ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン 作:カフェイン中毒
「なんでまだ私東京にいるんですか?」
「ぶっちゃけ総監部は君のこと東京に引っこ抜きたいんだよ。何でかって言うと君の術式式神扱いされてるから上のウケがいいのさ。金次と違って古き良きって考えになっちゃうの。実態は全く違うのに」
「呪術の総本部は京都なんじゃないですか?」
「歴史的にはね。今の呪術の本場は東京だ。人が多すぎて呪霊が集まるからさ。つまり、僕と君という特級戦力を傍に置きたいんだよ」
ふーん、と五条先生に本日3皿目になるイタリアンプリンを提供してお話を聞いている。さっきまで領域展開の練習に付き合ってもらったのでそのお礼である。早くあっちに帰りたいんだけどなあ、なんて思ってるわけで。京都の方が居心地いいや。まあ東京の先輩も悪い人じゃないからある程度仲良しにはなれたけど。夜蛾学長先生のお話はためになるなあ。
「お、おったおった。なんや悟クンも一緒やったんか。ちょうどええわ」
「………これはこれは、禪院直哉特別一級術師ではありませんか。こんな僻地に何の御用で?」
「はっ、君が気づいてへんわけないやないか。そこのちっこいのに用があるんて」
「私ですか?」
「そう、キミキミ」
どうせこの後また動くからとトレーニングウェアで給仕をしていた私が自分を指さす。五条先生と知り合いらしい書生服をきた金髪の男の人は表面上にこやかな顔をしているけど中身はなんか敵対心バリバリって感じだ。ぽかん、としている私に対してその人は表面上笑顔を崩さずに、一瞬で姿を消した。
「……なにか御用で?」
「……ふぅん、あっち側に立てるだけのことはあるっちゅうことか」
「タイミングが悪いよ直哉。今さっき僕が散々瞬間移動見せたばかりだからその手を抜いた高速移動ならもう目で追えるよこの子」
「瞬間移動は目で追えませんもんね。五条先生死角ばっかり狙ってくるものだから部分召喚なんて小技まで覚えちゃいましたよ」
超高速移動、そう捉えられる速度で私の背中に触れようとした男の人の手を虚空から出現したオルフェウスの手が横から掴んで止めていた。こうさん、と適当な声をあげた男の人、直哉さんは一体全体どんな用があるんだろうか。
なんだろなあ、この人ちょっとヤな感じだな。人間性があまりよくない匂いがする。私も褒められた人間ではないけど、この人そもそも私のこと人として見てない。人間以外の何か、あるいは動物みたいな感覚で接されている。めんどくさそう。
「いやな?今御三家てんやわんややねんで?悟クンもしっとるやろ?御三家以外からの特級術師の出現、それも女や。ほんまにひっくり返りそうやったわ」
「ひっくり返ってたらよかっただろ。どーせ不意打ちで一撃食らわせて相応しくないって上に伝えるつもりだったとか?残念でした~~!お前じゃ琴音に勝てませーん!!」
「………………は?」
「何言ってんですか五条先生!?無理くり煽る必要なんてないんですよ!?そもそも私は術師としてはまだぺーぺーだって知ってんでしょうが!」
なんか余計なことしてるこの人!とお代わりのプリンを上にあげてあげません!としてみるものの圧倒的身長差のせいで普通にとられた。いまさら気づいたけどぜんいんって響きもしかして禪院家!?御三家じゃんすごいめんどくさそう!やめよやめよ!?良いことないよ私にとって!
