ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~   作:裃 左右

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第97話 三日月の左手、三流の魔導。ついでに、お前の順位三番目。

「ぎゃああああああっ!」

「どこだ!? クソが、姿を見せろっ!」

 

 耳を劈く断末魔が、また一つ。

 盗賊たちが、伸びる刃に刈り取られる。

 

 こいつで、何匹めのリーダー格だったかな。

 いちいち数える余裕もない。

 

 って、なんだ……?

 

「ふむ……さっきから、どうにも左手が疼くな」

「はぁ? 左手ぇ?」

「ああ、ズキズキとな」

「なに言ってんすか、アスタ先輩。土壇場で、思春期こじらせちゃいました? あ、さては闇の力でも暴走するっすか? ひゅーひゅー、かっくいい~!」

「お前、ぶっ飛ばすぞ」

 

 茶化す、ジル。

 こいつ、僕のことナメすぎだろ。敬う気あんのか?

 

(ってか、そういや……ジルには、まだ左手のこと説明してなかったっけ? 普通に忘れてたな)

 

 しかし、さっきから左手のウロコが拍動を繰り返している。

 それも、前と微妙に違う感覚。

 

 すると迫る殺意が――視えた。

 

「向こうだ。……魔術師がいる」

 

 ――シュパァンッ!

 

 直後、飛来した火炎弾。

 左手の甲から『三日月の刃』を一瞬だけ展開。一閃した。

 

「魔術が、無力化されただとっ!?」

「はぁああ!? なんすか、その腕ぇぇえっ!?」

 

 敵味方から響く、驚愕。

 

(右方向、三十歩先くらい。木の影――崩れた隊列に、まだ折れていない強い光が一つ)

 

 お返しだ。

 背中から、ネジ巻き式ボウガンを引き抜くと無造作に放つ。

 

「ぐはぁっ!?」

 

 手ごたえあり。

 

「それ! 今の、なんすかっ!」

「色々端折ると……たぶん、放たれようとする魔術の指向性がわかる?」

「そんなの、魔術師にとって天敵じゃあないっすか!」

「でも、残念ながら、魔素を伴わない“純人間の殺意”はまるでわからん」

「そこまでわかったら、もう人間やめてるんすよっ!」

 

 魔物の殺意は、けっこうわかるんだけどな~。

 たぶん魔素の反応が伴うから、なんだと思うけど。

 

 改めて、この力を使ってみてわかる。

 この感覚器官は、敵味方が入り乱れる混沌の極致でこそ真価を発揮する。

 

 その上――。

 

「この真っ暗闇のなかで、術士が狙い撃ちされてやがるっ!?」

「……もう、どうなってやがんだ」

「お前ら、それどころじゃねえっ。――ひぃっ魔物がっ! 変異狼(チェイサー)が寄って来てんぞ!?」

 

 ――血の匂いに寄って来た魔物を、回避するにも使える。

 

「こっちだ、迂回するぞ! ……はぐれ魔術師(ウォーロック)がいるのに、雑魚にいちいち構ってられるか」

「でも、こんな争いに参加する術士なんて、どうせ破壊魔術をちょっと齧ってるだけの三流っすよ」

「そうだな。実力あるインテリなら、こんな汚い戦場に興味ないだろ」

 

 たまに、田舎にはいるのだ。

 偶然、魔力の素養を得ただけの癖に、火遊びを覚えて図に乗る阿呆が。

 

 破壊の才を持った人間が、適切な教育を受けなかったらどうなるか。

 

 そういう奴は大抵、世界の法則――すなわち、魔導を理解せぬままに、力を振り回す。

 適切な理論が伴わないからたいした芸はできないし、遅かれ早かれ変異死する。そんな末路を辿るけど……生きている間は、治安を乱す害悪でしかないわけで。

 

「だが三流だろうが、村の防衛陣地に撃ち込まれると面倒だ。急いで対処する」

「了解っす。まっ、ちょっとした火器だと思えばそこそこ脅威っすね~」

 

 今、僕が把握している大きな脅威は、三つ。

 

 一つ目。

 血に酔いしれて、紛れ込み始めた魔物たち。

 案外こいつらも狡猾だ、弱った獲物を率先して狙う。要警戒。

 

 二つ目。

 先ほどのはぐれ魔術師(ウォーロック)。率先して潰さないと、村が危ない。

 

 で、三つ目。今、何気にしんどいのが……。

 

 ――ガギィンッ!!

