視界に映るのは、我らが誇る
改良を施された防毒マスク、土を塗りたくった暗色の外套。
佇まいは、まったくもって正義の味方に見えない。
僕は、そんなオッサンどもを
「せっかくの
「へっ。どうせ、あっしらには似合っちゃいねえんですよ」
「そうか? ……口さえ閉じてりゃ、王都の騎士より強そうに見えたぞ。地獄の番人に見間違うくらいにな」
「でへへ、そうですかい? こいつは傑作だ!」
軽口を叩き合えば、まんざらでもなさそうな色。
そう。口さえ開かなければ、ちゃんと立派な軍人に見えたんだ。
善人でもなければ、根っからの悪人でもない。
「最後に、領民へ演説でもかましてから行くとしようか」
「へーい、派手に頼みますぜ」
だが、そんな無骨な兵たちの列を割って……。
不釣り合いな影が飛び出してきた。
「アスタ様ッ……!」
法衣を振り乱し、なりふり構わず縋りついてくる。
「待ってください! 行かないで――いえっ、わたくしもっ! わたくしも連れて行ってくださいませ!」
細い指先が、肉を突き破らんばかりに食い込む。
……痛い。
「リュス。……言ったはずだ、貴女は客人の側にいろと」
僕は努めて優しく。けれど明確な拒絶を込めて、引き剥がそうとした。
だが、今のリュスは明らかに正気ではない。
「嫌、ですっ。連れて行ってっ! ――ああっ、やっぱり、行かないでくださいっ! 今、ここを出れば……あなたは……っ!」
「落ち着いてくれ、リュス。そんなに僕が頼りないか?」
「違います、そんなことじゃない……!お願いです、考え直してください。今なら、今ならまだ間に合うからっ!」
「いや、もう時間がない。奴らが攻めて来る」
「なら! あそこに……ほら、あそこにロダンもいますっ! 二人で道を切り開けば、逃げ出せるかもしれない!」
「僕は逃げないよ、それは出来ない相談だ」
「嫌ですっ! 行かせない、絶対に行かせませんっ!」
毅然としていたはずの彼女が、幼子みたいにボロボロ涙をこぼす。
見るに見かねて、たまらず聖騎士ロダンが羽交い締めにした。
「落ち着くのだ、リュス!」
「いやぁあっ! だめですっ! お願い、ロダン離して! 離してっ!」
半狂乱の叫び。
剛腕に拘束されてもなお、僕を追おうと四肢を暴れ狂わせる。
その取り乱しようは、もはや尋常ではない。
「……リュス。一体、どうしたっていうんだ」
「ああ、そうだ。
「リュス……?」
「そうしたら、あなたは助かります! そうすれば――」
「おい、待てって!」
「あなたがっ! あなたが生きてさえいれば、わたくしは……ッ!」
震えている。
ガチガチと歯の根が合わないほどに。
――直感した。
その視線の先にあるものを。
「リュス、僕の目を見ろ」
強引に肩を掴み、視線を合わせる。
どんよりとした
リュスは顔を歪め、耐え切れず目を逸らした。
「そう、か」
確信した。
どれほど、悲劇を視たのだろう。
どれほど、独りで体験させられたのだろう。
(……どうやら、想像以上に厳しい戦いになりそうだな)
僕は、あえて背を向けた。
「ダメですっ! 行かないで、アスタ様っ!」
「君は、僕が守る。絶対にだ」
「――っ!?」
「だから、何が起きても心配するな」
「約束っ! アスタ様、わたくしとの約束はっ!? わたくし、今、あなたの気持ちが聞きたいっ!」
「……ロダン、リュスから目を離すなよ。頼んだぞ」
それだけ言い残し、兵を伴って道を急ぐ。
今夜、僕が死ぬとしても。
別に、怖いとは思わなかった。
「……どうして? わたくしは、連れて行ってくださらないの?」
投げかけられたのは――。
「……――その、方は……連れて行く、のに?」
世界から、
どうして、以前のように“一緒に死んでくれ”と言ってくれないのか?
そんな問いかけが、突き刺さる。
――けれど。
この夜襲に、
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