「ぎゃああああああっ!」
「どこだ!? クソが、姿を見せろっ!」
耳を劈く断末魔が、また一つ。
盗賊たちが、伸びる刃に刈り取られる。
こいつで、何匹めのリーダー格だったかな。
いちいち数える余裕もない。
って、なんだ……?
「ふむ……さっきから、どうにも左手が疼くな」
「はぁ? 左手ぇ?」
「ああ、ズキズキとな」
「なに言ってんすか、アスタ先輩。土壇場で、思春期こじらせちゃいました? あ、さては闇の力でも暴走するっすか? ひゅーひゅー、かっくいい~!」
「お前、ぶっ飛ばすぞ」
茶化す、ジル。
こいつ、僕のことナメすぎだろ。敬う気あんのか?
(ってか、そういや……ジルには、まだ左手のこと説明してなかったっけ? 普通に忘れてたな)
しかし、さっきから左手のウロコが拍動を繰り返している。
それも、前と微妙に違う感覚。
すると迫る殺意が――視えた。
「向こうだ。……魔術師がいる」
――シュパァンッ!
直後、飛来した火炎弾。
左手の甲から『三日月の刃』を一瞬だけ展開。一閃した。
「魔術が、無力化されただとっ!?」
「はぁああ!? なんすか、その腕ぇぇえっ!?」
敵味方から響く、驚愕。
(右方向、三十歩先くらい。木の影――崩れた隊列に、まだ折れていない強い光が一つ)
お返しだ。
背中から、ネジ巻き式ボウガンを引き抜くと無造作に放つ。
「ぐはぁっ!?」
手ごたえあり。
「それ! 今の、なんすかっ!」
「色々端折ると……たぶん、放たれようとする魔術の指向性がわかる?」
「そんなの、魔術師にとって天敵じゃあないっすか!」
「でも、残念ながら、魔素を伴わない“純人間の殺意”はまるでわからん」
「そこまでわかったら、もう人間やめてるんすよっ!」
魔物の殺意は、けっこうわかるんだけどな~。
たぶん魔素の反応が伴うから、なんだと思うけど。
改めて、この力を使ってみてわかる。
この感覚器官は、敵味方が入り乱れる混沌の極致でこそ真価を発揮する。
その上――。
「この真っ暗闇のなかで、術士が狙い撃ちされてやがるっ!?」
「……もう、どうなってやがんだ」
「お前ら、それどころじゃねえっ。――ひぃっ魔物がっ!
――血の匂いに寄って来た魔物を、回避するにも使える。
「こっちだ、迂回するぞ! ……
「でも、こんな争いに参加する術士なんて、どうせ破壊魔術をちょっと齧ってるだけの三流っすよ」
「そうだな。実力あるインテリなら、こんな汚い戦場に興味ないだろ」
たまに、田舎にはいるのだ。
偶然、魔力の素養を得ただけの癖に、火遊びを覚えて図に乗る阿呆が。
破壊の才を持った人間が、適切な教育を受けなかったらどうなるか。
そういう奴は大抵、世界の法則――すなわち、魔導を理解せぬままに、力を振り回す。
適切な理論が伴わないからたいした芸はできないし、遅かれ早かれ変異死する。そんな末路を辿るけど……生きている間は、治安を乱す害悪でしかないわけで。
「だが三流だろうが、村の防衛陣地に撃ち込まれると面倒だ。急いで対処する」
「了解っす。まっ、ちょっとした火器だと思えばそこそこ脅威っすね~」
今、僕が把握している大きな脅威は、三つ。
一つ目。
血に酔いしれて、紛れ込み始めた魔物たち。
案外こいつらも狡猾だ、弱った獲物を率先して狙う。要警戒。
二つ目。
先ほどの
で、三つ目。今、何気にしんどいのが……。
――ガギィンッ!!
火花を散らす。
甲冑に身を包んだ騎士による、必殺の一太刀。
手にした狩猟刀で、なんとか受け止めた。
「貴様が敵将かぁっ! よくも――よくも同胞をっ!」
「……また、黒騎士かよ。次から次へと」
そう、時々黒騎士が混じって来る。
実態は錆止めに黒く染まった、主君を持たぬ傭兵だが。
「チッ。……やはり、騎士鎧にゃ毒煙は効果が薄いか」
騎士鎧は、対魔術や対魔物も想定している。耐火や対毒の付与がされていることも少なくない。
着込める技術の結晶、言わば歩くお宝みたいなもんだ。
「どうやらお前の着てるそいつは、見掛け倒しの安物じゃないらしいな?」
「卑劣なっ! 辺境の若造が、毒など戦に使いおって! 貴様、それでも誇りある貴族か!」
「貴族である前に、土地を守る領主としての責務があるんだよ。……そう、お前と違ってな」
刃を押し返しながら、僕は冷徹に告げる。
「――だいたい害獣駆除に、礼儀も作法もあるか」
「我々が害獣だと!?」
「罪なき民を殺し、奪い、尊厳を踏みにじろうとする――そんな誇りなき獣を、
「うぐっ……! おのれぇええっ!」
逆上した男は、さらに力を込めてくる。
すかさず僕は重圧を逆手に取り、後方宙返りで低空にいなし着地。
ヤバマーズ家に伝わる、伝統技術。無駄に素早い身のこなしだ。
同時に、跳躍したジルの切断工具が唸りを上げた。
黒騎士は咄嗟に防ごうとするが、超硬質回転刃の破壊力は常軌を逸している。
鋼と鋼がぶつかり削られ、黒騎士の剣にひびが走る。
「いししっ♪ そんなナマクラで、工房特製の一品が防ぎきれると思ってるっすか?」
「おのれ、小娘……っ」
「あー! こいつ、今うちのこと“小娘”って言ったぁぁっ!!」
いや、そりゃ仕方ないだろ。
お前、今、メイド服で女装してんだから。
「いいから、ジル。そいつの相手なんかしてらんないぞ、さっさと次だ!」
騎士鎧を正面から破るのは手間だし、腐っても騎士。さすがに腕も立つ。
僕たちじゃ相性が悪い。
で、単体性能が高いわりに、動きも遅く柔軟性はない。
強いからなに? 結局、村の防戦線を突破する能力は限定的だろ?
結論――討伐優先順位は最下位。
相手にするどころか、視界に映す価値なし。
「貴様ら、逃げるのかっ! 堂々と勝負をしろっ!」
「はあ。……僕らに相手をして欲しかったらな、正当な家名を名乗れる立場になって出直してこいよ。犯罪者の分際で、他人に名誉を要求すんな」
「……っ!」
「行くぞ、ジル」
僕が声を掛ければ、ジルはニヤリと笑い。
――義足のギアを、最大まで引き上げた。
「あいあいさー! 適当にぶちかまして、とっととズラかるっす!」
「なっ――!?」
駆動音が轟き、衝撃が走る。
狩りは、あまりに順調だった。
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