 

 火花を散らす。

 

 甲冑に身を包んだ騎士による、必殺の一太刀。

 手にした狩猟刀で、なんとか受け止めた。

 

「貴様が敵将かぁっ! よくも――よくも同胞をっ!」

「……また、黒騎士かよ。次から次へと」

 

 そう、時々黒騎士が混じって来る。

 実態は錆止めに黒く染まった、主君を持たぬ傭兵だが。

 

「チッ。……やはり、騎士鎧にゃ毒煙は効果が薄いか」

 

 騎士鎧は、対魔術や対魔物も想定している。耐火や対毒の付与がされていることも少なくない。

 着込める技術の結晶、言わば歩くお宝みたいなもんだ。

 

「どうやらお前の着てるそいつは、見掛け倒しの安物じゃないらしいな?」

「卑劣なっ! 辺境の若造が、毒など戦に使いおって! 貴様、それでも誇りある貴族か!」

「貴族である前に、土地を守る領主としての責務があるんだよ。……そう、お前と違ってな」

 

 刃を押し返しながら、僕は冷徹に告げる。

 

「――だいたい害獣駆除に、礼儀も作法もあるか」

「我々が害獣だと!?」

「罪なき民を殺し、奪い、尊厳を踏みにじろうとする――そんな誇りなき獣を、害獣(バーミン)と呼ばずして何と呼ぶっ!」

「うぐっ……! おのれぇええっ!」

 

 逆上した男は、さらに力を込めてくる。

 

 すかさず僕は重圧を逆手に取り、後方宙返りで低空にいなし着地。

 ヤバマーズ家に伝わる、伝統技術。無駄に素早い身のこなしだ。

 

 同時に、跳躍したジルの切断工具が唸りを上げた。

 

 黒騎士は咄嗟に防ごうとするが、超硬質回転刃の破壊力は常軌を逸している。

 鋼と鋼がぶつかり削られ、黒騎士の剣にひびが走る。

 

「いししっ♪ そんなナマクラで、工房特製の一品が防ぎきれると思ってるっすか?」

「おのれ、小娘……っ」

「あー! こいつ、今うちのこと“小娘”って言ったぁぁっ!!」

 

 いや、そりゃ仕方ないだろ。

 お前、今、メイド服で女装してんだから。

 

「いいから、ジル。そいつの相手なんかしてらんないぞ、さっさと次だ!」

 

 騎士鎧を正面から破るのは手間だし、腐っても騎士。さすがに腕も立つ。

 僕たちじゃ相性が悪い。

 

 で、単体性能が高いわりに、動きも遅く柔軟性はない。

 強いからなに? 結局、村の防戦線を突破する能力は限定的だろ?

 

 結論――討伐優先順位は最下位。

 相手にするどころか、視界に映す価値なし。

 

「貴様ら、逃げるのかっ! 堂々と勝負をしろっ!」

「はあ。……僕らに相手をして欲しかったらな、正当な家名を名乗れる立場になって出直してこいよ。犯罪者の分際で、他人に名誉を要求すんな」

「……っ!」

「行くぞ、ジル」

 

 僕が声を掛ければ、ジルはニヤリと笑い。

 ――義足のギアを、最大まで引き上げた。

 

「あいあいさー! 適当にぶちかまして、とっととズラかるっす!」

「なっ――!?」

 

 駆動音が轟き、衝撃が走る。

 狩りは、あまりに順調だった。




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