結論から言って、ボロ負けした。
彼女曰く、「お前の魔法術式は、気持ちが悪い程に緻密だ。少しでも術式を乱してやれば、全体にエラーが発生して発動自体ができなくなる」とのこと。
つくづく、おれは戦闘に向いてないらしい。
「威勢よく挑んできた割にはこの程度か……」
落胆と失望の混じりに彼女がそう言って手をかざした瞬間、走馬灯が脳によぎった。
前世、どっかで聞いたことがある。死の間際に走馬灯を見るのは、無意識に自身の記憶を全部ひっくり返して迫る脅威への対処法を探しているからだと。
────私は今まで書かれたほぼ全ての魔導書の知識を持っているが……
おれは、何とか思い出した。
「『
「……懐かしい魔法だな。それで私と何を契約するつもりだ?」
「くれ」
「…………は?」
「ください」
「お前、立場が分かっていないのか?」
心底呆れたと言わんばかりの表情で彼女が言う。
『
……消し飛んだ四肢からの魔力流出が、酷い。痛いんだろうけど、もはや痛みすら感じない。
このままでは、死ぬ。
その前に舌ベラを回せ。何とかしろ。
「くれるなら、おれがもつ魔導書を全てさしあげます……」
「私が、お前のくだらない魔法に興味を持つとでも?」
「もつはず……」
今までに書かれたほぼ全ての魔導書の知識があると、彼女は言った。
かなりイカれている。今まで、どれだけの数の魔導書が書かれてきた? 幾ら時間が有り余っているとはいえ、普通そこまではしないはずだ。
……たしかに、暇つぶしというのもあるだろう。だがもっと大きい要因がある。
それは、きっと。
おれが、ずっと魔導書や魔導具、魔法薬を作り続けていたように……
「あなたは、きっとまほうが、好きだから……」
「…………チッ」
「くだらない、魔法だけじゃない。実戦で使ったことはないけれど、せんとう用のまほうも、ある。『
ああ。ダメだ。もう舌が回らない。……『不死のトーテム』持っておけば良かった。なぜ持たなかったのだろう。
……自分は死なないって、思っていたからか。長く生きてきたからって、今日死なない保証なんてないのに…………。
「……、…………。勝てないたたかいを、する……なんて。おれらしくないな……」
きっと、数千年振りに、ほめられたせいだ。
「もっと、ほめられたいなんて……思ったから」
「……お前は本当に」
困ったような顔をして、彼女はため息を吐いた。
「……いいだろう、くれてやる。『
「あ……」
「……この魔導書を読めば習得できるが、今のお前には難しいか。魔力が流出し過ぎている」
何かを言っている。
何も聞こえない。
何も見えない。
何も喋れない。
あの時と同じ。
何も、感じない。
何も……感じられない。
何も、
なにも。なに、も………………………………。
「永く生きてきたが、魔族を助けるのは初めてだ。……その点は褒めてやる。『
「…………あ、れ」
きこえてきた。みえてきた。……しゃべれる。
きこえる。みえる。
頭のモヤが晴れていく。感じる。肌を撫でる風、雨の匂い……手足の、感触。
「ギリギリまで意識があったか。気絶していたら死んでいたな、運のいい奴…………いや、気力で保たせたのか?」
「ぃ、今、死ん、死んで」
「ほぼ死んでいたが、処置が間に合った。感謝しろ」
今更になって心臓が早鐘を打つ。
落ち着け、ひとまず危機は去った。……そのはずだ。手当をしてくれたということは、提案を受けてくれるということ。
落ち着け、落ち着け。深呼吸。
「スゥー…………フゥー……」
「読め。『
「無茶を……」
「『
「うっ、脳内に直接魔導書の情報がガガガガガが」
視界一杯に広がる魔導書のページ。
脳内隅々に無理やり魔導書の内容を叩き込まれる。
理解した。
理解する。理解でき理解す理解理解理解理解
理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解
理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解
理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解
理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解
理解理解理解
理解し理解でき
理解した
理解した理解
理解した理解りりりりり……
理解する。理解できる。理解し……ん?
