そのうちフリガナ被りそう…
「はいこれ」
「……これは?」
フリーレンが鞄から一冊の魔導書を取り出し、渡してくる。保存の魔法がかけられたそれに、若干の見覚えがあった。
確か、千年くらい前に書いた魔導書達がだいたいこんな見た目だった気がする。……『
「私の師匠がお前に会ったら渡せって。昔、見逃したお前が落としていったものだってさ」
「あぁ、あの時の……」
千年前でも色褪せない、あの赤毛の女性が脳裏にチラつく。濃密に死を意識したのは、あの時が初めてだった。あの一件で、『
あのタイミングだったのか、『
「人間がエルフの師、か。……死に目には会えたか?」
「ちゃんと看取ったよ」
「そうか、それはよかった。肉親や恩師の死に目に会えない無念といったらないからな」
「…………」
……この魔導書、途中までは見慣れた術式が描かれているけど、半分を超えた辺りから全く違う系統の構築になってる。……落とした時は未完成だったのを、フリーレンの師匠が完成させたって事か。
「……私より、ずっと魔法を作るのがうまいな」
「やっぱり分かる? 師匠の魔法術式って凄く効率がいいんだよね」
「この術式の構築なら、魔力のムダが殆ど発生しない。私達ほどの魔力量があれば、一年中使ってられるだろうな。……フリーレン、師の名を聞かせてもらっても?」
「フランメ」
「納得だ」
人類における魔法の開祖。とある領地に、千年続く大結界を貼った張本人。魔族の侵入を阻み、人々を守護する大結界は今も健在。
……そんな大天才に、書きかけの魔導書を完成させてもらったとはな。大事にしよう。
「……今、私達ほどのって言った?」
「少なくとも千年は生きているエルフが、そんな可愛い魔力量で収まるものか」
制限特有の揺らぎを感じ取ることはできなくとも、分かる。私よりも、フリーレンはずっと強い。踏んできた場数も経験も、全く比較にすらならない。フランメから逃亡し、とあるエルフの強襲を受けてからそれなりに鍛練を積んできたけど……全く歯が立たないだろう。
この場で私がフリーレンを攻撃しようとした瞬間、私の身体は一般攻撃魔法に貫かれ塵へ還る。彼女がのんびり魔導書を読んでいられるのも、その圧倒的な実力差を理解しているから。
……早急に契約を結ばせてもらおう。
「フリーレン。契約を結んで欲しい。そちらは私を見逃す代わりに、魔導書を受け取る。私は見逃される代わりに魔導書を渡す」
「その風呂敷もつけて」
「……分かった。しかし、その風呂敷は私が魔力を流し続けていないとただの布切れに」
「術式書き換えれば何とかなるでしょ。やって」
か、簡単に言ってくれる……。一度組んだプラモデル……より具体的に言えばPGのガンプラを解体し、パーツを一部差し替えるようなものだ。できなくはないがすごくダルい。
……仕方ない。受け入れよう。時間はかかるけど、そこら辺は我慢してもらうしかない。エルフだから、そこまで時間に頓着しないとは思うけど。
「かなり時間がかかるが、それでも良いなら」
「いいよ、どうせ時間は余ってるし……いや、そろそろ
何かを思い出したかのように、フリーレンは魔導書から視線をこちらに向ける。
「なるべく早めにして」
「何か予定が?」
「うん」
約束があるんだ。暗くなり始めた空を見上げながらそう言った。
じゃあ、急がないとな。
魔法を発動し、顕現した紙を手に取る。
「ではフリーレン、ここに名前を」
「ん……あぁ、『
「昔、とあるツテから譲り受けた。命を守る為に必要でね。ここに契約内容とお互いの名前を書いて、最後にこの紙を燃やすと契約が結ばれる。契約内容に逆らう事はできず、必ず履行しなければならない」
知る限り、最も強い強制力を持った魔法。相手から同意を得なければ効力を発揮しないとはいえ、怖い魔法だ。使ったのはそれこそ千年ぶりか。
「よし、これでいいか?」
「……私、釣り合い取れてないような気がするんだけど」
「こっちとしては、命が保証されていれば問題ない。それとも、私に何かしてもらえるのか?」
「……まぁいいか。どうせ術式を書き換えるまで暇だし、魔法の指導くらいならしてもいいよ。見たところ魔力制限もブレブレだし、そっちも教えようか」
……マジか。なんという棚ぼた。
ちょうど、世間の魔法使いを覗き見ながらする自主練に限界を感じていた頃だったんだよな。ここ500年ぐらい頭打ちでどうにもならなくて、変な汗と動悸が止まらないぐらいだった。
そろそろ彼女と交わした契約の期限だけど、生半可な実力で挑めば今度こそ殺されかねない……。だから、ここでフリーレンから手解きを受けるのはかなりアリだ。
──────いいだろう、待ってやる。千年で精々、私の首に手が届く程度にはなってくれよ。
思い出すだけで、背筋が震える。
死にたくない。
死にたくないんだ。
死にたくない一心で、おれは「
震える手で、契約書に書き足す。
フリーレンは
……これで、少しでも勝ち目ができればいいんだけどな
「……よし。頼む」
「はい、じゃあ燃やすよ」
フリーレンの放った火が契約書を焼いていく。
灰すら残さず消えていくそれは、私の運命を暗示しているように見えた。
シックザール……魔力制限ブレブレ野郎。とある大魔法使いに殺されかけており、それが死ぬ程トラウマ。契約で見逃してもらった後、暫くは狂乱しヤバめの魔法を作りまくった。
なるべく彼女の事は考えないようにしている。
「
フリーレン……魔族の魔法を見てやる事にした。成り行きとはいえ妙な事になってきたとは、本人の弁。