「ヒャッハーッ! 見るっす、アスタ先輩! めちゃくちゃ燃えてるっすよ!」
一人のポニテメイド。
ジルが髪尾を揺らしながら、次弾を装填。
「いいから慎重に撃てよ。……弾は、それほど多くない」
「はいはいっす。うししっ、にしてもアスタ先輩、マジで性格ヤバマーズっす! こんな兵器を堂々と使うなんて、人として終わってるっす!」
「うるせえ、形にしたのはお前だろ。つか、領地名を語呂良く悪口に使うな。失礼だぞ」
「ひひっ、もうイケるっすよ。次はこいつで何人消し飛ぶか実験っすね~♪」
――ドォォォンッ!
即席投擲機から、二発目が放たれた。
密集する群衆に炸裂。やはり立ち昇る火柱。
「あ、あが……っ、げほっ! げほぉおおおっ!!」
まさに阿鼻叫喚。
効果は絶大。
急速な熱による爆圧、粘りつく持続的炎上。
さらに最悪なのは、熱風に乗って広がる有毒の煙。巻かれた男たちが、次々と喉を掻きむしって膝をつく。
「うげぇぇぇえええっ!」
「煙を吸うなっ、うぶっ……。ヒデェ臭いだ、内臓が口から出そうだぜ……」
「魔術師だ! 性根のひん曲がった外道魔術師がいるにちげえねぇッ!」
殺傷力より、ひたすら苦しませ戦闘意欲を破壊する。
粘膜を焼き、視界を奪い、猛烈な嘔吐感を叩き込む。
「うひひっ。アスタ先輩、見てくださいよ。アイツらの無様な踊り。略奪を楽しもうとした連中には、お似合いのダンスフロアっすね~♪」
「風があるんで効果は薄いが……混乱を巻き起こすには十分だったな」
「ドロドロに調合した特製焼夷剤に、混合毒を混ぜて一気に拡散させる。ひゃぁああ、先輩えげつないっす~♪」
「
「え~? 煙の色からすると、まだまだ不純物が残ってるっすよ。職人としては納得いかないっす!」
扱いやすく、入手が手ごろな毒物。これが頭の捻りどころだった。
逆に、白骨茸はまったく使い物にならなかったんだよ。……有機物の加工って難しいんだよなあ。実に奥が深い。
ジルは工具を、器用に弄びながら邪悪に笑う。
「やっぱり、技師のうちがいて正解っすよね? この貸しはかなり高くつくっすよ」
「……わかってるって」
「期待してるっすよ。お礼はたっぷり、弾むマネーでお願いするっす」
専門家であるジルの参戦は、もはや詭弁に等しい。
正体を隠し、ヤバマーズ領の使用人に偽装したままだ。
高潔な貴族が相手ならいざ知らず、法を外れた盗賊相手なら、毒だろうが不意打ちだろうが許される。
それが僕の、そしてこの地のルール。
しかし、それでも――これは理想的な手段ではない。
「これじゃあ、
「へ? まさか今さら、やめるなんて言わないっすよね?」
「いや、使う。僕は殺し合いにおいて
「さすが清々しいっすね、アスタ先輩! 実は領主より、ドワーフの養子が向いてるっすよ。うちの親方を紹介してあげましょうか?」
「バカ言うな。つか、それ、お前と兄弟になるじゃねえか」
切り上げて、潜伏する味方へ号令を飛ばす。
ヤバマーズの男たちが、一斉に動き出した。
彼ら猟兵にとって、ここは慣れた庭先。
一方、外から来たならず者たちにとっては、ここは怪物が潜む魔境。
事前の地形情報?
