ドルオタゴリラ呪術師とリアルロシアンルーレットチンチクリン 作:カフェイン中毒
交流会は結局京都側の棒が東京側の棒より早く倒れたし乙骨君が完全に意識を失わずリカちゃんをその後気力で封じ込めたので有効とされて東京校の勝利ということになってしまった。私のワンモア!という声は封殺されましたとさ。ちぇー。
「あっという間に季節は冬なわけなんだけど、そこらへんどうですかこの間刀を破裂させた乙骨憂太君」
「そ、それは……力み過ぎたと言いますかなんといいますか……」
「ちなみにあれ普通に5000万くらいする業物なんだけどわかってるのかな?いい刀を見つけたからホクホク顔であなたに渡したら目の前で破裂させられた私の気持ちを答えヨ」
「真希が振り回していい刀だっつったそばからこれだからな……憂太は呪力コントロールを意識しようとするほどデカすぎてきつくなってる感じだ」
ちなみに私は泣きました。年甲斐もなく恥も外聞もすててわんわんと。壊されるくらいならコレクションにでもしたかった。おのれ乙骨君、わざとじゃないから許すけどもわざとやったら1週間くらい話しかけてあげないぞ!壊した刀はとある目的のために保管しました。呪具とはいえ浮かばれないので。
「あ、私ちょっと宿泊場に用事あるからこれで~」
ばいばーいと高専の方に向かう一年生ズを見送って宿泊場に向かう。目的はもちろん、七海さんである。昨日ここにいるっていうのはわかっているからね。七海さんは大海のごとく広い心を持っているので私が突然突撃しても許してくれるのだ。あと借りた小説文庫を返したいのもある。
「七海さ~~ん!おっはよー!」
「ああ、琴音さんですか。おはようございます。今日も朝から元気ですね」
「そりゃもう!元気しか取り柄がありませんし?私から元気をとったら低身長しか残りませんよ!」
「ツッコミ辛い自虐はやめてください。貴方の魅力は低身長だのなんだのというくだらない部分にはありませんので」
ひゃ~~~~そんなこと言うの!?人生で言われたことないよそんなセリフ!?しかも大真面目に言うからお世辞じゃないって分かっちゃうし!魅力なんて言葉人生で初めて聞いた!いいなあ将来七海さんを射止める人はきっと幸せになれるんだろなあ。現役女子高生の私ですら顔が真っ赤になりそうなのに意図をくみ取れる大人が聞いたらそりゃもうロックオンでしょ。
「なんか、年明けたら任務一緒になるらしいですね。しかも七海さんの御指名で!」
「ええ。五条さんとの二択だったのですがそうなると……胃にやさしい方を選ばなければ損です」
「そこまで言っちゃいます?五条先生怒りますよ?」
「表面上は怒るでしょうが内心はどうでもいいと考えてるので怒らせておけば問題ないです」
面白かったです、と借りていた小説を七海さんに返却する。七海さんは一級術師なのでいろんな現場に引っ張りだこだ。移動距離も長い、だからそういう時に文庫本の小説を読んでいるのだそう。私は文字を読むのは嫌いじゃないので勧められるがままに読んでみたらスマホとにらめっこするよりも面白かったので時たま感想交換をやってたりするのだ。
最近の任務はソロ活動ばっかりだったのでそろそろ誰かと一緒がいいなーなんて地面にのの字を書いていた私にとってはとっても朗報。なにせ私の初任務でいろいろ教えてくれた七海さんと、また任務!これは嬉しいというか楽しいというか、楽しみ!うん。これにつきる。
「……気づきましたか、琴音さん」
「はい、登録外の呪力です。回り道で私は背後からいきます」
「そうしてください。五条さんはおそらく正面から出るでしょう。私とあなたは背面から挟撃するように挟みます」
高専には呪力を登録して結界に覚えさせるシステムがある。自動での排除なんて高度なことはできないけど侵入者が何人か、どこにいるか程度は割り出せる。そこからいくつかある高専の秘密通路を通って囲むように動くことができるのだ。
私と七海さんは突如現れた結界に登録されてない呪力4つと呪霊らしき1つを確認して宿泊場から通路を通って裏道を通るように現場へ向かう。一年生4人が遭遇してるかもしれない、焦るわけじゃないけど不測の事態があったら正直情けなさすぎるので何事もなく、何とかできればいいんだけど。
