ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン 作:カフェイン中毒
「琴音~、これ背負って~」
「はーい!どう?似合う?」
「い、違和感ない……!」
「プライドとかねーのかよ……」
「事実を認められないプライドなんかゴミだよゴミ!私が小学校低学年くらいの身長しかないのは事実だからね!でも五条先生、黄色い帽子がないから減点!あと名札も!」
「しまった忘れてた……!」
呪術高専には学生向けに実習という名の実戦が組まれることがある。私の特級あるいは1級の案件は任務だけどそれ以外は実習でお賃金も安いしね。つまり、学生でも対処可能なレベルの呪いであるということだ。そんなわけで私たちはいま小学校に来ております!
車を降りた五条先生がトランクから取り出した明らかに新品のランドセルを背負った私が小学生のコスプレをさせたいならちゃんと用意しろと怒るのではなくダメ出しをすると五条先生は頭を抱えた。そしてなぜか伊地知さんは同じくため息をついている。あ、京都校の皆に送るから写真撮って~、よしありがと!
「とまあ小学校が任務の舞台だ。別に何の変哲もない小学校だよ、児童が失踪する以外はね。任務は発生した呪いを祓うことと、失踪した児童2名の救助か死体の確保だ」
「死……って」
「………学校とか、病院とか、人が良く集まって思い出されるもんには呪いが集まりやすいんだよ。思い出されるたびに負の感情が集まって呪いに変わるんだ」
「そそ。乙骨君は呪いと共生しているからわかりにくいかもしれないけど呪いって普通に人殺すからね?ていうか殺すのが前提まであるから。ほいじゃ『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』……どう?五条先生、結界術上達したでしょ?」
結構前から自力で帳を下せるようになった私が帳を下ろすとあたりが夜のように暗くなって結界に覆われていく。乙骨君は初めて見るので感嘆の声をあげているが真希ちゃんは実家が実家だから見慣れているらしく無反応。えーセンパイの結界術に感心してよ~。
「設定と条件付けはばっちりだね。空間の隔離も問題ない。こりゃ近いうちに領域も完成するかな~?それじゃ、二人は頑張ってね~」
「え?五条先生も汐見先輩も来ないんですか?」
「来ないよ~あくまで引率だからね。ただ、例外が一つ。祈本里香が君の制御を離れて完全に顕現した場合は琴音が助けてくれるよ。だから、危なくなったら出しちゃいなさい」
「うん、最悪私がやられても五条先生が町を更地にしながら助けてくれるから呼んじゃえ!あ、でも最初は自分で頑張ってね。任務が終了するか、どうしても対処できないって思ったら結界から外に出て。そうすれば結界が解けて私が突っ込んでビンタでもかましてくるよ!」
「VIP待遇だぞ、良かったな乙骨」
そんな声を聴きながらランドセルを揺らした私は五条先生と一緒に帳から出る。心配そうに伊地知さんがハラハラしているけど正直私はそんなに心配していない。乙骨君の安全は周辺被害に目をつぶれば里香ちゃんが何とかしてくれるし、生きて逃げる程度なら真希ちゃんはできる。性格上無謀に立ち向かうこともないだろうし、彼女は彼我の戦力格差……もっと言えば現実を直視して冷静な判断を下すのがとても上手だ。なので問題ない。
「おー、あざやか~」
「お、やってるねえ」
「あの……お二人が何を見て何を仰ってるのか私にはわからないんですが」
素で帳を貫通して中の様子を見ることができる五条先生とルキアのスカートの中で帳の中の様子を見ている私が抽象的な言葉でやり取りをしていると伊地知さんがとても言いづらそうに言ってくるけど東堂君でギリギリ視覚の共有ができたくらいなので伊地知さんには無理かなあ?ちなみに五条先生にはいらないしできない。
「あ、真希ちゃん油断したな~?凡ミス~」
「こりゃあとで補習がいるねえ。ちょ~~っとまずいかなあ?さてどうする憂太?」
「ありゃりゃ食べられちゃった。呪霊の目の前で雑談だなんて余裕かますからだよもう。見えなくて感じられないなら集中切らしちゃダメ!」