そんなもの、気休めにもなりゃしない。
暗闇と煙のなかじゃ、土地勘がない余所者に残されたのは死だ。
「獲物を狩れ。深追いは無用……一撃離脱を徹底し、確実に削れ」
「「「応っ!」」」
殺意の唱和。
猟兵たちが次々、茂みへ消えていく。
――ガサッ。
「お前、誰だ……――――あ?」
返礼は、冷たい鉄の感触。
声を上げる暇すら与えず、喉や臓物を切り裂く。
崩れ落ちる体を抱え、音を立てないよう静かに地面へ転がす。
再び、僕らは闇へと同化。
木々の隙間、岩の影、足元の窪み。
ありとあらゆる死角から、死神の指先を伸ばす。
逃げ場などない。
ここは僕らが守り、耕し、呪い、愛してきた腐れ縁の土地だ。
その土の一粒一粒が、今は侵入者を搦め取り、命を吸い上げる泥濘へと変貌している。
「ぎゃああああっ! 足が、足があああああっ!」
「トラバサミだ! 足下に気をつけ……ぐふっ!?」
僕たちは、正面からは戦うつもりなど毛頭ない。
ヤバマーズ猟兵は、殺しのプロではない。しかし、優れた猟師の集団なのだ。
つまり、行うべきは戦争ではなく――狩り。
パニックに陥った連中は、見えない敵に怯え、武器を振り回して無様な同士討ちを始める。
すべては功を焦り、陣形を崩した報いだ。
どこに味方がいるかわかってたはずなのに、出鱈目に進軍したせいで、今や隣も前も後ろも、息をしている者が誰なのかさえ判別できなくなっている。
まあ、すぐに息すらしなくなるんだけどな。
「う、うわあああ! どこだ、どこから来やがった!?」
「光を! 松明を点けろッ! 照らし出せ!」
恐怖に耐えかねた盗賊が、焦る手で火打石を叩く。
だが、その微かな火花が生まれた刹那――。
――シュパッ!
喉笛にボルトが突き刺さる。
今さら灯りを点けても遅い。そんなもの“的”を教える合図になるだけ。
で、一番の的は……デカい声を出すリーダー格だ。
「うろたえんじゃねぇ! いいから前に出ろっ! 村までブチ当たれば、こっちのもんだろうが! いいか、テメェら――」
おいおい、勘弁してくれ。そう怒鳴り散らすな。
せっかく発狂しかけてる部下に、明確な指針なんて与えてやるなよ。
男が言い終える前に、樹上からポニーテールが舞い降りた。
ジルだ。
メイド服を翻すと、二刀に構えた切断工具を駆動。
超硬質の回転刃が、男の側頭部を迷いなく破砕した。
「……アスタ先輩。やっぱ人間って……だいぶ脆いっすね?」
返り血すら顧みない。
「まあ、そんなもんだろ。てかお前、隠密性を捨て過ぎ。ドワーフ工具駆動させんな」
「えー?」
「えー、じゃねえよ。……ったく」
僕もまた、軽口を叩きながら、獲物の深々と突き立てた狩猟刀を引き抜く。
どうにも、やってることがいつもと変わらな過ぎて……。
「ぶっちゃけ、突き詰めると。……人間もゴブリンも、そこまで変わんないのかもな」
そんな風に、感じてしまっていた。
僕の作戦は至ってシンプルだ。
敵は軍勢とは名ばかり、複数の盗賊集団の寄せ集め。
その脆弱な結束を、ひたすらに突く。
村にあった緊急脱出用の通路から抜けて、背後から強襲。
混乱を煽って同士討ちを誘発しつつ、頭を一つずつ潰していく。
「百や二百をまとめて相手にゃ出来ないが……数人ずつの塊を、何十回もブチのめせばいいのなら、そこそこ良い勝負になるだろ」
そう、何十回も勝ち続ければ、いずれは殲滅できる。
他にも策はあるが、まずはそれ。各個撃破だ。
「せっかくバラバラに動いてくれてるんだ、有難く利用してやろうじゃないか」
すると、すぐ隣でフクロウが羽ばたいて来た。
『アスタ、はぐれ魔術師だ。……防衛陣地に姿を見せてる、なにか仕掛けて来そうだ』
ここへ連れてくることができなかったオノレの声。
彼こそ、今や僕にとっての“空からの目”であり“千里の耳”だ。
「そんな連中までいるのかよ、めんどくさいな……」
僕の直感、猟兵たちが積み上げた経験と土地勘。
そこに戦場を俯瞰する視点が加われば――死角はない、はず。
(でも、なんだ? なにがこの先……僕を殺しうる?)
それでもなお、まだ気付いていない危機が……必ず、どこかに埋まっているはずだった。
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