「……キミ、遊んだるから表でよか?」
「なんなんですか貴方寂しいんですか一人で行ってください」
「あ゛あ゛っ!?下手にでとればつけあがるなよクソガキィ!」
「あっはっは!琴音最高!ぶち壊した弁償分は僕が払ってあげるからさ……ボコボコにしていいよ。あ、でも……練習した領域は使ってみようか」
私、ただただ自分本位で自分勝手で自己中な人は嫌い。五条先生はなんだかんだで私のことを考えて動いていることを知っているからむしろ好感を持てるし、なんだったら夏油さんも目的の本旨は理解できないこともないし、そこに至った経緯は知らないけど覚悟は本物だから人間力的には悪くない人だろう。やってることは最悪だけど。
それに比べてこの禪院直哉ってひとはもー、女だからって明らかに見下してるわ鼻で笑うわ身長見て完全に笑いをこらえてるわ第一印象最悪だよもう。なんだこいつ、私史上一番失礼な奴かもしれない。明らかに年上なのに尊敬する気持ちが微塵もわいてこないなんて初めてだ。
「領域てんか……ばーかっ」
「ぐはっ!?」
「じゃ、いってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。暗くならないうちに帰るのよ~~」
五条先生が領域を使おう、と言ったから私は掌印を組む。それっぽく適当に。御三家の人である禪院さんは領域が展開されれば負けが決まると知っているので術式を発動して最速でそれを潰しに来た。ただ、この掌印はブラフで全くの嘘っぱち。カウンターでさっき部分召喚したオルフェウスにかけてもらったテトラカーンが発動して禪院さんが壁を貫通して吹き飛ぶ。ひゅー、勢いがあるだけあってめちゃくちゃ飛んでいった。
「卑怯な真似するやん、すっかり騙されたわ」
「何も考えずに突っ込むのが悪いんですよーだ。私を下したからって別に特級呪術師になれるわけじゃないのに」
「は、どこまでも気に食わん女や。男の三歩後ろを歩けんくせに主張だけはイッチョ前やな。男を立てることもできひんか?」
「………あなた、今この状況を見てもなお私があなたを立てるほど尊敬できると思えます?せめて夏油さんくらいは紳士でいてほしいですね」
「口の減らんクソガキが……!」
「ところで反転術式は使えないんですか?」
吹っ飛んで行ってる間に召喚器で頭を撃ちぬいて召喚したイザナギを伴ってなぜか止まっていた禪院さんに言い返してみる。うーん、我ながら口が悪い。でも直哉さんが止まっていた理由がわかった。さっきテトラカーンに反射されたおそらくパンチ、跳ね返ったせいで腕がぶっ壊れちゃったんだろう。意図しないカウンターは術師に十分有効、琴音覚えた。袖で隠してはいるけどちょっと変なねじれ方になっちゃってるね。
無言で術式を発動させたらしい禪院さんの姿が掻き消える。さすがに本気で動いているだけあってもう目じゃおえないや。黙ってやられるわけにはいかないけど。フォン、とほぼ無音で私の右斜め後方に現れた禪院さんは無事な左手で私を掴んで投げ飛ばし、モーション途中でイザナギの峰撃ちを食らって木に叩きつけられた。地面に叩きつけられたからお揃いだね、まあ私は受け身とれたけど。でも……。
「動きを途中で変更できないんですね。じゃなきゃ私を離してイザナギの攻撃を防御できたはずですし」
「ドブカスが!なんやお前!何で俺の術式の途中で式神の操作が間に合う!?」
「あっはっはー、勘違いされてますね。私は彼で彼は私です。自分自身が思考して動くのに何のタイムラグがあるというんです?」
確かに私は禪院さんに追いつけない、私本体は。だけど速く動くという話ならペルソナは私なんかよりもずっと速いし強い。彼らの目で捉えた動きをもとに行動を推察する。私狙いならペルソナが、ペルソナ狙いなら私が全く同時に動いて二つの攻撃が別の個所に同時に着弾するという状況を作る。さらにテトラカーンで片腕を壊したことで相手の攻撃を絞れる、この方法なら見えない攻撃でも後の先が取れるというわけ。ちなみにこれ五条先生には全く通じなかった。
つまり、今の禪院さんと私は死ぬほど相性が悪い。禪院さんはおそらく動くまでに動きを作ってそれを自分の体に反映させることで頭のおかしい速度で動き回っているのだ。そしてその動きは途中でカウンターが差し込まれようと変更できない、だからカウンター前提で動いているんだろう……けど同時二箇所にカウンターは未知の世界過ぎて対応が追い付いてないって感じかな?
このままやり続けても勝てるだろうけどそれではきっとこの人を折ることはできない。認めさせることはできない。あれが悪かったこれがおかしかったと難癖をつけられるのが目に見えている。だから、圧倒的な力を見せつけるしかない。この人が心の底から納得できるようなそんな力を。そしてそれができる手段は一つだけ。
両手で召喚器を持ち、いつものこめかみではなく顎下から脳天までを突き抜けるようなイメージで召喚器をあてがう。呪力が渦を巻き、世界を侵食していく。その様子に気が付いた直哉さんは血相を変えて術式を使うが一歩遅い。ブラフに使ったものが本当に出てくるなんて思わなかったでしょ?
「―――――領域展開」
「オ、来たナ。リトルガール」
「いえーいミゲルさん!こんばんわ!京都じゃなくて東京にもいらっしゃるなんて知らなかったよ!あ、これ良かったらどうぞ!ガーリックチーズラスクです!」
「悪イネ、気を使ってモラッテ。マサカ東京でキミに会エルナンテ思ワナカッタ。連絡はコマメにトルベキってワカッタヨ」
夜、私の姿は東京の六本木にあった。え?都条例?そんなの知らない知らない。待ち合わせの相手は白い服に白いベレー帽を被って金の大きなピアスをしているサングラスの黒人の人!名前はミゲル・オドゥオールさん!がっちりとした体格に高い背がステキですね!