「……この呪力……一人は夏油さんだ。夏油さん……なんだってここに」
「そういえば、あの人とは知り合いなのでしたね。私の先輩でもありました。かつての、ですが」
「っ!遅かった!もう手がでて……!」
「待ってください琴音さん。今姿を現してはいけません、幸い乙骨君を勧誘しに来た様子。五条さんも来ています。やるなら一斉にです」
最寄りの出口から出てちょうど高専の門を正面とした場合の少し離れた位置に出た私たちが侵入者を観察すると袈裟をかけたロンゲの長身……間違いない夏油さんだ。夏油さんが乙骨君の手を握って何やら勧誘を始めていた。周りにいるのは年下っぽい学生服の女の子二人に外国人の上半身裸の男が一人……仲間をつれているのか。飛び出そうとした私を七海さんが諫める。
「すまない、君を不快にさせるつもりなんてなかったんだ」
「じゃあ、何をしに来たんだ?傑」
「フッ……君が随分と生き生きしてるというのは私の耳にも入っているからね。イベントを追加しに来てあげたのさ。いわゆる、宣戦布告という奴だね」
振り払われた手、乙骨君が睨み返すのを遮るように五条先生が夏油さんと乙骨君の間に割り込む。とりあえず、1年生の安全はこれで確保されたも同然かな。あとは、どのタイミングで夏油さんを確保するか。
お集まりの皆々様!と声を張り上げた夏油さんの宣戦布告、まとめるとこうだ。夏油さんとその一派は12月24日のクリスマスに京都と東京の二つで百鬼夜行を行う。各地に1000を超える量の呪いを放つ。お互い存分に呪い合おう……ふーん、なるほどね。思い切ったねえ……。で、かっこよく決めたはずなんだけどお仲間が素っ頓狂な声をあげた。今!
「あーーーっ!夏油様!クレープのお店がしまっちゃう!」
「もうそんな時間かぁ。すまないね悟。私たちはここでお暇する。ああ、動かないほうがいい。かわいい生徒が私の間合いだよ」
「うんうん、そうだね。私の間合いでもあるよ」
「えっ!?」
「はっ!?」
トップスピードで割って入った私が女の子二人の間から夏油さんに声をかける。私の接近を感知できなかった女の子二人はあわてて呪具らしいスマートフォンと縄に首をくくられたぬいぐるみを私に向けるもののそれは向けた瞬間粉みじんになってしまった。同時に刀を首に突き付けられた女の子がようやく事態を呑み込む、召喚されたヨシツネが両手の刀でそれを行ったのだと。
「やあやあ汐見琴音くんじゃないか、久しぶり。特級になったんだって?やっぱりお仲間じゃないか。ああ、ラルゥも二人も抵抗しないほうがいい。死んだって実感ないまま殺されちゃうよ」
「ええ、どうもお久しぶりです。東京だけじゃなく京都にまで喧嘩売るなら私も黙っちゃいませんよ?呪い殺される覚悟は御済みで?」
「怖い怖い、君が猿だろうが術師だろうが好んで人を殺さないのは分かってるんだ。といっても、やろうと思えば君はためらわないこともわかっている。だから言っておこう。京都の仕込みは済んでいる」
「あなた……!」
初めてかもしれない、殺意が漲って呪力がとめどなく供給される感覚になるのは。どうやら私は後輩や仲間を傷つけられるということがひどく嫌いだっていうことをいまさらながら自覚できた。目の前の人を掌で弄んでいそうな男の笑みを絶やしてやりたいと思ってしまう。
「別にここで私たちを捕らえるなりなんなりすれば東京は救われるだろう。だけど、残った私の家族が京都ですぐに引き金を引く。準備が整わないまま迎撃すれば何人犠牲が出るだろうね?」
「それが琴音に対する策か。アホみたいな真似をするようになったんだな……傑」
「リスクヘッジと言って欲しいね。君と彼女両方相手にするのは少し余る。だから……彼女が嫌でも京都に行くように仕向けることにした。登録未登録含め5体の特級呪霊を放つことにしたからね」
「汐見特級術師……式神を引け」
「ふー、はい」
