魔導書あげるので見逃してください……   作:倭猛らない

7 / 7




本当に死にかけた魔族のお話

 

 結論から言って、ボロ負けした。

 

 彼女曰く、「お前の魔法術式は、気持ちが悪い程に緻密だ。少しでも術式を乱してやれば、全体にエラーが発生して発動自体ができなくなる」とのこと。

 

 つくづく、おれは戦闘に向いてないらしい。

 

 

「威勢よく挑んできた割にはこの程度か……」

 

 

 落胆と失望の混じりに彼女がそう言って手をかざした瞬間、走馬灯が脳によぎった。

 

 前世、どっかで聞いたことがある。死の間際に走馬灯を見るのは、無意識に自身の記憶を全部ひっくり返して迫る脅威への対処法を探しているからだと。

 

 ────私は今まで書かれたほぼ全ての魔導書の知識を持っているが……

 

 おれは、何とか思い出した。

 

 

「『契約を結ぶ魔法(ベルデンラーク)』……」

 

「……懐かしい魔法だな。それで私と何を契約するつもりだ?」

 

「くれ」

 

「…………は?」

 

「ください」

 

「お前、立場が分かっていないのか?」

 

 

 

 心底呆れたと言わんばかりの表情で彼女が言う。

 

契約を結ぶ魔法(ベルデンラーク)』……。知ってはいるが、習得できなかった魔法。ゆっくり魔導書を読み進めていたら、紙がダメになって解読できなくなってしまったのだ。うっかり。

 

 ……消し飛んだ四肢からの魔力流出が、酷い。痛いんだろうけど、もはや痛みすら感じない。

 このままでは、死ぬ。

 

 その前に舌ベラを回せ。何とかしろ。

 

 

「くれるなら、おれがもつ魔導書を全てさしあげます……」

 

「私が、お前のくだらない魔法に興味を持つとでも?」

 

「もつはず……」

 

 

 今までに書かれたほぼ全ての魔導書の知識があると、彼女は言った。

 

 かなりイカれている。今まで、どれだけの数の魔導書が書かれてきた? 幾ら時間が有り余っているとはいえ、普通そこまではしないはずだ。

 

 ……たしかに、暇つぶしというのもあるだろう。だがもっと大きい要因がある。

 

 それは、きっと。

 

 おれが、ずっと魔導書や魔導具、魔法薬を作り続けていたように……

 

 

「あなたは、きっとまほうが、好きだから……」

 

「…………チッ」

 

「くだらない、魔法だけじゃない。実戦で使ったことはないけれど、せんとう用のまほうも、ある。『二万の鉄杭を操る魔法(カズィクル・ベイ)』、という、魔法が……」

 

 

 ああ。ダメだ。もう舌が回らない。……『不死のトーテム』持っておけば良かった。なぜ持たなかったのだろう。

 

 ……自分は死なないって、思っていたからか。長く生きてきたからって、今日死なない保証なんてないのに…………。

 

 

「……、…………。勝てないたたかいを、する……なんて。おれらしくないな……」

 

 

 きっと、数千年振りに、ほめられたせいだ。

 

 

「もっと、ほめられたいなんて……思ったから」

 

「……お前は本当に」

 

 

 困ったような顔をして、彼女はため息を吐いた。

 

 

「……いいだろう、くれてやる。『魔法を譲渡する魔法(フィーアヴェリア)』」

 

「あ……」

 

「……この魔導書を読めば習得できるが、今のお前には難しいか。魔力が流出し過ぎている」

 

 

 何かを言っている。

 

 何も聞こえない。

 

 何も見えない。

 

 何も喋れない。

 

 あの時と同じ。

 

 何も、感じない。

 

 何も……感じられない。

 

 何も、

 

 なにも。なに、も………………………………。

 

 

「永く生きてきたが、魔族を助けるのは初めてだ。……その点は褒めてやる。『魔力の流出を止める魔法(アルクステーラ)』、『治療する魔法(フィルミラール)』、『失った身体の部位を元通りにする魔法(メルディアトス)』」

 

「…………あ、れ」

 

 

 きこえてきた。みえてきた。……しゃべれる。

 

 きこえる。みえる。

 

 頭のモヤが晴れていく。感じる。肌を撫でる風、雨の匂い……手足の、感触。

 

 

「ギリギリまで意識があったか。気絶していたら死んでいたな、運のいい奴…………いや、気力で保たせたのか?」

 

「ぃ、今、死ん、死んで」

 

「ほぼ死んでいたが、処置が間に合った。感謝しろ」

 

 

 今更になって心臓が早鐘を打つ。

 落ち着け、ひとまず危機は去った。……そのはずだ。手当をしてくれたということは、提案を受けてくれるということ。

 

 落ち着け、落ち着け。深呼吸。

 

