ついに、ヤバマーズ・フルコース完成っ!
これで迎え撃つ準備は、盤石に整ったわけだ。
「よお、オノレ。会食のフルコースが完成したんだって? 間に合わないかと思ってひやひやしたぞ。さすがは我が
労いがてら、気軽に声をかけた。
しかし、魔物食材と散々格闘させられたオノレは、とうに精神崩壊。
焦点の合わない眼をギラつかせると、僕の胸倉を掴み上げてきた。
「いいかいっ! 俺が御前会議にのぼり詰め、法学士を牛耳った暁には……『提供料理の材料と産地明記をする法律』を作ってやるからなっ! そして、ヤバマーズ産は絶対に食べないっ!」
「おう、壮大な目標だな。がんばれよ」
怒ったオノレに、冷ややかに返す。
千年経っても無理だよ、そんな法律。
秘伝を隠したい料理ギルドに、混ぜ物で暴利を貪る大商人。
関税を誤魔化したい地方領主に、調理過程を蔑む高位貴族。
社会の隅から隅まで。
底辺民から、雲の上の貴族まで、み~んな嫌がるはずだ。
(まさに八方ふさがりだ。人間が人間である限り、そんな時代は絶対に来ないね。……まあ、そう思っても言わないのが、僕の優しさだが)
僕は、友人を無意味に論破しない主義だ。
議論に勝つ快感はたまらないが、仲間に恥をかかせるやつがいたら、とんでもない阿呆である。
背中から撃たれても、文句は言えない。
歴史を紐解いても、仲間をボコボコにして状況が良くなった例なんて、砂漠でダイヤモンドを探すより困難な話だろう。
「あっ、そうだオノレ。大事なことを忘れてた」
「……なんだい? 君のその憎まれ顔に、羽ペンを突き刺す前に言ってくれ(殺意)」
「本番のディナーだが。お前も当然、ゲストと一緒に食うんだぞ?」
「なん、だってぇ……!?」
「いや、ラプラス伯爵家の交渉窓口として立つんだろ。よっ、我らが栄光ある筆頭スポンサー殿♪」
「……ぐ、ぐぐぐぐっ!」
「まさか、自分たちの看板を背負った会食で、一口もつけずに残す……な~んて、不作法しないよな?」
すると、再びオノレが発狂。
陶器の皿を叩き割りそうな勢いになったので、放置して立ち去ることにした。
理論派の天才も、案外脆い。
まあ、今のは作戦遂行上、避けては通れない論破だったから仕方ないよね。だから、セーフだ。
***
とうとう布陣の最終確認、目指せ玄関ホール!
そこには、普段は森で獣を追っている粗野な
「若様。……皆、こちらに出揃っておりますぞ」
横に控えるのは、老執事ゲロハルト。
ふと視線を落とすと、爺の革靴は鏡のようにピカピカに磨き上げられていた。
リュスからの指摘が、よほど骨身に染みたらしい。
「うむ。仕事が早いな。感心したぞ」
「これもまた、領地の未来を賭けた戦だと聞きますれば。この爺めも、不肖ながらに張り切っております」
「……せいぜい腰痛が悪化して、戦線離脱しない程度に頑張れよ」
「ははあっ、勿体なきお言葉!」
整列した男たちの先頭に立つのは、鋭い眼光を放つ眼帯のリーダー格。
さらには賊にしか見えない、筋骨隆々の強面たちがずらりと並ぶ。
「旦那様。こりゃ一体、どういう風の吹き回しで……? まさか、オレ達にまで、ホールの雑巾がけでもさせようって話じゃねえでしょうな」
「んー。お前、とりあえずその汚いヒゲを剃れ」
「ヒ、ヒゲを!? 男の誇りを剃れとおっしゃるんで!?」
「そうだ、ツルッツルにしろ」
「ええっ……?」
貫禄がなくなるから、みんな嫌がるんだよな。髭剃るの。
「で、貸し出す特注の鎧を着て、柱の前に彫像みたいに突っ立ってろ」
「……こいつは、何の罰ですかい? あれか密造酒を売りさばいた件か?」
「密猟以外の余罪を自白すんなバカ! あと……ちょっと、試しに笑ってみろ」
「へ? 笑う?」
「そうだ、にこやかにな」
「こうですかい?」
ニカッ。
剥き出しになった犬歯、凶悪な三白眼。
ヒィッ、怖すぎるっ!?