「あ、戻ってこれた」
「酷い顔だったな。…………お前は、『
仰向けに倒れている私を見下ろしながらそう言う彼女。とっくに分かっている癖に。
「魔導具を。全ての魔導具をあなたに捧げます」
「それで?」
「なので、殺さないでください」
「はっ」
私の懇願を鼻で笑い、首を横に振るゼーリエ。
…………これでダメなら、どうしようか。
魔導書でなんとか『
が、最後のひと押しまでに必要な手札がもうない。彼女の視線を釘付けにしていた『
彼女が望む魔法でも作るしかないか? 限度はあるけど、それでどうにか……いや、嫌だな。締切も納期もないからこそ伸び伸びと作れた魔法が抑圧される気がする。きっとそんな状態で作った魔法は、彼女のお気に召さない。
うーん……。
「お前、あれだけの魔導具を全て作るのに合計何年かかった?」
「……凡そ二千年です」
『
『
『良い夢が見れる枕』、『如意棒』、『魔法冷蔵庫』、『魔法エアコン』その他で400年。
ひとつ作っている最中、息抜きに別の魔導具を作るということをかなり繰り返していたので、実際は本当に二千年かけて作ったという訳じゃない。
ただ、全ての魔導具の制作年月を合計すれば間違いなく二千年はあるはず。
「ならその半分の千年待ってやる。それまでに、私とまともに戦えるだけの力を身につけろ。それでなら、契約を結んでやる」
「…………それはつまり、千年後に再戦するということで?」
「そうだ。次、私の期待に応えられないなら……その時こそ殺す。それを明記しろ。そして、この条件を呑めないならやはりこの場で殺す」
「ヒェッ……」
明記しろって言いながら自分で紙出して書いてるじゃないですか。弱者に選択権はありません。
そもそも、こちらはお願いしている立場。最大限向こうの要求は呑まないとお話にならない。私は魔族だし、本来は見逃される道理はない。期限付きでも見逃してくれる事には感謝しなければ。
紙を手に取り、燃やす準備をする。
「では、契約締結ということで……」
「早くしろ。さっさと取ってこい」
一応さっきまで死にかけてた身分なんですけど……あ、はいすみません取ってきます。
「という感じだ」
「馬鹿だね」
「おれもそう思う」
フリーレンはジト目で私を睨む。人と殆ど交流を持たなかったせいで、褒められる事への耐性がほぼゼロになっていたのがあの凶行の原因です。今後は強く自己を戒め、再発防止に務める所存であります。
承認欲求に囚われたままとは、元とはいえ現代人らしい。
そう思って千年……具体的には900年と少しだが、全くもって戦いに必要な技術を磨かなかったのもかなり馬鹿ポイント高い。だって戦いたくないし……痛い思いしたくないし……。平穏に生きたいだけだし……。
現実逃避してたらこんなになっちゃった……。たはは。なっちゃったからにはもう……ネ……。
「……おれ?」
「聞かなかった事にしてくれ。たまにでる」
「はぁ〜…………。まぁいいよ、全く参考にならないと思うけど」
フリーレンは、600年近く前に自分の片腕を黄金にされた話をしてくれた。
参考にはなる。こういう理不尽な魔法もあるのだと知れるから。
『
『
……間に合うか? 時間が足らない気がする。
それについても何かしら考えよう。時間をどうこうできる魔法……『
ここら辺でどうにか……うん、頑張ろう。
いや、その前に『
「フリーレン、術式書き換え手伝って」
「………………、しょうがないか」
シックザール……自分を殺しかけた人が命の恩人。意味の分からん魔族的魔法で勝とうとしている。他者を対象としない分には、魔法発動はかなり早い。
ゼーリエ……助けてやったら死ぬほど怯えられてる人。助けたのは気まぐれ。次はない。
それはそれとして、シックザールに哀れみを抱いてしまった。
ゼーリエvsシックザール ダイジェスト
シックザール「『
ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害
シックザール「……『
ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害
シックザール「……」
ゼーリエ「……」
シックザール「『
ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害
シックザール「……」
ゼーリエ「……」
ゼーリエ「……『
シックザール「っ『
シックザール「ぐえーっ!」マホカンタ貫通
ゼーリエ「他愛ない」
終