「思うんだけどなんか琴音って他の皆より真希に厳しいよね。なんで?」
「あのさっきから会話が不穏なんですが!?食べられたんですか!?食べられたんですかお二人は!?」
しかしこんなデカい呪霊が隠れてたんだなあと学校を割って姿を現した大きな呪霊を見てそんなことを呑気に考える。大きいから強いかって言われたら別にそうじゃなくて3級くらいかなあ?真希ちゃんだったら楽とは言わないまでも無傷で行けるレベルだと思う。呪具さえ落としてなければだけど。デカイ=強いはアニメの世界だけだよ。大切なのは呪力の流れさ。
「いやー、期待してる分ハードルが高いんですかね?東堂君の気持ちがわかるなあ、並んでくれるかもって期待は嬉しいもんですね。あ、でた」
「あ、それわかる~。琴音見た時とかマジそんな気分だった。しかも僕が碌に教えてないのにいつの間にか僕と模擬戦が成り立つレベルにまでなってるんだもん、嬉しかったよ~」
「でたって何が出たんですか!?」
「「祈本里香、完全顕現入りまーす」」
「一大事じゃないですか!?」
伊地知さんは弄ると面白いなあ、大丈夫だよ今ルキアで見てるんだけど最悪死にそうな怪我でもしたら遠隔で回復術かけてあげるから死にたくても死ねないよーだ。巨大な呪霊の腹を割いて現れた里香ちゃん、特級過呪怨霊祈本里香の全容はえげつないなあという感想しか出てこない。
呪ってこうなったか呪われてこうなったかは知らないけど魂が呪いの中で雁字搦めになっている。一種の縛りみたいなものだろう、だからこそ無尽蔵の呪力と圧倒的出力があるんだろね。さて、肝心なのは乙骨君だけど……頑張るじゃん、見損なってたわけじゃないけど評価はうなぎのぼりだよ。満点だ。
「誰も見捨ててない……うーんおねーさん花丸あげちゃう!出血大サービスでメシアライザーかけちゃうぞ☆」
「がんばってるね……一歩前進ってところかな?」
同年代の女の子を背負い子供を小脇に抱えて里香ちゃんが呪霊に夢中になってる隙をついて乙骨君は校門まで歩いてくる。歩くので手いっぱいという感じだが落とすことも転ぶこともすべて堪えて前だけ見てこちらに歩いてくる。ばりん、と音をたてて帳が割れる。解除条件を達成したんだ。瞬時にメシアライザーを全員にかける。これでとりあえず死なないどころか元気になったはず!まあ全員気絶しちゃってるんだけど。
「お疲れ様、一歩前進だね。憂太。琴音が反転かけたから大丈夫だろうけど僕は伊地知と病院に行くよ。アレは任せた」
「はいなー。里香ちゃん人の言葉忘れてないといいんだけど」
「え!?五条さんが残るんじゃないんですか!?」
「伊地知、琴音のこと見た目でナメすぎ。仮にも特級術師だぜ?どうせなら僕が運転して病院行こか?伊地知は琴音の活躍みておいでよ」
「え!?な!?」
「あ、いっちゃった」
いうが早いが五条先生は伊地知さんを運転席から放り出して結構荒い運転で去っていった。うーん、傍若無人。肩を落としてため息をついた伊地知さんと私の目が合う、ニッコーと笑った私は伊地知さんに一つお願いをする。
「帳、硬いのよろしくお願いしまーす!あと、疲れた時に甘いのが良いそうなので私のおやつのクッキーあげますね!」
「……ありがとうございます……」
呪いが見えなきゃわからないけど里香ちゃんが大乱闘している学校につったかたーと入っていく私を見送った伊地知さんの心配そうな顔。去年やりたい放題した映像とか見てないのかな~伊地知さんとは所属が違うからお話ししかしたことなくて任務一緒にやったことないんだ。それにしても綺麗でかっくいー帳だぁ。簡単な術式だからこそ練度がでる、五条先生が伊地知さん気にいるわけだよ。
「リーカーちゃんっ!」
【……?あっ、琴音だーーー!】
「そうだよ!琴音ちゃんだ!里香ちゃん、乙骨君帰っちゃったから一緒に帰ろか?戻れる?」
【ヤダ!里香!まだ遊びたい!琴音で遊ぶ!】
「よっしゃいいとも!琴音ちゃんが里香ちゃんと一緒に遊んであげよう!……嫌いにならないでよ?」
【■■■■■----ッ!!】