「お前、今、僕を威嚇したな? 反逆罪で処刑すんぞ」
「笑えって言ったのに、理不尽ですよ旦那様っ!?」
「もういい、お前ら全員、今日一日は絶対に口を開くな」
「はあ? その口を開くなってのは……?」
もうっ! 物分かりが悪い奴だな!
「要するに、だ! お前らが綺麗な
「「「そんな美味い話がっ!?」」」
現金な連中だ。
下品な笑みを浮かべて浮かれては、品性の欠片もない指笛を鳴らす。
「おいおい、金ってたくさんあったら唸るのかよっ!」
「いや、知らなかったぜ。見たことねえからなぁっ!」
……マジで、お行儀良くさせないとダメだな。こりゃ。
「本当に、黙ってろよ? 余計なことすんな」
「でもよぉ、旦那様。さすがに微動だにしないってのは、キツいですぜ」
「そうだそうだ! 動かねえってのは、性に合わねえよっ!」
ジッとしてるのは無理か、こいつら。
そりゃ、それが出来るなら、もう少しまともな仕事してそうだもんな。
「ふむ。なら、それこそ、適度に
「おっ、メンチ切れってコトですな。そいつはいい、大得意だぜっ!」
自慢の筋肉をピクピクと波打たせ、気合を入れる
(ちげーよ。そうじゃねえよ。ここが、山賊の根城だと思われるだろうが。ならず者博覧会かよ)
でも、まあ。
……うちはこんなものでいいのかもしれない。
さあ、それから一刻ほど。
使用人たち全員に身を整えさせて、集合させる。
集まった全使用人たち――付け焼刃の教育を受けた村人たちを見渡せば、男も女も、借りてきた猫のように緊張していた。
(だが、流石に壮観だな。なんだ、凄いことになったな)
揃いも揃って、ヤバマーズの
そして、共通して……みな野心が宿っている。
なんだか、呑み込まれそうになった。
ここから先は、未知の領域だが。
皆が、なにかが変わるかもしれないと、胸に希望を抱いているのだ。
(本当に、領主ってのは重いんだ。いや、わかっていたはずなんだが……)
すると、老執事ゲロハルトが、頷いてくる。
給仕役のヘイホーも、メイドに扮したジルも、疲れた様子のオノレも。
――僕の、憧れのリュス。
コホン、と一つ咳払い。
僕は全霊、声を張り上げる。
「皆の者、アレを見よ!」
視線が一斉に、上部へ。
女たちが総出で仕上げた巨大なタペストリーが、メインホールに掲げられていた瞬間だった。
「さあ、今こそ。決戦の時。我々ヤバマーズこそが、この僻地の王者であることを! 欲深き商人たちに、骨の髄まで思い知らせてやるぞ!」
「「「「うぉおおおおおおおおっ!」」」」
地を揺らすような咆哮。
男も女も、
館を震わせる、雄たけび。
僕らの目的はただ一つ。この領地の、僕たちの繁栄。
今こそ、極貧の領地を、耐え忍んできた歴史を、僕らの代で変えてやる。
そんな熱量こそが、館を震わせた。
ヤバマーズ男爵家の館は、今、オノレ直伝の厚化粧を施され。
かつてないほどに荘厳な
裏方を、守る肝っ玉母さんたちも、準備万端。
門にも廊下にも、屈強な男達。布鎧に身を包んだ
彼らがお行儀よく、口を真一文字に結んでいる限り――。
このオンボロ屋敷は、鉄血の規律が支配する難攻不落の要塞に見えた。
「さあ、もう何にも負ける気がしないっ! かかってこい、商人ども!」
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