ちなみになんで知り合ったかなんだけど京都のカフェで相席したのが始まり。夏油さんに会う2カ月くらい前かな。目の前で相席した人があまりにもつかれたため息をついていたからどうしちゃったんだろと話しかけてみたところ意気投合しちゃったの。
なんでも、家族として暮らしている私より一歳年下の女の子二人と大人の女性との間であんまり意思疎通が上手くいってないんだって。その二人の女の子は親代わりをしているミゲルさんの上司さんにものすごく懐いていてそれが原因でもめることが幾度かあるみたい。
私としてはその女の子がどんな考え方をしているかわからないからああすればいいこうすればいいっていうアドバイスはしないことにしてひたすら愚痴を聞くことに徹していたんだけどミゲルさんは苦労してるんだなあが第一印象だった。ミゲルさん的にはみんな家族なんだから仲良くしたいが本音みたいだし。
そんな感じでじゃあまたご相談に乗りますよと軽い気持ちで連絡先を交換して交流を深めてきたのです。ミゲルさんは外国の人っぽくて基本陽気で楽しい人だから私とよくウマがあう。最初はゲーセンいったんだっけ?ダンエボ一緒にやったりとか。
んでその次はミゲルさんの故郷の味を食べさせてくれるってことでレストラン行ったり、民族衣装を着てみたり、あとあと……ダンスフロア!これめちゃくちゃ楽しかった!ミゲルさんものすごくリズムをとるのが上手で、ダンスの振りもセンスがあるからかっこいいのなんのって!
私にもダンス教えてくれたんだ!それで一緒に踊るのすっごい楽しかった!ミゲルさんのお知り合いの外国人の人たちともいろいろ話したりしてさ、パーティーやってるみたいでハメを外しちゃったのを覚えてる。今日は何をするのかなあ?
「東京ニハ知り合いがヤッテル輸入雑貨店がアルンダ。きっと気ニ入ル物ガアル。オススメはロイコっテイウ調味料ダ。カケレバ全部ケニアの味ニナル」
「外国の調味料!それいいですね!あ、この前頂いた香水なんですけど、気に入ったので自分で買いたいんです。ネットショップで売ってるとかあったら教えてほしいんですけど」
「アー、アレハ調香師のオリジナルナンダ。一点物ダカラ頼マナイト作レナイ。琴音が気ニ入ッタンナラ用意シテオク、何処に送レバイイ?何、コレでも稼いデル。子供からお金はトラナイ」
「オリジナル!?もしかしてすっごい高いんじゃ……ほんとにいいんですか?」
「気にスルナ。琴音とイルと楽シインダ。配合シテイル匂イニモチャント意味ガアル。魔除け、幸運、健康。願掛ケってコノ国ジャイウンダロ?ソウイウ事ダ」
そうなんだ、と私は手首につけてきた香水の匂いを嗅ぐ。春に吹く風のように暖かでさわやかで、それでいて深い夜に広がる星空のように淡い余韻を残す、表現するのが難しい香り。具体例を言い表せないのは私がそれだと感じる匂いを嗅いだことがないからなんだろうけど、これが外国の魔除けの匂いかあ。
「ソウダ、コレも渡シテオク。コノ国はドウモワルイ空気ミタイナ物ガオオイ。キット守ッテクレル」
「すっごく綺麗なミサンガ……!ありがとうミゲルさん!」
ミゲルさんが私の手首に通してくれたのは複雑な編み込みで彩られた黒いミサンガだった。わぁ、これは機械じゃ出せない味わいみたいなものがあるね。嬉しいなぁ、ミゲルさんと知り合いになれてよかった。お互い術師なのは薄らわかってるし、このミサンガも呪具だ。だけど関係ない。
個人と個人が主義と主張を知らないまま仲良くなる。何もおかしいことはない、敵対する理由がないんだから。ミゲルさんはどうかわからないけど私は彼のことを好ましく思っている。こんなチンチクリン相手でもレディとして扱ってくれるところとか、ちょっと天然気味なところとか。今日のお出かけは楽しいなあと、そう思わざるを得ないのだ。正体を知らない同士だからこその気安い関係は、心地がいい。
直哉さん翻弄されてますが初手テトラカーンで腕が壊れてなければおそらくヨシツネ引き出しての高速戦にもつれ込んで八艘跳びまでいってましたね。ファーストコンタクトで琴音さんに警戒心植え付けたせいでこっそりテトラカーンをされてしまったのが運の尽きでした。なお直哉さんは主人公を見た瞬間から普通にふざけんなとブチギレてたりします。あんな家に育ってればそらそうよ。現段階の主人公の領域は一応結界としては完成してるけど必中がついてない伏黒君の領域の一歩先ぐらいの感じですね。暫くは効果は明かしませんが。