嘘は言っていないってば。あくまで将来的な可能性を、親切心から、みんなに教えてあげているだけでね」

「ああ、だろうな! 『明日のヤバマーズは、金貨の雨が降るでしょう』なんて予報も、可能性だけならゼロじゃないもんな!」

「おや、なかなかロマンチックな予報だね。せっかくだし、採用しようかな」

「皮肉だよ、バーカ!」

 

 声を荒らげてやったが、本人はどこ吹く風。

 オノレは悪びれる様子もなく、契約書を滑らせてきた。

 

「先日の宴会代金に、治療費。返済の目処を立たせるには、まとまった外貨が必要だろう?」

 

 うぐっ。思わず、喉が詰まる。

 

「……お前、ずいぶん痛いところを突くじゃないか」

「だから、抵当としてラプラス伯爵家が全面的にバックアップ。……もとい、窓口となる仲介役を担う形にさせてもらおうかなって」

「仲介役だぁ?」

「そうともさ。さあ、君は何も考えず、ここにサインするだけでいい」

「そんな不当契約、了解した記憶はないぞ!」

「記憶にないなら、今ここで作ればいい。さあ、ペンを持ちなよ。未来の大富豪殿」

 

 用意周到。外堀埋めて、退路を断つ鮮やかな手際に戦慄する。

 こいつ、本当に敵に回したくないタイプのヤバいやつだな!?

 

 その時、するりと横からリュスが現れた。

 むぎゅ。……もはやお約束となりつつある、背後からのハグ。柔らかな体温と香りが、僕を包み込む。

 

「失礼します、アスタ様。早速ですが、その契約内容……わたくしも拝見させていただきますね」

「いや、それより、この態勢……。いや、なんでもない」

 

 定期的に僕と接触しないと、リュスの精神が保てないらしいので、こればかりは甘んじて受け入れるしかない。

 これでも、以前の様子を思えば、元気になった方なのだから。

 

「オノレ様。こちらの文面……技術開発や加工工程における、手数料の項目が極めて曖昧ですね。それに、ラプラス側の取り分が多すぎるのではありませんか」

「……おやおや、リュシエンヌ。淑女は、商談の邪魔する野暮は嗜まないんじゃないかな?」

「男爵家単独では、力が弱いのは承知しています。ですが、共同開発の形を取るにしても、もっとアスタ様の名声が王国全土に轟くような条項を盛り込んでいただかないと。……ねぇ、アスタ様?」

 

 や・め・て・く・れ。

 美男美女が火花を散らし、勝手に話を進めていく。

 お願いだから、こっちの意見も聞いてくれ。

 

「そうだ、アスタ。黒銀結晶だが、さすがに正式名称を決めたい。いつまでも、『黒くて銀色に光る結晶』なんて呼び方じゃ、格好がつかないだろう?」

「えー……? うーん。そういうのは、もっと落ち着いてからゆっくり決めたいんだが」

「アスタライトにする? それとも、ヤバマーズダイト? 俺としては、後者の方が響きがマニアックで好きだね」

「勘弁してくれ、さすがに恥ずかしい」

「そうだね。ヤバマーズの名前が入ってたら、売り上げに差し支えがあるもんね」

「ぶっ飛ばすぞ!? さすがに言っていいことと悪いことがあんだろ!(でも、否定はしない)」

 

 一通り茶化されてから、オノレとリュスの逃げ場を許さない視線が刺さる。

 

「でもね、アスタ。話題を支配しているタイミングだからこそ、命名に意味があるのは本当だよ」

「そう、ですね。一番最初の命名者となった事実は必要ですよ」

 

 どうやら、今この場で決定を下さなければ、解散してくれないらしい。

 

「あー、そうだな。エネルギーを内部に閉じ込め、結晶として固定された石だから……」

 

 あまり、ネーミングセンスに自信はないのだが。

 必死に脳を回し、即興でそれらしく紡ぐ。

 

閉ざされた過充電(クロ・シュルシャルジュ)……クロシュライトと言うのはどうだろう?」

 

 それを聞いた二人は、口の中で響きを確認するように何度か呟いた。

 

黒銀結晶(クロシュライト)……ふうん、悪くない。知的な響きだ。そのように記載しよう」

「良い名だと思います、アスタ様。どこか気高さすら感じられます」

 

 幸い、合格点だったらしい。

 オノレは満足げに頷くと、使い魔の小鳥を次々と放ち、処理済みの書簡を空高く送り付けていった。

 

 これだから魔術師(メイガス)は困る。事務処理の速度が、常人の数倍速いのだ。

 

「アスタ。君は、自分を売り込む宣伝が、壊滅的に下手過ぎる。確かに僻地貴族は、魔物を防ぐための盾だ。だが、その職務を全うすることは、王国の『名誉ある守護者』として、正当に称賛されるべき行為なんだよ」

 

 オノレは、自らの名――名誉(オノレ)について、そう言い切った。

 

(まあ、親友がそこまで言ってくれるのは、悪い気はしないんだけどさ……)

 

 でも、僕の肩には、以前よりもずっと重い看板が乗せられてしまった。

 そんなモヤモヤが消えないのだった。

 

 だが……これは僕が、最終目標を達成するには、避けては通れない道でもあって――。

 

 

***

 

 

「リュシエンヌを、聖王教会から奪うのは極めて難しい」

 

 オノレは結論から、切り出した。

 人払いを済ませた書斎で行われた、二人きりの秘密のコーヒータイム。

 

 上質な豆の香り。僕はコーヒーを好まないが、この目が覚めるような香りは嫌いじゃなかった。

 ……もっとも、今は楽しむ余裕などないが。

 

「やけに厳重に人払いをしたがると思ったら……そんな物騒な話題か」

「大事なことだよ。君、彼女を本気で助けたいんだろう?」

「……ああ、そうだ」

「なら、現状を直視したまえよ、ヤバマーズ男爵」

 

 オノレは、軽薄な皮肉屋の仮面を脱ぎ捨てていた。

 

「まず、リュシエンヌに投与されている血清は、祓魔女(エクソシスター)用に調整されたと言っていた。もはや、特注の『祓魔女の血清(エクソシスター・セーラム)』と呼んでもいいだろう」

「聖王教会が独占保有する特異秘術(アルカナ)……血清技術か」

「そう。で、極めつけに『恢復聖剣』まで、持たされている。これらは教会の莫大な予算と秘匿技術が投じられた、いわば――戦局を左右しうる戦術兵器だよ」

 

 聖王教会が運用する、祓魔女(エクソシスター)と言う役職の正体。

 

「俺が思うにね、アスタ。これは……聖王教会の特異秘術(アルカナ)を結集した兵器運用試験なんだ」

 

 人間のカタチをした兵器として、祓魔女(エクソシスター)を試運転している。

 

 なるほど、その通りなのだろう。

 で、膨大な投資を回収する前に、教会がそんな貴重な資産を、簡単に手放すはずがないわけだ。

 

 だが――それがどうしたっていうんだっ!

 

「それでも、僕は……ここで諦める気なんて、万に一つも無いが?」

 

 この手を、離したくない。

 今、諦めたら……僕は、自分の魂を失ってしまう気がする。




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