 

「スゥー…………フゥー……」

 

「読め。『契約を結ぶ魔法(ベルデンラーク)』の魔導書だ。本来は半世紀かかるが、それを読めばすぐ習得できる。流し読みしろ」

 

「無茶を……」

 

「『魔導書を無理やり読ませる魔法(リーゼンブルクス)』」

 

「うっ、脳内に直接魔導書の情報がガガガガガが」

 

 

 視界一杯に広がる魔導書のページ。

 脳内隅々に無理やり魔導書の内容を叩き込まれる。

 理解した。

 理解する。理解でき理解す理解理解理解理解

 理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解

 理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解

 理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解

 理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解理解

 理解理解理解

 理解し理解でき

 理解した

 理解した理解

 理解した理解りりりりり……

 

 理解する。理解できる。理解し……ん? 

 

 

「あ、戻ってこれた」

 

「酷い顔だったな。…………お前は、『契約を結ぶ魔法(ベルデンラーク)』と引き換えに……魔導書全てを私に渡すと言った。その状態で、私と何を契約する? お前は何を差し出し、何を願うつもりだ?」

 

 

 仰向けに倒れている私を見下ろしながらそう言う彼女。とっくに分かっている癖に。

 

 

「魔導具を。全ての魔導具をあなたに捧げます」

 

「それで?」

 

「なので、殺さないでください」

 

「はっ」

 

 

 私の懇願を鼻で笑い、首を横に振るゼーリエ。

 …………これでダメなら、どうしようか。

 

 魔導書でなんとか『契約を結ぶ魔法(ベルデンラーク)』を譲り受けたのは良かった。

 が、最後のひと押しまでに必要な手札がもうない。彼女の視線を釘付けにしていた『天逆鉾(あまのさかほこ)』+その他魔導具全てで確約が取れないとは……。考えが甘かった。

 彼女が望む魔法でも作るしかないか? 限度はあるけど、それでどうにか……いや、嫌だな。締切も納期もないからこそ伸び伸びと作れた魔法が抑圧される気がする。きっとそんな状態で作った魔法は、彼女のお気に召さない。

 

 うーん……。

 

 

「お前、あれだけの魔導具を全て作るのに合計何年かかった?」

 

「……凡そ二千年です」

 

 

天逆鉾(あまのさかほこ)』で千年。

神武解(かむとけ)』、『釈魂刀』、『不死のトーテム』で600年。

『良い夢が見れる枕』、『如意棒』、『魔法冷蔵庫』、『魔法エアコン』その他で400年。

 

 ひとつ作っている最中、息抜きに別の魔導具を作るということをかなり繰り返していたので、実際は本当に二千年かけて作ったという訳じゃない。

 ただ、全ての魔導具の制作年月を合計すれば間違いなく二千年はあるはず。

 

 

「ならその半分の千年待ってやる。それまでに、私とまともに戦えるだけの力を身につけろ。それでなら、契約を結んでやる」

 

「…………それはつまり、千年後に再戦するということで?」

 

「そうだ。次、私の期待に応えられないなら……その時こそ殺す。それを明記しろ。そして、この条件を呑めないならやはりこの場で殺す」

 

「ヒェッ……」

 

 

 明記しろって言いながら自分で紙出して書いてるじゃないですか。弱者に選択権はありません。

 そもそも、こちらはお願いしている立場。最大限向こうの要求は呑まないとお話にならない。私は魔族だし、本来は見逃される道理はない。期限付きでも見逃してくれる事には感謝しなければ。

 

 紙を手に取り、燃やす準備をする。

 

 

「では、契約締結ということで……」

 

「早くしろ。さっさと取ってこい」

 

 

 一応さっきまで死にかけてた身分なんですけど……あ、はいすみません取ってきます。

 

 

 

 

 

「という感じだ」

 

「馬鹿だね」

 

「おれもそう思う」

 

 

 フリーレンはジト目で私を睨む。人と殆ど交流を持たなかったせいで、褒められる事への耐性がほぼゼロになっていたのがあの凶行の原因です。今後は強く自己を戒め、再発防止に務める所存であります。

 承認欲求に囚われたままとは、元とはいえ現代人らしい。

 

 そう思って千年……具体的には900年と少しだが、全くもって戦いに必要な技術を磨かなかったのもかなり馬鹿ポイント高い。だって戦いたくないし……痛い思いしたくないし……。平穏に生きたいだけだし……。

 

 現実逃避してたらこんなになっちゃった……。たはは。なっちゃったからにはもう……ネ……。

 

 

「……おれ?」

 

「聞かなかった事にしてくれ。たまにでる」

 

「はぁ〜…………。まぁいいよ、全く参考にならないと思うけど」

 

 