今すぐどうにかできない場所で人質をとられた。その事実に歯噛みする、たとえ京都側と連絡をとれたとしても京都の一般人を屁とも思わない呪術師たちが大多数を占める御三家がどこまで術師を出してくれるかもわからない。確実に準備を整えて迎撃するより大きな犠牲が出ると判断した夜蛾学長の言葉を受けて私はヨシツネを消した。
瞬間、スマートフォンを壊された女の子が私を睨みつけて素人丸出しのトーキックを繰り出そうとしてくる。私も気が立ってるので手を出すならこちらも出すと殺意を込めて睨みつけると女の子は肩を跳ねさせて尻もちをついた。一歩女の子に近づく、歯をガチガチ震わせて可哀そうに。そう思いながら私は財布の中から10万円ほど取り出して女の子の胸ポケットにねじ込んだ。
「一応、スマホ弁償しておくね。京都来るんなら覚悟しておくこと……怒ったからもうこれ以降は優しくできないよ」
「賢明な選択だ。できれば君とはわかり合いたかったが、それももう難しいだろう。残念だよ……それでは、皆々様……私たちにとっての済度の日取りまで、ごきげんよう」
五条先生のところまで歩いて戻る。それを確認した夏油さんは最後の挨拶をした後にペリカンのような呪霊の口の中にほとんどしゃべらなかった外国人の人と震える女の子二人を詰め込み自分は背に乗って飛び立った。思わず歯を鳴らした私が鳥が見えなくなった途端にヨシツネを召喚して夏油さんが呪霊を戻す前にすべて薙ぎ払った。
「ぜーんぜんすっきりしない!むぅ!」
「……汐見先輩ってあんなに怖くなることあるんだ……」
「ツナツナ」
「いや、あれは僕も初めて見たよ。とにかく1年生は校舎に入って。すまないけど授業は自習だ。琴音は会議に参加してくれ」
「とにかく、京都への連絡は急務。そして琴音を戻さないとダメだろうね。あの口ぶりだと東京には恐らく傑本人が来る。九十九さんと連絡つかないなら僕と琴音を分けて配置するべきだ」
「そんなことは分かっている。だが、特級呪霊が5体というのは疑問が残る。統計的には2級以下が関の山ならブラフかハッタリの可能性も」
「ないね、絶対ない。わかってるでしょ学長。アイツが負け戦を仕掛けるわけがない。何か勝因か目的がある。僕と琴音を分けるのはあっち側からすれば絶対条件のはず。その条件そのものがなかったらあっちは負けだ」
「心情的にも私は京都の方に行きたいですね。こっちは五条先生がいるから大丈夫でしょうけど、特級が5体も投入されるならちょっと向こうが怖いです」
夏油さんのプロフィールが伊地知さんによって明かされた後会議が始まった。私は高専の生徒なので参加義務はないはずなんだけどまあ、最大戦力として数えられてる特級術師だしね。それに東京だけじゃなくて京都にも関係があるなら話は聞いておきたい。
「……どちらにしろ悟と汐見は配置を分ける。呪術連にもOBにも連絡してとにかく人を集めろ!総力戦になる。ここで夏油傑という呪いを祓う!」
全員が卓についた状態での会議、情報が限定的すぎてまともな判断ができるかどうかも難しい。攻勢するのは向こうで私たちは守る側。私もまあ、夏油さんがあからさまに警戒する程度には強くなれた。乙骨君は心配だけど1年生はおそらく引っ張り出されないだろうから大丈夫かなあ。
「困った困った、やること増やしてくれちゃって傑のやつ。琴音、悪いんだけど多分金次と綺羅羅も京都側に送ることになる」
「ほんとにですね。だとしてもこのタイミングってのは何か理由があるんでしょうか。夏油さんの目的が非術師を殺すことだとしてこんな中途半端なことあります?」
「それだよ、傑の狙いが僕でも読めない。それが怖いんだ。だからこそ、完璧にやらないとね。僕らが率先して」
そんならしくないことを言う五条先生の唇の端は切れていた。夏油さんは五条先生の親友だって話を硝子さんから聞いていたからその心情は推しはかれるにはかれない。だからこそ止めてきちんと話をする必要があるんじゃないかと思う。たとえそれが、避けられない夏油さんの死であったとしても。
普通にキレた琴音さん。というわけで京都側戦力大倍増です。特級呪霊5体の投入だぁ。なお全部オリジナル。考えられるかしら。ちなみに乙骨君入学時から急ピッチで頑張りました夏油さん、これだけあれば悟か汐見琴音のどっちかは京都行くやろの精神。