説得で戻ってくれるかと思ったけど興奮して理性が消えうせてるや。ぐちゃぐちゃのミンチになった呪霊が霞のように消えていき、里香ちゃんのターゲットが私に移る。まぁ、無理もない。お話した里香ちゃんは魂本来の性格が比較的表に出てる里香ちゃん、この里香ちゃんは呪いとしての本分が表に出てる。むしろ普段がイレギュラーでこれが本来の彼女だろう。
「ペルソナ――――アステリオス!」
『ゴアアアアアアーーーッ!!!』
里香ちゃんよりも大きなペルソナが召喚器で頭を撃ちぬいた私の背後に現れて突進し彼女を受け止める。黒い体に禍々しい牛の顔、筋骨隆々の体を鎖で拘束された黒炎を纏うペルソナ、アステリオス。触れるだけで燃え上がる呪力にまともに組みついた里香ちゃんの手が焼けただれて悲鳴を上げてのけぞる。
「遊んであげるって言ったんだけど、それは普段の里香ちゃんならいくらでも。だけど、今の里香ちゃんは危ないからね。次目が覚める時は乙骨君の傍だよ」
【アツイ!?イタイ!?イタイイタイイタイイタイ!?】
「アステリオス!ティタノマキア!」
いつも使っているアギなんかとは比べ物にならない超高温の紅黒の炎でできた杭が四方八方から飛び出て里香ちゃんを刺し貫く。苦しみ悶える彼女。苦しいよね、すぐ終わらせるから。しかし、並の特級ならこれだけでもう祓えてるはずなのに。概念的に強いのか?黒死病の呪霊だった『黒死天覧宮』くんは燃やすとそれはもう苦しんだのに。
【憂太ぁ……助けて憂太ぁ……!!】
「そこでそれは心が痛むからやめてくれないかなあ!?私が虐めてるみたいじゃん!虐めてるのか!一方的に殴ってるから!ごめんね!?じゃあもう終わろう!ギガントマキア!」
『グルガアアアーーーッ!!』
荒ぶる私がなりはてたペルソナであるアステリオスは両手を大きく上げて組む。ダブルスレッジハンマー、ドラゴンボールでよくやる振り下ろしのアレの態勢に入る。大きく咆哮したアステリオスの肩から先が異様にパンプアップして、一拍の溜めのあと振り下ろされた。
あ、やっべ学校傾いた。やりすぎた?校庭全体が大きく丸いクレーターと化した爆心地の中にはもう里香ちゃんはいなかった。多分乙骨君の近くに還ったんだろう。もうちょいスマートにやればよかったかしら。でも、一撃で決着をつけるとなるとどうしても威力が……!
「い、伊地知さん……誤魔化して?」
「いや、これは……無理、ですね」
「うぅ、ですよね。いいなあ五条先生。強くて範囲も絞れる術式で。強いと範囲も上がるんですよ私の場合。いいなぁ」
さすがに私でもこんだけやればドン引きされるっていうのは理解している。誉めてくれるのは東堂君か五条先生ぐらいだと思うもの。これで斬ればよかったのかな、と最初に回収しておいた真希ちゃんの大刀をバトンのごとく振り回してみる。うん、長さが合ってない!もういいや。
「伊地知さん私たちどうやって帰ればいいの~?」
「えと、琴音さんが戦っている間に後輩の補助監督に繋いだのでもうすぐ来るはずです。これは、その……不発弾の爆発というカバーで行こうかと」
「了解です!え、とその……ご迷惑かけちゃうと思うから、今度ご飯作りますね?五条先生のお口に合うからきっと伊地知さんも美味しく食べられると思う」
「………どうせ傍につくなら琴音さんの方がいいかもしれませんね。少なくとも気遣いがあるだけで万倍マシです」
「聞かなかったことにします!」
なんてことを言うんだ伊地知さんは!?これを五条先生が聞いてみろ、拗ねるぞあの人!メンドクサイ拗ね方で!子供みたいな拗ね方するぞきっと!その確信がある!私には専任の補助監督さんはいないけど伊地知さんがそうなったら……多分きっと楽になるんだろうなあ。自分で帳降ろして自分で祓わなくていいってことでしょ?私と一緒になる補助監督さんなんだか仕事しない人が多くてさー。
とりあえず乙骨君たちのところに戻りましょう!と胃が痛そうに押さえる伊地知さんに包装紙を剥いたクッキーを押し込んでから新田さんという補助監督さんが運転してきた車に乗って私たちは病院へ向かうのだった。
リカちゃん単体だと琴音さんには及びません。ちなみにメロンパン入れ(予定)さんは今回の戦いを見て琴音さんに勝つにはとりあえずリカちゃん+ほか特級呪霊がいないとまず無理だという結論に至っています。頑張れ乙骨君!