 フリーレンは、600年近く前に自分の片腕を黄金にされた話をしてくれた。

 参考にはなる。こういう理不尽な魔法もあるのだと知れるから。

 

服従させる魔法(アゼリューゼ)』なる、相手を操り人形にできる魔法がある事も聞いた。

 

見たものを石にする魔法(キュベレイ)』とか、『言うことを聞かせる魔法(呪言)』とか……構想までに留めていたちょっとヤバめな魔法の開発に取り掛かってもいいか。

 

 ……間に合うか? 時間が足らない気がする。

 それについても何かしら考えよう。時間をどうこうできる魔法……『時間を5秒間止める魔法(ザ・ワールド)』や『時間を吹き飛ばす魔法(キング・クリムゾン)』、『時間を6秒キッカリ巻き戻す魔法(マンダム)』はどうやっても作れなかったけど、『体内時間速度を操る魔法(タイムアルター)』のように限定的な操作は可能だ。

 

 ここら辺でどうにか……うん、頑張ろう。

 

 いや、その前に『不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)』の術式書き換えを早くしないといけない。あぁもう、やることが多い。手早く行こう。

 

 

「フリーレン、術式書き換え手伝って」

 

「………………、しょうがないか」

 

 

 





シックザール……自分を殺しかけた人が命の恩人。意味の分からん魔族的魔法で勝とうとしている。他者を対象としない分には、魔法発動はかなり早い。

ゼーリエ……助けてやったら死ぬほど怯えられてる人。助けたのは気まぐれ。次はない。
それはそれとして、シックザールに哀れみを抱いてしまった。


ゼーリエvsシックザール ダイジェスト

シックザール「『灼熱の大火球を放つ魔法(メラガイアー)』!」テレレレレ

ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害

シックザール「……『大竜巻を乱立させる魔法(バギムーチョ)』!」テレレレレ

ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害

シックザール「……」

ゼーリエ「……」

シックザール「『地獄の稲妻を撃つ(ジゴスパー)……

ゼーリエ「ふん」魔法発動妨害

シックザール「……」

ゼーリエ「……」

ゼーリエ「……『災禍の豪雨をもたらす魔法(ケヴォルテーゲン)』」

シックザール「っ『天候を操作する魔法(ウェザー・リポート)』!……ッ、変えられない!?」

シックザール「ぐえーっ!」マホカンタ貫通

ゼーリエ「他愛ない」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

全てを消し飛ばす魔法:メドローア(作者:鳩胸な鴨)(原作:葬送のフリーレン)

フリーレン世界に大魔道士マトリフが居た世界線の話を誰も書かないから書いた


総合評価:3959/評価:8.53/短編:3話/更新日時:2026年02月04日(水) 18:00 小説情報

自堕落な魔族は平和に生きたい(作者:ヤキブタアゴニスト)(原作:葬送のフリーレン)

怠惰な生活を送る心優しき魔族、レンファ。▼その願いは平和に暮らすこと。▼争いもなく、時々人間をつまみ喰いできるような平和な世界を求めて……▼唯一得意な魔法、「怠けさせる魔法」を使って魔族殺戮エルフことフリーレンの魔の手を逃れることができるのか!?▼この作品は丹羽にわか https://syosetu.org/user/205410/ さんの「フリーレンにコロ…


総合評価:3754/評価:8.08/完結:14話/更新日時:2026年01月23日(金) 20:01 小説情報

七崩賢『強欲の魔女』エキドナ(偽物)(作者:魔女の茶会のお茶汲み係)(原作:葬送のフリーレン)

 フリーレン世界にエキドナ憑依系TS転生者をぶち込んで、ただただエキドナロールプレイさせるだけの愉快なお話。▼「ボクはただ、君の全てを知りたいだけさ」▼ なおスペックは、種族が魔族になった以外まんまエキドナと同程度の力を扱えるが、頭が少しばかり残念になってます。▼「お前はその好奇心を満たすためにどれだけの人間を殺したんだ」▼ ちなこの転生者は人殺したことはあ…


総合評価:4716/評価:8.37/連載:2話/更新日時:2026年04月05日(日) 22:18 小説情報

俺が死んだと思っている仲間と会うのが気まずい(作者:guruukulu)(原作:葬送のフリーレン)

何で死んだのが分身って誰も気付かないの・・・


総合評価:5693/評価:8.07/連載:6話/更新日時:2026年04月01日(水) 19:00 小説情報

|暗殺する魔法《ザバーニーヤ》(作者:ヒゲホモ男爵)(原作:葬送のフリーレン)

▼全方向から中指立てられる魔族とかいうのに転生した可哀想な奴の話。▼顔がアカンわ。▼


総合評価:7338/評価:7.85/連載:7話/更新日時:2026年03月04日(水) 08:16 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>